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病院を知ろう

医療資源の乏しい岐阜県・東濃東部地区で始まった、
最先端の地域医療体制づくりの取り組み。

総合病院中津川市民病院


病院メイン_10中津川

「総合する専門医」が先頭に立って、地域の限られた医療資源を繋いで活性化する。

医療資源の乏しい岐阜県東濃東部地区。地域住民が安心して病院や診療所にかかれるようにするにはどうすればいいだろう。中津川市と名古屋大学医学部総合診療科が強力なタッグを組んで「中津川市地域総合医療センター」を開設。同センターが中津川市民病院や地域の診療所を舞台にした、新たな地域医療ネットワークの構築に挑戦している。キーパーソンは、「総合する専門医」だ。

中津川市と名古屋大学との連携による地域総合医療センターの開設。

26-0102 病床数、医師数ともに少ない岐阜県・東濃東部地区では、中津川市民病院が中核となって地域医療を支えている。同院の診療エリアは中津川市・恵那市を中心に半径60km圏、岐阜県のみならず、隣接する長野県木曽地方からの来院者も多い。しかし、もともと医療資源が乏しいところへ、追い打ちをかけるように医師不足が深刻化。数年前から一時、里帰り出産を制限したり、内科の初診外来を休止するなど、病院機能は大きく低下していた。
 そうした折りに持ち上がったのが、中津川市と名古屋大学医学部総合診療科(以下、名大総診)との連携による地域総合医療センター構想だった。これは、地域医療の再生をめざす中津川市と、地域との協同により総合的な医療の実践・教育・研究をめざす名大総診の思いが一致して生まれたもの。中津川市の限られた医療資源を「総合診療」という切り口で繋いで活性化するとともに、地域医療に携わる医療人(医療に携わる多職種の人材)を育成する基盤づくりを行い、地域志向の高い医療人が全国から集まるようなセンターをめざす。そこでは、地域住民を巻き込んで地域の保健、医療、介護・福祉を連携させた一体的なサービス(地域包括ケア)を展開するという先駆的な構想だった。
 2011年4月、同市健康福祉会館に「中津川市地域総合医療センター」が誕生し、名大総診から常勤医師1名、非常勤医師3名がセンターへ派遣された。さらに翌年、この地域医療活性化のための新たなモデルをサポートし、その活動を国内外に発信することを目的とする「地域総合ヘルスケアシステム開発寄附講座」が名大に開設され(詳しくはコラム参照)、危機的な状況にあった東濃東部地区の医療供給体制は息を吹き返しつつある。

「総合する専門医」が地域と市民病院を繋ぐコーディネーターの役割を担う。

10-003 同センターの大きなミッションを託されたのが、名大総診の高橋春光医師である。高橋医師は同センターの副センター長に就任し、中津川市民病院のほか、中津川市南端にある阿木診療所、長野県との県境に近い国保川上診療所の3カ所に赴いて、「総合診療」を実践している。
 そもそも総合診療とは何か。「私たちは自らを“総合する専門医”と言っています。臓器別専門医療とは違い、人間そのものを対象にするのが総合診療です。疾患だけではなく、患者さんの抱えるさまざまな問題に焦点をあて、診療にあたります」と高橋医師は説明する。
 2013年春、中津川市民病院の院長に就任した安藤秀男院長も、病院総合医としても勤務する高橋医師らを「診断学のスペシャリスト」として高く評価する。「疾患のよくわからない患者さんを適切に診断し、専門の診療科へ適切なタイミングで紹介していただいています。内科系医師はもちろん、他科の医師の負担も大幅に軽減し、それぞれの診療領域に集中できるようになりました」。
 中津川市民病院は名大病院の関連病院であり、2.5次救急まで提供できる高い専門能力をもつ医師が集まっている。高橋医師らが総合診療を担うことにより、これまで充分に活かせなかったその高度な専門性をフルに発揮し、病院のポテンシャルを最大限に引き出せるようになった。同時に、常勤医のいない内科領域までカバーすることで、医局人事などで変動する医師のマンパワーをも支えている。
 総合診療医が〈総合〉というアプローチで患者を診て、正しい診断を下し、必要に応じて専門医療へ繋げる。患者の身近にいて継続的に患者と関わるプライマリ・ケア医もまさに総合診療医である。自分に合った医療を求める患者と、プライマリ・ケア医、そして専門医療を提供する病院を有機的に結びつけることがとても重要である。同センターは、この機能を担うことにより、東濃東部地区の限られた医療資源を有効に活用することをめざしている。

地域医療を任された自治体病院の苦闘。

26-0011 中津川市と名大総診の連携。この背景には、不採算の小児科・産科部門などを含めて地域医療を任された中津川市民病院の苦闘の日々があった。同院では急性期多機能棟(南館)の増設などにより設備投資を行ったものの、入院患者が伸び悩み、2004年度以降赤字決算を余儀なくされていた。こうした状況から脱するために、数年前から精力的な病院改革を推進。企画経営課を作り、院長を筆頭に各部門の専門職が集まって、経営分析と戦略を練ってきた。安藤院長は当初からそのメンバーに加わり、病院改革に取り組んできた一人だ。「DPC導入に合わせ、材料費のコスト削減を図るとともに、医師の裁量権を守りつつ、全国の平均的なデータを指標として活用し、在院日数などの見直しを進めました」。こうした努力が実り、同院の経営状態は改善に向かって着々と前進している。
 また、医師の確保も重要課題だった。「医師事務作業補助者を雇用するなど、働きやすい環境づくりに取り組んできました。同時に、浅野良夫前院長が名古屋大学に度々足を運び、そのなかで総合診療科との出会いが生まれたことが大きな契機だったと思います」。浅野前院長の粘り強い働きかけがなければ、今日の連携体制は実現しなかったかもしれない。

最先端の地域医療体制をここ中津川から。

41-088 中津川市地域総合医療センターが開設されて3年目、高橋医師はいよいよこれからが本格展開だという。診療については、中津川市民病院と国保坂下病院を含め、地域全体の病院とクリニックを円滑に連携させる仕組みを作っていく。「市民病院の前院長から“病診連携の強化”という宿題をいただいていますし、連携はセンターの大きなミッションですから、全力で取り組んでいきます」(高橋医師)。教育については、名大総診との連携による学生・研修医教育のみならず、地域志向の高い医療人を育成するための基盤づくりを進める。研究については地域包括ケアシステムが、住民の健康や生活の質向上にどのように寄与するかを疫学的、医療経済学的に評価する研究を展開していく計画だ。
 これから取り組むべき課題は多岐にわたるが、それらの軸足となるのは、臨床の部分、すなわち患者中心の医療の実践だという。もともと高橋医師は、愛知医科大学の出身。卒後研修を受けるなかで、臓器別に細分化された医療に違和感を感じ、名大総診へ飛び込んだキャリアをもつ。紆余曲折の末にたどりついた「総合する専門医」は、高橋医師にとって天職とも言える。「キーワードは人間愛。常に患者さんを中心に据えつつ、いろいろ欲張ってやっていきたい」と意欲を燃やす。
 郊外から山村まで含む広い医療圏のなかで、限られた医療資源を繋いで活性化していく取り組みは始まったばかり。その先には、福祉・介護までテーマが広がっている。「この地域は一つのチーム。医療従事者だけでなく、地域のいろいろな人と一緒になって、新しい地域医療体制を作っていきたい」。高橋医師は力強くそう語った。


 

 

column

-83r83898380●医師不足が深刻化する東濃医療圏のニーズに応え、中津川市と名古屋大学との協定により実現した「寄附講座」。これは市が2012年から5年間、名古屋大学に寄附を行い、大学が「地域総合ヘルスケアシステム開発講座」を開設するもの。現在、教員3名と研究員1名が中津川市における新たな地域医療モデルを企画し、そのアウトカムを評価する研究およびそのモデルを支える医療人を育成するための多職種連携医療教育に取り組んでいる。

●寄附講座には5年という期限があるが、寄附講座の助教も兼任する高橋医師は「この5年間で、研究の実績、教育の実績を出して、地域にも社会にも認めてもらい、地域医療活性化の新たなモデルづくりへの取り組みを持続させていきたい」と構想する。5年間で終わらせない継続性を求めて、高橋医師らのチャレンジは続いている。

 

backstage

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●地域では予想以上に高齢化が進んでいる。「地域は、日本の最先端。これから日本で起こることが、まず最初に地域で起こります」と高橋医師も指摘する。複数の疾患を抱える高齢者が増えるなかで、従来の臓器別専門医療という視点だけでは、もはや地域医療は限界に近づいていると言えるだろう。疾患だけでなく患者が抱えるあらゆる健康問題に関心を注ぎ、患者を取り巻く家族、地域にも目を向ける医療、また診断・治療だけでなく予防から介護・福祉まで視野に入れた医療・ケアが求められている。

●「総合診療」をキーワードに、地域にある病院とクリニックが、あたかも一つの医療施設のように機能することによって、適正な医療サービスを提供していく。その仕組みのなかでは、市民一人ひとりが限られた医療資源をうまく活かし、利用していこうとする意識が重要だ。地域が一つに繋がろうとする、中津川市の取り組みにこれからも注目していきたい。

 


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