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病院を知ろう

限られた医師で高次の医療を提供。
新たな医師が加わり、次のステージへ。

 

 

総合病院中津川市民病院


専門医であれ総合医の目線で
診察、治療、さらに啓発活動も。

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総合病院中津川市民病院(以下中津川市民病院)は、東濃医療圏東部の中核病院だ。
同院の循環器内科の医師はわずか3名。
しかし、強固で緊密な、院内他科との連携、地域医療機関との病病連携、病診連携を作りあげ、循環器系疾患の治療だけに留まらず、めざましい医療活動を展開。その実像をリポートする。

 

 

 

 

 

わずか3名の医師で
質の高い「循環器医療」を維持。

Plus顔写真1 「循環器内科では、1次から3次までの救急患者さんを受け入れ、循環器疾患のファーストタッチを行っています。それが基本的な治療方針です」と、診療部長兼循環器内科部長の林 和徳は言う。ファーストタッチとは患者の病名が分からない状態のとき触診や問診などの診察を行うことをいう。循環器内科の医師はわずか3名。3名で365日対応している。林はその中心的役割を担う、キャリア23年のベテラン医師だ。同院勤務でも15年目を迎える。林は心臓カテーテルによる検査・治療(※)を得意とする医師で、狭心症や心筋梗塞、弁膜症、先天性心疾患、動脈瘤や静脈瘤、動静脈奇形、動脈硬化など、さまざまな疾患の治療を行ってきた。年間300件以上の検査・治療を手がける。いわば心臓カIMG_0639テーテル治療のスペシャリストである。
 ただ、同院は医師不足により心臓血管外科を置いていない。そのため、虚血性心疾患や弁膜症の手術など心臓血管外科が扱う疾患については、同じ東濃医療圏で心臓血管外科を持つ岐阜県立多治見病院と連携。岐阜県立多治見病院で治療が行われる。このように決して恵まれた医療資源とはいえないなかで、医師たちは、循環器疾患の治療に、救急対応にと多忙な毎日を送っている。

※ 心臓カテーテル治療とは、心臓の血管(冠動脈)がコレステロールなどによって詰まり、狭くなることで起きる疾患に対して有効な治療法。

 

 

「下肢治療」のエキスパート
松下医師の加入。

 Plus顔写真2 これまで何とか3名の医師で稼働させてきた循環器内科だったが、平成26年3月、内1名の医師が同院を去ることになり、その後任として松下悦史医師が着任した。医師の数は変わらない。しかし、松下は下肢カテーテル治療に優れた技術を持ち、同院に来るまで在籍していた大垣市民病院で下肢閉塞性動脈硬化症の治療に多くの実績を残している医師だ。中津川市民病院の循環器内科では松下が赴任するまで、下肢カテーテル治療が充分対応できていなかったため、松下の加入は循環器内科の治療を質的に高めることになった。
 下肢カテーテル治療は足の血行障害「下肢閉塞性動脈硬化症」に対応できる。ただ、閉塞性動脈硬化症患者の多くが心臓の冠動脈にも病気を持ち、脳動脈をはじめ血管の狭いところなIMG_6579ど要注意箇所がいくつもあるため、下肢カテーテル治療は高い技術を求められる。それゆえ多くの経験を積んだ医師でなければ安心してまかせられないという。林は松下の加入について「技術も人柄もすばらしい。心臓カテーテル治療、下肢カテーテル治療に対応できるようになり治療に厚みを増した」と満面の笑みを浮かべる。松下自身も「ここで自分の得意領域を広め、技術や経験から得たノウハウなどを医師、コメディカルらに伝えていきたい」と自身の役割を冷静に語る。

 

 

循環器の専門医であれ
総合医の視点で診る。

IMG_6592 さらに林ら医師たちは、糖尿病の発見にも目を向ける。「循環器内科が糖尿病?」と思われるかもしれないが、林は言う。「循環器疾患の患者さんであっても、私たちはたえず『糖尿病はないか?』の視点を持つ」と。なぜなのか。それは「患者さんの糖尿病の有無を見過ごせば、動脈硬化を引き起こし、その結果、また循環器疾患に繋がります」とのこと。循環器疾患の再発リスクを取り除くためにも、糖尿病の有無を調べることは、同院循環器内科医師の必須IMG_0725要件だと言う。糖尿病と分かれば、それを専門に診る院内の内分泌代謝内科と連携。院内診療科の垣根を超えた連携が活かされ、適切な治療が行われる。
 循環器内科の専門医であっても、林ら医師たちは総合医の目も併せ持つ。どういうことか。東濃医療圏東部に目を転ずれば、さらに厳しい現実が見えてくる。都市部に比べれば医師の数が足りない。地域にある病院も設備や機器が充実しているとはいいがたい。同院より東部に循環器内科を置く病院はない。そのため循環器疾患の患者が同院へ集まる。東濃医療圏を超えて長野県南木曽地区からも循環器内科への紹介患者がやってくる。そういう環境下にあるからこそ、「治す」ことはもちろんだが、「再発させない」「病気にさせない」という医師たちの姿勢が伝わってくる。

 

 

病気予防に予後、さらに啓発活動も。

IMG_0533 具体的には何か。「再発させない」取り組みでいえば、心臓リハビリテーション(以下心臓リハ)が挙げられる。林は早くから心臓リハの重要性をコメディカルや患者に説き、循環器疾患の再発防止、悪化減少をめざし先頭に立って取り組んできた。その甲斐あって心臓リハは院内に定着。患者にもその有効性が浸透していった。
 「病気にさせない」取り組みは啓発活動だ。医師たちは「市民にも複合疾患について知ってもらおう」「診療所の先生たちにも病院での治療を知ってもらおう」と地域へ向けての活動を開始。平成25年より、市民向けに「出前医療講座」なる、分かりやすい講座を始めた。「出前医療講座」はこれまでに5回開かれ、5回のうち2回を循環器内科が受け持った。林、松下も講師となり、地域各所の公民館やホールへ。市民からの反響は大きく、生活習慣病などに対する質問が相次いだという。「病気予防の意識が高まったと思う」と林。IMG_6546
 市民向けの講座だけでなく、診療所の医師たちを対象とした研究会も行われている。診療所の医師たちが学んだ時代と今とでは医療の進歩が大きく異なる。診療所の医師に、最新の医療を知ってもらい、診療所の医師から患者へ周知徹底させたい狙いがある。診療所の医師にとってもモチベーションを高める機会となり、相互の信頼関係が増し、中津川市民病院との病診連携も、より強固なものとなる。少ない医師数にもかかわらず、病気に立ち向かう姿勢が際立ち、底知れぬパワーを感じさせる。
 「あんまりやり過ぎて患者さんが少なくなってしまったかな?」と冗談を言う林。この余裕はどこからくるものなのだろうか。反面、地域医療への確かな手応えを感じ取っているようだ。

 


 

column

コラム

●心臓リハビリテーションの目的は、循環器疾患の患者に対して病気の再発や悪化を予防するために、運動療法、食事療法に加え、禁煙を含む生活習慣の改善をめざすことにある。これによりスムーズな社会復帰、家庭復帰を促す。

●同院の運動療法士は「心臓病や動脈硬化症の患者さんには特にお奨め。再発防止や悪化の減少が期待できる」と言う。服薬と併せて心臓リハを継続することによって、「健康寿命が長くなる」ことも分かってきた。

●改めて少ない医師、限られた医療資源であっても、正しい治療方針と優秀な医療スタッフがいれば、患者のQOLの向上は大いに期待できるということだ。

 

backstage

バックステージ

●東濃医療圏は研修医が集まりにくいのが現状だ。しかし、病院のブランド力や設備機器などを研修病院選びのポイントとするのではなく、これからの地域医療はどうなるのか。研修医が自分なりの視点を持つとしたら、中津川市民病院ほど多くのことを学べる病院はないだろう。

●本文を読んでも分かるとおり、高い技術を持つ循環器内科の医師たちが積極的に病院を飛び出し、地域の人々に直接病気予防を呼びかける。生活習慣改善の必要性を説く。あるいは中高年の診療所医師にも「現代の医療」について話をする。そうした行為から「求められる医師像」が見えてこよう。

●医師不足は東濃医療圏だけの問題ではない。都市部を除けば概ね東濃医療圏と同様、医師不足の問題がある。東濃医療圏で医療を学ぶことは今後の地域医療のあり方を学ぶことに繋がるはずだ。研修病院を選ぶ視点を少し変えてみてはどうだろうか。

 


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