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病院を知ろう

がん医療の進化を、
患者の望む生き方のために。

 

 

愛知県がんセンター 中央病院


がん患者にとって「ここでなければ」「ここに行けば」という病院、愛知県がんセンター。
医師一人ひとりがプロに徹し、その総和で、
がんに立ち向かう患者に生きる勇気を与え続ける。

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病院と研究所を併せ持つ愛知県がんセンター。地方自治体を母体とする、日本初のがん専門施設である。
同センターで治療に携わる医師たちにとって、ゴールは同じ。がんをきちんと診断し、がんを治すことだ。
そしてそこには、専門特化した知識・技術と、がん医療全体を見つめる鋭い目線、
そして何より患者へのやさしく、温かい思いが込められていた。

 

 

 

 

 

患者に寄り添う、
多様な治療法。

 子宮体がん、子宮頸がん、卵巣がんなどに代表される婦人科がん。女性にとって身体的・精神的な苦しみが大きな疾患だ。その婦人科がん治療最前線を、愛知県がんセンター 中央病院婦人科部 部長の水野美香医師に聞いた。彼女は婦人科腫瘍専門医。基幹病院、大学病院、大学病院での教官など、約20年に亘りがんと真正面から向き合ってきた。
Plus顔写真1 「婦人科がん治療の基本は、外科療法(手術)です。病巣を中心に広範囲に切除し、がんを身体から取り出すことですね。その後、再発予防や残ったがん細胞を撲滅するために化学療法、放射線治療などを組み合わせた、集学的治療を進めます。なかには、最初に化学療法を行い、病巣を小さくして手術へと進める。また、妊孕性(妊娠する力)温存をめざした、特殊な部分切除手術なども行います。つまりはきちんと手術して完治をめざす。こうした初回治療は重要です。それ如何で、患者さんの人生が変わりますから」。
 「でもなかには」と水野は言う。「かなりがんが進行している、また、再発がんなど、完治が難しい方もいます。そのため私は、患者さんが、がんを受容できるよう、病気への理解を深めていただきます。そして、治療法は一つではなく、患者さんの要望に合わせて化学療法、放射線治療、そして新規治療薬の臨床試験による治療戦略を含め、多様な選択肢がある。たとえ完治しなくても、その後の人生を、患者さんが望むように生きる手立てはいくつもあることを、ご理解いただきます」。
 同科は、婦人科がんで国内有数の症例数を持ち、なかには、原発不明がんや子宮肉腫など希少が422016ん(※)の治療もある。水野自身、手術には蓄積した実力がある。現在、婦人科がんの腹腔鏡による低侵襲手術を準備している。さらに、「放射線治療や化学療法の進化も著しい」と水野は言う。「当センターはがんに特化した病院です。集学的治療では、各科が、がんに向けて突き進めた医療を結集させ、患者さんの望むQOL(生活の質)を高める最大の努力を重ねます」。

※ 発症頻度が非常に低いがん。

 

 

手術を支える、
放射線治療と化学療法。

  婦人科治療でも重要な役割を持つ放射線治療と化学療法。その位置づけは、これまで、手術を補助する治療と、手術が不可能なケースでの代替治療という二つであった。
Plus顔写真2 まず、放射線治療。がん細胞に放射線を繰り返しゆっくり照射し、がんにダメージを与えていくものだ。手術の補助では、術前・術後の補助照射。代替治療では、がんの痛みを取ったり延命のための緩和照射がある。同センター放射線治療部 部長の古平 毅医師は「がんの種類や病状、患者さんの希望により、放射線治療のウエイトは変わってきます。いずれにしても、身体にメスを入れず、体力の負担や臓器の欠損がない治療です」と言う。
 重要点は、<見極めと見立て>。「放射線をかけられる限度量は決まっています。それを超えると、晩期に副作用が出る。いわば寸止めの状態で、行うべき治療の見極めが必要です。また、がんの性質に合わせ、放射線を当てる範囲、回数など、必要充分な放射線量にする、適切な治療の見立ても不可欠。それらを精緻化するからこそ、患者さんのQOLを守ることができます」(古平)。
Plus顔写真3 一方、化学療法とは、抗がん剤でがん細胞の増殖を抑えたり、再発や転移を防ぐものだ。術前にがんを小さくする、目に見えない小さながんの再発・転移を予防するなど、補助治療と緩和治療として行われる。抗がん剤は、一般的には強い副作用を連想させる。同センター薬物療法部 部長の室 圭医師は「確かに、抗がん剤の種類や支持療法(副作用に対する薬)が少ない時代はそうでした。でもここ10年で、有効な抗がん剤が増え、支持療法を含めたレジメン(※)もたくさん確立されました」と言う。また、今日では外来での治療も可能であり、患者は自分の生活に合わせて治療を受けることができる。
 そうした化学療法の医師は、同センターでは臓器別に特化している。「化学療法には診断と手術、抗がん剤という疾患に対する一連の流れへの知識と、抗がん剤や支持療法など薬剤に対する知識が必要です。患者さんのQOLへの最大効果を考えると、その両方を併せ持つスペシャリストであることですね」(室)。
 こうした放射線治療と化学療法において、それまでの常識を覆す可能性が広がり始めている。

※ 投与する薬の種類、量、期間、手順などを時系列で示した計画書。

 

 

可能性を広げる、
がんに関わる医学の進化。

 手術に並ぶ、がんの治療法となってきた放射線治療と化学療法。実際にはどこまで進化しているのだろうか。
409507 放射線治療においては、「IGRTを組み合わせたIMRTとSRT」だと古平は言う。IGRTとは、画像誘導放射線治療。位置確認のために、三次元のCT画像を得るものだ。IMRTとは、強度変調放射線治療。がんの形に合わせ、放射線の強さを変えながら、がんのみに多方向から高線量を与える。SRTとは、定位放射線治療。小さながんの場合、その病巣に集中して、三次元的に角度を変え強い放射線を与える治療法である。
 古平は語る。「原体照射法(病巣の形状に合わせ、立体的に放射線を当てる照射法)を、治療技術やコンピュータの革新的な進化により発展させたのが、IMRTやSRTです。そこでは、IGRTによる0・1㎜単位での照射位置管理を行います。つまり、これまでより放射線を高精度に活用した治療法。当センターでは、放射線治療の進化とともに積み重ねた膨大な症例数を有し、なかには子宮頸がんで行われているような、根治治療へと繋がる可能性も広がってきました」。
 一方、化学療法の進化では、室は「分子標的薬の登場だ」と言う。「分子標的薬は、がん細胞の増殖や浸潤、転移に関わる分子を標的に、それらの抑制、阻害が目的。従来の抗がん剤とは違います。一般化にはまだ時間が必要ですが、現在でも、がんの種類や病状によっては、オーダーメードの治療計画を立案し、患者さんの望むQOLに応える治療を展開しています」。
 また、未来に目を向けると、ゲノム(DNAのすべての遺伝子情報)解析によるさらなる個別化治IMG_9848療も実現するだろう。「そうした革新的な治療をより早く患者さんに届けるために、私たちは、遺伝子の分析結果を踏まえての治験、また、特殊な遺伝子異変の治験、さらには、国際的な共同治験にも数多く参加しています。最近では、従来の免疫療法とは一線を画す最新の免疫療法が、革新的な治療として、メラノーマ(悪性黒色腫)、肺がん、胃がんなどで期待されています。新しい治療開発が、患者さん一人ひとりの生き方を支えるものと確信します」と室は力強く語った。

 

 

一人の天才ではなく、
プロ同士のチーム力。

IMG_9815 水野、古平、室。三人三様に挑戦し続けているのは、がんの征圧と、がんとともに生きる患者のために、いかに最先端の治療を取り込むかという点である。そこで大切なのは、<チーム力>だと言う。医師、看護師、薬剤師、放射線技師、医学物理士、放射線治療品質管理士など。どの職種が欠けても、今日のがん医療は進まないほどに高度化している。同センターではその総和で、がんの完治、また、がんとともに生きる患者の、望む生き方に立ち向かっているのだ。
 そのチーム力の最大化には、<医師の育成>が欠かせない。ではどのような医師を育てるのか。「患者さんのバックグラウンドを踏まえ、診断から治療まで行える豊富な知識と能力が大切です。患者さんに寄り添って一番良い答えを出す。そういう医師ですね」(水野)。「放射線腫瘍医である前に、一臨床医としての総合力とバランスが必要。そして、がん診療全体のなかで、放射線治療の立ち位置を理解し、いかに患者さんに良い治療を提供するかを考える医師」(古平)。「治療全体のなかでの、化学療法の複雑なスケジュールや副作用マネジメント能力が必要です。その根幹は、コミュニケーション能力、独創性、やさしさです」(室)。三人の言葉からは、同センターの、すべては患者を中心にしたがん治療のあり方が見えてくる。
 最後に室の言葉を紹介する。「がん治療において、天才一人で解決できる問題はありません。各分野のプロが、有機的に繋がって初めてがんの征圧に挑戦できます。患者さんにとって当センターは、<ここでなければ><ここに行けばなんとかしてくれる>病院。その使命において、私たちは、がん医療の進化を、患者さんの望む生き方へと繋ぎます」。

 


 

column

コラム

●第二次安倍政権が進める、新たな経済特別区域構想<国家戦略特区>がある。地域を限定し、大胆な規制緩和を行うことで、国際競争力の向上や新しい産業の創出が狙いである。

●その国家戦略特区の指定を受けようと、愛知県から国への提案の一つに、愛知県がんセンターは選ばれている。具体的には、保険外併用療養の拡大(国内未承認の医療品等の保険外併用の迅速化・対象拡大)を活用し、がん治療の選択肢やアプローチの幅を広げ、患者の利益増進への寄与、我が国の先進医療の拡大に貢献するというものだ。

●同センターが選ばれた背景には、厚生労働省からの都道府県がん診療連携拠点病院指定、さまざまな学会からの施設認定、そして、同センター医師が中心となって進める国内・国外での治験実績がある。いわば我が国でもトップクラスの主要がんセンターとして、高度で先進的ながん診断・治療、予防、研究への取り組みが評されたものである。

 

backstage

バックステージ

●がんは、昔のように特別な病気ではなく、誰もがリスクを抱える病気である。

●それに対するがん医療は、医学の進歩と、コンピュータ技術が相まったデバイス(医療機器・装置)の進化により、治癒できるがんも増えてきた。また、治癒できないケースでも、いかに生活の質を担保するかという視点で、医療界ではさまざまな挑戦が行われている。

●そうした<治す>ことが目的の治療と、<生活の質>が目的の治療。その二軸ともに挑戦を続けるのが、愛知県がんセンターである。

●<治す>治療においては、本文で紹介したとおり、集学的治療、すなわち、専門領域の異なる医師をはじめ、医療スタッフがチームとなり、患者の治療方針・計画を立案、実施。<生活の質>においては、治療を続けながら就労できるような、社会復帰支援へのコーディネートにも注力。患者を見つめる質の高さ、そして、目線の温かさを強く感じる。

 


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