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病院を知ろう

地域医療を守るために考えた、
私たちの存在意義。

 

 

あま市民病院


医療再生をかけて創られた新しい病院。
医師不足問題を抱えながらも、
できることは精一杯する。

main

あま市民病院の動向は、愛知県の医療関係者の間では大きな関心事であった。
医師不足問題、さらには、隣接する名古屋市西部への患者の流出…。
そのあま市民病院が、新築移転し、新たなスタートを切った。
苦しみのなか、さらに地域に寄り添うために、雄々しく第一歩を踏み出そうとしている。

 

 

 

 

 

アメニティの良さと、災害対策を重視した設計。

IMG_1846 あま市民病院は、海部医療圏の東部エリアにある。前身は公立尾陽病院。平成22年3月の市制施行により、あま市(旧海部郡七宝町・美和町・甚目寺町)及び大治町を対象診療圏とする。
 平成27年9月13日(日)、快晴。この日、新築移転したあま市民病院の竣工式が行われた。参加者はおよそ160名。あま市長、市議会議長、地元有力者をはじめ、愛知県知事、衆議院議員、県会議員、また、愛知県の大学学長、大学病院病院長など、錚々たる顔ぶれが揃い、地域に待望久しい同院の新たなスタートを祝福した。
 新しいあま市民病院は、地下1階・地上4階建て。1階には患者数の多い外来診療科、2階は専門性の高い外来診療科が配され、どちらも西側は外来部門、東側は検査部門であり、患者には分かりやすい外来診療部門を構成している。
_MG_0079 3階・4階は入院病棟だ。北側と南側にある病棟が、3階はリハビリテーション室、4階は手術部門を挟み込み、3階は回復期(※1)エリア、4階は急性期(※2)エリア。広く明るい病室からの眺望の良さ、自然光を取り入れる光庭、屋外テラスに面した食堂など、療養環境には充分配慮がなされている。
 そうしたアメニティに加えて、ハード面でも知恵を結集。近い将来、東海地方に予測されている大規模災害に備え、建物には免震構造を採用し、電気機械室や非常用発電機は屋上に設置するなど、海抜ゼロメートル地帯の海部医療圏で、最も高台に位置する病院として、災害医療への貢献を盛り込んだ設計である。

※1 急性期を脱し、身体機能の回復を積極的に図る時期。
※2 発症直後で手術を含め、積極的な治療を必要とする時期。

 

 

地域医療のハブ機能として、地域ニーズに対応。

 Plus顔写真 この新しい病院で、あま市民病院は、どのような医療を展開していくのだろうか。院長の赤毛義実医師に尋ねると、「病病(病院と病院)連携と病診(病院と診療所)連携を軸に、地域医療でのハブ機能を果たしていきたい」と言う。
 ハブ機能とは何か。「まず当院の急性期機能として、がんを含めたコモンディジーズ(地域で頻回に発症する疾患)に、しっかりと対応する基本的な診断治療能力を持つ。その上で、より高度で専門性の高い治療を必要とする場合は、そうした能力を有する病院にきちんと繋ぐ。そして、そこで治療を終えた後は、また当院に戻っていただき、しっかりと経過観察し療養生活のなかで身体機能の回復を図り、最終的には、ご自宅に戻り地域の診療所の先生に診ていただく。つまり、診療所・当院・高度専門的な急性期病院のネットワークにおいて、個々の患者さんを、適切な医療へと繋ぐ役割を果たしたいと考えます」。
_MG_0508 ハブ機能を充実させるために、同院は外来機能の強化に注力している。患者の大多数を占める高齢者は、複合的に疾患を抱えている場合が多い。診療所で日常の健康管理をし、どこか少し調子が悪いとなると、さまざまな検査をもとに、健康上の変化を素早く読み取って、適切な治療へと結びつけなくてはならない。
 それを担う外来診療において、同院は、大学病院や専門病院から、実力ある専門医が非常勤(詳細はコラム参照)として顔を揃え、定期的に専門的なスクリーニングが可能な体制を整備。必要があれば、速やかに大学病院や専門病院での治療へと結びつく形だ。
 「地域の医療ニーズは多様化しています。当院の能力を最大限活かしつつ、ニーズにきちんと応えるコミュニティホスピタルでありたい」と赤毛は言う。

 

 

医師不足問題を、地域がいかに理解するか。

_MG_0058 地域の期待を集めて船出をした新・あま市民病院だが、実は大きな問題を抱えている。それは慢性化した医師不足だ。その背景にあるのは、医療の集約化。医療制度の変化のなかで、前述の高度で専門性の高い急性期病院(以下、高度急性期病院)に、医師が集まる傾向が顕著になっているのだ。さらに、専門医を育成する制度の見直しが図られ、医学部を卒業し臨床研修を受ける研修医も、高度急性期病院を選ぶ。もちろん、同院は、大学病院に医師の供給を求め続けているが、安定的な確保まで結びつかず、院長の赤毛ひとりが奔走し、何とか一人でも二人でも医師を確保しようと全力を注いでいる。
_MG_0040 こうした同院の苦しみは、地域が違っても、同じクラス(病床数200床前後)の病院が共通して抱える問題である。多くが自治体立であり、病院再生の期待策として、新しい病院が建てられることも多い。しかし、医師不足という問題は、建物が新しくなれば解決するわけではない。わが国の医療提供の仕組みが、地域完結型、すなわち、診療領域において病院を分け、それが連携することで医療を提供するという形になり、専門性を高めようとする医師は、高度急性期病院に集まる構造となっているのだ。
 とはいえ、高度急性期病院には効率的な医療提供という使命が与えられ、入院日数をいかに短縮するかという課題がある。疾患によっては10日前後で、患者は退院しなければならない。となると、その後の経過を一定水準の急性期対応能力がある病院でしっかりと診て、自宅に帰るための道筋をつける。そうした病院こそが、地域に不可欠となる。そして、そこでは一つの診療領域だけの専門医ではなく、総合性を持った医師こそが必要となる。
 一番大切なことは、そうした病院の存在、医師のあり方を、自治体と地域住民が理解できるかどうかである。

 

 

地域で医師を育て、もっと地域に寄り添う病院へ。

_MG_0131 院長の赤毛は言う。「専門医制度の見直しにおいて、内科系の専門医をめざす医師には、研修プログラムで〈地域医療の経験〉が必須となりました。ここでは、コモンディジーズに対応し、病診・病病連携の要となる病院で、その実際を学ぶことになります。まさに、当院のような病院なのです。すでに高度急性期病院や大学病院から当院への打診があり、ぜひ引き受けたいと考えます」。
 「但し」と赤毛は言葉を続ける。「そうした研修医を受け入れる前に、必要なことがあります。当院の医師の意識改革です。これからの超高齢社会では、一つの診療領域の専門医であっても、総合性が求められます。総合性とは、病気だけではなく、患者さんとご家族の生活背景まで視線を伸ばし、患者さんの抱える多様な背景に配慮しつつ、適切な医療の提供と自宅復帰への道筋をつけること。地域の病院である以上、この能力がなければ、医師として機能できません。そうした医師たちと、次代にふさわしい医師を育てたい。そして、地域に寄り添う病院として歩みたいと思います」。
 地域に寄り添うために、看護部による必要に応じた訪問看護の実施、通所リハビリテーションの実施など、病院と地域、地域と病院との結びつきを強める歩みを始めようとしている。
 すべての医療能力を有する病院などは有り得ない。医療制度が変わり、病院を取り巻く環境は大きく変わる。そのなかで、あま市民病院は、爪先立ってこれまで歩み続けてきた、そして、今、コミュニティホスピタルとしての歩みを選ぼうとしている。同院が新病院によって掴み取ったもの。それは、病院としてのパラダイム転換のきっかけなのかもしれない。

 


 

column

コラム

●あま市民病院の外来診療には、非常勤の医師が多い。これは当初は、少ない医師数をカバーするために、考えられたものであった。

●しかし、その陣容を見ると、わが国で腎臓病治療に定評を持つ病院から、また、県内の大学病院から、確固たる専門性を有する専門医たちがズラリと並ぶ。

●そこにはもちろん、病院対病院の関係が基本にあるが、個々の専門医たちを見ると、単にそれだけではなく、窮地に追い込まれているあま市民病院、そして赤毛院長の窮状を少しでも助けたいという思いがある。

●彼らは高度に特化した専門性を大きく活かして診断。あま市民病院で治療ができるか否かを判断し、その先の治療のあり方を考えていく。

●地域の住民にとって、常に身近にいる診療所の医師、組織立ってコモンディジーズに対応できる同院の医師、さらに加え、高度先進的な医療を展開する専門医という、まさに恵まれた環境といえよう。

 

backstage

バックステージ

●今日の日本の医療は、一つの病院が単独で存在できない時代を迎えている。本文でも紹介したとおり、地域完結型医療提供体制になり、いずれの病院も自らの立ち位置を明確にしなければ、存続することは難しい。さらにそこに医師不足があるとしたら、病院は自院でできること・できないことも明確にし、その上で、いかに創意工夫するかが重要となる。

●そうした医療事情を、地域が、地域住民が理解することはとても大切だ。車で走れば30分の高度急性期病院を利用するという方法もあるが、それ自体、異なる医療圏の病院を圧迫していることにも繋がる。

●超高齢社会において、地域包括ケアシステムの構築が急がれている。高齢者になっても住み慣れた地域で暮らせる社会づくりである。医療の面からみると、住民の身近な存在となるのは、診療所とコミュニティホスピタルである。その視線で、あま市民病院を見つめ直すことが、地域では必要なのではないだろうか。

 


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