2,946 views

病院を知ろう

<働く人の健康を守る病院>
というDNAを強みに、
さらなる進化をめざしていく。

 

 

中部ろうさい病院


地域住民の幅広いニーズに応えるとともに、
勤労者医療の専門性を追求し、
地域に根ざした病院作りを進める。

main

独立行政法人労働者健康安全機構 中部ろうさい病院は、名古屋市南部地域の中核病院。
勤労者医療を特色としつつ、
地域の医療ニーズに幅広く応える総合的な病院として、着実に歩み続けている。
同院の特色や今後のビジョンについて、加藤文彦院長に話を聞いた。

 

 

 

 

 

救急医療を核にして
幅広い急性期疾患に対応。

911108 地下鉄・港区役所駅から徒歩約7分。緑豊かな港北公園の北側に、公園の風景と調和するように作られた風格ある建物が佇む。平成20年、現在地に新築移転した中部ろうさい病院だ。院内を歩けば、そこかしこにホスピタルアートが展示され、1階ロビーではエプロン姿で活動する地域ボランティアスタッフも見受けられる。「癒しの雰囲気作りを大切に、地域に開かれた親しみやすい病院をめざしています」と語るのは、同院の加藤文彦院長である。加藤院長は平成25年1月より前院長の後任として院長代理を務め、平成27年1月、院長に就任。経営の舵取り役を任された。
Plus顔写真 経営上、重点を置くのはどんなことだろうか。「基本は、地域医療連携を主体に、地域の医療ニーズに応えることが使命だと考えています。地域の患者さんや先生方から信頼していただけるように、救急医療に力を入れるとともに、コモンディジーズ(頻回に発生する疾患)の治療を確実に行っていきたいですね」。その言葉通り、同院は24時間365日の救命・救急医療に力を注ぎ、毎年、3700人程度の救急車搬送患者を受け入れている。また、幅広い診療科を開設し、急性期医療全般に対応。さらに、愛知県の<がん診療拠点病院>として、放射線治療、化学療法、緩和ケア医療などの充実を視野に入れ、増え続けるがん患者をトータルにサポートしている。まさに、地域医療を支える中核病院として頼れる存在である。

 

 

労災病院として
歴史に培われてきた強みを発揮する。

 911508 地域に深く根ざした同院だが、その名が示すように、もともとは労働災害に対応するために創設されたルーツを持つ。同院が開院した昭和30年代、日本は高度成長期の真っただ中にあった。作業中の事故で負傷したり、産業中毒などに苦しむ労災患者を一手に引き受け、治療と職場復帰を支えてきたのだ。その後、労働者の安全確保の向上とともに、労働災害は激減したが、「長い歴史のなかで培ってきた労災疾病に対する専門的なノウハウは、当院の大きな強みだと思います」と加藤院長は話す。
 強みの一つ目は、労働災害に関わりの深い整形外科領域である。同院の整形外科は東海地方でも老舗的存在。特に脊椎・脊髄外科、関節外科で数多くの実績を重ねており、<脊椎・脊髄病センター>を開設。医療水準の高さが広く認知され、名古屋市南部だけでなく、広く愛知県内外から多くの患者が来院している。さらに、東海地区随一の規模を持つリハビリテーション施設も備え、患者の早期回復と職場復帰を強力にバックアップしている。
911206 強みの二つ目は、<労災疾病への対応>という役割を、より広義に発展させた<勤労者医療>の取り組み。すなわち、働く人の健康と職業生活を守ることを目的にした、病気の予防や治療の提供である。たとえば同院は、中高年労働者に多い<糖尿病>対策にいち早く着手。東海地区で最初に<糖尿病センター>を設置し、糖尿病の予防から診断・治療、合併症管理、教育指導までトータルに展開してきた。院内には専門病棟も備え、外来、看護外来と病棟が情報を共有しながら、患者のサポートを実践。患者個々の身体、就業状況、家庭環境に配慮したオーダーメイドの指導・治療を行っている。現在、治療継続中の患者は約3500人にのぼるという。
 その他、同院では、ストレスを抱えた勤労者をサポートする<メンタルヘルス>に力を注ぐなど、産業構造や社会環境の変化によって生じた、新たな勤労者の健康問題に速やかに対応している。

 

 

病院として大切な総合力。
幅広い診療科を維持していく難しさ。

911603 勤労者医療を土台として、一般診療に幅広く取り組む中部ろうさい病院。今後の課題は何だろうか。「やはり急ピッチで進む地域の高齢化への対応ですね。高齢患者さんの生活の質を重視した医療を追求するとともに、多くの疾患を抱える高齢患者さんを、多職種・多診療部門が連携して包括的に支えていかなければならないと考えています」。
 そのために加藤院長が重視するのは、病院の<総合力>と地域の診療所との<連携力>だ。「ほぼ全診療科をバランス良く揃えている当院の総合性を堅持しつつ、地域医療を担う診療所の先生方と緊密に連携し、この地域で発症される一般的な疾患には責任を持って対応していきたいと考えています」と決意を語る。
 しかし昨今、多くの病院で医師不足が発生しており、同院もまた例外ではない。一般に病院の常勤医の多くは、大学医局から派遣されているため、病院個々の医師不足は医局人事に大きく左右される。同院でも、一部の診療科で大学医局からの医師の引き上げがあり、診療能力が落ちている領域もあるという。その難局を乗り越えるために、加藤院長は大学医局に働きかけると同時に、近隣の病院にも積極的に医師の応援を要請してきた。「たとえば、皮膚科ではは現在、近隣の急性期病院の先生が代務医として、応援に来てくださっています。当院はリウマチ・膠原病患者さん、糖尿病患者さんが多く、合併症である皮膚疾患の治療機能は欠かせません。非常にありがたいですね」と安堵の表情を浮かべる。

 

 

同じ地域にある病院同士が
水平連携して、地域医療を守っていく。

911704 医師の応援派遣に代表されるように、同院は昨今、近隣の中核病院との距離を一気に縮め、連携を深めてきた。名古屋市南部地域において高度急性期・急性期医療を担う中核病院は、同院を含めて3施設。それらの病院の院長同士が設立母体の壁を超えて、手を結び、医療用品の共同購入、合同の講演会の開催など、できるところから協力していこうと議論を進めているという。
 経済界では、同じ業界の大手企業同士が業務提携してビジネスを発展させる動きが活発化している。それと同じように、高度急性期・急性期病院同士の<水平連携>をめざしているのだろうか。「その通りですね。同じ領域の病院同士がそれぞれの強みを伸ばし、弱いところを補完し合い、地域医療を支えていこうと考えています」と加藤院長は話す。但し、この背景には、名古屋市という大都市圏ならではの医療事情がある。約220万人が暮らす名古屋市は、人口も集中しているが、医療資源も豊富にある。住民にとっては、通院できるエリアに複数の病院が存在する恵まれた環境。したがって、地域医療を牽引する中核病院群という発想に立てば、一つひとつの病院がすべての高度急性期医療を網羅することは、医療資源の重複、無駄に繋がる。むしろ各病院が得意な領域を伸ばす方が患者にとってメリットは大きいのだ。
911104 加藤院長もまた、この水平連携を前提に自院の得意領域を伸ばしていく考えだ。「当院が伝統的に得意とする整形外科や糖尿病・内分泌内科、あるいは長年にわたり透析患者さんの就労を支えてきた腎臓内科などに力を注いでいきたいと考えています。また、呼吸器内科と呼吸器外科を両方備えている利点を活かし、呼吸器病センターの機能もさらに強化していく方針です」。高齢化に伴い、肺がんや肺気腫、慢性気管支炎の患者は確実に増えている。内科・外科の両面からアプローチすることによって、さまざまな呼吸器疾患を抱える患者に最善の医療を提供していく構えだ。
 これからの時代に求められる医療は何か。この地域に必要な医療は何か。加藤院長は常に一歩先の地域医療を見つめ、開院60年という中部ろうさい病院の伝統の上に、新たな進化の歴史を積み重ねていこうとしている。

 


 

column

コラム

●中部ろうさい病院の母体である独立行政法人労働者健康安全機構は、厚生労働省所管の法人。全国に34の労災病院(総合せき損センターおよび吉備高原医療リハビリテーションセンターを含む)を展開し、整形外科領域をはじめ、労災疾病に関して先駆的な医療を提供してきた。特に脊髄損傷に対する治療とリハビリテーションでは、労災病院群が日本の医療レベル全体を牽引してきたといえる。

●また、労災病院群のスケールメリットを活用した医学研究やモデル医療技術の研究も、同機構ならではの活動だろう。中部ろうさい病院もその一翼を担い、さまざまな医学研究を推進。近年では、平成21年から5年間にわたり、<治療と就労の両立・職場復帰支援(糖尿病)の研究・開発、普及>に取り組んできた。平成26年からは、その成果を踏まえた臨床現場での実践にチャレンジしている。

 

backstage

バックステージ

●厚生労働省では今、<地域医療連携推進法人(仮称)>の創設をめざしている。これは、複数の医療法人・社会福祉法人が一緒になって経営を行う、いわば、非営利のホールディングカンパニー型の法人である。複数の法人が手を結ぶことで、経営効率の向上、医師をはじめとする人材の再配置や教育、患者情報の一元的把握など、さまざまな側面でのメリットを見込んでいるという。

●中部ろうさい病院をはじめとした名古屋市南部地域の中核病院の<水平連携>は、そうした新しい動きを先駆ける試みといえるだろう。ライバルともいえる病院同士が手を結ぶことで、地域医療連携は確実に前進する。地域の医療機関があたかも一つの病院のように機能する未来をめざす、名古屋市南部地域の取り組みに今後も注目していきたい。

 


2,946 views