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シアワセをつなぐ仕事

一人の看護師の<気づき>を、
病院と地域との<築き>へ。

駒田裕司(病棟課長・手術看護認定看護師)/安城更生病院


 

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通算18年、手術看護を極めた駒田裕司看護師。
彼は今、病棟課長として新たな挑戦を開始した。
それを導き出したのは、<看護の本質は変わらない>という確信。
どこまでも患者を見つめる、鋭く、柔軟性のある一つの目線を追った。

 

 

 

 

 


高度急性期病院看護部の新たな試み。
それは、看護師の自立をサポートする、
組織のなかの<橋渡し役>づくり。


 

 

 

<手術>をテーマとした
病棟勉強会。

 110_AnjoKosei_Linked19_2015平成27年7月のある日、安城更生病院外科病棟で、看護師たちの少し変わった勉強会が開かれた。テーマは<手術>。切開した模擬皮膚を縫合する。手術用の電気メスを使って模擬の肉を切るなど。もちろん実際の手術で看護師が行うことではない。「手術に使う器機を実際に使い体験することで、病棟看護師の手術への理解を深めることが目的でした」。こう語るのは、外科病棟課長(師長)の駒田裕司看護師である。「病棟看護師は、患者さんはこんな治療を受けているのだと実感したようです。手術への関心が高まり、医師が書く手術内容の記述を、しっかり読むようになるなど、狙いどおりの結果が出ました」。
 実はこの勉強会以前に、駒田は病棟・手術室共同で看護研究も始めた。例えば、患者の状態や看護行為などを記した看護記録。これは、双方がどのような視点から作成しているか、という研究からスタート。「一人の患者さんをじっくり捉える手術室。大勢の患者さんを短時間で捉えていく病棟。その特性において、何を記載するか、また、カルテをどの視点から見ているか。そこには大きな違いがありました。ならば互いの視点を理解し、記録方法を統一しようという結果になりました。現在はその調整を進めています」と駒田は言う。
151_AnjoKosei_Linked19_2015 手術室看護師の術後訪問に関する看護研究もある。術後訪問とは、手術室看護師が、患者の手術後の経過を病棟で観察し、手術で行った看護内容を自己評価するもの。だが、これを病棟看護師はどう見ているか。「術後は病棟の仕事なので、手術室看護師の術後訪問は要らない、という見方が少しありました。一方、術後訪問の仕方にも課題はある。良いも悪いも一緒に考え、病棟と手術室の連携に繋がる研究結果を出していきたいですね」(駒田)。

 

 

患者の時間は、
ずっと繋がっている。

Plus顔写真1 勉強会。看護研究。いわば病棟と手術室の関係を深めることに、なぜ駒田は注力するのか。彼の職歴に、答えを見つけることができる。
 駒田は、安城更生病院に入職後、9年間手術室で勤務した。そしてICU(集中治療室)の立ち上げに参加し4年間勤務。その後再び手術室で9年間務め、その間に手術看護認定看護師の資格を取得する。通算18年、さらに認定資格まで持つ手術看護のエキスパートだ。その彼が、自分から願い出て、外科病棟課長に異動した。
 理由は、「手術看護は特殊なもの。他部署の看護師に理解されなくても仕方がない。そうした見方が手術室看護師にはあり、以前は僕自身もそうでした。それがICUを経験することで、見方がまったく変わったんです」と言う。なぜだろうか。
 ICUは、主に術後の患者を集中ケアする。「そこでは、患者さんにとって、<より良く人間的に過ごす>ためにはどうするかを、徹底的に考える看護が中心でした。とすると、集中ケアの前に位置する手術看護もまた、<より良く人間的に過ごす>ためのものでなければならない。看護の本質に変わりはないと思いました」。駒田の最初の気づきである。
 再び手術室に戻った駒田は、手術看護認定看護師の資格取得を決意する。手術看護の知識や技術を磨くためではない。「手術看護の本質を突き詰めることで、手術看護は特殊だということを否定したかった」と言う。
 資格取得後、駒田は手術室看護師に懸命に語った。「手術看護は、特殊な環境だから提供する形が異なるだけ」「看護の本質は変わらない」「手術の状況をもっとうまくICUや病棟に伝えよ125_AnjoKosei_Linked19_2015う」。そうした活動を続けるなかで、駒田はふと思った。「僕は病棟看護を知らない…」。それが病棟への異動願いとなったのである。
 駒田は言う。「患者さんの時間は繋がっています。治療を受ける場が移るだけ。日常生活への復帰という最終ゴールに向けて、手術室・ICU・病棟の看護は、繋がっていなくてはなりません。それを今度は病棟から見つめ、看護師の意識の段差を埋めたいと考えました」。

 

 

意識の段差を繋ぐ
<橋渡し役>。

131_AnjoKosei_Linked19_2015 看護師の仕事は、<診療の補助>と<療養上の世話>である。どちらにおいても、あくまでも治療や療養する患者の側に立ち、患者に安寧をもたらすことが目的だ。
 その看護において、飛躍的な医学の進歩に伴い、今日では高度に専門分化が進んでいる。ことに、発症まもなく濃厚で積極的な治療を必要とする急性期では、看護師に求められる知識・技術が、臓器別・疾患別の専門領域ごとに異なり、各専門領域で経験を積んだエキスパートは貴重な存在だ。
 確かに、貴重な存在ではあるが、誤解を恐れず述べるなら、一つの弊害が生まれる。専門性の高さゆえ、他領域の者には解り難いことだ。だが、緻密な業務が重なる看護師たちには、幅広い領域を学ぶための日常的な時間に限りがある。結果、どうしても知識の段差が生まれ、その段差が他領域の看護師業務への誤解に繋がる。
 看護に段差があってはならない。これが駒田の二つめの気づき。「手術という点ではなく、<周Plus顔写真2術期>という線で捉えること。それが大切だと思います」と駒田は言う。
 そうした駒田を、<橋渡し役>だと語るのは、鈴木久美子看護部長である。「彼が病棟への異動願いを出してきたときは、正直、驚きました。しかし彼の思いを聞くと、<看護を結ぶ>という明確な目的があった。それを知ったとき、課長として外科病棟の束ね役を預けました。彼ならば、外科病棟全体の動きを方向づけるマネジメントはもちろん、どうしても生まれてしまう、意識の段差を埋めてくれると期待しています」。
 個人の問題意識を組織の問題意識へ。そのための<橋>を創り、看護部自体を底上げする仕組みとする。その活動が始まった。

 

 

看護部として、
看護師の自立を早める。

 今後の地域医療は、機能役割が異なる病院が連携して、病期にあった医療を提供するという、地域完結型医療がますます進展していく。そのなかで安城更生病院は、高度な急性期医療を提供する病院。病状が安定したら次のステージに患者を繋げ、入院治療を待つ次の患者を迅速に受け入れることが使命である。
054_AnjoKosei_Linked19_2015 考えると、地域での生活と一番離れたところに位置する病院だ。だからこそ、「当院の看護師全員が、患者さんの日常生活への復帰という最終ゴールを、同じ認識で捉え支援することが必要です。そのためには、駒田看護師のように、常に看護とは何かを考え、それを実践していく。つまり自分の頭で考え行動に移す<自立心>が大切。駒田看護師が作る<橋>を上手に渡り、自立を早めてほしいですね」と鈴木看護部長は語る。
 当の駒田はというと、「さらに自分の欲が出てきちゃって」と笑う。「周術期というのは、手術を挟んだうえでの回復過程、そして、退院に至ります。そう考えると、もっと前、つまり手術が決まる段階はどうであったか、良い手術を迎えるために、身体的にも心理的にも良い状態を保つために、どういう看護提供ができるかと考137_AnjoKosei_Linked19_2015えてしまいます。となると、外来も見てみたいなあ…。とはいえ、今はまだまだ病棟課長として、やりたいことはいっぱいですが」。
 彼が描くのは、口は出すけど手は出さない病棟課長。自分がやるのではなく、同じ思いでスタッフが行動できる。そのための人材育成もマネジメントの重要な仕事だという。
 前方へも後方へも目線を伸ばして、一人の看護師のたくましい歩みは続く。


 

 

columnコラム

●一人の看護師の気づきを院内の<橋渡し役>と位置づけた、安城更生病院看護部。駒田看護師だけではなく、今後はさまざまな場面や領域で橋渡し役が誕生し、それが看護師の自立を早める組織の仕組みとして完成する可能性を持っている。

●その考え方をもう一歩進めると、病院と地域との橋渡し役も誕生するのではないだろうか。

●本文でも紹介したとおり、今は地域完結型医療の時代だ。領域の異なる病院間にも<橋>が必要。そして、病院と在宅医療を繋ぐ<橋>も必要といえる。

●その橋を、所属を問わず、さまざまな看護師が上手に活用し、意識の段差を埋めることができたら、それは地域の住民にとって何より大きな安心に繋がることであろう。

●地域で、看護師の流動化を<教育>という面からスタートさせる。安城更生病院看護部には、ぜひその可能性を拓いてほしい。

 

backstage

バックステージ

●看護師は、看護の専門教育機関を卒業すると、就職した医療機関において、<継続教育>を受ける。その教育プログラムは、個々の医療機関に任され、いわば自院のスタイルに合った看護師育成に力が注がれる。

●そうした個々の努力を、決して否定するものではないが、現在のように医療が大きく変わろうとするとき、その変革をどこまで見つめるかによって、教育の内容に大差がつくことは否めない。

●できればマクロな視点で、例えば、駒田看護師のような<看護>のあり方への追求心を、いかに組織が吸い上げるか。そして、看護部の問題意識、人材育成の一環として昇華させ、組織全体に広げ、それをさらに地域に広げていくことが重要ではないだろうか。

●安城更生病院の風土、といってしまえば簡単だが、そこには地域医療に対するブレることのない目線の確かさがある。医療変革の過渡期における橋渡し役が今後もより多く誕生し、なお一層、地域への確かな道筋が作られることを期待して止まない。

 

 


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