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病院を知ろう

救急の<不応需ゼロ>をめざし、
救急システムの
さらなる強化に挑戦。

 

 

名古屋第二赤十字病院


地域の救急医療を守るために、
地域との連携の深化、高度化を推し進める。

main

「医の原点は救急医療である」という信念のもと、
「いかなるときも救急患者の応需をめざす」ことを方針とする、名古屋第二赤十字病院。
平成27年度の救急車受け入れ件数はすでに5331件(4〜9月)。
1日平均29件もの救急車を受け入れている計算になる。
この全国でも屈指の救急医療機能を支える、最前線の医師たちにフォーカスした。

 

 

 

 

 

救急医療の質を高める鍵は、
研修医の教育。

Plus顔写真1 「手足が突然しびれた」「息が苦しい」「転んで動けない」…。名古屋第二赤十字病院の救命救急センターには、日夜さまざまな救急患者が搬送される。「助けられる患者さんはすべて助けたい。それが救急医の使命であり、私たちができる地域への貢献だと信じています」と語るのは、救急科専門医の福田 徹医師だ。同院の救急システムは「北米型ER」。これは、重症度にかかわらず、あらゆる患者を受け入れ、救急科の医師が中心となって初期診断と重症度を判定し、各専門領域の医師に引き継ぐシステム。その最前線に立つのが、救急医と研修医たちだ。
 救急医療の現場で最も重要なのは、迅速で正確な診断である。吐き気や腹痛といった一般的な症状のなかにも、緊急治療を必要とする重大な病気が隠れていることもある。それらを決して見逃すことがないように、福田医師は自身の診断力を磨くのと同時に、研修医の指導に充分な時間を割く。「救急外来では、研修医が大きな戦力。研修医の能力向上が、救急医療の質に直結する」と考えるからだ。「最も大切なことは重症疾患を見落とさないことです。160313重症でなくても正確な診断を行い、それ以上悪化させないための治療を行えるように指導しています。臓器別の診療でなく、すべての疾患を診る総合力が必要です」と話す。福田自身、同院で初期臨床研修を受けて以来、ずっとここに勤務し、救急科専門医になった経歴の持ち主。研修医の気持ちをよく理解できる先輩として、見逃してはならない疾患のポイントなどを的確に指導している。

 

 

北米型ERを支える
院内・院外連携。

 Plus顔写真2 福田医師と同じく、同院で初期臨床研修を受け、その後同院救急科で経験を積んでいるのが、神原淳一医師。卒後9年目の救急医として、日々数多くの救急患者に対応している。神原医師が常に心がけているのは、「院内外の<人>との信頼関係づくり」だという。「院内で重視しているのは、各診療科の専門医との良好な関係づくりです。そのために大切なのは、僕たち救急医が自分の役割をしっかり果たすこと。ただ単に、病状に応じて患者さんを専門医に繋ぐのではなく、患者さんの既往歴や検査結果、生活背景など治療に必要な情報をしっかり専門医に伝え、専門医がスムーズに治療に取りかかれるように心がけています」。
 一方、院外では、「救急隊とのコミュニケーションはもちろん、地域の医療機関との連携づくりが非常に大切」だと話す。「たとえば、救急患者さんのなかには、緊急の手術や入院治療は必要ないけれど、そのまま帰すのは心配…という方もいます。そんなとき、患者さんを紹介できる医療機関をもっと増やしたいですね。また、診療所の先生方との関係160329を深め、患者さんに何かあればすぐに紹介してもらえるよう働きかけていきたいとも考えています。そのことで患者さんにとっては、病気の重症化を防ぐことに繋がりますからね」。神原医師は地域の医療機関の医師との交流会にも積極的に参加し、顔の見える関係づくりを心がける。「将来的にはカルテの共有も含め、しっかりした地域医療連携のなかで当院の救命医療機能をさらに発揮していきたい」と意気込んでいる。

 

 

全職員の力を合わせて
「不応需ゼロ」をめざす。

Plus顔写真3 救命救急センターの最前線に立つ福田・神原医師が口を揃えるのは、「地域の砦として、苦しんでいる救急患者さんすべてに応えたい」という強い信念である。しかし、それでも、どうしても断らざるを得ないケースもある。「問題は、救急医療を支えるサポート体制にあります」と言うのは、救命救急センターのセンター長でもある野口善令副院長(第一総合内科部長・臨床研修管理委員長を兼任)だ。「救急不応需の大きな原因は、ベッドの満床です。退院する患者さんの行き先が見つからないと、当然、満床になり、新しい入院患者さんを受けられません。また、手術などで専門医の手が空かないと、救急患者さんをお断りすることになってしまいます」。
 同院においても近年、救急搬送件数が年々増えるなかで、昨年度(平成26年度)は「満床になることが多く、受けたくても受けられない」ケースも多くあったという。こうした状況に危機感を抱いた同院の院長が打ち出したのが、「救急不応需ゼロキャンペーン」だ。院長自ら、全職員にメッセージを発信。「救急医療は当院の歴史と伝統の一つ。医師は全員が救急医という認識を持ち、全科参加型の救急体制を守らなくてはなりません。また、全職員が協力してベッドの空きを確保し、救急患者さんを一人でも多く受け入れましょう」と訴えた。同院に限らず、病院では大学医局の人事で1008医師が定期的に異動し、看護師など職員の入れ替わりもある。職員の顔ぶれが変わっても病院の方針を浸透させるために、院長はたびたび、こうしたメッセージを発信しているという。平成27年春に始まった救急不応需ゼロキャンペーンの結果、同年5月以降、不応需のケースは減り、毎月の救急車受け入れ件数は連続して例年を上回っている。

 

 

「すべての救急患者さんの応需をめざす」
という方針を守り抜くために。

160415 「不応需ゼロをめざそう」という院長の大号令のもと、北米型ERと全科参加型の救急医療を推し進める同院の救命救急センター。今後のビジョンとして、野口副院長は二つの課題を挙げる。「一つは、先ほども申し上げた通り、病院を常に満床にしない努力です。そのためには、病状が安定して転院できる患者さんを紹介する病院とのパイプを、より太くしていかなくてはならないと考えています」。同院は高度急性期医療を担う病院である。そのため、同院での急性期の治療を終えた患者は、次の病期を得意とする病院へ転院し、継続治療を受ける流れとなる。病病連携(病院同士の連携)を強化することで、その仕組みをより拡充していく考えなのだ。
 もう一つの課題は「救急医の育成と増員」だという。現場の医師が疲弊することなく、北米型ERを維持していくには、優秀な救急医の育成と増員が急務の課題である。そのため野口副院長はまずは、救急の戦力となる研修医の教育に力を注ぐ。たとえば、研修医をはじめとした若手医師が診断力を磨くためのカンファレンスを継続的に開催。具体的な症例にそって、身体所見や検査データから正しい診断を導き出す思考プロセスを指導している。「ここで学んだ研修医がゆくゆくは救急医となって、福田・神原医師のように、ERで力を発揮してほしい」というのが、野口副院長の願いである。
 こうした院内の取り組みに加え、野口副院長は社会の救急医療に対する意識変革の必要性にも言及する。「救急医療の資源は限りがあります。地域の方々にそのことを正しく理解していただき、救急車の利用の仕方をみんなで考えてほしいと思います。たとえば、孤立したお年寄りの方が頼る人もなく救急車を呼ぶ場合、本当に必要なのは医療ではないこともあります。超高齢社会の進展とともに、そういう独居高齢者を、福祉や介護の側面からも支える仕組みづくりが必要です。その上で、救急車を呼ぶ以外の選択肢がない患者さんについては、私たちが何が何でも受け入れていきます。それが、<地域の砦>として当院に課せられた使命ですから」。野口副院長はきっぱりした口調でそう語る。その表情からは、救急医療に対する揺るぎない信念が感じられた。

 


 

column

コラム

●名古屋第二赤十字病院の救急医療の歴史は古い。結核専門病院から一般病院に転換した昭和35年、当時の院長が「病気や怪我は昼だけのものではない。医療は24時間求められている」として、救急医療に力を注ぐ方針を表明。以来、救急医療の充実に心血を注ぎ、「救急といえば八事日赤」「八事日赤といえば救急」と呼ばれるほど、地域の救急医療に貢献してきた。

●すべての救急患者の応需をめざし続けた結果、同院の救急救命センターは北米型ERという形となった。そして、そのバックボーンには、「苦しんでいる人を救いたいという思いを結集し、いかなる状況下でも、人間のいのちと健康、尊厳を守る」という日本赤十字社の使命がある。「いついかなるときも、我々は地域の砦となる」。その使命感は今日まで脈々と受け継がれ、そしてこれからも途絶えることはないだろう。

 

backstage

バックステージ

●地域医療の提供体制は今、病院単体で治療を行う「病院完結型」から、地域全体で治し、支える「地域完結型」に向かって再編成が進められている。救急医療のあり方も、例外ではなく、地域全体で支えるシステムづくりが必要ではないだろうか。今後、高齢化に伴い、在宅療養する高齢患者の増加が予想される。そのとき、夜間や休日の急変にも対応できる救急医療の需要がますます高まるからだ。

●たとえば、北米型ERを採用している名古屋第二赤十字病院が、地域の救急医療においてトリアージ(治療優先度の決定)機能を発揮する。重症度にかかわらずさまざまな患者を受け入れ、総合診断し、症状に応じて、同院はもちろん、地域の医療機関も含めて必要な治療を提供する。そのとき、カルテ情報も共有できれば、地域の救急医療はより安定するだろう。<救急>を核とした地域医療連携の構築も、今後の重要な課題といえそうだ。

 


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