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シアワセをつなぐ仕事

教育を軸にした、
病院創りの思想。
新人看護師の成長に結実。

柴田成海/江南厚生病院 消化器内科病棟


 

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平成20年に統合移転した江南厚生病院。
人の教育を柱に据えた病院創りの思想は、看護部の人材教育にも色濃く反映されている。
看護師不足を課題とする病院が多いなか、なぜ同院は充分な人数の看護師を確保し、離職率も低い水準を維持できているのか、その秘密に迫る。

 

 

 


人を育てる。育った人が
また、次の人を育てていく。
院内に根づいた教育の好循環プロセス。


 

 

 

新人看護師1名に
2名の先輩がつく
手厚い教育体制。

 業務風景_070 「ご気分はいかがですか、点滴を取り替えますね」。そんな言葉をかけながら、患者のベッドサイドを回って歩くのは、江南厚生病院の看護師1年生の柴田成海である。笑うと白い歯がこぼれ、周囲が華やいだ空気で包まれる。明るいムードメーカーとして、患者からもスタッフからも親しまれる存在だ。「仕事で落ち込んだときも、患者さんには笑顔で接するように心がけています」と元気に話す。
 柴田が所属する消化器内科病棟には、内視鏡検査や治療、悪性腫瘍に対する化学療法を受ける患者が入院している。患者ごとに検査・治療のスケジュールがぎっしり詰まっており、それらを確実に進めつつ、患者が安全、安楽に過ごせるように看護するのが、柴田の役割だ。入職して、まだ1年足らず。小さな失敗は多いが、「先輩たちに支えられて、何とか業務に慣れてきました」と言う。柴田が言う<先輩たち>というのはもちろん病棟の先輩全体だが、なかでも中心は2名の先輩を指す。「当院は新人1名に2名の先輩がつくんです。メンタルな相談や悩みは、年齢が近い1年上のチューターに打ち明けます。看護の手技や実業務風景_027務全般は、3年上の実地指導者に教わっています。2人が支えてくださるので、とても心強いですね」。入職して数カ月間は、実地指導者とペアを組んで仕事を覚えてきた。「初めての夜勤を乗り越えられたのも、実地指導者の先輩が一緒だったおかげです」と柴田は振り返る。同院では実地指導者の上には、さらに新人看護師教育を統括する教育専従者も配置されている。いわゆる<屋根瓦方式(※)>の指導体制を完備し、組織全体で新人教育に力を注いでいる。

※ 屋根瓦方式はもともと、医師の臨床研修で使われていた用語で、研修医を上級医が教え、さらに指導医が見守る体制。新人看護職員研修が努力義務化されて以降、屋根瓦方式を看護師教育に取り入れる病院が増えている。

 

 

自分で情報収集し、
考え、判断する
習慣を身につける。

 柴田は勤務時間の多くを、なるべく患者のベッドサイドで過ごすよう心がけている。「やはりいちばん多くのことを学ぶのは、患者さんのそばなんです。同じ病気でも人によって症状が違いますし、観察の方法や情報の取り方など覚えるべきことがいっぱいあります」。ときには、血圧や体温などの数値や体調の変化を見て、疑問に思うこともある。そんなとき柴田はその都度、カルテや教科書などで調べて、それでもわからないときは先輩に確かめ、必要に応じて医師に報告しているという。
 この<自分で調べて、考える姿勢>はどこで身についたものだろうか。「入職して2カ月間のリIMGP0673フレクション(振り返り)で学んだ習慣かもしれません」と柴田は言う。<リフレクション>とは、同院の特徴的な新人教育の一つ。一日の終業前の30分間、新人たちはその日、実地指導者も交えて学んだことを振り返り、疑問があれば解決し、翌日に備えるというものだ。不安や疑問の積み残しをせず、次へ進んでいくことを習慣づける上で、教育効果を高めているといえるだろう。
 もう一つ、新人教育の特色として、同院では集合研修とOJT(職場内教育)を繰り返すIMGP1550<スパイラル学習方式>も取り入れている。これは入職して2カ月間は週初めの月曜日に集合研修で看護技術を学び、学んだ内容を火曜日からそれぞれの現場で実践するもの。休み明けの月曜日は、誰でも職場に向かう足が重くなるものだ。そのブルーマンデーを、みんなでワイワイ学ぶ一日にすることで、新人看護師のモチベーション向上を図っている。「大学の友人や後輩に、当院の良いところを聞かれたら、迷わず<教育がいい>と話しています。すごく大切に育ててもらって感謝しています」と柴田はほほえむ。

 

 

人の教育を柱にした
病院の基本設計。

Plus顔写真1 リフレクションやスパイラル学習方式を通じて、新人をじっくり大切に育てる江南厚生病院。その手厚い教育の仕組みづくりは、いつ頃から始まったのだろう。「それは、当院が7年前に統合されたときからだと思います。初代院長が、<病院に大切なのは建物ではなく、人である>と宣言し、人の教育や働く環境づくりに全力を注いできました。教育を通じて病院の文化や風土を育ててきた成果が、今日の看護師教育にも反映されているのです」。そう語るのは、看護部部長の長谷川しとみである。同院は平成20年、江南市にあった愛知県厚生連の昭和病院と愛北病院が統合して生まれた。統合を機に、それまで各病院で培ってきた教育ノウハウを一つにまとめると同時に、厚生連キャリア開発ラダーに基づいて、同院独自の教育プログラムを開発し、教育に力を注いできたのだ。
 統合当時のエピソードとして、長谷川看護部長は次のような話を語る。「当初、看護師の人数から考えて、少し無理をすれば、7対1看護配置(7対1入院基本料)(※)を取得することもできました。でも、院長はあえてその道を選びませんでした。無理をすれば看護師の勤務に負担がかかり、教育の余裕がなくなると判断したのです」。充分な看護師の人数を確保した上で、同院はその後、7対1看護配置体制を実現している。その人数の余裕が、リフレクションやスパイラル学習方式といった、ゆとりある新人教育に繋がっているのだ。

※ 患者7人に対して看護師1人が常時勤務するシステム。

 

 

育てた看護師の
専門能力を
地域へ届けたい。

Plus顔写真2a これからの目標はどんなことか。新人看護師教育全体に目を配る教育専従課長の後藤千春は、「鍵を握るのは、教える人を育てる仕組み」と言う。「いい先輩に教えられて育った新人は、2年目、3年目になると、自分も新人を育てようと努力します。その教育の積み重ねが、何よりも大切だと考えています。人を育て、育った人がまた人を育てていく好循環プロセスを、これからも強化していきたいと思います。そのためには、新人の教育を担うスタッフたちの支援に力を入れるとともに、新人教育から継続して、ずっと学び続けていける体制をより充実させていきたいですね」。
 その言葉にうなずき、長谷川看護部長はさらに構想を広げていく。「たとえば、認定看護師や専門看護師をめざす人を支援するなど、いろいろな看護領域でスペシャリストとして輝く看護師を育てていきたいですね。さらに、その看護の専門能力を、院内に留まらず、地域の看護にも役立てていきたいと考えています。すでに、当院の皮膚・排泄ケア認定看護師や感染管理認定看護師、訪問看護認定看護師などは、地域へと活動範囲を広げています。当院で学び育った看護師が、地域全体で活動できる環境を業務風景_038整えていくことが最終的な目標です」。
 患者や医療者を磁石のように引きつけて離さない魅力的な病院のことを<マグネットホスピタル>という。新人を大切に育て、生涯、専門職業人として学び続ける道を用意する同院は、まさに、看護師を引きつけるマグネットのような存在である。そして、そうやって集積した高い看護能力を、地域へ還元していこうとしている。


 

 

columnコラム

●江南厚生病院では、看護師が無理なく働けるように、ワークライフバランスに配慮した勤務体制づくりに力を注いでいる。たとえば、業務の終わりに「終礼」を設け、若手の看護師であっても先輩に気兼ねなく帰れるように配慮したり、「給料日はノー残業デー」などのキャンペーンも実施している。

●こうした取り組みの成果は、数字にもあらわれている。平成27年度「看護職のワークライフバランス・インデックス調査(日本看護協会)」によると、江南厚生病院における看護職員の離職率は、8・7%に留まる。常勤看護職員の離職率が10%以上という病院が多いなかで、非常に良い数字といえるだろう。さらに、看護職員に対するアンケートでは、「看護職員を大切にする組織だと思う」と答えた人が73%にのぼっている。

 

backstage

バックステージ

●現在、看護師不足に苦しむ病院では、看護師確保のため、多額の費用を費やす。しかしながら、思うように採用できるわけでもなく、多額の出費は病院経営を圧迫。多くの病院で、職場環境を改善できないまま、さらなる離職を生むという負のサイクルに陥っている。

●これに対し、江南厚生病院の経営戦略とは、まず<教育>に投資するというものだ。背景にあるのは、病院に大切なのは人である>という思想。職員を大切にし、そして大事に育てていくこと――。この思想に基づき、同院では、教育を軸に職員を育てつつ、資金をさらなる教育や職場環境改善に再投資していく。本文で描かれた物語は、その思想の結実である。この<教育を軸にした好循環スパイラル>は、看護師確保に悩む病院にとって、学ぶべきところが多いのではないだろうか。

 

 


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