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病院を知ろう

得意分野を持ちつつ
幅広く診られる力を
身につけたい。

 

 

名古屋第二赤十字病院


どんな「変化球」も受け止める医師であれ。
ジェネラルな診療能力を育てる
伝統ある研修医教育。

main

毎年、二十数名の初期研修医を受け入れている名古屋第二赤十字病院。
研修医の満足度は非常に高く、2年間の初期研修を終えた医師の多くがそのまま同院に残り、後期研修へと進んでいる。
「この病院を選んで良かった」「幅広い疾患に対応できる自信がついた」と多くの研修医が口を揃えるのはなぜか。
同院の研修医教育の 魅力のポイントを探った。

 

 

 

 

 

初期研修1年目。
教科書にない現場での学び。

Plus顔写真1 きりりとした白衣姿のなかにも、初々しい雰囲気がただよう松島彩乃医師。平成27年4月、名古屋第二赤十字病院に入職したばかりの初期研修医である。取材当日は、現場(救急外来)に入って4日目。「まだほんの数日ですが、いろいろ勉強させてもらっています」と笑顔を見せる。
 松島医師が同院を研修先に選んだ第一の理由は、各診療科の先進的な医療体制に加え、救命救急センターの救急外来で実践的に学べること。同院の救急患者受入人数は、年間約5万人。多種多様な疾患や外傷を抱えた患者が、一日平均約140人も救急外来を訪れる。初期研修医たちは、その最前線で、主に緊急度の低い患者の初期診療に携わる。上級医や救急科専門医の手厚いサポートを受けながら、さまざまな症例を通じて基礎的な診療能力を学べる環境だ。
 松島医師は、この救急外来で大きな気づきを得たという。「大学で学んだ症例は、症状も特徴的でわかりやすいものばかりでしたが、実際はそうではなく、教科書通りにはいかないと痛感しています」。そんな松島医師にとって、一緒に救急外来を担当する1年上の先輩医師たちは「直視できないほどまぶしい存在」。「とっさの判断力、緊急処置の必要な病気を見逃さない診断力など、尊敬することばかり。大学での1年間と違い、病院での1年間でここまで成長するのか、と驚かされます。それに、皆さんとても優しくて、どんなことでも親身に教えてくださるので安心です」とほほえむ。松島医師がめざすのは、神経内科医。「患者さんはもちろん、院内のスタッフにも信頼されるような医師になりたいですね。また、将来的には大学に戻り、再生医療の研究にもチャレンジしたいんです」と夢を広げている。

 

 

初期研修2年目。
幅広く診られる専門医をめざす。

 Plus顔写真2 松島医師と同じように、「救急外来での研修はすごく鍛えられます」と話すのは、初期研修2年目の佐藤洋一医師。「救急外来でたくさんの症例を診ることで、患者さんが今、どんな病態(病気の容態)にあるか評価し、どんな治療が必要か観察する力が身についてきました。たとえば、ケガの治療が目的でも、糖尿病や高血圧などの慢性疾患を持っている患者さんもいます。そうした複数の病態を一つひとつ評価し、治療を組み立てていく手法を一生懸命学んでいるところです」。その一方で、佐藤医師は「病態だけを診ていても不充分」だという。「最初の頃は、気持ちのゆとりもなく、患者さんの病気だけに意識が向くことも多かったですが、最近はその人の生活や社会的背景を考えるように心がけています。この方が自宅に戻ったらどういうサポートが必要か。そこまで考えて適切な治療をするのが医師の仕事だと思います」。
 佐藤医師がめざすのは、整形外科の専門医。「救急外来で多くの外傷患者さんを診療するなかで、整形外科領域に留まらない、外傷を専門とする医師になりたいと考えるようになりました。交通事故や労働災害といった外傷は、ある日突然患者さんの身に降りかかり、今までの生活を一変させてしまう。今後は、幅広い知識を得て、患者さんのその後の生活の質を第一に考えて治療できる医師になりたいですね」と佐藤医師は話す。
 「これからの超高齢社会では、<専門だけを診る>わけにはいきません。得意分野を持ちつつ、高齢患者さんの複数の病気を受け止める必要があります」。こう続ける佐藤医師は、患者の生活への目線と、幅広い疾患への対応力を学びの基本に据えた、守備範囲の広い医師を目標にしているという。

 

 

診療の「落とし穴」を
見逃さないトレーニングを。

427208 現在、同院には、佐藤・松島両医師をはじめとした初期研修医が約40名在籍している。彼らの研修管理の責任者を務めるのが、総合診療の名医としても知られる野口善令副院長(第一総合内科部長・臨床研修管理委員長を兼任)だ。野口副院長が初期臨床研修プログラムを作る上で大切にしているのは「将来どの診療科に進んでも、ベースとなる基礎力を養うこと」だという。基礎力とは、どんな能力か。「野球にたとえていえば、変化球を受け止める力ですね。臨床現場で遭遇する症例は、典型的な直球は少なく、変化球ばかりです。それらをしっかり受け止めて、どんな病気も適切に診断・治療することが重要です。たとえば、心筋梗塞という病気は、普通は胸が苦しいのですが、なかにはお腹が痛いと言って受診される方もいます。その方に対し、お腹の病気だと思い込んで診断すると、重大な疾患を見落としてしまう。これがいわゆる、診療のピットフォール(落とし穴)です。それを見落とさない力を、上級医たちと一緒に診療するなかで身につけてほしいと考えています」。
427404 もう一つ、野口副院長が重視するのは、超高齢社会に対応した医師の育成である。あと、わずか10年で、団塊の世代が75歳以上の後期高齢者になる平成37年(2025年)が到来する。そのとき病院の医師に求められる能力は、臓器別専門性だけではない。「医師としての基礎である現場対応力と、超高齢社会で必要な医療、これらの土台ともいえるのが︿総合性﹀です。複数の疾患を抱える高齢患者さんを総合的に診て、QOL(生活の質)への視点を持って、どの疾患を重点的に治療するか優先順位を決めていく。そんな総合性をこの2年間でしっかり身につけてほしいと考えています」。

 

 

総合性と専門性を
バランス良く学べる理想の教育環境。

Plus顔写真3 振り返れば、同院が臨床研修指定病院の指定を受けてから、今年(平成27年)はちょうど40周年。平成25年には、NPO法人卒後臨床研修評価機構から6年の認定評価を受けた。長年にわたり集積されてきた伝統の教育ノウハウが、同院の研修プログラムに詰まっている。野口副院長はその魅力について、第一に、これまで述べてきたように「救急外来で鍛えられること」、第二に、「屋根瓦方式で年の近い先輩から学べること」を挙げる。屋根瓦方式とは、研修医1年目を2年目が教え、2年目を3年目が教え…というように先輩が後輩を指導していくシステム。同院では初期研修を終了後、後期研修もそのまま残る医師が多いため、6年目7年目まで先輩が連なる。「年が近い者同士が教え、教わることにより、知識とスキルを確実に獲得できます。指導医の的確な指導に加え、こうした先輩医師からの指導が研修医の成長を促しています」。
IMG_9138 さらに、同院の臨床研修で特筆すべきは、各診療科の高度な医療水準だろう。研修医たちは、約1カ月単位で異なる診療科を経験し、各科の高度な知識と技術を学んでいく。「各診療科では、臓器別の高度専門治療を追求していますが、決して大学病院のように特殊な疾患や難病を対象としているのではなく、高頻度に発症する一般的な症例も幅広く診ています。専門性を高めつつ、多様な症例をカバーできる総合的な対応力が身につきますし、さらに、救急外来や総合内科での研修を通じて、医師としての総合性を養うことのできる非常にバランスのとれた教育環境だと思いますね」と野口副院長は自負する。
 その素晴らしい教育環境のなかで、佐藤・松島両医師は、「患者さんと二人三脚で病気に立ち向かう医師になりたい」「患者さんの気持ちに寄り添い、信頼される医師になりたい」と意気込んでいる。野口副院長は彼らの姿勢に目を細めつつ、「バックで指導医が支えているから、尻込みせずにチャレンジしてほしい」とエールを送る。


 

column

コラム

●名古屋第二赤十字病院の臨床研修管理委員会では、社会のニーズや研修医の要望をくみ取り、毎年のように、研修プログラムを見直し、教育内容を進化させている。たとえば、平成28年度入職者対象の研修プログラムには、「総合内科」が必修(2年目に1カ月)として加わった。これは、超高齢社会に求められる医師を育てるために、追加されたプログラム。研修医たちはここで、患者を総合的に診て、筋道を立てて治療していくプロセスを学ぶ。

●また、新プログラムでは、総合内科において、研修医が指導医と一緒に外来診療にも携わる計画だ。不明熱(原因のわからない体温上昇)、複合病態の患者などを幅広く診る総合内科。診断の難しい症例が集まる総合内科で、多岐にわたる患者の訴えを聞くことで、医師としての基礎力や総合力が身につくことは間違いない。

 

backstage

バックステージ

●超高齢社会を迎え、高齢患者が急増するなか、医師教育のあり方も大きく転換しつつある。これまでは、医療の高度専門化に伴い、多くの医師が「臓器別専門性」の獲得をめざし、ただひたすら高度な技能を磨いてきた。しかし、どれほど高い専門能力があっても、それだけでは、複数の慢性疾患を併せ持つ高齢患者に対応することはできない。総合的に患者を診て、なおかつ高い専門性を磨いていくことが、今日の卒後臨床研修に求められている。

●名古屋第二赤十字病院では、そうした時代の変化を俊敏に察知し、初期研修の2年間で医師としてのジェネラルな能力をしっかり身につけるよう指導している。高度急性期病院に勤める医師は、専門的な技能さえ身につければいい、というのはもう過去の常識である。これからの時代に必要なのは、総合性プラス専門性を身につけた専門医なのではないだろうか。

 


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