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シアワセをつなぐ仕事

院内で、
そして地域へ。
薬剤師の可能性が
広がり続ける。

三島江津子(がん専門薬剤師)/半田市立半田病院


 

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地域医療のなかで多職種における役割分担と連携が求められる今、薬剤師もまた、仕事の質的変化を求められている。
薬剤師はこれからどのような役割を担うのか、可能性はどのように広がるのか。
三島江津子がん専門薬剤師、村上照幸薬局長のお二人に話を聞いた。

 

 

 

 



病院薬剤師が多職種と連携し
地域包括ケアシステムのなかで
専門的役割を果たす。


 

 

 

抗がん剤の副作用に
苦しむ女性患者とかかわって…。

 Plus顔写真1 「がん専門薬剤師」三島江津子には忘れえぬ思い出がある。今から遡ること20数年前。その女性は、絨毛がんを患い、治療のために婦人科病棟に入院していた当時50代の患者だった。抗がん剤治療は、単独の抗がん剤で行う場合と複数の抗がん剤を組み合わせて治療する「多剤療法」があり、絨毛がん治療は後者に分類された。この女性患者にも多剤療法が用いられ、複数の抗がん剤のなかにシスプラチンが含まれていた。シスプラチンとはその当時登場した新しい抗がん剤で、がんの種類によっては治癒が期待でき、絨毛がんはその一つに数えられた。世間では「がんは治らない」と認識されていた時代のこと。この薬の登場は大きな驚きだった。
 服薬指導にあたっていた三島にとってもシスプラチン投与により「治癒が期待できる」ことに手応えを感じた。反面、シスプラチンには強い悪心・嘔吐、食欲不振、腎毒性などを引き起こす副作用があり、この女性患者も副作用に悩まされた。腎毒性はなかったものの、悪心・嘔吐、食欲不振が激しかったとのこと。それでも腎毒性対策として、大量輸液や利尿を行い、腎障害が起きないように万全の体制で臨んだ。
 「しょっちゅう嘔吐していましたね。あの頃は悪心・嘔吐に対応する薬剤が少なかったので、辛い思いをさせました。治療とはいえ、見ているこちらが可哀想に感じるほどでした」と三島は072_HandaLinked_2015あの頃を振り返る。「それでも、この方は『頑張って治します。大丈夫です』という強い意志を私に示され、そういう姿に感じ入るものがありました」。
 三島は自問した。「患者さんがこんなにも苦しんでいる。患者さんの頑張りだけでいいのだろうか。薬剤師として私にできることがもっとあるのではないか」。このときの貴重な経験が「がん専門薬剤師」をめざすきっかけとなった。

 

 

半田病院と三島の意思が一致し
「がん専門薬剤師」へ

060_HandaLinked_2015 三島は現在、「がん専門薬剤師」として半田市立半田病院(以下半田病院)に勤務。外来化学療法室や婦人科病棟での服薬指導、薬物療法について医師、看護師、病棟薬剤師への助言、若手薬剤師の育成などで忙しい毎日を送っている。
 もともと三島は半田病院ではなく、ある大学病院の薬局に勤務していた。薬学部卒業後、教授の薦めで入職したのだった。まだ医薬分業がなされていない時代のこと。「ただひたすら処091_HandaLinked_2015方箋どおり調剤する日々」だったが、大学病院でもあり、研修が多く勉強が続いた。そんな濃密な1年を経験したのち、地元半田市に戻り現在の職を得た。三島は「薬を調合しながら患者さんの病状を類推する日々でした」と微笑む。その話からも、三島が処方された薬を通して「どんな病状の患者さんなのだろう」と想像していた光景がうかがえる。言い換えれば、患者とコミュニケーションをとりたいという意思の表れだ。
 そして20年ほど前から、婦人科病棟での服薬指導に携わるようになった。患者さんと話すことが好きだった三島にとって、それは望んでいた業務の拡充でもある。病棟での服薬指導は仕事に手応えを感じる一方で、がん患者と接する機会が増えたことでもあった。まさにこの時期、冒頭の女性患者とのかかわりを持った。
 がん医療に注力しようとしていた半田病院からの働きかけと、冒頭のエピソードが強い動機となり、三島は「がん専門薬剤師」になる意志を固めた。東京の「がん研究会有明病院」で3カ月間の研修を受けたのち、日本病院薬剤師会の「がん薬物療法認定薬剤師」の資格を取得。その後、日本075_HandaLinked_2015病院薬剤師会の「がん専門薬剤師」を経て、現在の日本医療薬学会が認定する、標榜可能な「がん専門薬剤師」となった。平成27年のことである。「がん専門薬剤師」とはその名のとおり、がん領域の薬物療法について精通し、一定水準以上の実力を備えた薬剤師を指す。また長年がん治療に取り組んできた半田病院は、平成22年、愛知県より「地域がん診療拠点病院」の指定を受け、さらに平成27年4月、国指定の「地域がん診療連携拠点病院」となった。

 

 

より深くより広く
変容する薬剤師の仕事。

 医療が時代とともに変わっていく流れは、薬083_HandaLinked_2015剤科にも変化をもたらした。調剤に専念していた薬剤師は、病棟や外来化学療法室で服薬指導を行うようになり、さらに地域で薬剤師の職能が求められるようになってきた。地域医療が進展するなか、医師や看護師のみならず、薬剤師もまた多職種と連携し、その専門性を発揮する役割に期待が集まっている。
 地域包括ケアシステム構築に向けた動きのなかでは、町の保険薬局が地域の健康相談ステーションとしての役割を一部担うことは想像に難くない。そのとき薬局薬剤師は服薬指導だけに留まらず、患者さんに合った食生活や運動など生活習慣のアドバイスも求められる。
 患者にとって身近な保険薬局の薬剤師を指導するのは、三島ら半田病院の薬剤師たちだ。「これから当院の薬剤師たちが地域の保険薬局へ出向いて薬剤師を指導したり、保険薬局の薬剤師さんたちを集めて講習会を開いたりする機会をつくっていきたいと考えています」と三島は言う。
 「薬剤師も地域へ出ていく時代」という流れでいえば、治療は病棟だけで終わらない。退院後も082_HandaLinked_2015続く。「薬剤師も在宅医療の視点を持たなければいけない」と三島は指摘する。「在宅における、がん患者さんの緩和的局面にどう対応するか、認知症の方の内服管理をどうするか、など暮らしのなかでの服薬といったところにも目を向けていきたい」と続ける。薬剤師もこれから強化される地域包括ケアシステムのなかで、患者のQOL向上は必至となり、薬剤師の果たすべき役割が、より高いステージへと向かっていることは間違いない。

 

 

半田病院
「がん専門薬剤師」育成の研修施設へ。

Plus顔写真2 最後に、半田病院の薬剤師が果たすべき役割と、「がん専門薬剤師」としての三島について、村上照幸薬局長に話を聞いた。「国の『地域がん診療連携拠点病院』に指定され、当院に、地域のがん診療を主導する役割がさらに求められるようになりました。がん患者さんが地域のなかで適切な治療が受けられるように、当院の薬剤師も地域の病院、診療所、保険薬局などの医療機関との繋がりを深め、医療連携の強化に取り組んでいく必要があります。そのためにはまず、こちらから積極的に地域に出ていって働きかけをすることが重要です」。
 また、平成22年から「がん専門薬剤師」の制度が変わり、新制度下の「がん専門薬剤師」は標榜可能となった。これについて村上薬局長は、「三島もその認定を受け、同時に当院は『がん専門薬剤師』の研修施設にも指定されました。自院で『がん専門薬剤師』を育成できることは大きな強みですが、がん専門の薬剤師であることを公表するわけですから、求められる責務も当然大きくなります。三島には専門能力の向上に留まらず、地域との連携強化、後進の指導・育成などの面で、さらなる飛躍を期待します」と締めくくった。
                      ○ 
109_HandaLinked_2015 ある日のこと。三島は外来化学療法室で、偶然、あのときの女性と出会った。ほぼ20年ぶりに。否、正しくいえば、「声をかけられても彼女が誰であったのか思い出せなかった」。それほど彼女は明るく快活で、抗がん剤の副作用で苦しんでいた当時の面影は微塵もなかったからだ。彼女のほうは三島のことをよく覚えていて改めて「ありがとうございました」と礼を述べた。


 

 

columnコラム

●「地域がん診療連携拠点病院」とは、全国どこでも質の高いがん医療を提供できるよう、厚生労働省が定めた一定の要件を満たした病院を指す。一定の要件とは「診療体制」「研修体制」「情報提供体制」の3項目。それぞれについて指定要件が盛り込まれている。基本的には二次医療圏に1カ所の病院が指定され、平成26年8月時点で全国407病院を数える。

●愛知県では16の病院が指定を受け、半田市立半田病院が属する二次医療圏は、知多半島の5市5町がその範囲となっている。つまり同院は知多半島全域をカバーする。これにより患者は高度ながん医療を求めて遠くの病院まで出向かなくて済む。また退院後も地域の医療連携により、一人ひとりに適した医療を受けられる体制が整ったといえよう。

 

backstage

バックステージ

●国は要介護の高齢者が、安心して地域で最後まで暮らせるよう、「地域包括ケアシステム」の構築を進めている。そこでは医師、看護師、薬剤師、介護福祉士、ケアマネージャー、などが連携し、一つのチームとなって生活を支える。いわゆる「多職種連携」だ。医療のありようの変化に伴い、それぞれの職種に求められる仕事内容も質的な変化を求められる。

●薬剤師もまた、在宅の現場では看護師との間で服薬指導や副作用の影響などを共有。あるいはケアマネージャーとは服薬介助や介護保険関連の情報をやりとりするなど、チームの一員として積極的な参加が、他の専門職から求められている。半田病院の取り組みはまさにこうした時代のニーズに応えるものだ。「薬剤師も地域へ」という流れは、これから加速するだろう。

 

 


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