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シアワセをつなぐ仕事

患者さんに笑顔が生まれたとき、
私たちの不安は
<楽しい>に変わった。

都築千波(3階西病棟看護師長)・山口通孝(理学療法士)/西尾市民病院


 

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平成27年4月、西尾市民病院に地域包括ケア病棟が誕生した。
地域包括ケア病棟とは、平成26年4月の診療報酬改定で新設された病棟区分。
急性期治療を終えた患者を受け入れ、スムーズな在宅復帰への支援をする。
また、在宅で療養する患者を緊急時に受け入れ、迅速な治療を提供し、再び在宅へ帰していく。
つまりは、医療と生活を繋ぐ要として、位置づけられた病棟である。
その開設に踏み切った西尾市民病院。
模索を続けながらも挑み続ける地域への視線を追う。

 

 

 


医療と生活の繋ぎ目、それが<地域包括ケア病棟>。
市民病院としての使命に、
真正面から挑戦する看護師と理学療法士の<日常>。


 

 

 

患者を家に帰すという、
明確な目的意識。

 Plus顔写真1地域包括ケア病棟師長は、都築千波看護師である。「突然の異動で驚きました。『えっ、私?!』って(笑)。スタッフも同じで、最初は戸惑っていましたね。みんな、地域包括ケア病棟自体をよく知らなかったから」。そのため都築は、スタッフと一緒に勉強会を始めた。「まず今の気持ちを言い合いましたね。それから、この病棟での看護をみんなで考えていきました」。
 都築の思いに応えるように、みんなの意見は百出。業務の仕方、ケアの仕方、曜日の割り振り、リーダーやメンバー決めなど、一つひとつ答えが出た。その過程で、自然とまとめ役が生まれたという。「看護師としてはベテラン揃いです。新しい病棟への意見は、持っていました。個性や知識をぶつけ合いながら、病棟としての纏まりが生まれています」。
 では実際にどのような看護を提供しているのか。「看護の基本は、急性期病棟と変わりません。治療を受ける患者さんの支援、療養のお世話は同じです。ただ違うのは、<患者さんをお家に帰す>という明確な目的意識でしょうか。例えば食事。ずっと流動食ではなく、もう少し形のあるものはどうか。その方が本人には良いし、ご家族も作りやすい。また、お風呂。浴槽でこういう形の椅子を使えば楽になるなど、問題点とその対策を考えています」。高齢者の場合、病気によって障害が残る場合が多い。それをどうカバーするか、その上で、どういう環境なら生活できるか。退院までにそれら一つひとつをクリアしていくのだ。
 そのための大事な活動の一つに、退院前の患者自宅訪問がある。看護師が患者や家族と一緒に家715110に行き、住環境、家族の支援方法などを確認するのだ。「居間からトイレまでの動線が解れば、病棟でその動きを患者さんにしていただく、お家の改修が必要となれば、可能かどうかご家族と考える。お家を拝見すると、自宅での生活に繋げるための課題が明確になるんです」(都築)。
 どうやったら自宅に帰ることができるか。都築らは、生活を看るという看護師の視点からアプローチを続ける。

 

 

病院で<できる>ではなく、
自宅で<使える>ADLを。

Plus顔写真2 地域包括ケア病棟でただ独りの専従リハビリスタッフ、山口通孝理学療法士。この病棟でのリハビリテーションとは?という質問に、山口はこう答える。「最初は、どう特長を出すのか迷いました。ただ、スタートして、リハビリテーションの本質は変わらないことを実感しています。患者さん一人ひとり、病気やケガの発症前と比べ、どこまで身体機能が回復するかを判断し、そのための機能訓練を行う。また、回復できない部分は、何によってカバーするか考えるということです」。
 回復のための機能訓練では、痛みと生活の折り合いをつけることが大切となる。「ADL(日常生活動作)で、どうしたときに痛みが出るのか、どういう動作にリスクが発生するのか。そうした点に注意します。その上での訓練ですね」(山口)。回復できない部分のカバーは患者によって異なり、杖があれば歩ける、誰かが介助すれば歩ける、家屋を改修すれば歩けるなど、必要に応じて対応策を決めていくことになる。山口も自宅訪問を行い、現実的な目線で患者の自宅復帰を整えていく。715204
 「但し、単にADLが向上すればよいものではない」と山口は言う。「患者さんが家に帰ってから、どういう生活をしたいか。つまり、QOL(生活の質)をいかに高めるかも重要です。例えば、何らかの社会活動をしたいという方がいます。では活動場所までは、杖を使って歩きましょう。活動中は車椅子を使いましょうなど、柔軟に考える必要があります」。元のように自分の力が100%でなくても、本人の日常生活、その生活の質を、いかに引き出し、実現できる方法を考えるか。それがこの病棟のリハビリテーションとして位置づいているのだ。
 <100回できても、1回転んだらダメ>。山口は、患者一人ひとりに対して、病院で<できる>ADLではなく、自宅で<使える>ADLの回復に力を注ぐ。

 

 

この病棟だったら、
僕も入院したいなあ。

715132 西尾市民病院の地域包括ケア病棟。看護師も理学療法士も、「まだまだこれから」と言いつつ、当初の戸惑いは消えようとしている。その理由を、「この病棟での仕事が楽しいから」と言う。何が楽しいのか。一つのエピソードを、都築が紹介してくれた。
 それは大腿部骨折の高齢患者。急性期病棟から転棟したときは寝たきり状態で、行く行くは施設入所かと病院も家族も思っていた。それでも、地域包括ケア病棟スタッフは、患者へのアプローチを始める。まずは声かけ。「今日はお天気いいよ」。「少しベッドで座ってみようか」。「歩行器で歩けるんじゃない」。そうした日々の積み重ねが、少しずつ患者の表情を変える。病室や病棟での会話が増え、笑い声も生まれた。自然とリハビリテーションにも積極的になり、退院という言葉が現実味を帯びてくる。入院からずっと見てきた患者の息子は言う。「最近の母さんは、楽しそうだ。この病棟だったら、僕も入院したいなあ」。
 人は誰でも、<この先>が見えなければ不安になる。不安は焦燥感と悲壮感を呼び起こす。それをこの病棟での毎日のなかで、少しずつ溶かし、その先への道筋を見出していったのだ。それができるのは、入院期間最長60日という時間かもしれない。患者や家族は、新しい事態を受け入れるこ715117とができる。必要な機能訓練を重ね、家での準備も可能となる。<その先の生活>が見えてくるのだ。
 松葉杖で歩けるまでに回復したこの患者は、活き活きとした表情で退院の日を迎えた。
 「患者さんが前向きになる姿、それをご家族が喜ぶ姿。その姿が私たちは本当にうれしい。患者さんの笑顔の分だけ、私たちは喜びであり、喜びが仕事の楽しさとなってきます」(都築)。

 

 

医師、職員、
そして地域のさらなる理解を。

715106 都築は言う。「先にお話しした食事やお風呂について、本来は摂食・嚥下障害看護認定看護師やリハビリスタッフの業務範疇かもしれません。でもこの病棟の看護師は、ごく自然にそこに目が行き、自主的に取り組んでくれます。そこまで考えてくれる!と、うれしく思います。まだ完全とはいえませんが、私たちはスタートを切りました。あとは積み重ねていくだけです」。
 山口は言う。「リハビリスタッフは私一人のため、急性期のどの患者さんにこの病棟に入っていただくか、決めるのには頭を使います。決めた、つまり転棟していただいた以上は、皆さん、自宅に帰っていただく。機能回復にも、エビデンス(科学的根拠)のある評価を重ねていきたいと思います」。
 こうした言葉から、この病棟への二人の熱意を読むことができる。その熱意がケースワーカーをはじめとする院内職員はもちろん、地域のケアマネジャー、訪問看護師との多職種連携を推進させ、西尾市民病院と地域との結びつきを一層強くしているのも事実だ。
 だが一方で、課題もある。例えば、病棟専任の医師確保だ。それが未整備のため、在宅で急性増悪した患者の受け入れが未着手。「困ったときは、いつでも頼ってくださいと早く言いたい」と都築は言う。
 また、院内での地域包括ケア病棟への理解も浅い。同院は、これまで急性期病院として存在し、もちろん現在もなお、高度な急性期治療提供には全力を注ぐ。その急性期とこの病棟との関係性を、病院自体が職員に向け、よりインフォメーションする必要があるだろう。
 戸惑いから始まった西尾市民病院の地域包括ケア病棟。現場で蓄積された知識や技術を、病院の仕組みとして定着させ、新たな地域医療の構築に歩みを強めようとしている。


 

 

columnコラム

●病気やケガで入院し、治療を終えたら自宅に帰る。このごく当たり前のことが、高齢者となるとなかなか難しい。100%元の身体に戻らない場合は特にそうだ。

●都築はまず「自宅での生活のリズムを思い出してもらう」ことに力を入れる。最初は、たとえ一日10分でも車椅子に座ることかもしれない。次は、ナースステーションで音楽を聞く、好きな手芸をする…。つまりは、一日中ベッドにいるのではなく、できるだけ会話のある世界に患者を誘導し、刺激を与えるのだ。これは都築たちの一つの工夫。今ではナースステーションで何人もの患者が、思い思いの時間を生み出している。

●一方、山口は自宅での生活に向けて、家族に具体的なアプローチを行う。歩行の介助や階段での介助、入浴の介助など、きめ細かな指導を行うのだ。それはケアマネジャーにも伝えて、そこで必要な介護サービスの利用へと繋いでいく。

●医療と生活の繋ぎ目の地域包括ケア病棟。これからも彼ら彼女らの模索は続く。

 

backstage

バックステージ

●病気は急性期治療だけで終わらない。その経過観察を急性期の目線で繋ぎつつ、最終目的である自宅での生活への道筋を作る新しい医療を創造する。今回、西尾市民病院の地域包括ケア病棟を取材し、それはまさに病院におけるパラダイム=規範、方法論の転換であると強く感じた。

●今日、2025年問題が社会で大きく叫ばれているが、現実的には、病院の変革がなければ物事は前に進まない。

●同院は、これまで急性期病院として、高度な医療の提供に全力を注いできたが、<地域の実情>を見たとき、地域包括ケア病棟もまた、市民のための市民病院として、自らの責務であると判断したのであろう。

●現実は、まだ一部の看護師と理学療法士の挑戦である。その挑戦をすべての病院職員が理解し、地域の医療機関が理解し、そして、地域住民が正しく理解する。それがあってこそ、本当の意味での新たな医療の創造であり、その先に地域包括ケアシステムの具体性が見えると考える。

 

 


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