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明日への挑戦者

時代が求める医師を育てるために
<垂直・水平展開>の
研修プログラムの開発に挑む。

 

 

名古屋市病院局
(名古屋市立東部医療センター・名古屋市立西部医療センター)


市立病院と市立大学のネットワーク力を活かし、
市民ニーズ・時代に応じた
 <総合性を持った専門医>を育てる。

main

名古屋市立東部医療センターと名古屋市立西部医療センター。
これらを一元管理しているのが、名古屋市病院局だ。
病院局では市民のニーズに応えた診療体制の強化に取り組むとともに、
人材を育て、活かす組織づくりを推進。
研修医の研修では、名古屋市立大学とも連携した人材交流を通じ、
<時代が求める医師像>を見据えた新しい研修システムの創造に挑戦している。

 

 

 

 

 

東部医療センターの
救急外来で幅広い診療経験を積む。

 IMG_5430名古屋市立病院の臨床研修として、まずは名古屋市立東部医療センターから見ていきたい。東部医療センターの大きな特色は、〈断らない救急〉をモットーとする救急医療。年間6700件余りの救急搬送を受け入れており、これは、市内の臨床研修病院で第4位の実績(平成26年度)である。年々増える救急患者に対応するために、平成26年7月から救急科専門医が着任。昼間は救急科専門医が中心となり、夜間は各科救急担当医が協力して数多くの救急患者を診断し、速やかに心臓血管外科、循環器内科、脳神経外科などの専門医へ引き渡す体制を整えている。なお、平成27年3月、救急・外来棟が新設され、ハイブリッド手術室も完備。心臓疾患の緊急症例に対して、より高度で安全な手術を行っている。
 こうした救急医療の最前線を担うのは、高い志を持って現場に臨む研修医たちだ。救急科専門医や各科指導医の熱意ある指導と、上級医のきめ細かいサポートのもと、研修医たちは多くの症例をファーストタッチで診て、基本的な診察手技や鑑別診断の能力を習得。豊富な診療経験を通じて、大学で学んできた知識を改めて体系的に理解していく。2年次研修医の栗山満美子医師は、「指導医のバックアップを受けなPlus顔写真1がら、幅広い急性期疾患に触れることで、基礎力が着実に養われます」と語る。これに対し、「救急外来での研修を通じ、研修医たちは見違えるほど成長していきますね」と目を細めるのは、同センターの臨床研修センター長でもある金井秀樹副院長である。「将来、どの専門分野をめざすにしても、2年間は医師としての土台をがっちり築くとき。患者数も症例数も多い当センターだからこそ、基本的な診療能力が確実に身につきます。しかも、これからの時代、専門分野だけでなく総合的な診療スキルが問われます。指導医たちはそうした時代の変化も意識して、幅広い疾患に対応できる基本的な診療能力の指導に力を入れています」と、金井副院長は語る。

 

 

西部医療センターの集学的ながん治療を通じ、
総合的な臨床能力を習得。

16506 救急医療が東部医療センターの特色だとすると、名古屋市立西部医療センターの特色の一つは、高度な<がん治療>の実践だろう。内科と外科が一体になり、多様ながん種に対する総合的な治療を行っている。また、放射線診断・治療においては、15名もの放射線科医を揃え、東海地方唯一の陽子線治療(※)施設<名古屋陽子線治療センター>を擁するなど、先駆的な治療体制を確立。外科療法、化学療法に、高度な放射線治療を加え、それらを戦略的に組み合わせた集学的な治療を実践している。
 こうした集学的治療の現場は、研修医にとってまたとない学びの場となっている。2年次研修医の林 希彦医師は「複数の診療科や多職種が集まるキャンサーボード(症例検討会)にも参加でき、大いに刺激を受けていまPlus顔写真2す」と話す。その言葉にうなずきつつ、同センターの臨床研修室長でもある妹尾恭司副院長は次のように語る。「がん治療を通じてチーム医療を学ぶのと同時に、患者さん一人ひとりと向き合う姿勢も学んでほしいですね。当センターで治療しているがん患者さんは、早期がんから進行がん、転移のある方まで、さまざまなステージの方がいらっしゃいます。そういう方々の異なる状況に応じて最善の治療を提供するには、単純な臓器別治療という発想ではうまくいきません。患者さんやご家族の話をじっくり聴いて、患者さんと共にこれからの生活や人生を考え、生活の質を高めるように総合的にサポートできる医師を育てたいと思います」(妹尾副院長)。

※ 陽子線治療は、がんに対する放射線治療法の一つ。がん病巣に放射線を集中させることで、正常組織への影響を低く抑える。

 

 

社会が求める医師像が
大きく変化してきた。

 救急外来で総合的な診療スキルを学ぶ東部医療センター。がん治療のプロセスを通じ、患者を総合的に支える臨床能力を学ぶ西部医療センター。それぞれ切り口は違うが、両センターの臨床研修で共通するのは、専門性だけでなく<医師としての総合性>の獲得である。どうしてだろうか。Plus顔写真3「かつての医師像と、これからの時代に必要とされる医師像は違う、ということに尽きると思います」と語るのは、名古屋市病院局の山田和雄局長である。「従来は患者さんを治す医療が中心でしたが、高齢化の進んだ社会では、患者さんを治し支える医療が中心になります。そのニーズに応えるには、臓器別専門医として病気を診るだけではなく、生活への視点を持って患者さんを全人的に診る医師が求められています。それに…」と、山田局長は続ける。「この名古屋市は、日本有数の大都市です。郊外ではない都市部だからこそ直面する医療の問題に向き合うことも必要です」。名古屋市が抱える問題の根底にあるのは、地域コミュニティの崩壊の危機だ。地域で支える力が弱いため、独居高齢者は孤立しがちになる。こうした名古屋市の地域特性を踏まえつつ、「病院に助けを求めてくる患者さんを一人でも多く救える医師、患者さんを総合的に支える医師を育てたい」と、山田局長は語る。

 

 

<垂直と水平>の2軸で、
新しい研修プログラムの開発をめざす。

 時代や地域が求める新しい医師、すなわち<総合性を持った専門医>を育てるために、山田局長は〈垂直と水平〉の2軸展開による、新たな研修プログラムの開発に乗り出している。
 まず、<垂直展開>として取り組んでいるの16602は、医学生から研修医、専門医へという垂直軸(時間軸)における研修だ。具体的には、名古屋市立大学の医学部6年生の臨床実習を、東部・西部医療センターでスタート。医学生が両センターの多様な診療科を複合的に学べる体制を整えた。「実習を受けた学生さんに感想を聞くと、非常に満足度が高いんです。ぜひ多くの学生さんに実習を受けていただきたい」と、山田局長。医師を志す人たちが市立病院でコモンディジーズ(発症頻度の高い疾患)の診療に触れることにより、早い段階から<地域医療のニーズ>を体感できる。医師の研修を垂直的に繋ぐことで、より社会が求める医師を育てようとしているのだ。
IMG_5448 もう一方の<水平展開>は、幅広い領域を学べる体制づくりだ。東部・西部医療センターでは名古屋市立大学病院と連携し、研修医の人材交流を積極的に推進。どの病院の研修医であっても、3病院の診療科を自由に研修できるプログラムを用意している。たとえば、東部で救急医療を、西部でがん治療を、大学で高度専門医療を学ぶなど、それぞれの強みの領域をフレキシブルに選択でき、研修医の評価も高い。
 「垂直方向では、卒前から卒後研修、専門医研修、さらには生涯学習へと一貫し、水平方向では多様な診療領域を学べる体制を充実させ、将来どの領域の専門医になっても、患者さんの<生活>を理解して診療できる医師を育てていきたいと考えています」と山田局長は構想をふくらませる。
 名古屋市立大学と市立病院のネットワーク力を活かして、市民ニーズ・時代に応じた医師の研修に邁進する名古屋市病院局。従来とは一線を画したフレキシブルな発想で、これからの医師の研修に新風を吹き込もうとしている。

 

 


 

column

コラム

●名古屋市立病院はかつて、多額の赤字を計上する深刻な状況が続いていた。その状況を打破するために、平成20年、病院局が新設され、病院局長が市立病院の企画、経営および人事を一元管理する体制を確立した。同時に名古屋市立病院改革プランが策定され、思いきった医療資源の選択と集中により、それまで5つあった市立病院を再編。東部医療センター・西部医療センター・緑市民病院(指定管理者による運営)の3病院に集約し、効率的な病院経営を行っていくことになった。

●名古屋市病院局はその後も、市民の医療ニーズに対応するために、病院改革を断行。東部・西部医療センターを中心に、医療機能を分担・高度化し、市立病院全体で医療機能の強化を図ってきた。その成果は、本文で述べたように、<断らない救急><小児・周産期医療><がん治療>など、各病院の特色となって現れ、着実に成果をあげている。

 

backstage

バックステージ

●超高齢社会の急速な進展を背景に、国は医療の中心を<病院>から<在宅>へ転換するよう促している。それに伴い、医師のあり方も発想の転換が求められるようになってきた。従来は、病気を徹底的に治す<臓器別専門医>に重点が置かれていたが、それだけでは高齢患者のニーズに応えることはできない。私たちが年老いたときに本当に必要とするのは、全身を総合的に診て、生活の質も考慮し、最善の治療を提供してくれる<総合性を兼ね備えた専門医>ではないだろうか。

●名古屋市病院局の医師の研修は、まさにそこにフォーカスしている。医学生が早い段階から地域や社会のニーズを察知できるように支援し、研修医に対しては専門性だけに偏らず、幅広い領域の研修が積めるような体制を整えつつ、社会が求める医師の研修を志向している。一人でも多くの総合性を持った専門医がここから生まれ、巣立っていくことを期待したい。

 


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