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シアワセをつなぐ仕事

高度な小児看護の充実。
子どもたちとその家族を支え続ける
小児看護専門看護師。

若山志ほみ(小児看護専門看護師)・古田晃子(小児看護専門看護師)/岐阜県総合医療センター


 

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現在、全国には140名の小児看護専門看護師がおり、そのうち3名が岐阜県にいる。
専門看護師とは、ある特定の専門看護分野において、実践、相談、調整、倫理調整、教育、研究の6つの役割を担う看護師のこと。
資格取得には、通算5年以上の看護実務経験を持ち、大学院修士課程を修了した後、日本看護協会の審査に合格しなくてはならない。
高いハードルを超えたその3名のうち、2名がここ岐阜県総合医療センターに在籍する。その理由に迫った。

 

 

 



岐阜県の小児医療を見つめ、
進められてきた計画が、
今、実を結ぼうとしている。


 

 

 

さまざまな思いが結んだ
専門看護師の誕生。

 Plus顔写真1 「『専門看護師という道がある』。そう勧められたのが、小児看護専門看護師をめざすきっかけ」と話すのは、若山志ほみ小児看護専門看護師だ。若山は専門学校を卒業後、岐阜県総合医療センターに入職。手術室、内科病棟を経験した後、看護学校の教員を経て、同センターに復帰、以来小児科に勤務する。平成19年、働きながら岐阜県立看護大学大学院で小児看護専門看護師の資格が得られる道があることを知った。
 若山は言う。「当時、成長する子どもさんと、それを支える家族の頑張っている姿にすごく影響されて、自分にももっと何かできるのでは? という忸怩たる思いがありました。それで、もう一回勉強して、その成果を患者さんとご家族に返そうと。そのとき、ちょうど専門看護師の話をいただいて」。
Plus顔写真2 もう一人の小児看護専門看護師、古田晃子が専門看護師になるきっかけも、思いがけないものだった。大学を卒業後、同センターで小児科一筋だった古田は、産休中に突然、若山から電話をもらう。「あなたには専門看護師が合うと思う」。半ば強引な誘いに古田の心が動く。「偶然、産後のキャリアをどうすべきか真剣に悩んでいたところでした。どうしても専門看護師になりたいわけじゃない。でも、自分のこれから進むべき道を考えるためにも、改めて勉強しようと思ったんです」。
 では、2人が選ばれた理由は何なのか。
 若山に資格取得を薦めたのが、高木久美子現副院長 兼 看護部長。高木は当時の状況を説明する。「実は、岐阜県立看護大学学長から強い働きかけがあったんです。『県内で必要な専門看護師を育てるため、新たに専門看護師コースを作った。最初の専門看護師はぜひ岐阜県総合医療センターから出してほしい』と。そこで小児科の病棟にいた彼女が適任だと考え、推薦しました」。
 そして、古田に若山が声をかけた理由。それは、「患者さんやご家族の立場になって考えることができ、何よりも患者さんへの熱い思いに溢れ、行動力があったから」。若山は言う。「私一人だけでなく、若くて後輩に影響力のある人が専門看護師になることは、病院の将来にとってもいいことだと思ったんです」。
 さまざまな思いが繋がり、岐阜県初の小児看護専門看護師が誕生。さらにその思いが継承されることで、岐阜県総合医療センターに2人の小児看護専門看護師が生まれることになった。

 

 

二人三脚で、子どもと家族を支える。

410701 現在、2人の勤務する同センターの小児病棟は、3階の小児循環器内科・小児心臓外科の病棟、4階の「母とこども医療センター」新生児内科(NICU・GCU)、産科(MFICU)病棟、9階の一般病棟の3つに分かれており、計144名の助産師・看護師が働く。
 若山は3階病棟の師長を務め、スタッフの管理とサポートを担当。スタッフがどうしたらより良い看護ができるかという観点から調整や相談を行う。一方古田は、9階の現場で、リーダーナースとして、患者のケアとスタッフ教育を行っている。若山が組織を成熟させつつ、古田が高度な看護を実践する。2人の小児看護専門看護師が役割分担しながら機能することで、同センターの高度な小児看護を支えている。
410801 2人が情熱を注ぐ小児看護。その特徴を若山は、患者に点でなく線で関わっていくところだと話す。「生涯、病気を持つ子どもでも、成長のなかで解決していったり、ご家族の支援で、できることが少しずつ増えていったりします。小児看護は子どもの成長を見ることができ、一緒に喜びを共有できるんです」。ただし、そこには難しさもあると古田は言う。「重症の児童であればあるほど、母親は24時間ぴったりと付き添います。そうすると、私たち看護師には気づかない子どもからのサインや思いに母親が気づくこともある。そのことをきちんと母親から引き出し、看護に活かすだけでなく、その上で、子どもとともにご家族の思いを支えるのが非常に重要になってきます」。
 「そのためにはコミュニケーションが大切」という若山は、看護師全員に伝えていることがある。「当院では、患者さんやご家族の窓口となる看護師をおく、担当看護師制をとっています。担当になる看護師には、『絶対にご家族の味方になってね』と言っています。いろいろな事情から意思疎通が不充分になり、ご家族が孤立してしまう可能性はいつでもあります。そうしたとき『この人だけは私の味方だ』と思える人が医療者に一人でもいるだけで、家族は救われるんですよ」。

 

 

<ここ>に
小児看護専門看護師が必要だった。

410414 岐阜県に3名しかいない小児看護専門看護師のうち、2名が岐阜県総合医療センターにいること。しかも小児専門病院ではなく、総合病院にいるという事実には、二つの背景がある。
 まず一つは、小児医療が非常に専門的かつ高度な医療であることだ。昨今、複雑な疾患や難病の小児が増えるとともに、医学の進歩に伴い、医療依存度の高いまま在宅に戻る患者も増加している。さらに成長過程の小児には、医学的な支援のみならず、教育的・社会的な支援も必要だ。小児医療は今、高い専門性に加え、継続的な治療とケアを必要とするものになっている。
410616 そしてもう一つが岐阜県における小児医療の希少性だ。3つの基幹病院がある岐阜医療圏は整備されつつあるものの、岐阜県全体で見ると圧倒的に医療リソースが不足。特に、重症心身障害児(※)のベッド数は、他県に比べ、著しく少ない状況だった。
 高い専門性に加え、継続的な治療とケアを必要とする小児患者が、広域圏にわたって存在する。この状況のなか、限られた医療リソースを効果的に活用するには、組織として岐阜県全体を見ることのできる同センターに小児医療の機能を集約、ハブとして岐阜県全体をカバーする必要があったのである。

※ 重症心身障害児とは、重度の肢体不自由と重度の知的障害とが重複した状態の子どものこと。

 

小児医療センターが
岐阜県の周産期医療のハブになる。

Plus顔写真3 平成27年、岐阜県総合医療センターには、「小児医療センター(仮称)」が完成する。これは、建物だけでなく、周産期を含む小児医療のセンター機能を指すもの。新設されるセンターでは、本館から小児科系外来が移転拡充され、新たに重症心身障害児をみることのできる30床の障がい児病棟、小児専用の検査機能や障がい児の診察室が整備される。先行して、本館の3階では、平成25年からPICU(小児集中治療室)の整備も始まっている。
 「小児医療センター(仮称)は、岐阜県の周産期を含む小児医療の集中機能を当院に集約したもの。さらに当院で展開される医療と看護を高度化し、その専門知識と技術を地域へと広げ、岐阜県の小児医療レベルと看護レベルの均てん化を図るハブとなるものです」。そう同センターの役割を説明する高木副院長 兼 看護部長は、実現のために重要なのは<連携>だと語る。すでに同センターでは、障がい児のいる保育所の保育士のための研修を実施しているが、今後は、若山と古田を中心に、地域で小児医療に携わる訪問看護師との勉強会やカンファレンスの開催、さらに障がい児の研修会への講師派遣など、交流によって地域とのネットワークを組み立てていくことを図るという。高木は言う。「若山さんと古田さんの2人には、小児看護専門看護師として、高度な小児看護を岐阜県全体へと広める牽引役になってほしいんですよ」。
 岐阜県初の小児看護専門看護師の誕生から、次世代への継承を経て、岐阜県の小児医療のハブとなる小児医療センター(仮称)の完成へ。岐阜県の小児医療を守るため、長年にわたり進められてきた計画が、今、花開こうとしている。


 

 

columnコラム

●岐阜県総合医療センターは、県立から地方独立行政法人に移行し、今年で6年目を迎える。地方独立行政法人とは、ある程度の自由度を持って、自律的に病院経営ができる組織体のこと。

●この5年間、同センターは地方独立行政法人としてのメリットを最大限に活かし、県という大きな視点を持ちながらも、柔軟な経営を行ってきた。その結果、病院にもたらされたものは、必要な職員の増員と配置、集中的な設備投資、最新医療機器の導入、職員の教育環境整備など、枚挙にいとまがない。

●しかし、組織のあり方が変わったとはいえ、同センターの見据える先は変わらない。地方独立行政法人になった今でも、その視線は、県全体の医療が抱える問題を解決することに注がれている。

 

backstage

バックステージ

●岐阜県総合医療センターの小児医療センター(仮称)は、三次医療圏における、医療リソースの<集約化モデル>といえるものだ。岐阜県全体の小児医療の現状を正確に把握。限られた医療リソースを最大限に活用するため、<集約化>という方法を選択し、行政と病院が一体となって邁進してきた。

●しかし、<集約化>が唯一の答えというわけではない。同センターの事例は、あくまで岐阜県における小児医療の状況を考えたとき、最善策として浮かび上がってきたものに過ぎない。解決方法は、地域の事情や医療リソースの多寡などにより、当然変わってくる。

●大切なのは、自治体や病院が地域に本当に必要な医療を見つめ、地域の事情を正確に把握すること。その上で、医療リソースの集約化、均てん化、養成など、あらゆる解決方法を選択肢に入れて、柔軟に対応していくことではないだろうか。

 

 


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