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病院を知ろう

安心・安全の質の保証を
継承する。

 

 

大垣市民病院


外科領域で、医療の質的転換を図った外科医が、
これからは病院全体の質的転換に挑戦。

main

365日22年間、常に患者の病気と対峙してきた。
自らを鍛えることはもちろん、強力な教育方針で医師教育に心血を注いだ。
その医師が、これからは院長として病院経営に挑む。
彼が見つめる病院経営とは何か。実際、何に取り組むのか。
金岡祐次という一人の外科医が、院長として見つめるものを追う。

 

 

 

 

 

「2025年問題に対する当院の答えを出す」。

Plus顔写真 平成27年4月、大垣市民病院の院長に金岡祐次医師が就任した。
 「私の任期は8年。平成35年(2023年)までです。つまり<2025年問題>の直前までを、私が担うことになる。そこから考えれば、私のメインテーマは自ずと決まってきます」と、金岡は言う。そのテーマとは何か。「2025年問題に対する当院の答えを出すこと。現在、当院は西濃医療圏の基幹病院に位置づいています。それを真に高度な急性期病院として、機能・能力を特化させ、環境も整備する。つまり、名実ともに医療圏のセンター病院として再構築し、それを次代に引き継ぐことです」。続けて「従来からの<市民病院>としての役割も大切ですが、今後はグローバルな視点から西濃医療圏、さらに中部地区を含む広い視野で医療ネットワークを築いていくことが必要です」。
 そしてその一方で、外科医としても臨床に立つという。週一回の手術執刀を自分に課しているのだ。通常で考えれば、院長職になると臨床を離れる、いや、離れざるを得ないケースが多い。金岡自身も院長就任と同時に、院内だけでなく、院外でのさまざまな活動が増えた。
 金岡は語る。「確かに、経営者としてやるべき仕事はたくさんある。それに没頭し病院経営のプロになる、という考え方を否定するつもりはありません。だが私は、外科医として32年間を積み重ねてきました。目的は、患者さんの命を守ること。医師としての根幹です。そして、院長であっても医師は医師。その中心軸は外さず、最先端の臨床家としての目線を、病院のトップとしてどう活かせるか考えていきたい」。そこには明確な意思とスタンスで、8年を見つめる目があった。

 

 

手術の中味を質的転換させたアスリート。

 210137 医師としての中心軸は外さないという金岡。彼はどんな医師なのか…。
 院長就任前、金岡は大垣市民病院の外科部長 兼 消化器外科部長であった。肝臓・胆嚢・胆管・膵臓(以下、肝胆膵と表記)の専門医であり、同院への着任は22年前になる。圧倒的な患者数、手術件数を誇る病院として全国に名を馳せた当院に、さらに“質”を求めた。「一般の方は、ある程度の規模の病院になると、どの病院でも、同じ質の医療を提供している印象を持つかと思います。でも実際は、全然違う。病院ごとに医療の質は違います。件数を誇るだけではなく、質を保証できる病院にする。当院への着任時、私はそう決意しました」。
 それを実現させるべく、金岡は自己研鑚を重ねた。外科医の条件である知力・気力・精神力・技術力・視力・筋力・反射神経。あたかもアスリートのごとく、である。そして自らの専門である肝胆膵領域で、高難度の手技に次々挑戦し、本格導入してきた。今後は腹腔鏡(内視鏡)手術の拡大は無論のこと、各種高難度手術、例えば食道癌、進行膵癌、肝門部胆管癌などの術式の安定化と、合併症の低減などスキルアップが必要である。伝統は引き継ぐものではなく新たに創造するものである。「常に改善に向けた努_MG_1909力を続ける、それがトップランナーの宿命だと思っています」と金岡は言う。
 365日22年間、一人の外科医として、指導医として、金岡は100%の力を出し切り、大垣市民病院の礎を築き上げてきた。今後は後進の育成が主となる。また周辺施設への人材派遣を通した医療レベルの均てん化も当院の重要な仕事だと言う。

 

 

安全・安心への追求。
今、受け継がれる。

_MG_1834 大垣市民病院の院長職には、一つの特徴がある。在任期間が長期である点だ。例えば、六代院長は7年。五代は8年。四代は7年。三代は9年。そして七代目となる金岡は8年である。大垣市の医療業務従事者(医師、歯科医)の定年が65歳であることを考えると、いずれも50代半ばを越えたあたりでの院長就任だ。
 そうした歴代の院長たちは、同院在歴の長い職員に言わせると、「大人しい優等生的なタイプはいません」。金岡は「どの院長も自らの専門領域を極めた臨床家です。それもただ臨床に力を注ぐのではなく、いかに地域の医療を高度化するか。いや、高度化するのだ、という確固たる意志がありました。時代に合わせてそれをやり遂げようとすれば、ある一定期間が必要であり、全職員に対する求心力、また、強いリーダーシップが求められます」と語る。
 歴代院長が持っていた強い意志。そこでのキーワードは「安全・安心」である。「医療で一番大事なものは、患者さんにとって安全・安心です。その水準をどこまで高度化できるか。病院の目的はそこにこそあります」(金岡)。_MG_1863
 岐阜県下最大規模の病院。西濃医療圏だけでなく、滋賀県、三重県からも患者が訪れる。救急搬送数も東海三県屈指。そうした大垣市民病院の立ち位置を考えると、強い使命感と行動力を有する院長でなければならず、実際にそうした人材がいたからこそ、今日があるといえよう。歴代の院長たちが繋いできたもの。それを継承したのが金岡である。

 

 

機能・能力をグレードアップさせる。

_MG_1767 2025年問題に向けて、金岡に具体的な青写真はできているのだろうか。「大別すると、二つあります。一つは、2病棟の全面改築。手術室、血管造影室、集中治療室、各種検査室など、いわば当院のエンジン部分ですが、それを拡張する形で改築します」。地域の最後の砦として、機能・役割をグレードアップするのが狙いである。
 もう一つは「人材育成」。医師に対しては「当院は昔から<大垣大学>といわれるくらい、アカデミックな部分を保ってきました。学術は臨床の基本を成す土台部分です。学会発表し論文を書き、多くの人の目に自分を晒す・評価を得る・非難を浴びる。これは非常に大切です。このベースなしには真の臨床家といえる医師は育たないでしょう。私の所属する外科では、年間70の学会発表と10を超える論文執筆を行っており、若い外科医は実際に学会発表をすることが、学会参加のための条件になっています。今後もこの姿勢を貫く考えです」。また、看護師をはじめとする医療スタッフには「各職種ともに、専門性が上がり細分化が進んでいます。それはつまり、医師主導で回ってきたチーム医療が、それぞれの患者さんの状態によって最適化された多職種のチーム編成が必要であり、時としてチームリーダーは代わり得るということ。コメディカルの高いモチベーションが今後のチーム医療には不可欠であり、そのためのインセンティブは必要でしょう」。
_MG_1978 医師や職員には、これまで以上の高いレベルの専門性が求められる。「その力を発揮できるように、2病棟改築では職員の働きやすさも追求したい。先に述べた各室に加え、職員の休憩室もゆったりと設計する考えです。働くときはがむしゃらに働き、休むときは心身ともに寛ぐ。そうした環境を整備したいですね」(金岡)。
 最後に地域との関係について聞くと、「人的・物的ともに医学的なリソースが当院に集まります。それをどう地域に開放していくか。例えば、2年前から稼働を開始したITを活用した<オーエムネット>、これは当院の電子カルテを、地域の先生がリアルタイムで閲覧できるシステムですが、自己開発し、現在地域に広めつつあります。そういうものを含め、病診連携、病病連携を固めていく考えです」。
 金岡の描く将来像。それはすぐには完成できるものではない。だが、8年という期間を最大限に使って、金岡は地域医療の高度化に、アスリートのごとく挑戦を果たす決意にある。

 


 

column

コラム

●大垣市民病院は、本文でも述べたとおり、岐阜県下最大規模の病院であり、全国の自治体病院でも10本の指に入る。病床数は903床、職員数は約1600名を数える。

●今日の診療報酬制度であるDPC制度においては、大学病院に次ぐ機能・能力を有する、すなわち短期集中的に高度な専門治療を行う病院として、厚生労働省からⅡ群(高診療密度病院)の指定を受けている。

●救急医療においては、救命救急センターの指定を受け、年間救急患者数は44358名、救急搬送数は9099件(いずれも平成26年度)に上る。

●また、地域災害医療センター、地域周産期母子医療センター、小児救急医療拠点病院、臨床研修指定病院などにも指定されるなど、どの角度から見ても、同院の救急・急性期病院としての実力の高さを立証。健全経営と地域医療への功績は多大であると、これまでに3度の大臣賞を受賞している。

 

backstage

バックステージ

●<目的と手段は峻別すべきである>。それを、金岡院長への取材から編集部は強く感じた。

●病院にとって健全経営は、より優れた医療環境を整えるために不可欠であり、医療制度が大きく変わろうとする今、いずれの病院においても、院長の手腕が問われるところだ。

●その病院経営において、金岡院長は、「病院の目的は経営ではなく、地域に対して、安心・安全な医療を、いかに地域に提供するかである。そこに必要なものを経営として用意する。決して目的と手段を本末転倒させてはならない」とする。

●そして、そのためには、院長室にこもるのではなく、自分も現場=臨床に出て患者の声、声にならない思いを聞く。それが自分にできる目線での院長職だという。

●大垣市民病院といえば、東海三県の医療者には大きな評価を得ている病院だ。その病院が8年間でさらにグレードアップする過程を、見つめ続けていきたい。

 


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