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病院を知ろう

がん診療のフロンティアに挑み、
誰でも「夢の治療」が
受けられる未来を創る。

 

 

愛知県がんセンター 中央病院


新開発の医療技術を、「先進医療」へ。
先進医療を、保険適用の「標準医療」へ。
明日のがん診療を拓く創造者たち。

main

手術支援ロボットによるがん切除術、内視鏡によるがん切除術、あるいは、患部に針を刺して行うラジオ波治療など。
患者の体への負担軽減をめざした新しいがん治療法が次々と誕生している。それらの一部は、まだ保険適用が認められていない。
そうした最先端の医療を標準医療にするために果敢に挑戦するのが、愛知県がんセンターである。
がん診療のフロンティアを切り拓く、専門医たちの取り組みを追う。

 

 

 

 

 

手術支援ロボット ダヴィンチXiを導入。
前立腺がんに続いて将来は膀胱がんも…。

Plus顔写真1 平成27年7月、愛知県がんセンター中央病院(以下、同センター)に、待望の最新型手術支援ロボット「ダヴィンチXiシステム」が導入された。ダヴィンチは鏡視下手術を支援するロボット。執刀医は患者の体内の立体映像を見ながら、遠隔操作でロボットアームを動かし、先端のメスや鉗子(かんし)で手術する。「体に負担が少ない低侵襲性、安全性の両面で、導入を待ち望んでいました」と語るのは、泌尿器科部部長の曽我倫久人医師である。曽我はこれまでに十数例の前立腺がん手術を行い、確かな手応えを実感したという。「ダヴィンチの良さは、人間以上に緻密な動きができるところ。たとえば、細かい縫合処置も確実にでき、出血リスクを低減できます。その結果、出血のないドライな視野を確保でき、切除範囲もより明確に決定できるようになりました」。
019_GanCenter_L21_2016 そんなダヴィンチの利点は当然、前立腺以外の手術にも活かすことができる。現在、保険診療が行えるのは前立腺がん手術のみだが、平成28年4月から腎がんが保険適用されることが決定。続いて、ダヴィンチを用いた胃がん、咽喉頭がん治療が「先進医療(※)」として全国で進められており、さらに、大腸がん、肺がん、子宮頸がん、膀胱がん、食道がんなども先進医療に認められる可能性が広がっている。「泌尿器科部としては、これで前立腺がんに対する最先端の治療を届けられるようになりました。ゆくゆくはダヴィンチを用いて膀胱がんの治療ができるように準備を進めていく予定です。また、院内を見渡せば、消化器外科部、呼吸器外科部、婦人科部などの診療チームがそれぞれ、ダヴィンチによるがん治療を視野に入れて動き出していますね」(曽我)。すでに、消化器外科部ではダヴィンチを用いた胃がん切除術を1例行ったところで、ダヴィンチの適用範囲は確実に広がっていく気配だ。

※先進医療とは…
最新の医療技術のなかで、厚生労働省が安全性、倫理性、有効性などを確認したものが「先進医療」となり、厚労省が承認した「先進医療の実施医療機関」で実施される。先進医療を受ける際の費用は、混合診療(先進医療にかかる費用は患者の自己負担、それ以外の診療費用は保険診療と同じ扱い)として扱われる。

 

 

内視鏡治療において
先進医療を標準治療へ導いてきた。

 Plus顔写真2 胃や大腸などの消化管の早期がんについては、今や内視鏡を用いて取り除く低侵襲治療が主流になってきた。最も新しい治療法は、ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)。従来のEMR(内視鏡的粘膜切除術:スネアと呼ばれる金属製の輪をかけ病変を切除する手技)に比べ、大きな病変を取り残すことなく、一括切除できる利点がある。胃のESDは平成18年、食道のESDは平成20年、大腸のESDは平成24年から、それぞれ保険診療として認められた。
 同センターでは、これらの治療が保険適用になる前から、患者の同意を得て治療をスタート。大腸ESDに関しては、厚労省から「先進医療の実施医療機関」に承認され、症例を蓄積。治療の有効性・安全性を検証し、新たな診療ガイドライン(診療指針)作りに大きく貢献した。そのESDの導入当初から携わってきたのが、内視鏡部部長の田近正洋医師である。「大腸ESDは、技術的な難易度が非常に高い治療法です。大腸壁が薄いので穿孔のリスクが高く、安全性の検証が重要なポイントでした」と振り返る。田近は充分な訓練を経てこの治療に臨み、豊富な症例を手がけてきた。そして、その卓越の技術を今日、内視鏡部の後輩医師はもちろん、院外から研修・見学に訪れる医師たちへ伝えている。大腸ESDは保険適用になった今も、どこでも受け041_GanCenter_L21_2016られる平易な治療法ではない。内視鏡治療を専門とする専門医にとっては最後の難関ともいえる手技だ。「大腸ESDはハードルが高い手技ですが、患者さんの体の負担を考えれば、内視鏡で一度にがん組織を切除できるメリットは計り知れません。当院はもちろん、施設基準を満たした病院であれば、どこでも安心して受けられるように、技術の普及をめざしていきます」(田近)。

 

 

愛知県がんセンターが
先進医療に挑戦する理由とは。

104_GanCenter_L21_2016 ここまで、手術支援ロボットや内視鏡治療の分野で、保険適用されたばかりの最先端の治療、そして、その前段階にある治療法への取り組みを見てきた。では、そもそも新しい医療技術が一般に普及するまでどんなプロセスをたどるのか、簡単に解説しておきたい。まず、大学や研究機関などで開発された医療技術は臨床試験を経て、ある程度の安全性と有効性が認められ、医療現場で使われるようになる。そこで厚労省が「先進医療」と認めたものは、さらに症例を積み重ね、エビデンス(科学的根拠)を蓄積。評価が定まると公的医療保険の対象となる。その後、専門家の推奨を受けて診療ガイドラインに掲載され、ようやく現場の医師たちに広まり、患者が恩恵を受けることができる。
 同センターはこうしたプロセスの先端部分から関わり、先進医療の実用化に積極的に貢献している。その理由はどこにあるのだろうか。「地域をリードし、がん制圧をめざす特別な施設として、常に新しい治療に挑戦することは私たちの当然の取り組みだと思います」と曽我は語る。同センターは、病院と研究所を併せ持つがんに特化した臨床・研究拠点であり、都道府県がん診療連携拠点病院として、県内24カ所のがん診療の拠点病院を束ね、愛知県のがん医療の底上げを図る役割を担う。いち早く新しいがん治療法の開発に着手し、それを地域に広め、すべての患者が質の高いがん診療を受けられることこそ、同センターの根幹にある使命なのである。

 

 

診療ガイドライン作りに貢献する、
最先端のIVR治療(※)の取り組み。

Plus顔写真3 保険適用前の治療として、最後にもう一つ、「ラジオ波焼灼療法(RFA)」を紹介したい。放射線診断・IVR部部長の稲葉吉隆医師に話を聞いた。「RFAは、ラジオ波を使って行う治療です。CTで位置を確認しながら、皮膚の上から病巣部に針を刺入し、ラジオ波電流で熱を加え、がんを死滅させます。開腹や開胸手術に比べ、体への負担が少ないところが利点ですが、今のところ、肝がんに対してのみ保険適用が認められています」。同センターでは、RFAの適用を広げるために、「先進医療の実施医療機関」として、肺がん、腎がん、骨腫瘍に対する症例を積み重ねてきた。その検証が平成25年に終了し、肺がんと腎がんについては保険適用に向けて前進しているところだ。
 「これまで蓄積したエビデンスを活かし、費用の自己負担を前提に、希望される患者さんには、肺がん、腎がんに対するRFAを実施しています。患者さんからすれば、より低侵襲で有用な治療法を受けたいのは当然のこと。138_GanCenter_L21_2016その切実な思いに応えるとともに、豊富な症例を積んで、標準医療の確立に役立てていきたいと考えています」と稲葉は語る。ここでの実績は、やがて肺がん・腎がんの診療ガイドライン作りのベースとなるものである。
 開発された最新医療技術を先進医療へ引き上げ、さらに先進医療から標準医療を確立するために——。同センターはこれからも、公的医療保険の医療水準を超えた新しい治療法に果敢にチャレンジし、がん診療の未来を切り拓いていく。

※ 画像診断技術を応用した低侵襲の治療法。

 


 

column

コラム

●愛知県がんセンターに導入された手術支援ロボット「ダヴィンチXi」には、操縦席が2つある。操縦席が1つだけのタイプも選べたが、あえて「高額になるが、2名で操作できるタイプ」を導入したという。

●その狙いについて、曽我医師は次のように説明する。「操縦席が2つあれば、熟練者による指導・監督が容易にでき、ダヴィンチという新しい医療技術を広めるのに役立ちます。私も最初の症例は他施設の熟練医師のサポートを得ました。同様にこれからは、私が後輩たちを指導していきたいと思います」。

●同センターには、がんの最新医療を学ぶために、県内外から多くの医師が研修・見学に訪れる。彼らに最新の医療技術を伝授し、愛知県、そして全国へ広げていくことも、都道府県がん診療連携拠点病院である同センターの大きな使命なのである。

 

backstage

バックステージ

●「先進医療」という言葉を、がん保険のCMなどでよく耳にするようになった。本文でも述べたように、先進医療は将来の保険適用をめざし、検証を進めていく段階にある医療のことを指す。

●その段階、いや、正確に言えば、先進医療に承認される前の段階から、いち早く新しい医療技術の研鑽を積み、実績を重ね、国民の誰もが受けられる標準治療の確立に貢献するのが、愛知県がんセンターである。そうした功績は、一般の患者や地域住民からするとわかりにくい。しかし、そういう見えない努力があるからこそ、私たちはいざ病気になったとき、公的医療保険の範囲内で、質の高いがん治療を安心して受けることができるのである。

●現在、同センターでは、抗がん剤の併用療法を中心に、8つの先進医療が走っている。そのなかから、一つでも多くの有効な治療法が、一日でも早く確立されることを切に願う。

 


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