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シアワセをつなぐ仕事

病院と地域を繋ぐ看護。
専門性を活かして
患者さんの生活を支えていきたい。

片岡笑美子(副院長 兼 看護部長)・本田あや子(皮膚・排泄ケア認定看護師)/名古屋第二赤十字病院


 

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名古屋第二赤十字病院には、3名の皮膚・排泄ケア認定看護師が在籍。
そのうちの一人、本田あや子は褥瘡(じょくそう=床ずれ)ケアの専従者として、院内の看護と地域での看護を結ぶ継続看護に力を注いでいる。
本田の活動を通じて、同院の看護部のビジョンを探っていく。

 

 

 

 


病院から生活の場まで看護を繋げるために
リソースナースの専門能力を
地域で積極的に活用していく。


 

 

 

患者さんが転院・退院しても、
同じ看護を受けられるように。

 630117 名古屋第二赤十字病院(通称、八事日赤)の皮膚・排泄ケア認定看護師で、専従の褥瘡管理者として活動している本田あや子(地域医療連携センター・地域包括ケア支援室所属)。彼女の一日は、電子カルテのチェックから始まる。院内の各病棟から、「この患者さんは褥瘡(じょくそう=床ずれ)ができそうなので回診してほしい」という依頼が、本田の元に送られてくるのだ。
 本田はそれらの情報を丹念に読み取ると、元気よく院内のラウンド(患者の回診)に飛び出す。病室を訪れると、まず患者に挨拶し、病棟の看護師と一緒に褥瘡のリスクを評価。マットレスの種類やクッションの置き方、体位変換などについて綿密に打ち合わせをする。「褥瘡はいったん悪化すると治りにくいので、地道な予防がすごく大切。各病棟に配置された褥瘡リンクナース(※)と力を合わせて、予防に全力を注いでいます」と本田は言う。
 本田のもう一つの重要な仕事は、転院・退院していく患者に継続した看護を提供していくことだ。「すでに重い褥瘡のある状態で入院してきた方で、当院で治療したものの、完治には至らずに転院・退院されるケースもあります。そういう場合、次の病院や施設、訪問看護ステーションの看護師さんに、サマリー(患者の病気の経緯や治療内容を要約した書類)を書いて渡し、継続した看護をお願いしています」。また、書面のやり取りだけでは足りない場合、本田は積極的に外部の看護師と連絡を取り合う。訪問看護師などに病床まで足を運んでもらい、ケアの方法を伝達することもあれば、本田が転院先の病院に出向いて一緒にケアを行ったり、訪問看護師に同行して630206退院した患者の自宅を訪ねる機会も増えてきたという。「<来てください>と言われれば、どこへでも喜んで行きます。また、こちらから、<退院後のフォローに行っていいですか>と提案することもありますね」と本田。自ら仕事をどんどん増やしているわけだが、「少々忙しくても大丈夫。それよりも、退院した患者さんに安心していただける方がうれしいですから」とほほえむ。

※ リンクナースは、専門チームなどと病棟看護師を繋ぐ役割を持つ看護師。

 

 

看護は
高度急性期だけじゃ終わらない。

Unknown 院外へと広がる本田の活動が示すものは何か。それは「看護は高度急性期だけじゃ終わらない」という事実である。病院の機能分化が進むなかで、同院は<高度急性期医療>に特化した病院として歩むことを表明している。高度急性期では、短い入院期間で集中的に高度な医療を提供するわけだが、その間だけで必要な看護が完結するわけではない。とくに、高齢患者の場合、褥瘡や慢性の持病を持つことも多く、高度急性期から急性期・亜急性期、回復期、療養期へと看護のバトンを渡していく必要がある。
 急性期の先へ看護を繋ぐ上で、本田は常に<生活への目線>を大切にしている。病室の患者に接するときも、「この人は退院後、どんなふうに生活するのだろう」と考えるという。生活を強く意Plus顔写真1識するようになったのは、病棟から外来への異動がきっかけだった。本田は入職以来11年間にわたり、一般消化器科病棟に勤務。そこでストーマ(人工肛門)ケアについて熟達した技術を身につけた。「ストーマケアについては完璧な状態で退院していただいている、という自信を持っていましたが、その自信はストーマ外来に配属されてすぐに崩れ去りました。たとえば、体型が変化して装具が合わなくなった、家ではお手入れがうまくできない、など、時間の経過とともに生活の場で、いろいろな問題が生まれることを知ったんです」。
 「患者さんは生活者である」。そのことを本田は今、どんな場面でも決して忘れないように看護を実践している。

 

 

地域における
リソースナースの偏在。

629214本田のように特定の専門分野で活動する看護師をリソースナース(※)といい、その専門的な知識・技術を地域全体の看護の質的向上に役立てようとする試みが少しずつ始まっている。しかし、リソースナースという医療資源はどの病院にも存在するわけではなく、地域全体で見れば、圧倒的に高度急性期病院に集中している。実際、同院には、専門看護師5名・認定看護師37名が在籍し、組織横断的に活動している(平成27年7月末現在)。
DSC_0014 それに比べ、リソースナースが少ない病院や施設では、どうしても看護の専門性を発揮しにくい。たとえば、現場の看護師が褥瘡予防に取り組もうとしても、より良い方法が見つからないこともあるだろう。そのことによって看護サービスに差が生まれるとすれば、患者にとっても不利益になる。
 「この地域でも、ストーマや褥瘡ケアに困っている病院や施設がたくさんあると思うんです。そうした現場に行って、私の専門知識・技術を少しでも役立てることができたら…と考えています」と本田。ただし、リソースナースの活用については、医療現場でもまだそれほど認知されていない。「敷居を低くして、PRすることが大切ですね。<私はこんなことができるから使ってください!>と売り込んでいこう、と考えています」と本田は明るい笑顔を見せる。

※ リソースナースは、より良い医療提供のためのキーパーソン。がん看護、小児看護、救急看護など、多様な領域において専門的な知識・技術を持つ専門看護師・認定看護師が、その力を資源(リソース)として提供し、看護実践に役立てている。

 

 

八事日赤で学んだ知識・技術を持って
地域で活躍してほしい。

Plus顔写真2 地域へと大きく羽ばたこうとする本田に、副院長 兼 看護部長の片岡笑美子は惜しみないエールを送る。「本田看護師のように専門能力を持つリソースナースは、地域の財産でもあります。積極的に地域で活用することで、地域全体の看護の質の向上に貢献していきたいと考えています」。
 また片岡は、同院の看護師が外に出ていくことは、院内の看護師教育にも繋がると考えている。「高度急性期病院の看護師は<退院後の生活を知らない>とご批判を受けることもあります。看護師が院外に出て、その情報を持ち帰り、みんなで共有するよう働きかけています」。その片岡の思いに呼応するように、近年はスタッフの在宅看護への関心も高まってきた。「数年前に訪問看護の見学実習を行ったんですが、総勢80名くらいの応募がありました。参加した人は皆、在宅で新たな気づきを得て、日々の看護実践に活かしてくれています」と目を細める。
 片岡が描く看護部のビジョンは、在宅看護に関心のある人たちを育て、「地域に役立つ看護師を輩出していく」ことだとい150703_01gなしう。「当院で高度急性期の看護や最先端のがん看護を学び、その成果を持って、地域に貢献できる看護師を育てることも当院の役割だと考えています」。
 同院の看護師のキャリアプランでは、ジェネラリストの道を極めるだけでなく、管理者をめざす道、スペシャリティを身につけて専門・認定看護師になる道、そして、海外で活動する国際救援要員をめざす道が用意されている。それらに、<生活の場で貢献する地域の看護師になる道>が新たに加わろうとしている。「地域で働く看護師と積極的に交流し、双方がともに看護の質を上げることができる。そして、病院という枠組みにとらわれず、広く地域でキャリアプランを構築できる。そうした看護師教育に力を入れていきたいですね」。片岡はそう言って、にこやかに笑った。


 

 

columnコラム

●病院完結型から地域完結型へと国の医療政策が変化するなかで、名古屋第二赤十字病院は「高度急性期医療(治す機能)」を担うことをいち早く表明。重症な患者に集中的に高度な医療を提供し、患者を次のステージ(治し支える病院)へと送り出す機能を果たしている。その機能をしっかり発揮していくために、同院では近隣の治し支える病院との連携づくりに力を注いでいる。

●病院同士の連携で重要なのは、人と人との繋がりである。同じ診療領域の医師同士、看護師同士が顔の見える関係、さらに腹を割って話し合える関係を作るために、同院では連携病院の職員と共に、率直に意見交換する場を設けている。病院が変わっても、継続した医療・看護を提供できるように、同院は常に患者の立場に立った病病連携をめざしている。

 

backstage

バックステージ

●国の医療政策は、病床の削減と平均在院日数の短縮化を図り、在宅医療の拡充をめざす方向で動いている。私たちが仮に重い疾患で入院したとしても、高度急性期の治療を終えたら、一般急性期や亜急性期、回復期などの病院へ。それらの病院も早々に退院して、自宅や介護施設で療養していくことが求められている。

●こうした地域完結型の医療体制で重要なのは、医療や看護の継続性である。とくに「生活の質」の維持を重視する在宅療養の現場では、病院から継続された看護の提供が、患者と家族に大きな安心を与える。その継続看護の陣頭指揮をとるのは、地域のなかで人的資源を一番多く持つ高度急性期病院であろう。名古屋第二赤十字病院はその責務を自覚し、継続看護、そして地域で活躍する看護師の育成に取り組んでいこうとしている。その<先見の明>がもたらすこれからの成果に、大いに注目していきたい。

 

 


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