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病院を知ろう

「安心を届けたい」。
薬剤師だからこそできる、
がん患者のサポート。

 

 

大垣市民病院


薬剤師がチーム医療の要となり、
がん薬物療法の安全性を確保し、
治療効果の向上に貢献していく。

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地域がん診療連携拠点病院として、地域の医療機関と連携し、専門的ながん医療に取り組む大垣市民病院。
同院では、11名もの<がん専門薬剤師>を擁し、医師との協働体制のもと、高度ながん薬物療法を実践している。
実習や見学で訪れた学生の多くが「自分もここで働いてみたい」と口にする、ハイレベルな薬剤部の魅力を探った。

 

 

 

 

 

毎日、各病室の患者の顔を見に行く。

Plus顔写真1 大垣市民病院の薬剤部では、特定の領域に精通した専門薬剤師や認定薬剤師を育て、各病棟をはじめとする臨床の現場に配置している。その一つが、がん領域の薬物療法のエキスパートである<がん専門薬剤師>。がん専門薬剤師は、基本的な調剤業務や薬品管理などを行うかたわら、病棟と外来に分かれ、チーム医療の一員として活躍している。
 はじめに、病棟薬剤師の活動を見てみよう。入職23年の宇佐美英績(がん専門薬剤師)が担当するのは、白血病など血液がんの患者が多く入院する3病棟5階(血液内科48床・神経内科4床)。一日の半分はこの病棟にいて、入院患者のベッドサイドを訪ねてまわる。とくにがん患者に対しては、抗がん剤に対する不安はないか、副作用で苦しんでいないか、患者の様子に心を配り話しかける。副作用の発現状況によっては、主治医に支持療法薬(副作用に対する薬)の処方を提案することもある。宇佐美のモットーは「とにかく患者さんと顔を合わせる」こと。「患者さんから副作用の症状についてお聞きして、初めて分かることもあり、貴重な学びが得られます」と話す。そんな宇佐美の来訪を心待ちにして、いろいろな思いを打ち明ける患者も多いという。「主治医には聞きにくいことや、看護師ではわからない専門的な抗がん剤の疑問や悩みに答えるのが私たちの役割。患者さんに安心して抗がん剤治療を受けていただけるように、薬剤師だからできるサポートをしていきたいと考えています」。
0304大垣市民病院¥KX0A1714 この他、宇佐美の重要な役割として、抗がん剤の治療計画(レジメン)の登録・管理がある。新しいがん治療薬の導入が院内の化学療法検討部会、がん診療委員会で審議・承認されると、宇佐美を中心にしたがん専門薬剤師3名から成るチームが、薬剤の科学的根拠を確認した上で、投薬の量や順番、期間、手順などを定めた計画書を作成する。すでに、同院に登録されているレジメンは887件に達した(平成27年4月1日現在)。「レジメン管理は、小さなミスでも患者さんの命に関わる仕事。3名で厳重にチェックし、安全に徹しています」と宇佐美は話す。

 

 

外来部門で活躍する
がん専門薬剤師たち。

 Plus顔写真2 次に、外来部門で活躍するがん専門薬剤師の姿を見てみよう。まず一つは、抗がん剤の点滴治療を行う通院治療センター(30床)。ここでは曜日担当制で、がん専門薬剤師が常駐。抗がん剤や支持療法薬について患者に説明したり、点滴治療を受けている患者の体調や副作用のモニタリング(観察)を行う。がん専門薬剤師の安達志乃は、このセンターの立ち上げ当初(平成19年)から長く携わってきた一人だ。「ベッドサイドではいつも、雑談のような感じでお話を聞いて、何か困っていることはないか探ります。たとえば、副作用で吐き気があるようなら、それを軽くする薬の処方を医師に提案します。患者さんのストレスをできるだけ減らし、無理なく治療を続けられるようにと、いつも心を砕いています」と安達は語る。
Plus顔写真3 もう一つの外来部門は、外来服薬指導室での薬剤師外来である。これは、とくに副作用が強い経口抗がん剤の通院治療を受ける患者を対象に、がん専門薬剤師が面談するもの。初回は服用方法などについて説明し、2回目以降は、副作用に対するマネジメントを行う。「患者さんの状態に応じて、抗がん剤の投与量の軽減や休薬を医師に相談することもあります」と説明するのは、がん専門薬剤師の木村美智男である。薬剤師が問診した内容は電子カルテを通じて医師に伝えられ、治療計画に役立てられている。また、ステージが進んだがん患者に対しては、緩和ケアに関するアドバイスも行う。「当院には、緩和薬物療法に精通した認定薬剤師もいますから、一緒に相談に答えることもあります。精神的なケアも含めて、在宅で治療を続ける患者さんをトータルに支えていきたいと考えています」と木村は言う。

 

 

11名ものがん専門薬剤師を擁している理由。

0304大垣市民病院¥KX0A1588 宇佐美、安達、木村の活動に共通するのは、薬剤師が、医師との協働の意識を持ち、積極的に処方提案していることだろう。そうしたがん専門薬剤師が、同院には11名も在籍している。これは、全国の大学病院などと比較しても圧倒的に多く、国立がん研究センター東病院と並ぶ数字である(平成28年1月現在)。なぜ、同院ではこれほど多くのがん専門薬剤師を擁しているのだろうか。
 「がん医療の進歩とともに、薬物療法が複雑化し、患者さんの安全性を確保するための薬学的管理が重要になってきた、というニーズがまずあります」と答えるのは、薬剤部長の吉村知哲である。抗がん剤の種類が増え、薬剤の選択肢が増えるととえるとともに、副作用も多様化。そのための薬学的管理が重要視されてきたのだ。「進化するがん診療に携わる以上、副作用マネジメントで治療の継続性を高め、当院のがん薬物療法の質的向上に貢献したい。そのためには、薬剤師自身がより専門性を高めていこう。そうした空気が部内で広がり、根づいてきました。今では専門的な資格を取って当たり前という意識ですね」。
0304大垣市民病院¥KX0A1659 「病院という視点で考えると…」と吉村は言葉を続ける。「当院は西濃医療圏の基幹病院です。がん患者さんも一極集中しています。本来は、当院で治療の道筋をつけ、あとは地域の病院と連携するのがよいのですが、なかなかそうはいかず、いきなり在宅でというケースが多々あります。そのとき患者さんが安心して、診療所で円滑に治療を継続できるために、薬剤師による<繋ぐ機能>が必要とされているかと思います」。

 

 

地域のがん薬物療法の
レベルアップをめざす。

Plus顔写真4 がん薬物療法に関わる薬剤師のレベルアップをめざし、同院では、院外の薬剤師と一緒にがん薬物療法を学ぶ勉強会にも力を入れている。平成23年には、吉村の呼びかけで「岐阜県がん薬物療法懇話会」を発足。毎年1回、県内のがん薬物療法に携わる薬剤師が参加し、活発に情報交換している。この他、大垣薬剤師会に所属する保険薬局などの薬剤師を対象に、抗がん剤治療の勉強会を開催するなど、地域の薬剤師を育て、支えるリーダー的役割を担う。「近年のがん治療は入院期間が短く、通院しながら在宅療養する患者さんが増えています。そういう在宅の患者さんを支えるために、私たちが蓄積してきた専門知識やノウハウを、在宅医療の分野で活動する薬剤師と共有し、ともに知識・技術を高めていきたいと思います」と吉村は意欲を見せる。
0304大垣市民病院¥KX0A1603 また、同院ではがん領域以外にも、NST(栄養サポートチーム)、感染制御、緩和薬物療法、抗菌薬物療法、小児薬物療法などさまざまな分野で、専門薬剤師・認定薬剤師が育っている。さらに、自分たちが得た研究成果を社会に還元するために、論文執筆や学会発表といった学術的な取り組みも積極的に行っている。高いモチベーションを持って仕事に取り組む薬剤師たちが、その先に見つめるのは、「日本一の薬剤部をめざそう」という大きな目標だ。「日本一というのは、規模や設備の充実などではありません。一人ひとりの薬剤師が高い実力を持ち、チーム医療の一員として、患者さんの薬物療法をしっかり支えていく。安全で質の高い薬物療法に貢献できる<日本一の薬剤部>をめざして、これからも職員一同、邁進していきます」。吉村は力強い口調でそう語った。

 


 

column

コラム

●特定領域に精通した薬剤師の認定制度は、日本医療薬学会、日本病院薬剤師会などの学会で実施されている。一般の薬剤師が専門薬剤師・認定薬剤師の資格を得るには、これらの学会が認めた研修施設で実地修練を積むことが必須の条件となっている。大垣市民病院では早くから、これらの<専門薬剤師・認定薬剤師研修施設>の認定を受け、薬剤師の教育施設の役割を担ってきた。

●現在、がん専門薬剤師の指導者資格である<がん指導薬剤師>の有資格者は、本編で登場した吉村、宇佐美、木村を含め、4名にのぼり、充実した教育環境を整えている。同院には、岐阜県内はもちろん、県外の病院からも、意欲ある薬剤師が研修を受けるために集まってくる。「当院で学んだ知識と技術をそれぞれの病院に持ち帰り、薬物療法の向上に役立てていただければ本望ですね」と吉村は言う。

 

backstage

バックステージ

●がん治療については、医療の進歩と外来薬物療法の普及に伴い、在宅で治療を続ける患者が増えている。「病院から在宅へ」と医療提供体制の転換が進むなかで、在宅で治療を受ける患者は今後さらに増え、住み慣れたわが家で人生の最期まで過ごすことを希望する人も増えていくものと予想されている。

●しかし、抗がん剤やがんの痛みを和らげるモルヒネ製剤など、がん治療に関わる薬剤は取り扱いが難しく、在宅医療の分野では充分に対応できる診療所や保険薬局の数は限られているのが現状だ。そういうときに頼りになるのは、大垣市民病院のような基幹病院で専門性を磨いた専門薬剤師・認定薬剤師だろう。がん薬物療法に関わる豊富な臨床経験や緩和ケアの知識を地域の薬剤師に伝えることで、<薬剤管理>という側面から、がんとともに生きる人たちを支えていけるのではないだろうか。

 


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