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シアワセをつなぐ仕事

人生を救い、
生活を編み出す、
私たちの看護。

足立佳美(脳卒中リハビリテーション看護認定看護師)/安城更生病院


 

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安城更生病院には、2名の脳卒中リハビリテーション看護認定看護師がいる。
そのうちの一人、足立佳美は、入職13年目。
「急性期の看護やリハビリテーションの質が、患者さんのその後の人生を決める」
という強い信念のもと、患者のQOL(生活の質)向上をめざした
チーム医療に取り組んでいる。

 

 

 



脳卒中リハビリテーション看護の
専門ノウハウを活かして
患者の生活の質の向上をめざす。


 

 

 

患者の生活再建の第一歩に寄り添う。

 090_AnjoKosei_L21_2016 突然、脳に血管障害が生じ、手足が動かなくなったり、意識がなくなったりする脳卒中。日本における死因順位では第4位だが、「寝たきりになる原因疾患」では第1位。一命を取りとめることができても、言語障害や半身麻痺などの後遺症が残り、介護が必要な状態になることが多い病気だ。
 安城更生病院の足立佳美看護師は、平成15年の入職以来、ずっと神経内科・整形外科の混合病棟に勤務し、多くの脳卒中(主に脳梗塞:詳しくはコラム参照)患者の看護にあたってきた。同院に救急搬送された脳梗塞の患者の多くはICU(集中治療室)・HCU(高度治療室)で最先端の脳血管内治療法・薬物療法などを受けた後、足立のいる混合病棟へ移ってくる。生命の危機は脱したものの、再発や合併症予防のために細心の看護が必要な状態である。足立は一人ひとり違う病状や障害に合わせ、清拭や口腔ケア、体位交換などの介助を丁寧に行っていく。
 看護を進めるなかで、足立がとくに意識するのは、生活援助と合わせて、ベッド上で手足を動かす運動などを進めることだ。廃用性筋萎縮(長期間使わない筋肉が萎縮する)を予防するために、可能な限り早くリハビリテーションを開始するのが、脳梗塞治療の基本なのである。足立のいる混合病棟では、医師をはじめ、看護師、理学療法士や作業療法士、言語聴覚士、栄養士、薬剤師などがチームを組み、充分なリスク管理のもと、患者の障害に適したリハビリテーションを慎重かつ積極的に進めている。「脳卒中の急性期治療では、入院してから最初の2週間のリハビリテーションがすごく重要だといわれています。この病棟が、患者さんの生活を取り戻す第一歩だと考え、チームのメンバーと協力して支援に取り組んでいます」と足立は言う。

 

 

認定看護師としてより良い看護をめざす。

067_AnjoKosei_L21_2016 今は患者の自立に向けてまっすぐ看護に取り組む足立だが、その転機となったのは、入職8年目に、看護協会の認定看護師教育課程に進んだことだろう。足立が選んだ領域は「脳卒中リハビリテーション看護」。平成23年、その第2期生として半年間、教育課程で学び、資格を取得した。この学びを通じ、足立は脳卒中の病態について医学的知識を深め、脳卒中患者に対する観察とアセスメント(患者の状態に対する評価)の力を徹底的に鍛えた。
Plus顔写真 病棟に戻ってからの足立は、学んできたことを還元するために、チームメンバーと積極的に意見交換し、脳卒中患者の看護を進化させてきた。たとえば、急性期では、患者の安静が基本。脳梗塞の患者は脳の血流を確保するため、急性期病院では一律、安静にして動きを制限するのが通常だった。しかし、患者にとっては体を動かせず、寝たままを強いられることには苦痛が伴う。なかには、体を動かせない不快感や不安感から、せん妄(意識障害が起こり、頭が混乱した状態)を悪化させる患者もいる。そこで足立は患者の代弁者となり、その問題について、エビデンス(科学的根拠)に基づく協議をチームで行い、症状に応じて医師の許可を得れば、安静の程度を緩和するという方針変更を実現した。「どの程度の安静制限が必要か、ということは常に悩みます。でも、安静を求めるがゆえに、患者さんを苦痛にしたり、筋肉や関節の機能訓練が後回しになることがないように、ケースバイケースで医師やリハビリテーションスタッフと意見交換しています。うちのチームは、良いことはどんどん取り入れていこうという、ポジティブな雰囲気があり、何でも相談しやすいですね」と、足立は話す。

 

 

看護と介護の違いはどこにあるのだろう。

110_AnjoKosei_L21_2016 足立が一念発起して教育課程に進んだ根底には、実は、日々の業務のなかで、どうしても晴れない「もやもやした気持ち」を抱えていたからだという。足立が勤務する混合病棟は、病気や怪我により、自分の意志で手足などを動かせない患者が多く入院しており、手厚い看護が必要となる。「毎日行う看護は、清拭や排泄介助、食事介助といった日常生活援助が中心です。そういうケアそのものは好きですし、不満はありませんでした。ただ、それは、看護師でも介護士でもできること。では、看護師がすべきことは何だろうと悩んでいました」。
 その答えは、半年間の学びのなかで見つけたという。「患者さんの安全・安楽を考えてケアするのは、看護も介護も同じです。でも、そのとき、看護師はケアをしながら、患者さんの症状を観察・アセスメントし、必要な医療を患者さんに繋ぐ役目をします。たとえば、気になる病状があれば医師に、栄養状態が悪ければ栄養士に相談するなど、他職種と患者さんを結び、チーム医療をより良い方向へとコーディネートしていきます。それができるのは、患者さんに一番身近で、医療知識も備えた看護師をおいて他にはない、と気づきました」。足立は常に、「患者や家族の権利を守る代弁者」として行動するよう心がけている。たとえば、言語障害の残った患者は自分の希望を話すこともままならない。そんな言葉にならない思いを足立は察知し、チームメンバーに患者や家族の気持ちを伝え、より良い支援策へと繋げている。
 看護と介護の境界線は、ときに曖昧で、介護士と看護師が同じ業務を行うことも多い。足立がかつて抱いた「もやもやした気持ち」は、看護師として病棟に勤務する人が、一度は思うことかもしれない。足立は今、同じ悩みを抱える後輩がいれば、さりげなく声をかけ、看護の深さについて話しているという。

 

 

脳卒中看護の専門ノウハウを地域へ。

140_AnjoKosei_L21_2016 脳卒中の治療は急性期だけで終わらず、回復期、維持期へ続いていく。そのため、同院は地域の医療機関が緊密に連携をとる「西三河脳卒中ネットワーク」に参加し、急性期から在宅まで途切れることなく医療・看護を届ける体制づくりに力を注いでいる。
 足立は、脳卒中リハビリテーション看護認定看護師として、そうした院外への連携にも目を向ける。「チームメンバーと一緒に、連携先の回復期病院を訪問し、見学してお話を聞くこともあります。次のステージのスタッフの方々と顔が見える関係を築き、患者さんの情報を正しく繋ぐことで、看護の質を継続させていきたいと考えています」。
132_AnjoKosei_L21_2016 さらに今後は、これまで培ってきた脳卒中リハビリテーション看護の専門知識や技術を、回復期・維持期のステージで活動する医療・介護スタッフに向けても発信していきたい考えだ。「すでに当院に併設されている介護老人保健施設に出向いて、職員を対象に脳卒中リハビリテーション看護に関する勉強会を開いたりしています。同じように、連携先の回復期病院や、在宅療養を支える訪問看護師の方々と一緒に学ぶ機会も作っていきたいですね」と、ビジョンをふくらませる。足立は、地域の貴重なリソースナース(専門性の高い知識・技術を持ち、看護実践を支援する人的資源)として、地域の看護師や介護士と力を合わせ、障害とともに生きる患者の人生を長い目でずっと支えていこうとしている。


 

 

columnコラム

●脳卒中には、脳の血管が詰まる「脳梗塞」と、脳の血管が破れる「脳出血」「くも膜下出血」がある。このうち、とくに脳梗塞については、近年、飛躍的に治療法が進化してきた。発症4時間30分以内なら、血栓を溶かす薬剤を点滴するt–PA治療を行うことができる。さらに、t–PAの効果の出にくい症例に対しては、血管内にカテーテルを通して血栓を取り除く脳血管内治療法もある。これら最先端の治療により血流を早く再開通できれば、それだけ脳組織の損傷を食い止めることができる。

●安城更生病院では神経内科と脳神経外科が緊密に連携し、一分一秒でも早く診断・治療を行えるように、24時間体制で救急診療を行っている。また、患者が急性期を脱した後は、回復期の病院へ速やかに繋ぐ体制づくりにも力を注ぎ、地域ぐるみで脳卒中患者の自立を支援している。

 

backstage

バックステージ

●生命の危機にある患者の病態変化を予測し、重篤化を予防するために行うのが、<命を救う看護>であれば、足立看護師らが行っているのは、患者の<人生を救う看護>といえるだろう。障害が残った体の残存能力を高め、退院後の生活の質をいかに上げることができるか。足立たちは常に、退院後の人生に焦点を当て、看護やリハビリテーションの計画を立てている。

●<人生を救う看護>は、高齢化が進むこれからの時代に、まさに必要とされる看護といえるだろう。今後は何らかの病気を抱え、病院と在宅(自宅や施設)を行き来する高齢者が増えるといわれている。たとえば足立たちのいる急性期で、その後の回復期で、そして在宅でも、そうした人々の生活に寄り添い、生活の質、人生の質を少しでも高く維持できるように支援していく。そんな看護のあり方が、高齢になっても安心して暮らせる社会づくりには、必要不可欠なのではないだろうか。

 

 


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