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シアワセをつなぐ仕事

看護師が看護師らしく輝ける。
それが聖霊病院です。

谷倉あす香/聖霊病院 地域包括ケア病棟


 

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名古屋市昭和区の閑静な住宅街にある聖霊病院。
一歩、院内に足を踏み入れると、温かい空気が流れ、行き交うスタッフは穏やかな表情を浮かべている。
このやさしい雰囲気はどこから生まれるのだろう。
今年入職9年目の谷倉あす香看護師の日常と中垣千寿子看護部長の話から、同院の看護部に貫かれる精神を探った。

 

 

 


この病院に出会えてよかった。
すべての人にそう思ってもらえるように
患者一人ひとりに寄り添う看護を実践する。


 

 

 

地域包括ケア病棟で
在宅復帰に向けて看護する日々。

180_SeireiH2015 聖霊病院の7階を訪ねると、病棟スタッフステーションにいた谷倉あす香が柔らかい笑顔で出迎えてくれた。ここは、平成26年7月、従来の亜急性期病棟から転換された<地域包括ケア病棟(39床)>。急性期を脱した患者を受け入れ、在宅復帰を支援するとともに、在宅療養中の患者の緊急時の受け入れも担う。病棟の転換によって、何か変化はあったのだろうか。
 「近隣の高度急性期病院との連携がさらに進み、そこから転院してくる患者さんが増えましたね。高度急性期からの転院なので、病状が落ち着いているとはいえ、充分な観察が必要で、油断はできません」と谷倉は説明する。病状の急変に備え、入院患者一人ひとりにきめ細かく対応する一方で、谷倉は退院支援調整看護師や医療ソーシャルワーカーらと力を合わせ、患者の在宅復帰を支援している。「たとえば、肺気腫の患者さんで在宅酸素療法を始める場合、酸素を供給する機械の操作法などいろいろな不安があると思うんです。そういう不安を一つひとつ解消して、安心してご自宅に戻っていただけるようにサポートしています」。もちろん、家族の事情などでスムーズに退院できなかったり、退院してもすぐに病院に戻ってきてしまうケースもある。そんなときも谷倉は患者の声に耳Plus顔写真1を傾け、生活の場に思いをめぐらせ、解決の糸口を探していく。「病気を持ちながらでも安楽に生活していけるように、みんなで知恵を出し合うところにやりがいを感じています」と谷倉は言う。
 そんな谷倉が看護師をめざしたのは、実はかなり遅く、結婚して二人の子どもを出産した後だった。下の子が保育園に上がる年齢になり、「何かきちんとした職業を持ちたい」と思ったとき、最初に浮かんだのは、幼い頃、病気がちな親を支えてくれた看護師の姿だった。看護学校の社会人入試制度を利用して、子育てをしながら3年間学び、晴れて看護師免許を取得。就職活動では<働きやすさ>を第一に検討し、迷わず聖霊病院を選んだという。

 

 

シスターの姿を見て
看護師の初心に戻ることができた。

221_SeireiH2015 同院に入職した谷倉が最初に配属されたのは、整形外科病棟。夜勤のないパートタイム勤務だったが、仕事に慣れるまでは精神的にも肉体的にも大変だった。大腿骨近位部骨折や交通事故などで救急搬送されてくる患者も多く、日々の看護にも瞬発力が求められた。そこで2年、3年と経験を積み、看護の知識や技術を身につけていったが、谷倉は何か物足りないものを感じ、ふと立ち止まった。「このままでいいのだろうか。私は思い描いていた看護師になれているのだろうか」。
 自問自答する谷倉に、インスピレーションを与えたのは、病床訪問するシスターの姿だった。同院では、カトリック社会事業室に所属する3名のシスター(内2名が臨床パストラルケア・ワーカー※)が日常的に院内の病床を訪問し、患者と家族を精神的に支えている。シスターがベッドサイドに腰をかけ、やさしくうなずきながら、患者の訴えに耳を傾けると、患者も家族もしだいに表情を和らげていった。その様子を間近に見て、谷倉は、ハッと我に返った。268_SeireiH2015「私のめざしていたのはこれ。幼い頃に出会った看護師さんのように、患者さんに寄り添い、安心感を与える看護師になりたかった」のだと。
 それから谷倉は、最大限、患者のそばにいることを優先するようになった。「シスターのようにうまく傾聴することはできませんが、患者さん一人ひとりとじっくり接するようになって、信頼関係を築ける喜びを知りました」と谷倉はほほえむ。

※ 患者やその家族の<心と魂のケア>を受け持つ専門家。日本ではまだ耳新しいが、欧米の病院では広く普及している心のスペシャリストである。

 

 

転換期を迎えた
聖霊病院。

495_SeiReiH2015 シスターによる病床訪問は聖霊病院らしさを示す、一つのエピソードだろう。同院は東海地区唯一のカトリック病院として、命の始まりから終わりまで人生のさまざまなステージを見守り、患者一人ひとりに寄り添う温かい医療・看護を提供している。
 古くから知名度があり、多くの信頼を集めてきた同院だが、ここ数年は自らのアイデンティティを模索し、混沌のなかにあった。というのも、従来、同院は地域の救急医療を担う急性期医療を中心に提供してきた。しかし、地域の医療提供体制が、病院完結型から地域完結型へシフトされ、地域における立ち位置の選択を迫られていたのだ。同時期に、一部の診療科の医師や看護師が次々と退職。医療機能の縮小を余儀なくされ、地域住民からの信頼にも陰りが差していた。
 そうした状況を立て直すために、平成27年度より、新理事長・新院長による新しい病院づくりがスタートした。新院長は、<和の精神>を214_SeireiH2015大切にした組織づくりを打ち出し、職員みんなの心を一つにまとめた。地域完結型医療における役割としては、冒頭で紹介した地域包括ケア病棟を開設し、近隣の高度急性期病院との連携を強化。高度な周産期医療をはじめ、専門性の高い急性期医療を保持しつつ、その一方で地域の医療機関や在宅療養に関わる多職種と連携し、地域の生活を支えていく病院として歩み始めたのである。

 

 

働きやすい環境が
やさしい看護実践に繋がる。

Plus顔写真2 病院の変化に合わせて、看護部はどのような方向をめざしているのか。看護部長の中垣千寿子に話を聞いた。「もともと聖霊病院は、生活を支える診療所から出発しました。そこから考えると、より生活を支える機能を強化するという病院の変革は、聖霊病院のあるべき姿に戻っていくといえると思います。したがって看護部も、聖霊病院らしさを大切にしていきたいですね。それは何かというと、やはり、やさしさと思いやりを大切に、患者さんに寄り添う看護を実践することだと考えています」。
 看護師全員とその思いを共有するために、中垣は<対話>に並々ならぬ情熱を注いでいる。「院内教育の一環として、私がみんなと直接話す機会を定期的に設けています。当院の看護職は、非常勤も含めて総勢250名くらい。全員の顔を覚えて、それぞれが何に困り、どんな夢を描いているのか把握するように努めています」。
 看護師それぞれの気持ちを尊重する姿勢は、勤務環境づくりにも現れている。個々のワークライフバランスに配慮して、育児休暇や短時間勤務などを導入。結婚・出産後も無理なく働けるような体制を整えているのだ。今回の主人公、谷倉もパートタイム勤務からキャリアをスタートした一人。入職以来、家庭と仕事を両立させて頑張ってきた谷倉の成長を、中垣は常に温かく見守ってきた。
 このように中垣が働きやすい環境づくりに力を注ぐのは、「看護師のゆとりが、患者さんの満足に繋がる」と考えるからでもある。看護師がゆとりを持ってやさしく患者に接することで、患者もIMG_4174安心して治療を受けられる。「知識や技術とともに看護師が持つべきものは、看護師本来のやさしさです。すべての患者さんに<ここに入院してよかった>と思っていただけるような看護を提供していきたいですね」と中垣は抱負を語る。
 同院に流れる、穏やかでやさしい雰囲気。その目に見えない財産を作っているのは、きっと<やさしさ>を何よりも大切にする同院の看護精神ではないだろうか。


 

 

columnコラム2

●聖霊病院は社会福祉法人 聖霊会が運営する東海地区唯一のカトリック病院である。第二次世界大戦終戦直後の昭和20年10月29日、物心ともに病み疲れていた人々に癒しの手を差しのべるために、聖霊奉侍布教修道女会が2名の医師を招聘、数名の修道女を任命して聖霊診療所を開設したのが同院の起源。まさに生活のなかの医療機関としてスタートした。

●その2年後、現在地に聖霊病院が開設され、徐々に診療科を拡充。周産期から緩和ケア(ホスピス病棟を含む)まで備え、「命の始まりから終わりまで」を支えている。同院の根底に流れるのは、カトリック精神に基づく「愛と奉仕」の理念。さらに今日では、物質的に豊かになった社会のニーズを受け止め、その理念をいっそう深化させ、「人間の尊厳を守る」病院として、さらなる地域貢献をめざしている。

 

backstage

バックステージ

●団塊の世代が後期高齢者になる2025年に向けて、地域医療の提供体制は、病院完結型医療から地域完結型医療へと進んでいる。それに伴い、急性期病棟の一部、あるいは亜急性期病棟などを地域包括ケア病棟へ転換する病院が徐々に現れている。聖霊病院もその一つだ。

●地域包括ケア病棟はポストアキュート(急性期経過後に引き続き入院医療を要する状態)とサブアキュート(在宅や介護施設などで症状が急性増悪した状態)の患者を両方受け入れる病棟である。だが、実際に、高度急性期病院からの転院患者を受け入れるには、亜急性期という以上に、急性期医療に幅広く対応する高度な医療機能が要求される。聖霊病院は準集中治療室も備える急性期病院としての強みを発揮しつつ、高度急性期を脱した患者を受け入れる役割を担い、生活の場へ帰っていく道筋を支援していこうとしている。その挑戦は今まさに始まったばかりである。

 

 


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