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私たちの関わる一瞬一瞬が、
赤ちゃんの健やかな成長に
つながっている。

米津智子・加藤しおり安城更生病院 総合周産期母子医療センター


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世界一とも言われる、日本の新生児医療。たとえば1000g未満の赤ちゃんでも、ほとんどが健やかに成長している。その最前線にいる看護師たちは、24時間体制で赤ちゃんを見守り、密度の濃いケアを提供している。安城更生病院の総合周産期母子医療センターで日々、小さな命と向き合う看護師たちに話を聞いた。

 

 

 

 

 


小さな命を守り、つなぐためにNICU(新生児集中治療室)では今日も手厚いケアが実践されている。


看護師たちの声を取り入れて設計された新しい新生児センター。

001-1 まだ体重は1500gほど、ようやく状態が良くなったので、少しの間だけ保育器から出ることが許された赤ちゃん。この日を待ち望んでいたお母さんは慣れない手つきで小さな体を胸に引き寄せ、心から幸せそうな表情を浮かべた。
 こうした光景は日々、NICU(新生児集中治療室)で見られるものだが、新生児集中ケア認定看護師として勤務する加藤しおりは「初めてお母さんが抱っこした瞬間を見るのが大好き」だという。「普通の赤ちゃんは、当たり前のように抱っこしてもらえますが、NICUにいるお子さんは、抱っこもままなりません。抱っこは、赤ちゃんにとっても家族にとっても大きな一歩だと思います」と語る。
 安城更生病院では平成22年12月、総合周産期母子医療センターを開設。これに先立って、新生児センターは従来の3倍に診療面積を拡大し、NICU15床、GCU(継続保育室)30床の、全45床へ増床。医師・看護師なども増員され、万全の態勢で新生児医療に取り組む環境が整えられた。
 新しい新生児センターの設計では、加藤たち現場スタッフの意見が多く取り入れられた。その代表例は「ファミリールーム」だろう。ファミリールームとは、家庭に近い雰囲気で赤ちゃんと家族が一緒に過ごせる空間。退院準備のほか、看取りの場に利用されることもある。「以前は狭い空間にご家族がひしめきあい、プライバシーも保てませんでした。でも、ほかの病院もいくつか見学し、ファミリールームの充実が必須と考えたんです」。そう語るのは、加藤の先輩であり、同じく新生児集中ケア認定看護師の米津智子である。001-2「元気に退院される方ばかりでなく、ここで最期のひとときを過ごされる方もいらっしゃいます。ご家族が穏やかでやさしい気持ちになれる空間づくりをめざしました」。
 新生児と家族にもっとも近い存在である看護師たち。その声を最大限に取り入れ、安城更生病院では「赤ちゃんと家族の絆」が深まるようなアットホームな環境と高度な治療環境を両立させたのである。

 

ハイリスク新生児の看護とともに赤ちゃんと家族の絆を深めるケアを。

002-1 「赤ちゃんと家族の絆」を大切にする姿勢は、日々の看護にも反映されている。加藤は言う。「NICUは家族が主体の空間です。赤ちゃんにとっては成長の場であり、ご家族にとっては育児の場にもなります。赤ちゃんと離れ離れになったご家族を結ぶよう心配りし、私たちはサポートする側に徹しています」。
 新生児センターでは24時間、両親の面会を受け入れ、「いつでもわが子に会って、触れ合える環境」を提供している。また、早く生まれてきた赤ちゃんには、お母さんの胎内で守られているような照明や音響を工夫する「ディベロプメンタルケア」に力を入れている。赤ちゃんの健全な発達を促すとともに、家族の安心感も育むやさしい環境だ。母親のなかには、痛々しいわが子に会うのを辛く感じる人もいる。そういう気持ちを癒すのも、看護師の大切な役目になる。「お産に至るまで、そしてお産した後も、お母さんはいろいろな物語をもっています。それを読み取りながら、こちらが強要するのではなく、自然とお子さんを受け入れるようなサポートを心がけています」と米津は語る。
 その一方で、いつ急変するともわからない新生児の看護には、常に高い集中力が要求される。NICUでは24時間態勢で赤ちゃんの反応やサインを見逃さず、一人ひとりに合った手厚い看護を実践している。さらに米津は、002-2産科も含めた総合周産期母子医療センターとしての使命感を感じるという。「お子さんが蘇生を必要とする状態で生まれてきた場合、センタースタッフの対応次第で、お子さんの将来が変わってきます。私たちスタッフにとって、救命は何をおいても一番ですが、後遺症なき生存をめざすという責任があると思います。NICUにおいても、私たちの関わる一瞬一瞬が、お子さんの成長、そして、その後の人生へつながっていると肝に銘じています」。

 

れが最善の看護なのか。自問自答のなかで決意した「新生児集中ケア認定看護師」へのチャレンジ。

 米津も加藤も、入職以来ずっと新生児医療に携わってきた。その道のりの途中には当然、つまずき、立ち止まることもあっただろう。米津が認定看護師に挑戦した動機も、自身の看護への疑問からだったという。「日頃の業務のなかで、本当にこれが赤ちゃんやご家族にとって最善なのか、ほかに新しい方法はないのか…と。もっと勉強して、後輩たちにもいいアドバイスができないものかと悩んでいました」。
 当時、新生児集中ケア認定看護師の教育課程は広島にしかなかったが、病院のバックアップもあり、上司から強く背中を押されて、米津は3期生として入学した。「学校で学んだのは、看護の行為一つひとつにエビデンスが必要だということ。それまで経験値でやっていたことを白紙に戻し、基本に立ち帰ることができました」。
 003-1戻ってきた米津の仕事ぶりを見て、後輩たちは大いに触発された。加藤も、先輩の変化に目を見張った一人だ。「赤ちゃんに接する姿勢が明らかに違っていて、素敵だなと思いました」。米津の前向きな姿勢に憧れ、加藤も昨年、教育課程を学び、資格を手にした。「“病院に戻って自分がどう活動するかをイメージしながら勉強するといいよ”という米津さんのアドバイスを忘れず、しっかり学んでこれました」と笑顔で振り返る。

 

病院内に留まらず、地域全体に視野を広げ、新生児医療の質を高めていきたい。

 安城更生病院では、総合周産期母子医療センターになると同時に、新生児搬送ネットワークをスタートさせた。これは、地域の分娩施設から要請を受けると、新生児専用ドクターカー「きらり」が出動し、医師や看護師らが現場に駆けつけ、迅速で適切な治療をしながら新生児を搬送するシステムだ。
 「きらり」の始動にあたっては、米津も加藤も入念なシミュレーションや勉強会を繰り返し、車内設備の設計にも参加した。現在も交代で同乗しており、004-1多くの新生児搬送にあたっている。「『きらり』が出動するようになり、地域の分娩施設の方々と触れ合う機会も増えました。そういう方々と連携し、西三河南部地域の周産期医療の質を上げていかなくては、と考えています」と加藤は抱負を語る。また、米津は看護師同士の連携に力を注ぐ。「今、新生児集中ケア認定看護師が愛知県内に16名いますが、その者たちが定期的に集まり、看護の質を高めるために意見交換しています。こうした活動を今後さらに、地域全体へ広げていきたいですね」。
 NICUの小さな保育器で命の営みを始める赤ちゃん。その先には長い人生が待ち受けている。「赤ちゃんがすてきな生涯を送れるように、精一杯の看護をしていきたいですね」。二人は思いを一つに、明日の新生児医療を見つめている。

 


column

column● 認定看護師制度は、高度化・専門分化が進む医療現場における看護ケアの広がりと看護の質向上を目的に設けられた日本看護協会による資格制度。所定の実務経 験を有し、教育機関で専門の教育・研修を受けた後、認定審査に合格した者に資格が与えられる。認定看護師第一号が誕生したのは平成9年で、それ以降、しだ いに認定看護の分野も広がり、全国で数多くの認定看護師が活躍している。

●新生児集中ケア認定看護師は、新生児集中医療分野で幅広い知 識・技術をもち、新生児の看護や親子関係の形成を助けるケアの実践、指導を行うスペシャリスト。安城更生病院では、ほかに糖尿病看護、緩和ケア、訪問看護 など多様な分野で多数の認定看護師が活躍しており、病院では経済的バックアップを惜しまず、スペシャリストをめざす看護師たちを支援している。

backstage

backstage● 年々出生率が低下していくなかで、低出生体重児(2500g未満)の出生数は増加傾向にある。ハイリスクをもった小さな命を守り、育てるには、高度で専門 的な医療機能が要求される。そこで今、全国の都道府県で、厚生労働省のリードにより総合(地域)周産期母子医療センターの整備が進められている。

● 地域周産期母子医療センターとは、周産期に関する比較的高度な医療行為を行い、総合周産期母子医療センターを補完する施設である。総合周産期母子医療セン ターを頂点に、地域周産期母子医療センター、さらにそのほかの分娩施設が互いに役割分担し、しっかり連携することで、地域の産科・新生児医療を支え、守っ ていく。そんな周産期医療のシステムづくりが今後ますます重要になっていくと言えるだろう。

 


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