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病院を知ろう

知を集め、
新たな診療指針を創る
一騎当千の専門医たち。

 

 

愛知県がんセンター 中央病院


自らの領域に確固たるエビデンスを持つ専門医たち。
彼らが心血を注ぐのは、
新たな診断、治療の地平を切り拓く診療指針づくり。

main

患者に、勇気と希望を与えてくれる病院、愛知県がんセンター。
地方自治体を母体とする、日本初のがん専門施設である。
そこでは、専門医たちのカンファレンスという、知を結集する仕組みが根づき、常に活性化。
患者の選択肢を広げ、エビデンスをさらに積み重ねる挑戦が続けられている。

 

 

 

 

 

診断、治療を一気に行う
呼吸器外科部。

Plus顔写真1 坂尾幸則医師が率いる呼吸器外科部。果たす役割は、診断と治療だ。外科が診断? という問いに、坂尾はこう答える。「早期の場合、手術以外での確定診断が困難な場合も少なくありません。その場合は当科では、患者さんにきちんとご説明した上で、診断と治療を兼ねた手術を一気に行います」。術中に病巣の一部を取り、迅速確定診断へ。がんであればそのまま標準的な摘出手術となる。術中診断には、病理医の役割が大きい。「彼らのレベルは高く、心強い存在です」と坂尾は言う。
 呼吸器外科での手術治療の進化は二つある。一つは、胸腔鏡下手術。胸腔(胸の中)に、直径約10㎜の小型カメラを入れ、それを映し出すTVモニターを見ながら行う。開胸手術と異なり傷が小さく、身体の負担は減る。もう一つは、区域切除という縮小手術。標準治療(※)では大きく肺葉を切除するが、肺は再生しない臓器。早期であれば肺機能の温存は大きな意味を持つ。ただ、胸腔鏡下での区域切除となると、難易度が高い。ほとんどの病院が開胸手術だ。同科では坂尾の就任時(平成24年)より、この治療方式に積極的に取り組んでいる。
 治療計画はどのように立てるのか。「基本的には病気の進行度によって決まります。ただ、難治がん、進行がんでは微妙な症例があり、そうしたときは、集学的治療が必要です。呼吸器外科、呼0729がんセンター(手術2件)¥IMG_6190吸器内科、そして放射線治療科の専門医が集まり、一例ごとに検討を行います」(坂尾)。
 こうした臨床の一方で、坂尾は医師教育に注力。「若手とベテランとでは、実力は異なります。しかし、プロ意識は同じでないといけない。患者さんの治療に参加する責任感です。当科では手術の全例をビデオ撮影し、術前の詰めのディスカッション、術後の反省会を全例に行っています。また、擬似手術のためのドライラボもある。学ぶ環境は充実していると考えます」(坂尾)。

※ 標準治療とは、一般的に推奨される治療を指す。

 

 

新たな手術方式展開に挑む
消化器外科部。

 Plus顔写真2 清水泰博医師が部長を務める消化器外科部は、食道、胃、大腸、肝臓・胆道・膵臓の4グループに分かれ構成されている。入院病棟が、消化器内科と1フロアであることから、消化器センター的な目線での診療活動だ。
 消化器がんの外科治療は、「ここ10年ほどで、二つの傾向が生まれている」と清水は言う。「一つは、早期がんに対する低侵襲手術。一つは、難治がん、高度進行がんに対する開腹手術の守備範囲の広がりですね」。
 早期がんでの低侵襲手術は、腹腔鏡や胸腔鏡による鏡視下手術である。患者にとって身体への負担が小さく、そのぶん、回復も早い。そして、開腹手術での守備範囲の広がりとは、以前なら、手術は不可能とされていたステージの高いがんでも、術前や術後に化学療法、すなわち抗がん剤投与の治療を絡めることで、手術に持ち込むことが可能となってきた。そこでは、化学療法を考慮した上での、新たな手術方式の展開も生まれているのだ。
IMG_7454 難治がん、高度進行がんの場合は、集学的治療となる。消化器外科、消化器内科、さらには、内視鏡、放射線療法、薬物療法の専門医たちが結集し、治療方法を総合的に判断する。「治療を決める際には、患者さんの今の全身状態、がんの分布、進行スピード、抗がん剤の効き具合など、その患者さんが持つがんの特性を、多角的に見つめることが必要です。とても単一には決められません。だからこそ、専門医たちの総合力が必要となってきます」(清水)。
 そうした場合の多くが、まだ標準的な治療が確立されていないケースである。清水は「それを生み出していくのが、当センターの役割です」と言う。「消化器外科部では、これまで消化器がんに対する手術技術の向上を追究してきました。これからは、自らの創意工夫を持って、難治がん、高度進行がんに対する、新たな集学的外科治療法の確立に取り組みたいと考えます」。

 

 

最適な治療のために、
カンファレンスで知を結集。

 がん医療では、薬やデバイス(医療用具)の進化により、それまでできなかった診断や治療が可能となってきた。坂尾の呼吸器外科、そして、清水の消化器外科では、そうした進化を果敢に取り入れ、特に早期がんでは、低侵襲を眼目に置き、患者の負担をいかに小さく手術を行うかを追究している
 一方で、難治がんや進行がんに対しては、坂尾も清水も、集学的治療の高度化に全力を注ぐ。そこで核となってくるのが、<カンファレンス>だ。カンファレンスとは、臨床での症例検討会のこと。「専門医たちの総合力が必要」(清水)とされるときに、「専門医が集まり、一例ごとに検討」(坂尾)することを指す。
 同センターでは、前述のとおり、領域を越えてさまざまな専門医が集まり、徹底的に検討を重ねる。もちろん、彼ら一人ひとりには、自らの領域での確固たるエビデンス(科学的根拠)がある。それでも、一つの領域からの判断ではなく、同センターの知を結集させる。そして、患者ごとのが_BA6765んの特性を見つめ、最適な治療を組み立てていくのだ。
 換言すると、同センターは、エビデンスに基づき、高度に専門分業された医療機関である。いわば一騎当千の専門医たちが集まっている。だがそこには、領域ごとの壁はない。すべては、患者が「ここで治療してよかった」と思うことができるために。がんの専門施設であるが故の、質の高い医療への挑戦が行われている。

 

 

より優れた医療を見つめた、
インフラ整備、緩和ケア。

Plus顔写真3 同センターには、標準治療では済まない難しいがんの症例が集まる。そうしたがん患者に対して、カンファレンスは、治療の選択肢を広げることに繋がる。さらなる高度化が図られた低侵襲手術。化学療法を取り込んだ上での手術方式。それらの選択肢一つひとつに、新たなエビデンスが確立され、そこから新たな<診療指針(ガイドライン)>策定へと結びつけていく。
 「この一貫した展開は、当センターの大きな特長です。私たちは論文が書ける最新技術の開発をしているのみではなく、臨床を通じ、妥当性、有用性を追究し、多方面からのアプローチをする。それを新たな診療指針づくりへと繋げているのです」。
 こう語るのは、同センター中央病院 院長の丹羽康正医師である。丹羽もまた、内科医として、電子内視鏡、超音波内視鏡を駆使し、消化管におけるESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)に挑戦。もちろん、カンファレンスを通して、他の専門医たちとディスカッションし、診断と治療における安全性と根治性を追究し続けてきた一人だ。
 「当センターの新たながん医療追究への仕組みと能力は、ずっと蓄積されてきています。ただ一点、インフラ整備がやや遅れていました。今後はそこにも注力し、手術支援ロボットをはじめ、先進医療機器の導入も図っていきます」。その一方で、「緩和ケアへの取り組みにも、もっと力を注いでいきます」と言う。緩和ケアとは、がんと診断されたときから、患者の精神的、身体的、社会的なさまざまな面での苦痛に寄り添い、患者を0729がんセンター(手術2件)¥IMG_6236支えていくものだ。最先端のがん医療を見つめ続ける同センターの、患者への目線を明確に物語るといえよう。
 坂尾は言う。「多くの患者さんは、『手術は一回で』とおっしゃいます。つまり、私たちに与えられるチャンスは一回なのです」。
 清水は言う。「今、この時点で手術を行うことが、患者さんにとって意味があるかどうか。これが第一義です」。

 


 

column

コラム

●愛知県がんセンターは、病院と研究所を有するがん専門施設だ。病院は、診療と臨床医学的研究を。研究所は基礎医学的研究を担っている。

●どちらもオンコロジー、すなわち、がんなどの腫瘍の原因や治療について研究する学問分野において、異なるアプローチを取りつつも、がんの征圧に向け、診療すべての精緻化、高度化に挑み続けている。

●外科的治療、化学療法、放射線療法に加え、免疫療法、さらに疫学・予防なども範疇とし、また、近年では、高精度なDNA解析による、個体ごとのゲノム解読を進めるプロジェクトも推進する。

●そうしたすべての根幹にあるのが、集積した膨大なデータ。それをもとに研究所での基礎医学的研究、臨床への橋渡し研究、そして、病院での臨床医学的研究が成り立ち、その結果を再び基礎研究にという連関が常になされ、エビデンスと新たな診療指針の構築に繋がっている。

 

backstage

バックステージ

●今日のがん診療は、薬、デバイス、そしてそれらを最大限に活かした診断、治療技術により大きく進化している。そうした革新技術は、全国に張り巡らされたがん診療連携拠点病院において、ある一定のがん診療を各地域で提供することとなる。ある一定のがん診療とは、診療指針(ガイドライン)が確立したものを指す。

●だが、まだ診療指針(ガイドライン)が確立していない、すなわち、標準治療が定められていないものも多く、その確立を担うのが、愛知県がんセンターだ。全国規模の臨床試験を主導的な立場で実施する。

●その上で、同センターは、都道府県がん診療連携拠点病院として、県下23カ所の拠点病院の中核的な機能を担う。

●本文で紹介した専門医たちの診療姿勢。それは、常に真摯にがんとの戦いに向き合うことの重要性を、私たちに語りかけるものだ。

 


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