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前号のLINKEDでは、「知っておきたい! 変化する病院の明日。」と題して、地域医療構想についてQ&A形式で解説した。
本号は、その続編である。病床機能の再編をめざす地域医療構想は、各病院の経営や将来のあり方に大きな影響を与える。イラスト_リード
病院サイドはどのように考え、悩み、葛藤し、9年後に向けて改革に挑もうとしているのか。
東海三県の病院協会の理事長・会長に取材し、各県が抱える地域医療の現状や課題、地域医療構想の進捗状況などを探った。
また各県とは別の視点から、有識者に、地域医療構想を進める上で留意すべきポイントなどを聞いた。
地域医療構想の策定はまだ始まったばかりである。
今後ますます白熱するであろう議論の行方を、地域住民の目でしっかり見定めていきたい。

 


 

リード小見出し
 地域医療構想は、団塊の世代が75歳以上になる2025年の医療需要を推計し、そのときに必要な医療機能を考え、あるべき姿を示す骨組みである。この構想の背景には人口構造の変化がある。今後、高齢者人口は増加するが、15〜64歳の生産年齢人口は減少。すなわち、医療や介護需要の増加を支える財源や人材が大幅に不足することが予想される。そのため医療のムダを省き、限りある医療資源を有効活用し、効率良く医療を提供する仕組みを構築しようというのが、この構想の目的である。
 地域医療構想は、国の指針に基づき、都道府県が主体となって進め、都道府県が作成する医療計画に反映する。まず構想区域(※)ごとに、人口構造の変化や疾病別の医療需要などを推計。「高度急性期・急性期・回復期・慢性期」という4つの医療機能別に、必要な病床数をおおまかに決めていく。但し、その病床数は当然、現在、各病院が担う医療機能とはギャップがある。その溝を埋めつつ、在宅医療ニーズも含めた最適な地域医療の形について協議する場が、「地域医療構想調整会議(以下、調整会議)」である。ここでは、病院や医師会などの医療関係者、行政の担当者、住民の代表者などが集まり、9年後を見据えた議論を積み重ねている。

※構想区域は、二次医療圏(特殊な医療を除く入院治療を主体とした医療需要に対応するために設定された区域)をベースに設けられる。

リード_地域医療構想図


 三重_見出し

地域医療構想を実現するための
医療従事者の確保が課題。

三重_先生 南北に長い地勢を持つ三重県は、4つの二次医療圏で構成される。三重県における地域医療の課題は何だろうか。「最大の課題は、医療資源、とくに医師や看護師が少ないことですね」と語るのは、三重県病院協会理事長の濵田正行氏である。三重県は人口当たりの病床数、医師や看護師の数などのすべてが、全国平均を下回る。その傾向は離島や山間地、県南部でとくに顕著に見られ、三重県の北部と南部で、医師数の地域格差が広がっている。救急医療についても、重篤な患者に対応する三次救急医療機関は四日市市、津市、伊勢市に4つあるのみで、県南部(東紀州)の救急医療は広域の医療連携で支えている。
 こうした課題を抱える三重県では、「地域医療構想の策定においても、人材の確保など三重県全体で取り組むべき課題が多くあります」と濵田氏は言う。三重県では4つの二次医療圏をさらに分割。8つの構想区域(桑員・三泗・鈴亀・津・伊賀・松阪・伊勢志摩・東紀州)を設定して調整会議を行っている。そこで個々の地域の実情に即したきめ細かい議論を進めると同時に、三重県全体で2025年までに必要な医師や看護師を確保し、県全域に安定供給していく仕組みが必要となる。「県全体の病院、診療所、行政がさまざまな形で連携を深め、人材の教育と獲得に力を注いでいくことが大切」と濵田氏は話す。

4つの病床機能を
フレキシブルに考えていく。

 8つの構想区域ごとの調整会議は、2015年7月から始まった。まず、三重県が構想区域の人口動態などのデータに基づき、2025年に必要な医療提供体制の方向性を提案し、医療関係者と意見交換を行ってきた。そこではどんな議題が上がっているのか。「これは全国共通の課題ですが、三重県においても回復期病床が不足しています。急性期を脱した患者さんを受け入れる病床を増やし、在宅へ繋いでいく機能を強化しなくてはなりません」(濵田氏)。
 但し、回復期病床を増やすと言っても、「4つの病床機能区分ありきで話を進めるべきでない」と濵田氏は指摘する。「〈高度急性期・急性期・回復期・慢性期〉という病期は分割できるものではなく、患者さんにとっては連続しています。たとえば、回復期の患者さんであっても、容態が急変し、急性期医療を提供しなくてはならないこともあります。そうした連続性を踏まえ、柔軟な発想で医療機能の分化と連携を考えていかねばなりません」。
 現状では、各病院が認識している自院のポジショニングと、2025イラスト_三重年に求められるポジショニングは必ずしも一致しない。「各病院が県から示された客観的なデータを分析し、これから自院の将来ビジョンを定めていくことになると思います。4つの病床機能区分の条件はまだ最終的に決定されているわけではなく、今年度の診療報酬改定を経て、より明確になると思います。したがって、各病院が自院の病床機能のあり方を本格的に検討するのも、それ以降になるでしょう」。濵田氏は今後の見通しについて、そのように語った。

 

岐阜_見出し

医療過疎地を抱えた
岐阜県での地域医療構想。

岐阜_先生  県土の大半を森林で覆われた岐阜県は、交通不便、冬期積雪といった厳しい地勢的条件を持つ。そうした要因から、医療資源の乏しい山間地も多く、岐阜市街地を除けば、全国でも有数の医療過疎地域である。医療資源は人口の多い岐阜市内に集中し、隣接する愛知県、富山県、長野県などと患者の流出入もある。
 岐阜県病院協会会長の冨田栄一氏は、こうした岐阜県が抱える地域医療の現状について「医療資源の偏在は、岐阜県が抱える大きな課題」だと話す。「たとえば、周産期医療の医師不足など、個々の二次医療圏では解決できない問題も多くあります。医師を多く抱える岐阜市内の病院が、他地域の病院の診療をサポートするなど、これからも県全体の限られた医療資源を有効に活かし、病院同士の連携で支え合う必要があります」。
 広い県内をカバーする広域の医療連携ネットワークを前提としつつ、岐阜県では二次医療圏と同じ「岐阜・西濃・中濃・東濃・飛騨」という5つを構想区域として、それぞれの区域で調整会議を進めてきた。岐阜県の協議の特徴は、調整会議とは別に、病院協会主催の説明会を構想区域ごとにきめ細かく開催していることだろう。「みんなが本音で話し合える場を作りたかったのです。説明会では、病院関係者と行政担当者だけが集まり、自由な発言を促すために、議事録は一切取りません。おかげで毎回、談論風発の趣です。お互いの考えを率直に述べ合うことで、考え方の溝を少しずつ埋めることができるため、回を重ねるごとに、みんなの意識が一つの方向に向きつつあるように感じています」。

将来の地域の変化を見据えた
議論を重ねていきたい。

  岐阜県の調整会議ではすでに、構想区域ごとの必要病床数の見込みや、各病院の役割分担に関するおおまかなプランが岐阜県から提示されているという。「岐阜県が提示するプランは、レセプトなど客観的なデータに基づくものだと、受け止めることも大切ですが、実際に〈急性期病床から回復期病床への転換〉といった内容を目にすると、当然いろいろな意見が出ると思われます。しかし、あくまで今から10年かけてゆっくりとその方向に進んでいく、ということだと捉え、各病院が自主的に考えるべきだと思っています」と、冨田氏は語る。
 今後の調整会議の見通しについては、「人口構造の変化に加え、医療の質もキュア(根治的治療)からケア(生活の質を高めるための全人的な医療)へと変わっていきます。そういうダイナミックな変化も見据えつつ、各区域の地域医療構想を検討していくべきだと考イラスト_岐阜えています」と語る。また、その協議は「決して急ぐ必要はないのではないか」と冨田氏は言う。「時間をかけてじっくり話し合い、医療に携わる人が全員納得できるところまで持っていきたいですね。一部の大規模な病院や公立病院だけが利益を得るような体制ではなく、大小すべての病院、行政、もちろん受益者である地域住民も含めて、ウィン・ウィンの(双方に良い)結果へ導くことが何よりも大切。そのための調整役として、これからも私たち病院協会は貢献していきたいと思います」。

 

愛知_見出し

現状の地域医療体制の
良さを壊さないことが出発点。

愛知_先生  医療資源の不足や偏在などの問題を抱える三重県、岐阜県に比べ、愛知県の地域医療体制は比較的恵まれているといえるだろう。人口当たりの総病床数や医師数などは全国平均を下回るが、名古屋市を中心にした周辺都市に中核となる急性期病院が分散し、効率的に医療を提供する仕組みができあがっている。
 「愛知県には、これまで築いてきた地域医療体制があります。その良さを壊さないように、地域医療構想を慎重に策定することが大切だと考えています」と語るのは、愛知県病院協会会長の加藤林也氏である。「慎重」という言葉を裏づけるように、愛知県では、平成27年12月現在、まだ調整会議を開催しておらず、その前段階として、地域医療構想調整ワーキンググループ(作業部会)を設置し、構想区域(二次医療圏をベースにした11区域※)ごとに医療関係者の意見を吸い上げるところから一歩を踏み出した。加藤氏はその狙いについて、「県の主導ではなく、病床再編の担い手である病院が主体的に取り組もうと考えました。そのために、まずは構想区域ごとに問題点を吸い上げ、その情報をもとに、医療審議会医療体制部会で地域医療構想を練っていく体制を作りました」と語る。同時に県下の病院団体で、五病院団体協議会(医療法人協会、精神科病院協会、日本病院協会愛知県支部、全日本病院協会愛知県支部、愛知県病院協会の5団体による組織)を結成。県内のすべての病院関係者が情報を共有し、意思の統一を図る場として機能している。

より良い医療提供体制をめざし、
PDCAサイクルを回していく。

  地域医療構想は、病院の病床数の再編が主眼となっているが、もっと広い視野で加藤氏は地域医療の未来を見つめる。「気がかりなのは、在宅医療の整備の遅れです。地域医療構想が策定され、高度急性期から慢性期までのシナリオができても、その先の地域の受け皿がなくては意味がありません。たとえば、医療の必要度の低い患者さんで、今は入院している人も、今後は自宅や施設で生活していかねばならない。そういう人たちの受け皿が用意されなくては、高齢者は医療と住宅の両方を失うことになりかねません」と危惧する。
 そうした諸事情を横目でにらみつつ、加藤氏は「拙速に必要病床数を決定すべきではない」と断言する。「愛知県が試算する2025年の必要病床数は人口動態などをベースにしていますが、今後9年で、医療の中身も当然変わると思います。たとえば、がん診療の進化により、従来の入院治療から通院治療へさらにシフトすることも考えられます。また、人口構造が変わり、医療が変われば、病院も変わらなくてはイラスト_愛知なりません。だからこそ、9年後に必要な病床を、今、性急に準備する必要はありません。今後4年間くらいで議論を重ね、医療提供体制のモデルを決定する。その後、5年間くらいで医療の変化や患者動向に合わせ、PDCA(計画・実行・評価・改善)サイクルを回して、2025年に理想的な体制ができればよいと思うのです。無理な病床再編により、公的病院が民間病院の経営を圧迫することがあってはなりません。そういう危機感も持ちつつ、じっくり取り組んでいきます」。

※名古屋・尾張中部、海部、尾張東部、尾張西部、尾張北部、知多半島、西三河北部、西三河南部東、西三河南部西、東三河北部、東三河南部の11区域。


 

提言1_見出し

リソース、住まい、意識。
準備はまだ、万全ではない。

 高齢になっても、住み慣れた地域で、安心して暮らし続ける。そうした次代を見つめ、今、私たちの国では、地域医療の再編成と地域包括ケアシステム構築の二軸が動いている。それに対して、「地域包括ケアシステムの要である在宅医療には、大きな問題がある」と指摘するのが、愛知県医師会会長の柵木充明氏だ。「地域医療構想のゴールは、在宅療養の患者さんを増やすこと。つまり、地域包括ケアシステムが受け皿になるということです。そのためには、充分な医療・介護のベースとなる住まいが地域で保障されていることが大切。だが現実は、医療リソースはまだ病院にあり、地域に輩出されていません。その状況での在宅療養では、家族介護を必要とし、介護の社会化として策定された介護保険に矛盾します。また、高齢者向け集合住宅を住まいとした際は、医療提供という視点では効率的かもしれませんが、ただ現状の高額な入居費を考えると、利用者が限定されるという問題もあります。施設医療か在宅医療か。在宅医療の場合、介護保険でどこまでをカバーするのか。こうした問題が未解決のまま、地域医療構想だけ突出した場合、そのリスクは計りしれません」と、柵木氏は警鐘を鳴らす。
提言1_先生 「さらに、医療従事者の意識改革も必要です。ことに地域医療の核となる医師が、開業医はもっと生活の場に出る、病院勤務医は急性期至上主義を捨てる。そして、病院は規模優先の考えを改める。もっと患者さんに焦点を当てた視点が必要だと考えます」。そう語る柵木氏は、まずは愛知県医師会による、医師と多職種との連携で地域を支える仕組みづくりに力を注いでいる。

 

提言2_見出し

地域医療は、
地域住民のものである。

 地域医療構想の実現をめざし、各県・各構想区域において、活発に議論が繰り広げられている。その議論で重要なことは何だろうか。厚生労働省の有識者会議「療養病床のあり方等に関する検討会(※)」の構成員も務める、社会医療法人財団新和会 理事長の松本隆利氏に話を聞いた。「最初に押さえておきたいのは、〈医療は誰のものか〉という視点です。ノーベル経済学賞の候補にもなった宇沢弘文先生の指摘にもあるように、医療は国や医療者のものではなく、それぞれの地域の社会的共通資本であり、地域住民のものです。ですから、地域医療構想においても、医療関係者が主体的に〈地域のことは地域でやる〉という覚悟を持つ。その上で、自分たちの地域に、どんな医療がどの程度必要なのか、マーケティングを徹底的に行うことが必要です。たとえば、地方と都会では医療ニーズは異なります。人口の少ない地方で4つの病床機能に基づく病院の役割を細分化する必要があるかどうか。そういうことも議論すべきだと思います」。
 もう一つの視点として、松本氏は「病院は地域の中心ではなく、基盤であることを忘れてはいけない」と言う。「地域を発展させるのは産業であり、提言2_先生産業構造が変われば、地域が変わり、求められる医療も変わります。したがって、地域医療の将来構想も、病院の事情を優先するのではなく、町づくりとともに考えるべきです。町の変化に合わせて、必要な医療を拡充し、一方では過剰になった医療は縮小しながら、常に地域医療が最適になるよう、形を変えていくことが大切ではないでしょうか」。

※慢性期の高齢者の増加に対応できる療養病床のあり方を議論する検討会議。

 


LINKED本編_エディターズアイ見出し

 

 「病院が語る、地域医療構想」と題して、今回は東海三県の病院協会から話を聞いた。三県とも、方法は異なるが、地域の病院同士が会話を積み重ねている姿があった。LINKEDは、その姿勢に共感と納得を覚える。ただ、その病院同士の会話から、地域住民は置き去りにされていないだろうか。逆に言えば、地域の病院の姿が大きく変わろうとしているのに、住民は、当事者意識を持って地域医療構想に参加をしているだろうか。
確かに地域医療構想は専門的で難しく、生活者からは解り難い。だからこそ、まずは伝えて、興味関心を持ってもらう努力が必要となる。LINKEDは、医療現場と生活者を繋ぐために、さまざまなメディアを創造し、生活者が正確な情報を知る、理解する、そして、声を出せる環境づくりに、こだわっていきたい。



 

HEYE

名大総長 松尾清一/
汗を流し、しなやかな発想で各論を導くことが必要

元厚生労働副大臣 大塚耕平/
地域医療構想の成否
問われる連携と協力

EEYE

地域住民の当事者意識の醸成が不可欠

 


SPECIAL THANKS(編集協力)

「PROJECT LINKED」は、本活動にご協力をいただいている下記の医療機関とともに、運営しています。
(※医療機関名はあいうえお順です)

愛知医科大学病院
愛知県がんセンター 中央病院
足助病院
渥美病院
あま市民病院
安城更生病院
伊勢赤十字病院
稲沢厚生病院
稲沢市民病院
鵜飼リハビリテーション病院
大垣市民病院
岡崎市民病院
尾張温泉かにえ病院
海南病院
春日井市民病院
可児とうのう病院
蒲郡市民病院
刈谷豊田総合病院
岐阜県総合医療センター
岐阜県立多治見病院

岐阜市民病院
岐阜大学医学部附属病院
江南厚生病院
公立陶生病院
公立西知多総合病院
小林記念病院
市立伊勢総合病院
聖霊病院
総合犬山中央病院
総合大雄会病院
総合病院中津川市民病院
大同病院
知多厚生病院
中京病院
中部ろうさい病院
津島市民病院
東海記念病院
常滑市民病院
豊川市民病院
トヨタ記念病院

豊田厚生病院
豊橋市民病院
名古屋医療センター
名古屋掖済会病院
名古屋市病院局
(東部医療センター・
西部医療センター)
名古屋市立大学病院
名古屋大学医学部附属病院
名古屋第二赤十字病院
成田記念病院
西尾市民病院
はちや整形外科病院
半田市立半田病院
藤田保健衛生大学病院
増子記念病院
松阪市民病院
松波総合病院
みよし市民病院
八千代病院

 

※読者の皆さまへ
<LINKED>は生活者と医療を繋ぐ情報紙。生活者と医療機関の新しい関係づくりへの貢献をめざし、中日新聞広告局広告開発部とPROJECT LINKED事務局・HIP(医療機関の広報企画専門会社)の共同編集にてお届けします。

企画制作 中日新聞広告局

編集 PROJECT LINKED事務局/有限会社エイチ・アイ・ピー

Senior Advisor/馬場武彦 
Editor in Chief/黒江 仁
Associate Editor/中島 英
Art Director/伊藤 孝
Planning Director/吉見昌之
Copywriter/森平洋子
Photographer/越野龍彦/加藤弘一/ランドスケープ/空有限会社
Illustrator/にしわきコージ
Editorial Staff/伊藤研悠/村岡成陽/吉村尚展/黒柳真咲/國分由香
      /水野文恵/上田翔太/糸藤広江/小塚京子/平井基一
Design Staff/山口沙絵/大橋京悟
Web制作/G・P・S/Media Pro

 

 

 


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