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シアワセをつなぐ仕事

専門性の高い看護外来が
在宅での療養を支える。

石井美穂(日本糖尿病療養指導士)/豊橋市民病院


 

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豊橋市民病院は、東三河南部医療圏唯一の三次救急病院として、対象人口約76万人の地域住民の医療を支える、いわば地域の最後の砦としての役割を果たす。
そんな同院では、患者や家族が安心して在宅療養を送るための取り組みとして、看護師による専門外来(以下、看護外来)に力を注いでいる。
今回は糖尿病患者に対する看護外来の取り組みを通じ、同院が地域医療のなかで果たしている役割を紹介していく。

 

 

 


 

専門性の高い看護師を外来に配置し、
退院後の在宅療養を継続して支援していく。


 

 

 

フットケア外来を担当するのは、
糖尿病のスペシャリストナース。

 210_L21ToyohashiShimin_2015 「水虫の薬、ちゃんと塗っていますか」。そんな言葉をかけながら、患者の足を観察し、爪切りを行うのは、外来看護師(糖尿病・内分泌内科、皮膚科所属)の石井美穂である。ここは、豊橋市民病院の看護外来の一つ「フットケア外来」。受診は予約制で、患者は平均して6〜8週間に一度、ここを訪れ、看護師による足のケアを受けている。
 フットケアというと、足の爪や足裏の角質などをきれいにケアしてくれる街中のフットケアサロン、あるいは、巻き爪や魚の目などのトラブルに対応する皮膚科や整形外科の治療をイメージする人もいるかもしれない。しかし、同院のフットケア外来の対象は、糖尿病患者。糖尿病による合併症の一つ「足病変(足の病気や障害)」の予防を目的に開設されている。
 なぜ、糖尿病患者なのか。糖尿病と足は一見、無関係に見えるが、実は深い関係がある。糖尿病を患い、高血糖の状態が続くと、神経細胞にダメージを与えることから、足の感覚が鈍り、痛みを感じにくくなる。また、末梢血流障害と感染症に対する抵抗力が低下するため、小さな傷でも重症化しやすく、気がつくと足に潰瘍(かいよう:えぐれたような傷)ができたり、ひどいときは足が黒く変色して壊死し、切断を余儀なくされる。足病変が重症化し、下肢切断に至るケースは年間1022_L21ToyohashiShimin_2015万人以上にのぼるともいわれている。そうならないように、普段から足のケアを怠らないことが必要なのだ。
 糖尿病患者を対象とするため、フットケア外来の看護師は全員、糖尿病や足病変に熟知したスタッフで構成されている。なかでも、石井は糖尿病の臨床における生活指導に精通した「日本糖尿病療養指導士」の資格を持つスペシャリスト。足のケアだけでなく、食事や運動など生活全般に目を配り、適切な助言を行ったり、必要な情報を医師に伝えたりしている。

 

 

患者の療養生活を継続して支える
オーダーメイドの支援。

Plus顔写真1 そもそも糖尿病とは、食べ物から分解された糖が体内に吸収されにくくなり、血液の中の糖(血糖)が高くなる病気である。血糖値が高い状態が続くと、先に紹介した足病変のほか、網膜症、腎症、脳梗塞、狭心症、心筋梗塞など、身体のあらゆる部分で深刻な合併症を起こす。多少血糖値が高くても、ほとんど自覚症状がないため、放っておくと、ある日突然、生命にかかわる重篤な状態に陥ってしまう。それが、糖尿病の恐ろしさなのである。
 したがって、糖尿病治療の目的は、血糖値を適切にコントロールし、そうすることで、合併症を引き起こさないようにすることである。同院では、糖尿病教育入院(患者が糖尿病とは何かを学び、栄養療法などの指導を受ける入院)を中心に、患者が合併症の予防を意識して、自分で血糖値をコントロールできるように患者教育に力を注ぐ。しかし、一時的な入院だけでは、なかなか治療効果が上がらないケースもある。そこで、開設されたのが糖尿病に関する看護外来だ。同院では「フットケア外来」と「糖尿病療養支援外来」という2つのチャネルを整備。その他、必要に応じて「糖尿病透析予防指導」を行い、糖尿病患者の療養生活を継続して支える体制を整えている。
 215_L21ToyohashiShimin_2015糖尿病療養支援外来では、主治医から依頼が入る。「<薬の処方を続けているけど、なかなか血糖値が下がらないから、患者さんの話を聞いてほしい><患者さんがインスリンの導入を拒否されているので、介入してほしい>といった依頼をよく受けます。そんなふうに治療がうまく進まないときは、何か必ず患者さんが心理的な問題や生活上の問題を抱えていらっしゃいます。その問題を探り、一緒に解決していくのが私の役目。たとえば、仕事柄、生活時間が不規則にならざるを得ない患者さんであれば、できる限り生活スタイルに合わせた薬の処方を主治医に相談するなど、患者さん一人ひとりに合わせたオーダーメイドのケアを心がけています」と石井は話す。

 

 

ますます重要性を
増してきた看護外来。

 同院では、糖尿病関連の看護外来のほか、大腸がんなどでストーマ(人工肛門)を造設した患者を対象にした「ストーマ外来」、がんとともに生きる人を支える「緩和ケア外来」を開設。退院した患者の療養生活を継続して支えている。
 このように、同院が看護外来に力を入れる狙いはどこにあるPlus顔写真2のだろう。外来2階の看護師たちを束ねる夏目文子看護師長は、理由の一つとして「同院の高度急性期病院としての役割」を挙げる。同院は重症患者を受け入れ、短期間で高度な急性期医療を集中的に提供する高度急性期病院の役割を担う。病院の機能分担が進み、急性期を脱した患者は円滑な転院・退院により、地域の診療所等で継続して医療を受けることになる。
 その結果、同院の平均在院日数は12・8日(平成26年度)まで下がってきた。「以前は、入院中にじっくり療養生活の指導ができましたが、今は必要最低限の説明で退院をしていただかないといけない。だからこそ、通院される患者さんに専門性の高い看護を引き続き、提供することが必要になってきました」(夏目師長)。
 また、糖尿病など慢性疾患を抱えて生活する患者が急性増悪しないように支える機能も同院の役割として、地域から求められている。こうした事情を背景に、外来看護の重要性が増しているのである。

 

 

病院と地域の架け橋となり、
患者に継続した看護を提供していきたい。

178_L21ToyohashiShimin_2015 医師の診察とは別に、看護師が主体となって患者を支える看護外来。当然、そこには、高度な看護能力が求められる。同院では、糖尿病関連の看護外来には「日本糖尿病療養指導士」、ストーマ外来には「皮膚・排泄ケア認定看護師」、緩和ケア外来には「緩和ケア認定看護師」が配置され、それぞれ専門性の高い看護を実践している。すなわち看護外来は、高度急性期病院ならではの専門性の高い看護を、在宅療養中の患者に届ける<窓口>の役割を担っているともいえるのではないだろうか。「その通りですね」とうなずき、夏目師長は、次のように続けた。「看護外来を通じて、質の高い継続性のある看護を提供することにより、患者さんの生活の質を少しでも高めることができます。みんな<地域の患者さんのため>という高い志を持って、専門的に看護能力を発揮してくれています」。
 また、夏目師長はそんな看護外来の活躍が、ほかの看護師のモチベーションアップに繋がっている点にも言及する。「実は外来看護師の7割はパートタイム勤務で、石井もその一人です。彼女は雇用形態にかかわりなく、看護の専門性を極められることを実証してくれています。これからも彼女が模範となり、彼女に続くような看護師が育っていってほしいですね」。その上で同院がめざす189_L21ToyohashiShimin_2015のは、外来看護師が病院と地域を繋ぐ架け橋となることだ。今後、さらに高齢者が増え、病気とともに生活する人たちが増えていく。そのとき、高度急性期病院である同院は、退院した患者にも安心の療養生活を送れるように、繋ぎ、支えなくてはならない。「私たち外来看護師が中心となって、病院と在宅の間を継続性のある看護で繋ぎ、安心の療養生活をしっかりサポートしていきたいと考えています」。夏目師長は、明るい口調でそうしめくくった。


 

 

columnコラム

●豊橋市民病院の糖尿病・内分泌内科、皮膚科の取り組みの一つに、糖尿病で教育入院をしている患者を対象にした「糖尿病カンバセーション・マップ」を用いた学習会がある。糖尿病カンバセーション・マップは世界各国で普及が進んでいる新しい学習教材。5〜10人の患者が、双六のようなゲームを通じて、糖尿病について話し合い、貴重な気づきを得ていくものだ。

●石井美穂看護師は、その学習会のための専門的なトレーニングを受講。学習会の進行役として、ときどき糖尿病・内分泌内科病棟に出張し、患者たちの会話を巧みに導いている。受講した患者からは「仲間がいると勇気づけられた」「ゲームのように楽しく学べた」と好評の声が届いているという。同科では今後もこうした新しい試みを積極的に取り入れ、糖尿病患者の支援に取り組んでいく計画である。

 

backstage

バックステージ01

●平均在院日数の短縮により、継続医療が必要な患者を外来でフォローするケースが増加している。また、医療技術の進歩に伴い、がん化学療法など高度な治療も外来で行えるようになってきた。

●こうしたなかで、重要な役割を果たすのが、外来看護師である。外来看護師には、診療の補助に加え、継続的な看護の提供、患者の在宅での療養生活の支援、患者の自己決定を支える的確な情報提供など、幅広い役割が期待されている。さらに診療報酬上の評価も、こうした専門性の高い看護外来の機能を後押ししている。

●現在、急性期病院では、入院中に高度な治療を集中的に行い、退院後は地域の医療機関と連携しながら、外来で継続した医療・看護を提供している。このスタイルは今後ますます進んでいくだろう。そのとき看護外来は、看護師が自らの持つ専門性をより発揮できるステージとして、より大きな役割を持っていくのではないだろうか。

 

 


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