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シアワセをつなぐ仕事

在宅で、
がんと生きる患者を支える。

高須由江/西尾市民病院 ●外来治療センター ●がん化学療法看護認定看護師


 

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がんは昔のように特別な病気ではなくなった。
誰でもそのリスクを抱えている。
だからこそ、がんの治療は、地域の中核病院がきちんと担わなければならない。
その方針のもと、手術・化学療法・放射線治療体制を整える西尾市民病院にあって、医師とは違うアプローチで、がん患者の毎日を見つめる看護師がいる。

 

 

 



がんとともに生きる患者を、
いつもどこかで見つめていたい。
熱い思いと専門知識を併せ持つ、ある看護師の物語。


 

 

 

外来治療センター、高須由江看護師。

 Plus顔写真1 ここは、西尾市民病院の1階にある<外来治療センター>。がんの化学療法を受ける患者のための治療室である。一般外来とは切り離されており、静かな音楽が流れる落ち着いた空間だ。
 五月晴れのある日、午前の治療が始まると、一人の女性患者が、いつもとは少し違った様子を見せていた。看護師がさり気なく患者に近づく。「どうかしました?」という声に、患者は心配顔で「来月、子どもの学校で行事があるの。私の治療日と重ならないかなあ? 重なったとしても、治療の方が大事よね…」とうつむく。「大丈夫、医師の都合を調整しますから、行けますよ。あとでお話を伺いますね」。看護師の笑顔に、患者はほっとした様子を見せる。
 看護師の名は、高須由江。がん化学療法看護認定看護師(※)として、同センター開設時(平成22年5月)から専従となり、センターの運営を任されている。がん化学療法看護認定看護師は、化学療法を受ける患者やご家族を支え、確実で、安全な治療を守ることが使命だ。高須は「患者さんの悩みや迷いを、いかに引き出し、解決していくかは大切な仕事です」と言う。彼女は、継続的な視点で患者を見つめ、小さな変化も見逃さず手を差し伸べる。
 「患者さんには、治療が始まる前にオリエンテーションをしますが、なかには『本当に外来でがん治療ができるの?』と驚く方もいます。そうした方には、患者さんが納得して治療に臨んでいただけるまで、丁寧にご説明します」(高須)。実際に治療が始まると、「ここだと看護師さんがゆっくり話を聞いてくれる」との声も多い。「ご家族に、お話をお聞きすることもありますよ。がん治療は、ご家族にとっても不安や心配は大きいですから、その声をお聞きして、サポートしていきます」と高須は言う。

※ がん化学療法看護分野での熟練した技術と知識を持ち、高水準の看護実践を通して、一般の看護師への指導・相談活動を担う。

 

 

がん患者と、
真正面から向き合いたい。

 患者や家族に寄り添い、がん治療を守る高須。彼女は、患者ごとの病状や治療内容を、主治医のコメント、検査データ、薬剤師等から正確に把握することはもちろん、2名のセンター専任看護師が、円滑に仕事ができるようマネジメントも行う。また、病棟の看護師や薬剤師から、化学療法が決定した患者へのフォローを依頼されると、自ら病棟に出向き丁寧に説明をする。平成25年からは、看護専門外来において、がんの痛み、抗がん剤と副作用、療養生活などの相談にも乗る。
428140 こうした患者に向けての活動と、もう一つ、彼女の仕事の柱になっているのは、看護部での化学療法に関する指導である。「抗がん剤の扱いには、注意が必要です。単に看護手順だけを知っているのではなく、科学的な根拠に基づき正しく理解してほしいと思います」と高須は言う。さらに、抗がん剤の新しい知識や技術の情報をキャッチし、それを看護師教育に役立てるのも彼女の仕事だ。
 専門知識を活かし、広く院内で活躍する高須だが、そもそも彼女は、なぜがん化学療法看護認定看護師をめざしたのだろうか? 「病棟での看護師時代、がんでお亡くなりになる患者さんが多くいました。そうした方々に、自分は本当の看護を提供しているのかと、いつも考えていました。不満を口にしてくださる患者さんはまだいい。思いが解りますから。でも不満も言わず、独りで何もかも抱えている方もいる。そうした方に、もっとがんの専門知識を持って向き合いたいと思いました」。
 がんと診断され、治療が始まる。前向きにがんと戦う患者もいれば、諦めに似た思いで日々を過ごす患者もいる。さまざまながん患者、そして、家族の思いにもっと寄り添い、もっと支えたい。そんな思いで高須は38歳のとき、新たな資格取得へと挑戦したのだ。

 

 

自分の生活圏で、
がん治療を受ける大切さ。

Plus顔写真2 我が国のがん医療は、今日ではめざましい医学の進歩と、デバイス(医療用具)の革新により、一部のがんは根治できるようになった。ただそのためには、人材や高度医療機器などが必要であり、また、がんは緊急症例が少ないという観点から、二次医療圏(複数の市町村を一つの単位とした医療の地域圏)に一カ所程度、高度な医療機関を整備すればよいという意見がある。
 「本当にそれでよいのか、私は疑問です」。と言うのは、西尾市民病院 院長の禰宜田(ねぎた)政隆医師だ。「手術が成功したとしても、がん治療はそれだけでは終わりません。多くの場合、その後の経過観察、あるいは進行したがんや再発、転移となると、長期間の継続治療が必要です。特殊ながんを除き、消化器系がんや乳がんといった一般的ながんは、やはり患者さんが428112、自分の生活圏で治療できることが大切だと思います」。その言葉どおり、禰宜田は同院の外科をはじめ、がん疾患に対応する診療科への医師の集中配置に力を注ぐ一方、化学療法・放射線治療を加えたがんの三大治療体制を整え、地域住民が、地元で安心してがん医療を受けるための環境を用意した。
 そのなかで、「がん治療を受ける患者さんを支えるのは、看護師の仕事です」と言うのは、同院の鈴木育子看護部長である。「住み慣れた自宅を拠点に、がん治療を受けることは、患者さんにとって、その人らしい生活を続けていくことができます。とはいえ、病気や治療に対する不安は、計りしれない。そうした思いは、当院の看護師にどうぞぶつけてください。高須のように専門的な知識を持ち、患者さんの生活の質を守り、高めるために何が必要か、どうすれば一番良い形で治療を受けることができるかを考え、患者さんを支えていきます」。

 

 

看護のレベルアップを図り、
もっと患者を支えたい。

428103 がん診療において、地域のコアとなる病院づくりへの歩を進める西尾市民病院。そのなかにあって、高須は、今後をどう見つめているのだろうか。「患者さんの診断時から関わりたいですね。診断をどう受け止めたか、治療を正しく理解できたか、それを患者さんの横で見つめて、精神面を最初から支えていきたいと考えます。また、外来看護師との情報共有をさらに徹底させ、患者さんを中心にした看護職の連携を強めることも必要です」と高須。そしてもう一つ、看護師への教育にも力を注ぐ。「化学療法を知っていると、こういう看護ができる。知らないと、こんな看護になる。つまりは、患者さんの訴えを副作用と見抜けるかを、事例に沿って指導していく考えです」。院内での看護師間の連携・看護師教育強化をめざす高須だが、では、地域へと視線を移したとき、彼女の可能性はどう広がるのだろう。
415406 西尾市民病院は、二次医療機関として、二次救急患者や重篤な患者に急性期医療を提供する、地域の中核病院である。院長の禰宜田は「特殊な治療を必要とする患者さんは、近隣にある高度急性期病院に橋渡しをする一方、地域の一部急性期機能を持つ中小病院と連携を図り、患者さんが、必要に応じて適切な医療を受けることができるよう、医療を繋ぐ役割をめざす」方針にある。そのためには、持てるリソースを地域に開放し、地域全体の医療の質向上に資することも必要だ。
 そうした場合、高須もその一員である。院内の認定看護師や退院調整看護師と連携し、地域の看護職と繋がり、地域全体の看護力を高める。すでに地域の医療機関の要請に応え、化学療法の講師を務めたこともある高須だが、彼女の<がん患者を支えたい>という思いは、西尾市民病院をホームベースに、どこまでも広がり続けるに違いない。


 

 

columnコラム

●西尾市民病院は、平成27年4月から地域包括ケア病棟を開設した。

●この病棟は、平成26年度の診療報酬改定で設けられた新たな病棟カテゴリー。急性期の治療を終えた患者に継続的な医学管理を提供し、在宅への復帰を支援する。また、二次救急患者の受け入れ、在宅療養中の患者の急性増悪時にも受け入れ、在宅への復帰を支援する。

●いずれにおいても、急性期治療能力を有した上で、患者の在宅での生活までを見つめた視線での医療提供が必要だ。

●鈴木育子看護部長は言う。「急性期治療は終わっても、すぐに在宅復帰が難しい方がいます。また、病気の治療をしながら生活を続ける方もたくさんいます。そうした方々にとって、地域包括ケア病棟はいわば駆け込み寺。地域の診療所や訪問看護ステーションとの連携を活かして、よりスムーズにご自宅に復帰できるまで、きちんと支援をさせていただきます」。

 

backstage

バックステージ

●我が国の医療の流れは、病院での医療から在宅での医療に移っていこうとしている。医療費の問題や人口構造にあった効率的な医療を考えると、闇雲に否定することはできない。だが、例えばがん患者にとって、在宅での最善の治療環境が整備されているかというと、地域の医療ネットワークにおいては必ずしも万全ではなく、まだまだ過渡期を脱していないのが実情だ。

●そうした医療の変化にあって、実際に患者を支えているのは、高須看護師のような一人ひとりの医療職の努力によるところが大きい。

●高須看護師は、毎朝、電子カルテのチェックから仕事を始めるという。化学療法の患者が夜間に緊急搬送されていないかを確認するのだ。不安がつきまとうがん患者にとって、高須看護師のような専門性と熱い思いの医療職が、いつも自分のそばにいてくれることは、大きな安心に繋がる。彼女には、後進の育成にも力を注いでほしいと願うが、それは私たちの求め過ぎであろうか…。

 

 


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