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病院を知ろう

次代に必要な地域医療を見つめ、
市民の<健康・安心・安全>を
守り続ける。

 

 

稲沢市民病院


稲沢市民病院の「復活」から、丸一年。
さらに「市民から信頼される病院」をめざし、
新たな挑戦が始まっている。

main

平成26年11月4日、現在地(都市再生機構・旧稲沢団地跡地)に新築移転して外来診療をスタートした稲沢市民病院。
新病院は地上6階建ての鉄筋コンクリート造。救急外来、手術室、入院病棟など、すべてにおいて理想的ともいえる環境が整えられた。
それから丸一年経ち、同院はどこまでめざす医療を実現できたのか。そして、今後の展望は…。
移転1周年を迎えたある日、加藤健司院長のもとを訪ねた。

 

 

 

 

 

新しい病院で
活気を取り戻す。

Plus顔写真 「ここに来て1年、以前に比べ患者さんも増え、院内に活力がみなぎっています」。稲沢市民病院の加藤健司院長は開口一番、移転後の手応えについてそう語った。移転前は、医師不足や建物・設備の老朽化から患者が減り、赤字がふくらむと同時に、市民からの信頼を失っていた。その信頼を回復するために、この1年、同院は職員を挙げて病院機能の再生に挑んできたのだ。
 加藤院長が挙げる成果の第一は、大学医局の協力などによる診療機能の拡充である。とくに、これまで常勤医が不在だった脳神経外科、整形外科において常勤医を招聘。最新鋭の医療機器を導入し、高度な手術ができる万全の体制を整えた。そのうち脳神経外科では、4名の医師を獲得したが、彼らはみな脳神経外科の専門医であると同時に、脊椎・脊髄疾患の専門医でもあった。そこで院長は、その専門性を活かすべく<脊髄・末梢神経センター>を開設。以来、特色ある高度医療の展開に繋がった(詳しくはコラム参照)。現319070在、同院の手術件数は月間平均200件。移転前のほぼ2倍になる勢いだ。
 救急医療についても、大幅に実績を伸ばしている。稲沢市内全域における救急搬送人員は、年間5000人余り(平成26年実績は5440人)。以前は、その三分の一程度の救急患者を同院で受け入れていたが、現在は年間2683人(平成26年11月〜平成27年10月)まで伸び、市内で発生した救急疾患の半数近くを同院が支えるところまできた。救急車からの受け入れ要請は、通常時間帯はそのほとんどを受け入れ、同院で対応できない疾患についても、まずは初期診療を行い、他院へ転送する体制をとっている。「脳神経外科、整形外科の救急医療が再開され、脳出血や四肢の骨折なども断ることなく、幅広く対応できるようになったことが救急患者の受け入れ増に繋がっています。また、日頃の診療においても、地域の診療所の先生方からの紹介患者さんが20%程度増えています。CT、MRI装置などの医療機器も最新式に更新したこともあり、検査依頼も多くいただいています。救急、外来、手術のすべてにわたり、ステップアップしていると思います」と、院長はまずまずの手応えを得ている。

 

 

課題は医師不足、
そして職員の
さらなる意識改革。

  ここまで順調に経過している同院だが、この1年間でやり残したことや課題はないだろうか。「一番の課題は、医師不足です。確かに常勤医は36名まで増えていますが、まだ足りません。とくに、内科の専門領域を診る医師が不足しています。たとえば、<呼吸器内科>、<神経内科>、<腎臓内科>といった専門医を獲得したいところですが、なかなかむずかしいですね」と院長。看護師についても、新病院開業と同時に新卒看護師を多く採用したが、もう少しマンパワーを強化したいという。同院の病床数は合計320床(一般病床)だが、そのうち92床は人材不足により休止されたままだ。
 153_InazawaShimin_2014こうした人材不足をどうすれば補うことができるか。院長は「職員の一層の意識改革が鍵を握る」と考えている。「新病院になってみんなの意識が変わりました。救急の現場でも、看護師たちが中心となって、<救急患者を断らない>ために自発的に考え、創意工夫してくれています。そうした意識、すなわち<市民のために働く>という意識をもっと院内全体に浸透させることができれば、今以上のパフォーマンスを発揮できると思うのです。もう一歩踏み込んできめこまやかな医療サービスを提供して、市民の期待に応えていきたいと考えています」。

 

 

地域医療の変革に
いかに対応していくか。

300108 同院が大きな変革の一歩を踏み出したこの1年、地域医療もまた大きな転換期を迎えていた。超高齢化の進展にともない、国は高齢者が住み慣れた地域で自分らしい暮らしを最期まで続けられるような地域包括ケアシステムの実現を目標に掲げている。その実現に向けて、医療の中心は病院から在宅へ移り、医療の中身もキュア(根本的な治療)からケア(生活の質を高めるための全人的な医療)に重心が移るといわれている。また、地域医療の提供体制も、一つの病院で完治をめざす病院完結型から、地域の病院が役割分担して連携する地域完結型への転換が進められている。
 同院で新病院建設が決定されたのは平成21年。その当時には予想できなかったほど、地域医療は激動期を迎えているといえるだろう。当初、同院の基本構想では、幅広い診療領域にわたり臓器別専門医をそろえ、救急医療に力を注ぎ、7対1の看護配置(入院患者7人に対して看護師を1人以上配置)による手厚い看護を提供する急性期病院として地域に貢献していく計画だった。だが、医師についていうと、専門医制度の改革が進められるなか、医師は大学病院か基幹病院に集中。郊外部にある中小規模の病院にとって、医師獲得は非180058常に困難になってきた。また一方、これからの地域医療ニーズを考えたとき、当初の設計図のままで新病院を発展させていくことが良いのかどうか。今後の超高齢社会の医療ニーズに対応するには、臓器別の専門医療だけではなく、総合的な観点から患者の全身を診ていくことも重要になっていくのではないだろうか。時代の変化に合わせて、同院は基本構想から一歩前進した、新しいビジョンを策定していくことが求められているといえるだろう。

 

 

市民の健康や安心を守り、
市民から信頼される
病院をめざす。

P1240865 稲沢市民病院の新しいビジョンづくり。院長はこの問題を真正面から見据え、熟考を重ねている。「まず第一に、救急患者さんにしっかり対応し、コモンディジーズ(一般的な病気)を診ていくことが、当院の果たすべき使命だと考えています。それは、基本構想が作られたときと変わりません。常勤医は不足していますが、非常勤医師で補うなどして、地域で発症する疾患を総合的に診られる体制を作っていくつもりです。その上で…」と、院長は言葉を続ける。「これからの地域包括ケアシステムの仕組みづくりに関わり、市民病院としてできることを精一杯やっていきたいと考えています。たとえば、在宅療養している高齢患者さんが急変して救急搬送されてきたときは、当院が診て適切な治療を提供する。あるいは、急性期の治療を終えた患者さんを安心の在宅生活へ繋いでいく役割も果たしていくべきでしょう。また、病院での治療だけでなく、予防医療も重要です。市内の医療機180114関、介護施設などとの連携を深め、市民の健康保持と疾病予防に貢献し、市民から信頼される病院をめざしていきたいと考えています」。
 院長は、話のなかで<信頼>という言葉に力を込める。移転前は、市民や地域診療所からの信頼は低く、市民の病院利用度は決して高いとはいえなかった。しかし、今は違う。診療所からの紹介患者は大幅に増え、長く失われていた信頼は少しずつ回復してきた。だからこそ「その信頼の絆を太くするために、決して現状に満足していてはいけない」と、院長は手綱を引き締める。「今後も引き続き、市民のみなさんの声をよく聞いて、私たち市民病院に求められているニーズをしっかり見極め、それに応えていくことで、<本物の信頼>を獲得していきたいのです」。もう一歩前へ、さらにその先の未来へ。稲沢市民病院はさらなる病院改革を進めていこうとしている。

 


 

column

コラム1

●脊髄・脊椎疾患、末梢神経疾患、顔面痙攣など、脊髄神経や手足の末梢神経の病気を専門に扱うのが、稲沢市民病院の<脊髄・末梢神経センター>である。このセンターを率いるのは、名大医局から招聘した原 政人医師(同院副院長兼脳神経外科部長)。原医師は名古屋大学脳神経外科の脊髄・機能グループのリーダーとして臨床および教育に携わってきた人物。その豊富な経験を今、ここ稲沢市民病院でいかんなく発揮している。

●このセンターでは、手足のしびれや腰痛で苦しむ患者を、一人でも多く救うのと同時に、若手医師の教育の場としての役割も担う。将来的には名大の脳神経外科脊椎・脊髄グループの臨床教育拠点の一つとして、大学との人材交流もめざしていく方針だ。学会の認定指導施設の承認を受け、今後の成長が期待される。

 

backstage

バックステージ

●市民にとって、本当に必要なのはどんな市民病院なのだろう。かつては、幅広い診療科があって、どんな病気でも診るのが市民病院の姿だった。しかし、ここに来て、そうした病院のあり方が揺れ動いている。実際、医師教育の制度が変わり、ひと昔前のように、あらゆる診療科に専門医を配置するのはむずかしいという現実もある。

●では、これからの市民病院はどうあるべきか。すべての領域に専門医を揃えるというよりも、得意領域を打ち出しつつ、発症頻度の高い「よくある病気」にしっかり対応し、患者を在宅医療へと繋ぐことではないだろうか。そこで重要なのが、市民自身の意識改革だ。「わが町の病院」の得意・不得意をよく理解するとともに、「どんな病気も専門医に診てほしい」といった専門医志向を抑えて、適切に病院を利用していくことが、地域医療を守ることに繋がるのではないだろうか。

 


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