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シアワセをつなぐ仕事

ここで生まれた子どもが、
ここで母親になる、理由。

大橋亜名/聖霊病院 産科病棟


 

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聖霊病院は戦後間もない開院当時から、産科医療を重視し、「お産の聖霊」と呼ばれるほどの信頼を築いてきた。
その信頼のベースには、カトリック精神に裏打ちされた精神的なケア、そして、24時間対応で安心のお産を守る助産師たちの存在があった。

 

 

 

 



カトリック精神をベースに、
プロ意識の高い助産師たちが
妊娠・出産・育児を継続して支えていく。


 

 

 

産婦に寄り添い、安心の分娩をサポートする。

 IMG_5194 聖霊病院の3階、産科病棟。助産師の大橋亜名は、まもなく陣痛分娩室に入室する産婦のために、部屋の環境を整えていた。部屋の温度を確認し、リラックスできるようにアロマを焚き、BGMに心地いい環境音楽を選んだ。
 やすらぎの雰囲気が整ったところで、産婦を案内する。陣痛の間隔はかなり短くなってきた。痛みを訴える産婦の体をさすりながら、大橋は落ち着いた口調で声をかける。「もう少しですよ。鼻から息を吸って、ゆっくり吐きましょう」。大橋は陣痛の間隔や痛みに合った呼吸のリズムをその都度、指示していく。「落ち着いて、ふーふーと。そうそう、その調子!」。歯を食いしばる産婦を、大橋は懸命に励まし続ける。やがて産科医も加わり、いよいよ赤ちゃんを取り上げるときに臨む。ほどなくして、緊張した空気を裂くように、元気な赤ちゃんの産声が分娩室に響きわたった。その場にいる人が全員、大きな幸せに包まれる瞬間である。
 妊娠・出産にはいろいろな経過がある。すべての出産が喜ばしいことではない。妊婦にとっても決して平坦な道とはいえない。新しい命を宿し、出産を迎えることはうれしいことでもあるが「元気な赤ちゃんが産めるだろうか」…と考えてしまう。そんな心細い思いを、大橋は妊娠健診の頃から把握し、心のケアに努めてきた。「ケアといっても、お話をよく聞いて、気持ちに寄り添ったことぐらいですね」と大橋は謙遜するが、その心のこもった対応は産婦の心に確かに届いていたようだ。退院する前にお礼の手紙を受け取ることもある。文面には、<妊娠・出産に不安を抱えていたこと、大橋のサポートで安心して出産できたこと>など、あふれる感謝の気持ちが綴られていた。

 

 

妊産婦に寄り添い、心の声をキャッチする。

IMG_5202 同院の産科病棟には、大橋のような助産師が、非常勤も含め18名配属されている。仕事内容は、妊産婦の健康管理や生活指導、分娩の介助、そして出産後の体調管理、母乳指導、赤ちゃんのケアなど、妊娠から出産、育児に至る道筋をきめ細かく支えていく。「助産師として心がけているのは、妊産婦さんにできるだけ長く寄り添い、一人ひとりの表情をよく見て、心の声をキャッチすること」だと大橋は言う。
 妊娠、出産を通して女性の心と体は大きく変化する。そうしたさまざまな変調を、大橋は的確にとらえ、確かな専門知識と技術で対応していく。
 また、同院では妊産婦が産前・産後を通して安心して過ごせるように、助産師による保健指導の教室にも力を注ぐ。出産前には「マタニティヨガ」「マタニティビクス」「母親教室」「安産教室」「おっぱい教室」など、産後は「離乳食教室」「母乳外来での育児支援」などがある。
 そうした教室の場で大橋たちがいつも強調するのは、「出産に主体的に取り組む大切さ」だ。「赤ちゃんを生むのはお母さん本人。人任せにせず、自分で納得のいく出産をすること。その満足感が育児にもいい影響を与えると考えています」と大橋は言う。

 

 

「お産は聖霊で」という伝統を受け継ぐ。

Plus顔写真 同院のある名古屋市東部では、古くから「お産の聖霊」という評価が根づいてきた。同院を選ぶ人のなかには「自分自身も聖霊病院で生まれたし、母親の勧めもあって、自分もここで産もうと思った」という人も多いという。世代を超えて信頼を繋いできた理由はどこにあるのだろうか。
 産科病棟とNICU(新生児集中治療室)の看護師長、鈴村菜穂子は、「言葉にするのは難しいのですが」と前置きした上で、「当院の伝統である温かさや優しさ、安心感に対する評価ではないかと思います」と説明する。たとえば、切迫早産や妊娠高血圧症候群などで2〜3カ月ほど入院する妊婦にとっては、病院はマタニティライフを過ごす<生活の場>となる。その期間をできる限りストレスなく、わが家のように心地よく過ごせるように、同院では病室の環境を整え、助産師や看護師がきめ細かくサポートする。さらに、心のケアを専門とするシスター(カトリック社会事業室に所属)の存在もある。妊産婦が精神的に不安定になったときは、担当の助産師がメンタルケアに努め、それでも解決できないときはシスターがしっかりと支える。根底に流れるのは、カトリックの教えに基づく愛と奉仕の心。同院ならではの、人間愛に基づくスピリチュアル(心と魂)なアプローチが、デリケートな妊産婦の心身を穏やかな状態へと導いている。
IMG_5346 今後、医療(産科医療)が進歩しても、出産は今も昔も、女性にとって命がけの大仕事である。
 その周産期という特別な時期を、同院は高度な医療という側面だけでなく、カトリック病院として<いのちの始まりと終わりを大切にする>精神をベースに、スピリチュアルな側面からサポートしている。
 現在、同院では月間約40人、年間で約480人の新しい命が誕生している。今後も新しい命が健やかに育っていくよう、母子に寄り添いながらケアをし続けようとしている。

 

 

妊娠、出産、育児まで
女性のライフステージを支えていく。

IMG_5262 妊産婦と新生児を支える地域の医療体制は、大きく分けて3種類の医療機関から構成されている。まず、高度な産科医療・新生児医療を提供する<総合周産期母子医療センター(胎児集中治療管理室と新生児集中治療室を完備)>。続いて、総合周産期母子医療センターに準ずる医療体制を持つ<地域周産期母子医療センター>。そして、異常な分娩へ対応が難しい町の産科医院である。
 このなかで同院は、地域周産期母子医療センターの役割を担う。総合周産期母子医療センターと産科医院のちょうど中間に位置し、正常分娩に加え、一般の産科医院では手に負えないハイリスク妊産婦を受け入れている。「幸いなことに、この地域には、安心して治療のバトンを渡せる医療機関が充実しています。よりリスクの高い妊婦さんは、速やかに総合周産期母子医療センターに紹介しますし、当院での治療を終えて正常分娩のできる状態になった産婦さんは、通院していた産科医院に逆紹介するなど、地域の医療機関が手を結び、母親と赤ちゃんの命を守っています」と鈴村は話す。
IMG_5190 最後に、鈴村にこれからの目標について聞いてみた。「今後、力を注ぎたいのは、産後ケアです。核家族化が進み、一人での育児に不安を持つ方が増えています。母乳や離乳食の相談、育児支援など、助産師のマンパワーが豊富な聖霊病院だからできる産後ケア体制を確立し、地域のお母さんと赤ちゃん、子どもたちを支えていきたいと考えています」。
 妊娠から赤ちゃんの誕生、産後の育児まで、ずっと途切れないサポートをめざす聖霊病院。さらに、その先には小児期の医療まで切れ目なく提供できる体制が整っている。「当院で生まれた赤ちゃんがすくすくと育ち、いつの日かここでお母さんとなっていく。そんなハッピーな物語が続くように、常にチャレンジしていきたいと思います」。鈴村はそう言って、微笑んだ。

 


 

 

columnコラム

●本文でも記載したように、ハイリスク妊産婦や未熟児に対する医療体制を整えるために、都道府県ごとに「総合周産期母子医療センター」と「地域周産期母子医療センター」が配置されている。聖霊病院は平成26年に、「地域周産期母子医療センター」の認定を取得。以来、地域の医療機関と密に連携し、母体・胎児、新生児を総合的に支える体制を強化してきた。

●同院は地域周産期母子医療センターとして、産婦人科と小児科のNICUが緊密に連携し、ハイリスク妊産婦や新生児を24時間体制で受け入れている。とくにNICUは、ほとんどの新生児疾患に対して高度な専門治療を行える能力と設備を完備し、早産などで小さく生まれた赤ちゃんに対し、高度な治療と手厚い看護を提供。産婦人科・小児科の医師、助産師・看護師らが一致団結して、お母さんと小さな命を守り抜いている。

 

backstage

バックステージ

●ここ数年来、産科医不足の解消策として、「院内助産師システム(助産師による保健指導や分娩介助など)」を導入する医療機関が増えている。正常分娩の場合、プロセスの大半を助産師が受け持ち、異常分娩は医師が受け持つことにより、医師の負担軽減をめざすものだ。

●しかし、聖霊病院の助産師の活動は、そういったシステムとは成り立ちが違う。病院創設の頃から、助産師が中心となって妊娠から出産、産後ケアまで総合的に関わり、多くの新しい命の誕生を支えてきた。そうやって築いてきた助産師による安心と温もりのケアと、先進の医療技術を取り入れた高度な医療水準の両方を兼ね備えているところが同院の特色であり、強み。正常分娩からハイリスク分娩まで幅広く対応する同院は、これからも「お産の聖霊」として、地域になくてはならない存在感を放ち続けるだろう。

 

 


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