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大切な人のかけがえのない命に、
どこまでも寄り添う。

安西由美子公立陶生病院 副院長兼看護局長


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尾張東部の地域医療を支える公立陶生病院。ここでは、看護師が主体となり、積極的に患者や住民に関わり、地域医療を支えている。その活動は日々の業務の枠組みを越えて大きなムーブメントとなり、地域医療を支えるパワーとなっている。副院長兼看護局長の安西由美子の考え方や戦略を通じ、同院の看護の魅力を探った。

 

 

 

 


患者に寄り添う看護が、地域医療を支える大きなムーブメントになる。


院内外で繰り広げる健康の情報発信や患者の相談に応える活動。

1 お盆明けの公立陶生病院。外来棟1階待合ホールでは朝早くから多くの患者が訪れ、受診を待っていた。
 「今から“豆知識講座”を始めます。良かったら、ご参加ください」。外来看護師たちの声かけで、診察待ちに退屈していた患者たちもおもむろに身を乗り出す。今日のテーマは「外来の受診方法」。再来と再診の違い、症状に応じた診療科の案内など、やさしくわかりやすい説明に、いつしか大勢の人が聴き入っていた。
 この豆知識講座は、外来看護師14名から成る「外来待ち時間対策プロジェクトチーム」が企画したもの。診療を待つ人の気持ちが少しでも和むようにと、月に12~14回、実施している。これまで開催した内容は、「糖尿病」「禁煙」「メタボリック症候群」など多種多彩。さらに、瀬戸署員による「振り込め詐欺防止」や、瀬戸市消防本部救急隊の「応急手当」、市民ボランティアグループによる「マジック」や「ミニコンサート」など、外部の協力も得て、大きく発展している。外来看護師が診療の待ち時間を利用して、こうした健康講座を開いている例は全国でも珍しい。外来看護というと、一般に診療介助に携わるイメージが浮かぶが、ここでは外来看護師が先頭に立って、患者とのコミュニケーションを深めている。
 看護師が中心になり、あるいは他職種と力を合わせて、地域住民とふれあい、看護の力を発揮していく。こうした活動は外来部門だけではない。たとえば、医師・看護師・理学療法士・臨床工学技士などから成る「呼吸サポートチーム(RST)」では、市民への呼吸療法教育や、他施設へのスタッフ派遣を行っている。また、医師・看護師・薬1030剤師・管理栄養士などから成る「栄養サポートチーム(NST)」は、糖尿病患者の食事チェックなど、院内外で患者や住民の栄養指導に力を注いでいる。
 さらに、がん医療に力を入れる公立陶生病院では、平成18年11月に「がん相談支援室」を開設。看護師を専従に配し、がんに関する相談を無料で行うとともに、地域住民の相談に応える“出前がん相談”も精力的に行っている。

 

多彩な活動を軌道にのせるために奔走した仕掛人の存在。

 疾病予防や健康増進のお手伝いをしたり、長期療養中の患者をサポートしたり…。入院治療のみならず、幅広い視野で地域医療への貢献活動を展開する公立陶生病院。これらの活動の必要性を院内で説いて回り、仕掛けていった人物の一人が、副院長兼看護局長の安西由美子である。
 「がんの相談支援については、まず院内で“がんクラブ”の発足が始まりです。がん診療を考える仲間づくり、という気軽な雰囲気でスタートし、やがて、がん看護に精通したスペシャリストを育て、緩和ケアチームへと発展しました。時間はかかりましたが、今ようやくそれらの努力が実ってきたと感じています」と安西は話す。“がんクラブ”が誕生したのは、同院が“地域がん診療連携拠点病院”の指定を受けるずっと前のこと。「いずれはもっと専門的な看護や緩和ケアが求められる」ということを予見した、先駆的な取り組みだった。2
 呼吸サポートチームの結成も、同様の経緯だという。「10年以上前、私が呼吸器内科の病棟にいたとき、やはり呼吸器療法を考える仲間づくりから始めました。そして、呼吸器疾患のケアにはチーム医療が必要だと認識が広まり、医師らとディスカッションを重ねて、関連職種の協力と積極的な働きかけが、組織化していったのです」。今でこそ常識となった“チーム医療”だが、当時はまだそういう意識は浸透していなかった。常に社会情勢の先を見据え、奔走してきた安西。入職当初は、異端児扱いされることもあったが、今や、その戦略的な実践力が高く評価されている。しかし、安西自身はそんな意識はなく、とても自然体だ。「患者さんのために目の前で必要なことをこつこつと精一杯やってきたら、制度が後からついてきた感じですね」と言う。

 

過去の辛い経験が看護に情熱を燃やす出発点だった。

1025-2 患者のためにいいことなら、既存の常識を越えてチャレンジしていく。ここまで安西が貪欲に取り組む原動力はどこにあるのだろうか。「実は若い頃、私の子どもが重篤な呼吸不全で、生死をさまよったことがあったんです。そのとき、患者の家族という立場になってみて、はじめて患者と医療人の意識のギャップを痛感したんです。当時、私は看護職を休んでいましたが、いずれ復職したら、もっと心の通い合う看護をしなくてはだめだ、と。また、そういう看護師を育てたいと強く思いました」。
 安西はその後、公立陶生病院に入職。自分の信念にしたがい、理想の看護を追求してきた。ただ、最初の頃は“地域”という概念について思い悩んだという。「瀬戸市、尾張旭市、長久手町というエリアで考えると、どうもしっくりきません。相当長い間、悩み、学習するなかで見出したのが、“地域とは、大切な人々が住んでいるところ”という考えでした。その答えに出会い、求める看護もクリアになりましたね」。
 安西が常に根底に置くのは、「大切な人々が住んでいるこの地域で、かけがえのない命に寄り添う」ことだ。患者に寄り添う―言葉にすると平易に聞こえるが、理想の看護を求めて考え抜いた結論だった。

 

患者に寄り添う看護を実践するため知識と技術をもった看護師を育てる。

3012 安西が抱き続けてきた「患者のために」という一途な思い。それを実現するには「“人”がすべてなんです。でも一人ではだめ。一人だけが頑張ってもだめなんです」と言う。
 そのためまず院内において、看護師の指導育成に並々ならぬ情熱を注いできた。とくに特定の看護分野に精通したスペシャリスト養成を早くからめざし、看護協会が認定する認定看護師の育成に力を入れ取り組んできた。現在、同院には、認定看護師が6分野8人。さらに、管理者として実力を発揮する認定看護管理者も4人に増えた。看護師教育に力を注ぐのは、「持ちだけでは看護はできない」という持論からだ。「学問的な裏づけとスキルを伴って初めて、看護師は思いやり、やさしさを実践できます」。教育熱心な安西の希望に応えて、病院サイドも最大限の支援を行っている。
 その一方で、地域においてはいかに協力体制を築くかに尽力する。今、新たに仕掛けているのは、「地域看護部長会」の組織づくりだ。「地域医療機関の看護部のトップが顔の見える関係を作ることで、この地域の医療連携を深め、災害時にもネットワーク力を発揮していきたいと考えています」。次々と新たな課題を見出し、それに向かって挑戦する。その姿が仲間の心を動かし、地域医療を支える大きなムーブメントになっていく。「うちの病院は伝統的に、地域貢献をしたいというDNAをもった人間の集まりです。これからも、若い人たちにそのDNAを受け継いでほしいし、職員みんなで力を合わせて、地域住民になくてはならない病院を育てていきたい。私ではなくスタッフみんなが、自律的に頑張ってくれるから大丈夫だと思っています」。安西はそう言って、穏やかに笑った。


 

 

 

column


column● 医師は一般的に、患者の病気から発想し、より良い治療を希求する。一方、看護師は、患者の精神状態や日常から物事を考え、その人の生活を守っていこうと する。その両方のアプローチが良いバランスで組み合わさって、初めて良い医療を提供できる。医師は治療に専念し、看護師は患者の心と生活サポートに全力を 注ぐ。医師と看護師が互いの職域を認め合い、協同の精神で働ける職場が、ここ公立陶生病院には用意されている。

●看護師が医師のパート ナーとして実力を発揮できるよう、教育体制も充実したシステムを構築している。新人を育てるプリセプター制度や、目標というツールを用いて個人の目標達成 を支援するマネジメントシステム。さらに、クリニカルラダーシステムを導入し、新人ナースからエキスパートナースへと段階を踏んで、臨床看護実践能力を育 成している。


 

 

backstage

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● 高齢化が進むなか、入院治療が終わった後も在宅療養へと切れ目のない医療・看護サービスを提供することが求められている。また、在院日数の短縮化によ り、退院後も病状の管理や薬の管理・コントロールなどが継続して必要な人や在宅人工呼吸管理などの医療依存度の高い人も増えてきた。

●公 立陶生病院では、こうした継続看護の必要性を早くから重視し、介護保険ができる前から「訪問看護」の取り組みをスタート。この分野のスペシャリストである 訪問看護認定看護師も育成し、地域の診療所や福祉事業所との連携を深めながら、患者とその家族の療養生活をしっかりと支えている。幅広い診療科をもち、在 宅医療にも視野を広げる公立陶生病院。さまざまな分野に、看護師の活躍領域が広がっている。

 


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