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病院を知ろう

聖霊病院の
アイデンティティを再生する。

 

 

聖霊病院


カトリック精神を再認識し、
地域の人々の生活を支える
コミュニティホスピタルをめざす。

main

東海地区唯一のカトリック病院として、70年の歴史を刻む聖霊病院。「お産の聖霊」といわれるほど周産期医療では定評がある。
だがここ数年は、医師や看護師不足から、病院機能の弱体化を余儀なくされ、病院のアイデンティティ(個性や特徴、存在意義)が失われようとしていた。
その状況を打破するために、平成27年度より新理事長・新院長による新しい病院づくりが始まっている。
森下剛久院長に、これまでの半年間と今後のビジョンについて話を聞く。

 

 

 

 

 

院長就任から
半年間の模索と苦悩。

Plus顔写真 森下剛久が聖霊病院の院長に着任した平成27年4月、同院は数年前からの混沌とした状態を引きずっていた。一番の問題は医師不足。なかでも内科医不足は、内科系外科系の有機的な繋がりを断絶し、診療機能全体の低下を招いていたのだ。研修医募集も、指導医が少ないためなかなか集まらない。その影響は大きく、特に研修医が戦力となる救急外来では、中堅以上の医師が対応していたが、限られた人数だけに、彼らの疲弊感は高まっていた。また、看護師についても中堅看護師が大量に離職。本来、各病棟で看護が果たすべき機能や役割が衰えていた。
 そうした状況下、森下が打ち出した方針は、自院で完結する病院から、地域の他病院と連携して医療提供を行う病院への転換。「当院の周辺には、大学病院や高度急性期病院が充実しています。重症度の高い疾患はそれらの施設に任せ、当院は自院の急性期機能を活かしながらも、在宅への橋渡し、あるいは在宅支援といった役割を担うべきだと考えました」。そのため森下は二つの連携を考えた。一つは、近隣の高度急性期病院にアプローチし、高度急性期を脱した患者を、自院で受け入れるための連携強化。もう一つは、地域の診療所をはじめ、老人保健施設や高齢者住宅と結びつき、在宅療養中の患者の急性増悪に対応するための連携である。
503_SeiReiH2015 その両方に対応できる病床として、すでに同院には39床の地域包括ケア病棟(※)があり、ハード面は整っている。二軸において、トップ同士だけではなく、現場の医師や看護師などが顔を合わせ、質の高く、且つ、きめ細やかな継続ケアを提供する仕組みづくりも進め始めた。
 こうした森下の積極的なアプローチは、これまでの<閉ざされた病院>というイメージを払拭。<聖霊病院が変わろうとしている>ことを内外に示すものだった。

※ 地域包括ケア病棟は、急性期病床からの患者や、在宅療養中の患者の緊急時の受け入れなどを行う病棟。

 

 

現実と理想のはざまで、
ジレンマに陥る。

 IMG_7174 院外への働きかけと並行し、森下は院内の意識改革にも取り組んでいった。めざすべき入院患者数をはじめ、具体的な数値目標をいくつか掲げ、<病院変革>を目に見える形にしたのだ。その上で、トップダウンで変革を進めるのではなく、全職員の<和の精神>がエンジンになると考え、これからの自院のあり方について、何度も説明やディスカッションを繰り返した。例えば、これまで急性期医療に専念してきた医師には、地域医療の提供体制が大きく変わる状況を説明し、「もう少し間口を広げて、患者さんの生活を支える医療にも力を注いでほしい」とも説いた。だが、医師をはじめとする職員の意見はさまざまで、なかなか院内の気持ちを、一つにまとめることは困難であった。
IMG_7258 理想と現実のはざまで苦悩する森下の前に、病院機能の路線変更に関わる問題も浮上した。それまで森下は、<病院での治療が終わったら速やかに在宅へ>という、国の進める医療政策に沿って、医療の効率化を推し進めようとした。例えば、前述した在宅療養中の急変患者の受け入れ。これは高度な急性期能力ではなく、同院が有する急性期能力で充分に対応できる領域としての想定だった。従って、「治療が終われば当然、在宅に戻せる」と考えていたのだ。だが、現実はそれほど簡単ではなかった。「救急搬送されてきた高齢患者さんの多くは、合併症があったり、寝たきりだったりして、在宅に戻せないどころか、当院で看取りが必要なケースも多くあることが解りました」と森下。病院経営からすれば、速やかな退院を原則としてこそ成立する。しかし、決してそうはいかなかったのである。

 

 

立ち返るのは、
<カトリック精神>。

IMG_1384 病病・病診連携強化と進めたいが、職員の気持ちが空回りする。経営の効率化を図りたいが、思惑通りに病床利用率が伸びない――。約半年間にわたる模索と苦悩を続けてきた森下は、日々、<論理と数字>を見つめていた。「間違ってはいないはずだ。それなのになぜ?」。自問自答を繰り返すなか、ふと、気づいたことがある。「この改革に当院の<心>は伴っていたか?」。 
 聖霊病院の<心>とは何か。それは、脈々と受け継がれてきたカトリック精神。これに他ならない。
 本音をいえば、森下は就任当初、同院の特色であるカトリック精神を敢えて封印し、病院改革を進めた。なぜなら、現在の地域医療政策は、カトリック精神に基づく<愛と奉仕>よりも、<医療機能の役割分担による効率性や費用抑制>が優先されるからだ。
022_SeireiH2015 しかし、「それは、間違いでした」と森下は言う。歴史をひもとけば、同院は昭和20年、戦後の焼け野原だった名古屋市昭和区に聖霊診療所として創立。以来、<愛と奉仕>の理念のもと、目の前で苦しんでいる人々に救いの手を差し伸べてきた。「時代や事由は異なるものの、今後は当院創立時と同じように、この地域で救いを求める患者さんが増えていくと思います」と森下。もちろん創立から70年経った今、地域は焼け野原ではないが、地域の未来は決してバラ色ではない。医療財政の逼迫や独居高齢者の増加など、数々の問題が待ち受け、医療・介護制度の谷間に取り残される患者の増加が懸念されている。「そうした人々を支えることこそが、私たちの使命です。そのためには、何よりも創立の原点に立ち返る。それを組織に浸透させる。私はもう一度職員たちと対話し、職員たちの自信とプライドを蘇らせたい」と森下は話す。

 

 

コミュニティホスピタルを
めざしていく。

300_SeireiH2015 さまざまな試行と行動を経て、聖霊病院のアイデンティティを確信した森下院長。その先に見据えるのは、どんな病院の未来像だろうか。「NICUを含む産科・新生児の周産期医療、整形外科といった、当院が得意とする急性期医療分野は今後も変わりません。その上で、今まで以上に、地域の患者さんの生活を支える<コミュニティホスピタル>をめざしていきたいと考えます」。コミュニティホスピタルとは、地域コミュニティに深く根ざし、地域の医療機関や介護・福祉事業者と連携し、地域の人たちの生活や人生を支えていく病院である。
 その実現に向けて、課題はいろいろある。複数の病気を抱えながら暮らす人たちを支えるための、総合内科的アプローチの強化。間口を広げた救急医療や垣根を取り払った緩和ケア・ホスピス病棟の実現。そして、苦しんでいる人を積極的に受け入れていく仕組みづくりなど…。そして何より、職員たちとの意識共有。そこから始まる創意工夫――。これらの課題を一つひとつクリアすることが、地域のなかで欠かせない病院として、同院の存在意義を確立する。
IMG_7583 <カトリック精神の実践>と<病院の経営>という二つの命題は、相入れないものだ。その厳しい現実に、森下院長は敢えて挑戦していく。「非常に難しいと思います。でも、そういう病院が今後は地域から求められる。それこそが、私たちでないとできないことだと思うんです。職員みんなの力を合わせて、聖霊病院らしい病院づくりを進めていきます」。森下院長はそう締めくくり、清々しい表情を見せた。

 


 

column

コラム

●聖霊病院の外来棟・最上階。陽光の注ぐフロアに、15床のホスピス病棟がある。ここでは、がん末期の患者に対し、精神的・身体的なケアを提供している。例えば、化学療法などの治療が終了したものの、自宅での生活が困難になってきた人、痛みやだるさ、呼吸困難など症状を和らげる治療のため一時的な入院が必要な人などを受け入れている。

●今後の超高齢社会を考えたとき、がん以外の疾患、また、終末期だけでなく療養期にも、そうしたケアや支援体制は必要となってくるのではないか。それが森下院長の考えである。在宅療養中のすべての人が訪問診療・看護だけで最期まで過ごせるかというと、かなりハードルが高い。終末期や療養期の緩和ケアのための入院、家族の介護疲れの軽減を目的とする入院機能を備えることで、同院は地域の在宅医療を力強くサポートする考えだ。

 

backstage

バックステージ

●超高齢社会を迎えた今、地域では、病気を治す病院だけでなく、病気を治した後、自立して生活できるように患者を支え、在宅へと橋渡しする病院が求められている。いわば、地域のコミュニティに深く根ざし、生活から医療・介護・福祉を包括的に見つめる<コミュニティホスピタル>が切望されている、といえるだろう。

●聖霊病院がめざす新しい病院の姿は、そのコミュニティホスピタルにある。

●カトリック精神に裏打ちされた慈しみの心で、患者一人ひとりの<いのちの始まりから終わりまで>に寄り添い、支えていく。

●その一途な病院のあり方は、医療界のなかではほんの小さな一粒に過ぎないかもしれない。しかし、その一粒の種を育て、花を咲かせたとき、周囲にも大きな影響を与える存在になるのではないだろうか。「聖霊病院、頑張れ」と、リンクトは心からの声援を送る。

 


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