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シアワセをつなぐ仕事

看護の力を結集し、
救急医療を守りぬく。
今までも、そして、これからも。

立澤宏真(救急看護認定看護師)/春日井市民病院 救急部


 

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春日井市民病院の敷地に、平成26年2月に開設された春日井市総合保健医療センター。
そこには、同院の新救急部が誕生し、ソフトの面でも着実に改革が進められている。
その中心人物の一人、立澤宏真(たてざわひろみち)看護師。
救急看護認定看護師として大きな成長を遂げた立澤は、今、三次救急にふさわしい仕組みづくりに力を注いでいる。

 

 

 



二次救急でありながら、年間救急搬送数は10026件(平成25年度)。
一極集中する救急患者を断ることなく、ひたすら地域を守る春日井市民病院。
その戦いの歴史を胸に刻みながら、次なるステージへ。


 

 

 

母親に連れられて
救急外来を訪れた、子どもの記憶。

 Plus顔写真1 「本当に辛い経験でした」。そう語る立澤宏真看護師の脳裏には、今なお小さな患者の記憶が鮮明に焼きついている。
 ある日、母親に連れられて小さな子どもが救急外来を訪れる。脱水症状を起こした様子で、母親は風邪だと考えていた。ところが、最初に対応した看護師の表情が強張る。「意識がない」。すぐさま処置室に運んだが、すでに心肺停止状態。スタッフ全員で懸命に蘇生を試みるものの、そのまま帰らぬ人に。まだ2歳だった。温もりが残る体を抱きながら、兄弟が号泣する。「どうしてこの子が死ななきゃだめだったの!」。強い視線に、立澤は「本当に、頑張ったけど、命を救えなかった。ごめん」と力ない声で告げるしかなかった。
立澤は、小児から高齢者まで幅広い年齢層の患者に対し、患者の立場で考え、どんな手助けが必要なのかを自分で組み立てる救急看護に、大きなやりがいを感じてきた。そして、救急という緊迫した時間での、家族看護の重要性も認識していた。
 だが、実際に、突然の子どもの死に、激しく動揺する家族たちを目の前にしたとき、立澤は別室を用意し、家族だけで、子どもの死を受け入れる場を提供するしか思いつかなかった。「もっと救急看護を学びたい」。立澤は、心底思った。
 あれから2年、平成26年2月にできた新救急部で活躍する立澤。あの一件の後、救急看護認定看護師資格を取得した彼は、救急部の看護の質を高めるべく奮闘を続けている。

 

 

「修羅場」を変えたい。
立澤に向けられた、大いなる期待。

IMG_7350 立澤は、複数の救命救急センターで経験を重ねてきた看護師だ。春日井市民病院に移ったのは31歳の頃。救急部への配属は自ら希望した。
 だが、その救急部には、驚きの光景が広がっていた。二次救急でありながら、救急搬送件数は年間1万件以上、一日平均27〜28件の救急車が来る。患者は一次(初期)・二次(中等症)・三次(重症)まで、ごちゃ混ぜの状態だ。
 通常、二次救急病院には、救急外来の専従医師はおらず、院内で当番医や当直医を決めている。救急搬送があると緊急対応し、重症の場合は、該当する診療科から専門医を呼び、専門治療へと繋ぐ。また、救急外来専用の病床を持たない病院がほとんどで、常に病棟の空き状況を把握。どうしても空床がない場合は、帰宅手段を講じて一旦帰宅させ、翌日受診してもらうしか方法がない。
 そのすべてを調整するのが看護師だが、春日井市民病院の場合、その患者数が尋常でなかった。二次救急の機能しか持たないにもかかわらず、次から次へと患者が来る。看護師は、まさしく修羅場を爪先立ちで頑張り続けていた。
 日々奔走する立澤に、鈴江智恵看護部長から声がかかる。「救急看護認定看護師をめざしてみない?」。彼自身、いつかは取りたいと思っていた資格だった。「自分にとっても、病院にとっても今こそ必要」。そう強く感じた立澤は、半年間、愛知医科大学での救急看護認定看護師の教育課程に学んだ。
 教育課程には、全国各地から救急看護のプロたちが集まっていた。そこで立澤は、認定看護師の役割である<実践><指導><相談>の3つの柱を学んだ。実践の面では、今まで培った看護のエビデンス(科学的根拠)を。指導では、看護師や他職種への言葉遣い、どのような指導方法をとればよいのか、といった成人教育を。そして、相談では、医師への相談方法、医療者への指導の進め方などを学んだ。「今までやっていなかった分野を学習でき、有意義な半年でした」と立澤は振り返る。
 教育課程を終え、認定看護師の資格も得て、大きく成長を遂げた立澤。待っていたのは、春日井市民病院新救急部での、看護の仕組みづくりという大役だった。同僚からの大きな期待を全身に感じつつ、立澤は、強い使命感を抱きながら、組織改革へと歩み始めた。

 

三次救急に指定されない。
二次医療圏が抱える原則論へのジレンマ。

IMG_5122 春日井市民病院のある尾張北部医療圏は、春日井市をはじめ、犬山市、江南市、小牧市、岩倉市、大口町、扶桑町の7つの自治体からなる、人口約70万人の広域二次医療圏だ。3本の主要鉄道によって、医療圏は大きく3つに分かれ、それぞれに中核病院が存在。春日井市民病院はその一つである。
 前述の通り、実質的には三次救急同等の役割を担う同院だが、今なお二次救急であり続けるには大きな理由がある。三次救急を担う救命救急センターは、<二次医療圏に一つだけ>という原則論だ。同じ医療圏には、先行して救命救急センターの指定を受けた病院があり、春日井市民病院には、どうしても指定が下りにくいのだ。
 平成25年度の統計によれば、春日井市民病院の救急搬送数は10026件。これは愛知県で一番、東海地区でも二番目に多い数字である。一方、同じ医療圏にある救命救急センターの救急搬送件数は、平成25年度7038件。すなわち、救命救急センターが三次救急に特化するしわ寄せを、春日井市民病院がすべて受けているといえよう。
 しかも、春日井市という立地も手伝ってか、本来であれば医療圏外である名古屋市北部からも、同エリアの自治体病院の機能低下により、春日井市民病院への患者流入が見られる。
 そんな厳しい状況下、限られた機能で三次救急と肩を並べる救急医療を、24時間体制で提供し続けているのが、春日井市民病院の実像なのである。

 

 

指定のためだけじゃない。
三次救急にふさわしい看護部であるために。

IMG_7309 立澤が喫緊の課題に挙げ、現在取り組んでいるのは「看護師のスキルアップ」である。それは、病状や客観的情報から必要な検査や治療を考え、トリアージ(緊急性や優先順位の決定)する能力。そして、それをただ医師に提示するだけでなく、ケースによっては医師とディスカッションする能力。「現在30名ほどいる救急部看護師のうち、こうした能力を持つのはまだ半分くらいです」と分析する立澤。業務中の指導はもちろん、トリアージに関するマニュアルづくり、勤務後に行う勉強会の資料づくり、そして、実施。一歩踏み込んだ看護実践のために、彼は今、全力で取り組んでいる。
 そうした立澤の姿を見て、鈴江看護部長は語る。「彼が徹底させようとしているのは、<医学モデルによるフィジカルアセスメント(※)>なんですね。それがないと医師との共通用語で話すことができず、1万件の救急搬送患者さんに、適正な医療を提供することができません。看護師の看護精度をもっと高めていきたいですね。
 それに加え、私がもう一つ必要だと思っていることに、地域の方々のエンパワーメントがあります。つまり、ご自分に必要な医療は何かを考えていただき、それに基づPlus顔写真2いた行動を日頃からお取りいただくこと。その一助として、通常の診療において看護相談外来も設けました。日常生活のなかでうまくご利用いただきたいですね。当院の救急医療能力を最大限発揮するためにも、協力をお願いしたいと思います」。
 二次医療圏の原則論という高い壁を乗り越え、救命救急センターの認可を申請、その決定を待つ春日井市民病院。「私たちにとって大切なのは、市民のために市民病院として、どこまでも<生活者の視点>を変えないことです。患者さんがきちんと生活していくために、的確な治療を提供し、そして、安心して地域に帰っていただく。その<安心>をより強固にするために、当院は救命救急センターの指定を取り、そのための体制をさらに高めたいと考えます」と鈴江看護部長は締め括った。

※ 医学モデルによるフィジカルアセスメントとは、患者の病状を重視し、その病因を探るため、実際に患者の身体に触れ、問診・打診・視診・触診などにより、病状の把握や異常の早期発見を行うこと。


 

 

columnコラム

●春日井市民病院では現在、愛知県知事による救命救急センターの指定を待つ状況だが、同院ではこれまでも、地域の中核となる急性期病院としての役割を全うするため、その体制を整え続けてきた。

●例えば、出来高払い制から定額払い制へと移行する包括医療費支払い制度(DPC)をいち早く導入。DPCは、無駄な医療を省き、患者を効率よく短時間で回復させるためのものであり、医療費削減に大きく貢献する。その内容は公開されることから、病院経営の透明化にも役立つものだ。

●また、地域医療を担う基幹病院として地域医療支援病院、災害拠点病院、臨床研修指定病院などの指定も受ける同院。例えば、地域医療支援病院は、地域の病院や診療所を後方支援する病院に与えられるもので、在宅医療の充実が求められる地域の実情にも合致する。地域の医療ニーズに対応すべく徐々に整備されてきた同院の体制。救命救急センターの指定はその延長線上にある。

 

backstage

バックステージ

●そもそも「医療圏」とは、地域の実情に即した医療を提供するため、都道府県が設定する地域単位のことだ。生活に密着した医療の提供を目的に、原則、市町村単位で設定される「一次医療圏」、複数の市町村を一つの単位として設定される「二次医療圏」、最先端・高度な医療を提供するため、都道府県を基本に設定される「三次医療圏」がある。ちなみに愛知県内には、12の二次医療圏が設定されている。

●入院病床の必要な数などを考慮し、手術や救急など、一般的な医療を地域で完結させるために設定される二次医療圏だが、その面積や人口構成、さらには地域の持つ医療資源と医療ニーズを合わせ、本来は考えられるべきものだろう。

●そうではなく、自治体中心で決められた二次医療圏では、春日井市民病院のように、さまざまな制度と実態の狭間で、戦い続ける医療機関が生まれる。同院の実績が正当に認められる救命救急センター指定を、私たちも心から願う。

 

 


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