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病院を知ろう

がん患者を
地域で治療し支えるための
「サイバーナイフM6」。

 

 

トヨタ記念病院


日本初導入の放射線治療装置と、
地域に開かれた放射線治療棟が、
超高齢社会における地域のがん治療を進化させる。

main

平成27年9月、新設の放射線治療棟において、いよいよ最新鋭の放射線治療装置「サイバーナイフM6」が稼働するトヨタ記念病院。
「切らずに治す」放射線治療(※1)を強化し、高度ながんの集学的治療(※2)を図る同院の今とこれからを追った。

※1 放射線治療とは、放射線を利用してがん細胞内の遺伝子にダメージを与え、がん細胞を破壊する治療法のこと。
※2 集学的治療とは、「外科療法」「化学療法」「放射線治療」という3つのがん治療を効果的に組み合わせ、治療成績の向上をめざすもの。

 

 

 

 

 

切らずに腫瘍だけを狙い撃ち、
がん治療の選択肢を増やす「サイバーナイフM6」。

IMG_2381 トヨタ記念病院に導入される「サイバーナイフM6」は、日本初、世界でも数機しかない最新鋭の放射線治療装置である。「切らずに治す」放射線治療はこれからのがん治療の柱の一つであり、このサイバーナイフは「最も革新的なコンセプトの放射線治療装置」と話すのが、導入を主導した放射線治療専門医の奥田隆仁放射線科科部長だ。「サイバーナイフの登場により、がんなどの病巣に向けて、さまざまな角度から放射線(X線)を集中照射できるようになりました。従来不可能だった頭蓋底、脊髄、体幹部などにある腫瘍の治療が可能になり、放射線治療の常識が変わった。そして、M6では、前立腺がん、脳腫瘍、肝がん、膵がんなどにまで有効性を発揮するんです」。
 現在、愛知県でサイバーナイフを導入しているのは2病院のみ。同院のある西三河地域には一つもない。そして愛知県3病院目となるトヨタ記念病院には、最新機種の第6世代が導入される。その最大の特長が、サイバーナイフには初めて採用される「マルチリーフコリメーター(以下MLC)」と、最新の「動体追尾技術」だ。
Plus顔写真1 MLCは、照射口の形を自在に変化させることで、照射する範囲を腫瘍の形に整形し、腫瘍だけに一気に放射線を照射できる装置のこと。以前は、腫瘍への照射を点で数十回と繰り返していたものが、MLCは腫瘍の形そのもので照射するため、数回の照射で済み、患者はより少ない日数で治療を受けられるようになる。
 そして動体追尾技術。以前からあったX線画像や呼吸波形などの情報から腫瘍の動きを自動的に検出・追尾する技術が、M6においてさらに進化。より正確に腫瘍の位置を捉え照射することが可能になり、従来のサイバーナイフでは治療困難だった、呼吸に伴って移動する肺がんなども治療できるようになった。
 奥田は言う。「放射線治療装置の究極の目的は、病巣だけに放射線をあてることですが、このM6はその究極の目的に最も近づいたもの。息止めや身体の固定など患者さんへの負担軽減に加え、M6ならば、手術に体が耐えられない高齢患者さんにも対応できますし、周辺臓器にあたらないので照射回数を増やすこともできます。がん患者さんの治療の選択肢をまた一つ広げてくれるものなんですよ」。

 

 

最先端の治療に最大の安全性を。

 Plus顔写真2 最新鋭の放射線治療装置を導入して、最先端の放射線治療をめざすトヨタ記念病院。但し、その導入にあたり、奥田が強く病院に求めたものがあった。それは医学物理士の採用だ。
 「医学物理士とは、医師が考えた処方線量を実現するために、線量や照射方向などの最適化を行い、医師と共同で治療計画の策定や評価する存在です」。そう説明するのが、4月に同院に入職した医学物理士の鈴木淳司だ。「我々医学物理士のチームが、医学と物理学を繋ぎ、患者さんに安全で的確な治療を届けます」。
 奥田が医学物理士を切望した理由。それは放射線装置の急速な発展に伴い、装置の運用に専門的な物理学の知識が必要になっているところにある。しかも、サイバーナイフのような集中照射の放射線治療装置からは非常に強い放射線が出るため、万に一つも間違いは許されない。奥田は言う。「現在の放射線治療において、医師だけで高い安全性を担保するのは非常に困難です。医学物理士と一緒に治療計画を立案し、品質管理などをチームで行うことで、より高い安全性が実現できるのです」。
IMG_5266 装置の操作に精通し、放射線照射技術のスペシャリストである診療放射線技師、放射線治療の安全管理と品質管理を担う放射線治療品質管理士、そして、患者が安心して安全に治療を受けられるよう説明や指導を行う専任看護師――。同院では、奥田と鈴木が核になり、多職種が協働して放射線治療を行うことで、患者に安全と安心を提供する。それを実現できたのは、トヨタならではの「安全」と「品質管理」への高い意識と、その実現のために飽くなき「カイゼン」を求めるトヨタ流の仕事の進め方だ。
 鈴木が同院に入職を決めた理由も、組織として徹底的に「安全」に取り組み、チームやシステムを創り上げるトヨタ記念病院の姿勢に惹かれたからだった。サイバーナイフ稼働に向け、「安心安全な放射線治療をチームで担保していきたい」と決意を語る鈴木。9月はもうすぐだ。

 

 

西三河北部医療圏における
これまでの放射線治療とこれからの放射線治療

IMG_5244 放射線治療は、今後ますます進む超高齢社会を考えたとき、非常に重要な意味を持つ。体を切る必要のない放射線治療は、体力的に手術に耐えられない高齢の患者にとって、治療の選択肢を増やすからだ。
 加えてトヨタ記念病院には、どうしても放射線治療を強化しなければいけない理由があった。それは、同院のある西三河北部医療圏における放射線治療の状況である。日進月歩に進化する放射線治療が、定位放射線治療を核にIMRTやIGRT等の新たな技術(※詳細はコラム参照)を展開するなか、この地域ではなかなか導入が進まず、同医療圏のがん患者は、そうした治療を受けられなかったのだ。8年前、その状況を打破すべく、地域の基幹病院の一つである同院は、放射線治療装置の検討を始める。しかし、平成20年のリーマン・ショックによって計画は凍結。以来、経済的な理由から実現は見送られ続けてきた。
IMG_5271 同院はこの7年間、高度な放射線治療を必要とするがん患者を、他医療圏の病院へ紹介してきた。トヨタ記念病院を頼りにして来院する患者に、他病院を紹介しなければならない辛さとともに、患者や家族にとっては、ただでさえ苦しみや負担の大きいがんの治療を、見知らぬ遠方で受けなければならなかったのである。
 今回の放射線治療棟開設とサイバーナイフ導入は、地域のがん患者や家族を地域で支えるための同院の悲願だった。

 

 

サイバーナイフM6でがん治療を変えていく。

Plus顔写真3 「サイバーナイフM6の導入は、単に放射線治療を強化するだけのものではありません」。そう語るのが、同院の岩瀬三紀病院長だ。「サイバーナイフで治療したことにより手術が可能になる、あるいは抗がん剤治療に併用することで治療成果があがるなど、外科療法や化学療法にも相乗効果を生むものです。これで、三位一体の高度ながんの集学的治療が可能になると考えています」。
 今後の展望について岩瀬病院長は、「数年後にIMRTも可能な放射線治療装置を導入する予定です。そして次は、外科療法であればロボット支援手術、化学療法であれば、特に進歩の著しい分子標的薬治療のさらなる展開を考えています。それぞれの治療法において、最先端かつ低侵襲な治療を組み合わせて提供し、そのことで患者さんに高度で集学的ながん治療を提供していきたい」と力強く話す。
 そして岩瀬病院長の視線は、西三河地域全体へと向けられる。「実は、新設される放射線治療棟は、トヨタ記念病院の治療棟でありながら、地域の他病院にも使っていただくことがコンセプト。だからこそ、西三河地域にないサイバーナイフを選びました。さまざまな放射線治療装置があるなかで、近隣にあるものを当院があえて持つ必要はありません」。
 同院は、西三河地域のがん患者に対し、サイバーナイフM6でしかできない高度な放射線治療を提供、そして適切な治療が終われば、また紹介元の病院へ戻る、という連携構築をめざしていく。岩瀬病院長は言う。「将来的には、西三河地域のそれぞれの病院が、得意な診療領域や治療法を活かして高度な医療の連携をすることで、地域全体でがん患者を治療し、支えていきたい。サイバーナイフM6導入は、その起爆剤なんです」。

 


 

column

コラム

●放射線治療の理想は「がん細胞には最大の線量を、正常細胞には最小限の線量を」といわれる。その理想を実現するため、「病巣に対して多方向から放射線を集中させること」として発展を続けてきたのが、<定位放射線治療>である。

●定位放射線治療からは、ヘルメット状の装置からガンマ線を照射するガンマナイフや装置を多軌道に回転させX線を照射するX–ナイフ、そしてサイバーナイフなどの装置が生まれ、それぞれが発展を遂げていった。

●その過程で新たな技術も生まれる。放射線の形や強度を変調(変化)させて照射を行うIMRT(強度変調放射線治療)、画像で患者の位置のズレを確認して治療ベッドを動かし補正するIGRT(画像誘導放射線治療)など、それらの技術を装置に組み合わせることで、定位放射線治療はさらに進化。治療効果向上、副作用の軽減に加え、治療できるがんの種類を増やしている。

 

backstage

バックステージ

●がん患者に大きな福音をもたらす最新鋭の放射線治療装置。だが、その価格は非常に高額で、なかには100億円を超えるものもある。さらに導入にあたっては、設置場所の確保、装置を扱う人材の確保など、購入費用に加えてさまざまな設備的・人的費用が必要になる。現在、それだけの大規模投資を新しく行える病院は限られており、放射線治療の偏在化も指摘されている。

●こうした状況において、「地域で重複するのを避け、地域に自院の機能を活用してもらう」というトヨタ記念病院の考え方は非常に新鮮に映る。地域の病院が<競合>ではなく<協働>することで、一病院だけではできない高度な医療を地域全体で実現していく。同院の試みは、限られた医療費や医療資源で、どのように医療水準を保っていくのかという、まさに日本がこれから直面する問題に、ヒントを与えるものではないだろうか。

 


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