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病院を知ろう

臨床の気づきを研究へと繋ぎ、
医療の未来を切り拓く。

 

 

名古屋医療センター


遺伝子解析によるオーダーメイド治療や免疫細胞療法など、
がんに対する革新的な治療法の臨床研究に挑む。

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日進月歩で進化するがん治療。名古屋医療センターでは、国立病院機構(以下、NHO)のネットワーク力を活かし、次世代のがん治療の臨床研究に取り組んでいる。
それら研究の基点にあるものは、個々の医師が診療を通じて得たクリニカルクエスチョン(臨床的な疑問、気づき)。
日々の診療と臨床研究を融合させながら、同院はがん治療のブレイクスルーをめざす。

 

 

 

 

 

遺伝子解析から
新たな分子標的治療の開発をめざす。

Plus顔写真1 平成26年秋、名古屋医療センターの臨床研究センターにゲノム(全遺伝情報)解析で知られる新進気鋭の研究者が加わった。東京大学、京都大学で豊富な実績を重ねてきた眞田 昌医師(高度診断研究部部長)である。
 眞田がゲノム解析に携わるようになったのは、日々の診療で得たクリニカルクエスチョンがきっかけだった。当時、眞田は血液内科医として白血病(がん化した白血球が増殖する病気)の治療にあたっていた。しかし、同じ抗がん剤を用いても、よくなる人と再発する人がいる。「その差は一体、どこにあるのか。がんをもっと本質的に理解したい」。眞田はそう考えて、がんの遺伝子研究に身を投じた。今から12年ほど前(平成15年)のことである。ちょうどその頃、化学療法の世界では、遺伝子レベルでがん細胞の特徴を認識して狙い撃ちにする<分子標的薬>が登場し、遺伝子の研究が注目され始めていた。だが、当然のことながら、今日のように次世代シークエンサー(ゲノム配列を自動的に読み取る機械)は開発されていない。眞田たち研究者は毎晩遅くまで研究室に残り、細かい手作業で遺伝子を解析し、どのような遺伝子の異常が白血病の原因になるのか探っていったという。その地道な努力が、今日の遺伝子研究の進歩へと繋がっていることは言うまでもない。
 眞田が目下、取り組んでいるのは、小児がん131_NMC_Linked19_2015で最も多い<小児の急性リンパ性白血病>の臨床研究である。「今は良い治療法が確立され、8割程度の患者さんは完治します。でも、残り2割程度の方は再発してしまいます。その方々の遺伝子を解析し、再発リスクや遺伝子異常に応じた新たな治療法、すなわちオーダメイド治療の開発に繋げられないかと考えています」と、新たな意欲を燃やしている。

 

 

自らの免疫機能を高め、
がん細胞を攻撃する免疫細胞療法の研究。

 Plus顔写真2 眞田より一足早く、平成23年に名古屋医療センター・臨床研究センターのメンバーに加わったのが、齋藤俊樹医師(再生医療研究部部長)である。
 齋藤はもともと血液・腫瘍内科を専門とし、医学研究者として分子生物学、移植免疫学に携わった。齋藤が免疫細胞療法の研究へと進んだきっかけは、慢性骨髄性白血病に対する骨髄移植の劇的な効果を目の当たりにしたことだった。骨髄移植とは、抗がん剤や放射線治療を最大限行った後に、患者の骨髄を提供者の骨髄と入れ換える治療法だが、このとき、提供者由来の白血球が患者の白血病細胞を死滅させる免疫反応を発揮する。「もしかしたら、免疫機能ががんを治す近道かもしれない」。そのクリニカルクエスチョンが、齋藤の研究心に火をつけたのである。
 現在、齋藤が力を注ぐのは、肺がんに対するNKT免疫細胞療法の臨床研究である。NKT免疫細胞療法は、NKT細胞と呼ばれるリンパ球を活性化させることで、がん細胞を攻撃する治療法。その有用性を検証するために、患者からの成分採血で白血球の一部を取り出して培養し、NKT細胞を活性化できる状態にして、再び、患者の体内に戻す臨床試験を続けている。この臨床試験は現在、同院を含め国内3施設で行われており、目標数の治療例を蓄積し、保険適用をめざしている。140_NMC_Linked19_2015
 「免疫細胞療法は、近い将来、がん治療の重要な柱になると思います。但し、現状では信用できるエビデンス(科学的根拠)が確立されないまま、自由診療が行われている実態があります。すべてのがん患者さんに本当に有用な治療を提供するには、やはり臨床研究で治療法を正しく評価し、保険適用へ繋げることが重要。それこそが我々の使命だと思って日々、取り組んでいます」と齋藤は語る。

 

 

診療の現場で生まれる
クリニカルクエスチョンを大切にしたい。

Plus顔写真3 眞田と齋藤という二人の研究者に共通するのは、診療で得たクリニカルクエスチョンを置き去りにせず、そこから臨床研究へと突き進んだことだろう。「医療の進歩には、診療に携わる医師のクリニカルクエスチョンと、それを解き明かすための臨床研究が非常に大切」と語るのは、臨床研究事業部副部長であり、がん総合診療部長・呼吸器科部長を兼務する坂 英雄医師である。
 坂は呼吸器科・臨床腫瘍科に所属し、臨床家に軸足を置きながら、その一方で患者の協力を得て医師主導治験などに力を注いでいる。坂が初めて<臨床的な疑問を研究に繋げる重要性>を実感したのは1980年代後半のことだった。当時、アメリカで臨床研究が盛んに行われていると聞き、単身、アメリカの臨床腫瘍学会に乗り込む。そこで世界中の研究者が集まり、がん化学療法に関する比較試験の結果を発表し合い、侃々諤々と議論している様子を見て、度肝を抜かれた。当時日本では、病院ごとに別々の化学療法が行われ、情報交換もされていなかったからだ。「こんな閉鎖的な取り組みでは、医療は進歩しない」。帰国した坂は早速、自分がこれまで抱いてきた課題から臨床研究を企画立案して、主要な病院の医師に参加を呼びかけた。まさに日本における臨床研究の黎明期を歩んだ150714_036人物の一人なのである。
 平成10年、同院に入職した坂は、それまで培った臨床研究ノウハウを活かし、臨床研究の支援体制づくりに貢献してきた。「医師たちのクリニカルクエスチョンをすくい上げ、臨床研究に繋げ、その成果をまた診療を通じて患者さんにフィードバックしていく。<診療>と<臨床研究>のスパイラル展開こそ、当院の持ち味だと思います」と坂は話す。

 

 

質の高い臨床研究のための最強の布陣を整えて、
新しい医療の創出に挑む。

186_NagoyaIRYOc_LinkedP18_2015 遺伝子解析によるオーダーメイド医療や最先端の免疫細胞療法の研究など、次世代のがん治療を切り拓く夢の研究が進行する名古屋医療センター。同院の最大の強みは、NHOの巨大なネットワーク力にある。一つの法人のなかに、143の病院、約5万2000床の病床を抱えるスケールは、他の追随を許さない。この大規模なネットワークと、同院がこれまで構築してきたデータセンター機能を融合させることで、国際水準の臨床研究を推進する体制を整備。その上で、ここ数年の間に各研究領域で頭角を現す逸材をヘッドハンティングするなど、臨床研究センター長の堀部敬三医師が中心となり、質の高い臨床研究のための最強の布陣を揃えてきた。
 「臨床研究品質確保体制整備事業の対象機関にふさわしい研究体制が整ってきたと実感しています。がん遺伝子の研究では、眞田先生が来てくださり、次世代シークエンサーも拡充されました。全国のNHOの病院と協力し、多くの遺伝情報を集め、新たな研究成果を発信できると思います」と坂は期待をにじませる。その一方で坂は「この素晴らしい研究環境を、若手医師にどんどん活用していってほしい」と力説する。「リサーチマインド(研究心)を持つ医師にとって、当院ほどエキサイティングなステージはないと思います。それぞれが高い志を持ち、診療で抱いた疑問を臨床研究へ育てていってほしいです134_NMC_Linked19_2015ね」。
  別の角度から見れば、同院の財産は、全国のNHO病院に所属する、総勢約7700人の医師のクリニカルクエスチョンだともいえる。
 <診療>と<臨床研究>はいわば、車の両輪。同院の医師たちは皆、<臨床家>と<研究家>の両方の目線を大切にしつつ、そこから新しい医療を創出していこうとしている。

 


 

column

コラム

●医師が診療の現場で何か貴重なクリニカルクエスチョンを見出したとしても、たった一人では臨床研究を始めることはできない。出口戦略を見据えた適切な臨床研究を進めるには、臨床試験データの管理機能や多くの専門家によるバックアップ体制が必要となる。

●名古屋医療センターでは、数多くの臨床研究と疾患登録を管理する卓越のデータセンターを構築。さらに、治験コーディネーターをはじめとする臨床研究に精通する医療スタッフや生物統計家、ITスペシャリストなどの専門家が集結している。これら専門集団が、プロトコール(治験実施計画書)の作成から倫理審査、データマネジメント、薬事承認、エビデンス創出に至る出口まで、一気通貫で研究の実施と支援を行っているのだ。この厚みのあるサポート体制が、国際水準の臨床研究を可能にしている。

 

backstage

バックステージ

●私たちが今日、享受している医療は、先人たちの<基礎研究>と<臨床研究>の積み重ねの上にある。基礎研究とは人体や病気のメカニズムを解明する研究。臨床研究は、基礎研究の成果を新しい治療法などに繋げる研究である。これまで日本の医学界は、iPS細胞に代表されるように、基礎研究では世界的な評価を得ているが、臨床研究では遅れをとってきた。

●その理由の一つといわれるのは、臨床研究が基礎研究に比べ、多大な時間と労力を伴うことだ。たとえば、新しい治療法の有効性を検証するには、多くの患者の協力を得て、何年も継続して治験を続けなくてはならないのだ。その難しい研究領域に敢えて挑戦しているのが、名古屋医療センターである。NHOのネットワークを駆使し、基礎研究中心の大学病院とは一線を画す研究拠点として、存在感を強めている。ここから、どんな「革新的な医療」が創出されるのか。その行方に注視したい。

 


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