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病院を知ろう

「断らない救急」という命題と苦悩。
地域全体で救急を守るために、
私たちの救命救急センター取得の意味。

 

 

春日井市民病院


平成27年、春日井市民病院は三次救急を担う救命救急センターへ。
地域の救急医療をより盤石にするために。

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平成27年10月1日、春日井市民病院は愛知県知事より救命救急センターの指定を受けた。
救命救急センターは、救命治療の必要な重篤な患者を中心に受け入れ、
24時間高度な医療を提供する施設だ。
この指定取得に託した思いや今後のビジョンについて、同院の渡邊有三院長に話を聞いた。

 

 

 

 

 

ハード・ソフト両面で準備を重ね、
ついに救命救急センターへ。

IMG_5344 春日井市民病院が救命救急センターに指定されて半月ほど経ったある日、救急外来を訪ねると、入口には次々と救急車が到着し、あわただしい雰囲気に包まれていた。その空気感は救命救急センターに指定される以前と変わらず、キビキビと動く職員の姿には、春日井市31万人都市の市民病院として、地域の救急医療を守る気概と誇りが漲っていた。
 同院では数年前から、今回の救命救急センター指定をめざし、着々と準備を重ねてきた。ハード面では、平成26年2月、同院に隣接して春日井市総合保健医療センターが整備されたのに伴い、救急部をその建物1階に移設・拡充。新たに救急専用の入院病床(6床)を備え、同時に3人の患者を処置できる救急処置室を完備。さらに、救急部専門のCT装置、X線一般撮影装置などを設置し、万全の受け入れ体制を整えた。
IMG_5250 続いてソフト面、すなわち「人材」については、平成27年4月1日、新たに救急部専任医師2名を招聘。非常勤医師2名を加えた救急医4名を軸に、新たな救急部を発足させた。これら救急専任医が中心となり、各診療科の救急当番医、そして、研修医たちが協力して24時間365日いつでも救急患者に対応。一分一秒を争う脳卒中、くも膜下出血、急性心筋梗塞といった重篤な救急疾患に対して速やかに検査・診断を行い、高度で先進的な治療に繋げてきた。
 このようにハードとソフトの両面で体制を強化し、まさに満を持して、救命救急センターの出陣となったのである。

 

「断らない救急」を使命として地域の救急医療を守ってきた。

 Plus顔写真 これまで『リンクトプラス』紙面でたびたび触れてきたように、同院は全国でも有数の救急患者受け入れ病院である。最新のデータによると、救急外来受診者数は3万6407名、このうち救急搬送患者数は1万241名(平成26年度)にのぼる。救急搬送患者数1万人以上という実績は、愛知県下ナンバーワン。救急車の応需率(救急部への受け入れ要請のうち、受け入れた患者数の比率)は、平均98・5%という高水準で推移している。生命の危機が迫った重篤な患者も多く含まれ、同院は二次救急病院でありながら、実質的には三次救急病院と同等の役割を担ってきたともいえる(※)。
 「愛知県下トップという実績は、まさに職員たちの汗と努力の結晶。救急車を断らないために一丸となって取り組んできた職員のおかげです」と話すのは、同院の渡邊有三院長である。「救急車を断らない」。このモットーが生まれたのは、救急不応需が社会問題となった平成12年頃だという。「地域住民が救急で困ることがあってはならない」という強い決意のもと、どんなに現場が飽和状態であっても、ファーストタッチ(初期診療)を行い、どうしても対応できない傷病の場合は、しかるべき病院などへ紹介する体制を整えてきた。この誠実な姿勢が救急隊の評価を得て、<いざというときは、春日井市民病院が何とかしてくれる>という厚い信頼感を醸成してきた。
IMG_5241 同院の救急医療への取り組みはやがて医学生の間にも広がり、「救急現場で豊富な症例を学びたい」という志の高い研修医が毎年、集まるようになった。「当院で学んだ若い先生方はみな、まさに豊富な症例が飛び込む救急外来で鍛えられ、確実に総合的な診療能力を身につけています。今春から救急専任医が常在することになり、研修医への教育指導も一段と厚みを増したと思います」と、渡邊院長は笑みをこぼす。

※ 日本の救急医療体制は、患者の重症度により、医療機関の役割分担を<一次救急=軽症、二次救急=中等症、三次救急=重症>と定めている。

 

 

「断らない救急」を貫くがゆえの苦悩。

 救急応需ナンバーワンの実績は、職員を讃えるべき勲章である。が、その反面、「決して喜ばしいばかりでなく、不名誉でもあると思っています」と渡邊院長は打ち明ける。それはどういう意味だろうか。「現場の人材配置に比べ、1万台を超える救急搬送は多過ぎるんです。断らない救急を貫くために、医師や看護師に多大な負担を強いてきました。その勤務環境を改善するために数々の手を打ってきましたが、まだ充分とはいえません」。
IMG_5291 改善策の一つは、隣接する春日井市総合保健医療センターに、春日井市医師会などの協力を得て「休日・平日夜間急病診療所」を誘致したことである。同じ1階フロアに、同院の救急部と急病診療所を開設することで、休日や平日夜間、独歩で訪れた軽症患者が自然と、同院ではなく、診療所を利用するような流れを作ったのだ。
 しかしそれでも、救急車で同院に搬送される患者は一向に減らない。「問題は、救急搬送される方のなかに、軽症の患者さんも多く含まれていること」だと渡邊院長は指摘する。実際、同院の救急車来院入院率(救急搬送で来院した患者が入院する確率)は、平均3割程度に留まり、6〜7割の人はそのまま帰宅している。この実態を解消するには、どうすればよいか。渡邊院長が考え抜いた結論が、実は今回の救命救急センター昇格だったのである。
IMG_5272 「当院が、重症者を対象にする三次救急病院であることを表明すれば、地域の方々に当院の救急医療のあり方を再認識していただけると考えました。そうすれば、より適正な救急外来の利用に繋がり、医師たちの疲弊を緩和できます。また、地域の病院や診療所、救急隊の方々の、当院に対する認識も変わり、より密な協力体制が築けると考えています」。
 救命救急センターの指定は、住民や医療機関の救急医療に対する理解と協力を得るための足がかり。ここから、より盤石な地域の救急医療体制を構築していくことこそ、渡邊院長の真の目的だったのである。

 

 

診療レベルをさらに高め、
質の高い急性期医療を提供していく。

IMG_5283 今回の救命救急センター指定に先駆けて、同院はここ数年来、続けざまに数々の指定・承認を得てきた。平成22年3月31日付けで「災害拠点病院」、平成24年3月2日付けで「愛知県がん診療拠点病院」に指定。同年9月24日付けで、「地域医療支援病院」の承認も得た。こうして数々のタイトルを獲得した今、渡邊院長はどのようなビジョンを抱いているのだろうか。「一言で言えば、真の実力を磨くことですね。さまざまな指定・承認にふさわしい病院として、今まで以上に診療レベルの底上げを図っていきたいと思います」。特に渡邊院長が次の一手と考えるのは、優秀な医師の確保である。「良い医師が集まれば、診療レベルも上がり、また、その医師の指導を求めて良い研修医も集まります。<人>が<人>を呼ぶ良いスパイラルを作ることで、急性期医療の質を向上させていきたいと考えています」。
IMG_5316 同院ではこれまでも、がん、脳卒中、心臓病、糖尿病など、地域に多い疾患に対し、高度な専門医療を提供してきた。それらの専門領域において、<人>の力を増強することで、さらに医療の高度化をめざそうとしているのだ。「重要なキーワードは、<地域完結>です。当院が急性期医療を推進していくためにも、回復期や慢性期を担う地域の医療機関としっかり役割分担して連携を深め、この地域で必要な医療を、この地域ですべて提供できる仕組みを作っていきたいと思います」。渡邊院長は地域の未来をまっすぐ見つめ、力強い口調で締めくくった。

 


 

column

コラム

●救急不応需ゼロを原則に、多くの救急患者に対応する春日井市民病院。今日の体制はずっと昔から受け継がれてきたものではなく、平成10年、現在地に新築移転してから作り上げてきたものだ。旧病院では医療機器が不足し、検査と外来部門の連携も悪い。救急外来の看板は掲げているが、それにふさわしい機能を果たしていなかった。

●平成9年に同院に赴任した現院長の渡邊医師は、その状態を見て非常にショックを受けたという。「市民の方々が救急車を呼んだとき、『春日井市民病院には運ばないでと言う』という声があることを知り、愕然としました」。もっと地域の人たちから信頼される病院になりたい…。新病院移転を機に、職員たちの悔しい思いが結集し、それがやがて「救急車を断らない」というスローガンに結実。地域の救急医療を守る生命線として、今日も職員たちが全力を尽くしている。

 

backstage

バックステージ

●三次救急を担う救命救急センターの指定を受けた春日井市民病院。その狙いの一つは、市民の啓発にあったという。時間外に気軽に受診できる救急病院ではなく、三次救急患者(重症患者)を対象にする施設であることを表明することにより、「地域の救急医療の拠点として、大事に育ててください」というメッセージを発信したのである。

●同院の確固たる決意を地域住民の間に浸透させていくには、行政による啓発活動が非常に重要だろう。同時に、地域にある一次・二次救急を担う病院・診療所の理解と協力も必須条件となる。たとえば夜間の一次救急を診療所が積極的に担うなど、地域内の医療機関が役割を分担し、お互いにスクラムを組むことができてはじめて、地域の健全な救急医療体制が実現する。この地域で、住民、行政、医療機関の協働と連携による強固な救急医療体制が構築されることを期待したい。

 


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