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シアワセをつなぐ仕事

看護師への挑戦を
大切に支える、
可児とうのう病院の
人材戦略。

髙間美咲/可児とうのう病院 東5病棟(内科・血液内科・消化器内科)


 

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独立行政法人地域医療機能推進機構(JCHO)可児とうのう病院は、岐阜県可児市にある急性期病院。
同院の看護部では、人間性を重視した人材採用と教育を基軸に、看護部の強化に取り組んでいる。
社会経験を経てから看護の世界に飛び込んだ、ある看護師の物語を中心に、同院の看護部の魅力やビジョンに迫る。

 

 

 



豊富な社会経験を経て、天職を見つけた看護師と、
その情熱をしっかり受け止め、
大切に育てる看護部のビジョンを追う。


 

 

 

さまざまな職歴を経て、看護師になることを決意。

 Plus顔写真1 昨年(平成26年)4月、可児とうのう病院に入職した新卒看護師のなかに、一人、落ち着いた雰囲気を醸し出す看護師がいた。その人物は、髙間美咲。高校生の娘を持つ、ママさんナースだ。
 髙間の経歴はずっと、医療界とは無縁だった。学校を卒業後、受付、販売など、接客業を中心にキャリアを積む。もともと人と接することが好きで仕事も順調だったが、もうすぐ40歳というときに、国際的な金融危機が起きた。それがきっかけで髙間は自分の将来を考えていたとき、当時、看護師として働いていた母親の紹介で、看護助手に転職。それが人生の大きな転機になり、看護師になることを決意した。「まさか、自分が母親と同じ道を選ぶとは思っていなかった」と苦笑する髙間。それほど看護助手の仕事が楽しくて、看護師をめざす気持ちになったのだろうか。「いや、そうではなく、むしろ<もどかしさ>でいっぱいだったんです。看護助手は医療行為はできないので、仕事の範囲も限られています。もっと患者さんに寄り添いたいという思いがどんどん強くなって、看護学校で勉強しようと決めました」。
154_Linked19_KaniTono2015 髙間の思いきった挑戦を、娘や母親は快く受け止め、笑顔で送り出した。それから3年、髙間は無我夢中で勉強し、見事に国家試験に合格。看護師免許を取得したのである。こうして振り返ると、看護師に辿り着くまでの道のりは、かなり遠回りに見える。しかし、髙間には後悔はないという。「社会経験が長かったからこそ、看護師という仕事の素晴らしさに心惹かれ、めざす覚悟もできました。異業種で積んだ経験は決してムダではなかったと思います」。

 

 

いつも自然体。
素直な気持ちでぐんぐん成長中。

Plus顔写真2 髙間の配属先は、東5病棟(内科・血液内科・消化器内科の混合病棟)。大腸ポリープの切除術を受ける患者から、白血病で化学療法を受ける患者まで、病名も重症度もさまざまな患者を受け入れている。入職から1年余り、髙間は「周囲の皆さんが親身に指導してくださるのでありがたいですね」と話す一方、自分自身については「まだまだ知識不足」と至らなさを痛感するという。もっと勉強が必要と考え、今年は看護協会主催の勉強会のなかから、2つのプログラムに「参加したい」と自ら申し出た。「消化器、血液疾患に関わる知識をもっと増やし、根拠に基づいた看護や助言のできる看護師になりたい」と髙間は意欲を燃やす。
 そんな髙間を、病棟師長の村瀬真由美は温かい目で見守る。「最初は、まわりの若いスタッフに溶け込めるか心配しましたが、取り越し苦労でした。髙間さんはいつも自然体で、自分より年下のプリセプター(教育担当の先輩126_Linked19_KaniTono2015看護師)の指導も素直に受け入れて、どんどん成長しています」。それに加えて村瀬は、髙間ならではの良さもしっかり評価する。「何といっても彼女は、コミュニケーション能力が秀でていて、みんなのお手本になっています。看護の世界一筋で歩んできた人と違い、豊富な社会経験があるせいか、患者さんとの会話もなめらかなんです。さりげない声かけを通じて、患者さん一人ひとりの気持ちを和ませてくれているようです」。

 

 

充実した
新人看護師の卒後臨床研修。

Plus顔写真3 実は髙間は、同院の面接を受ける前に、看護学校の実習で出会った近隣の高度急性期病院の採用試験を受けていた。が、年齢の壁もあり、結果は不合格。それとは正反対に、同院では「年齢のことは気にせず、ぜひうちで働いてください」という返事。なぜ、この違いが生まれたのだろうか。看護部長の福井是子に話を聞いた。
  「確かに新卒看護師としては、髙間さんの年齢は不利な条件かもしれません。でも、私たちは年齢よりも、髙間さんのポテンシャルに着目しました。社会経験があり、人間性が豊か。しかもフレッシュなやる気があふれ、この人ならしっかり育てていけると感じました」。福井がそう確信した根底には、同院の看護師教育に対する自信もあった。同院では、学校を卒業したばかりの新人看護師に、学校で学んだことと現場のギャップを埋めるために1年間の卒後臨床研修を実施。新人看護師は、さまざまな病棟をローテーションで体験し、症例に応じた基礎的な看護知識と技術をじっくり学んでいく。配属後も、初めての現場にとまどうことがないように、プリセプター、先輩看護師、医師、コメディカルスタッフたちがきめ細かく指導し、病院全体で看護師を育てているのだ。「みんなで看護師を育てよう」という熱心な空気が、新人看護師のモチベーションを高め、成長へと導いている。

 

 

感性豊かな看護師を育て
地域の人たちの生活を支えていく。

143_Linked19_KaniTono2015 病院を挙げて看護師教育に力を注ぐ同院は今、大きな変革のうねりのなかにある。平成26年4月より、旧社会保険庁の解体を受け、独立行政法人地域医療機能推進機構(JCHO)(※1)の一員としてスタート。JCHOはその名称が示すように、地域医療への貢献を使命としており、同院もまた<地域を支える拠点>づくりをめざしている。
  そもそも同院は旧岐阜社会保険病院の時代から、公立病院がない可児市にあって、市民病院的な役割を担ってきた。救急医療に力を注ぐとともに、幅広い診療科を掲げ、血液疾患に対する幹細胞移植、心疾患のカテーテル治療など最新の医療を市民に提供してきた。そうした専門的な急性期医療機能を追求しつつ、その一方で、在宅療養支援機能を強化していく。具体的には、平成27年9月より、250床の急性期病床のうち、53床を地域包括ケア病床(※2)に転換予定。病院に併設された健康管理センター、介護老人保健施設、訪問看護ステーションの機能と合わせて、高齢化の進む地域の人々の生活を支えていく構えだ。
 病院の変革に合わせて、「看護部も変わらなければならない」というのが福井の考えである。どう変わるのか。「一言で言えば、もっと地域に出ていく看護部です。この地域では今後、在宅で療養する高齢患者さんがどんどん増えていきます。そうした患者さんの<生活の質>を支える要となるのは看護師ですが、在宅の現場では圧倒的に数が不足しています。当院の訪問看護師はもちろん、病棟の看護師もみんな、もっと地域に出て、在宅看護に携わっていかねばならないと考えています」。
163_Linked19_KaniTono2015 また、福井は、そんなこれからの看護部の原動力となるのは、髙間のようにコミュニケーション能力を備えた看護師ではないか、と言う。「患者さんやご家族の話をよく聞いて、病院と地域を結び、継続した看護を提供していくには、コミュニケーション能力が欠かせません。さらに、髙間さんをはじめ、どのスタッフにも身につけてほしいのは、看護師としての感性です。患者さんの声に耳を傾け、患者さんの痛みや苦しみに共感できる。そんな感性豊かな看護師を一人でも多く育てることが、地域を支える当院の大きな使命ではないかと考えています」。福井はどこまでも地域医療を見つめ、そのニーズに応える看護部の構築をめざしている。

※1 全国の社会保険病院、船員保険病院、厚生年金病院は、平成26年4月より独立行政法人地域医療機能推進機構(JCHO)が直接運営する病院グループに改組された。
※2 地域包括ケア病床は、平成26年新設された病床区分。急性期病床からの患者の受け入れ、在宅等にいる患者の緊急時の受け入れ、在宅への復帰支援、の3つの役割を担う。


 

 

columnコラム

●可児とうのう病院では、看護師教育に力を入れる一方で、教える側(教育担当の中堅看護師)が疲弊しないような工夫を凝らしている。たとえば、看護の基礎技術などについてはe–ラーニング(インターネットを利用した学習形態)研修を導入。教育担当者の負担を減らしつつ、新人が確実に必要な知識と技術を身につけられるように導いている。

●また、教育と並行して、看護師が働きやすい環境づくりにも力を注ぐ。たとえば、一部の病棟で「パートナーシップ・ナーシング・システム(PNS)」を導入。これは、1人の患者に対し、2人(もしくは3人)の看護師がパートナーを組んで受け持ち、互いに補完・協力し合い、看護業務を行うシステム。経験の浅い看護師にとっては、慣れない業務もすぐに相談できる。患者に安全で質の高い看護を提供する上でも成果を上げている。

 

backstage

バックステージ

●平成18年の診療報酬改定で「7対1看護師配置基準(患者7人に対し、看護職員1人以上を配置)」が導入され、全国の急性期病院で看護師の獲得競争が繰り広げられることになった。看護師を一人でも多く採用しようと考える病院は、ともすれば<質より量>の獲得を重視する傾向もあった。

●しかし、ここにきて、7対1看護の急性期病床のあり方が見直され、看護師の採用も<量より質>への転換期を迎えている。可児とうのう病院の<人間性重視の採用>と<新人の看護実践力をじっくり育てる教育>は、まさにこの時代の流れに合致しているものといえるだろう。「これから看護師に必要なのは、患者さんのすべてをしなやかに受け止める感性」という福井看護部長が、これからどんな人材を育て、どんな看護部を作り上げていくのか、その手腕に期待したい。

 

 


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