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病院を知ろう

地域の問題に
立ち向かう医師を育てる。
その第一歩。

 

 

春日井市民病院


連携先の病院で学ぶ地域医療。
病病連携や在宅医療の実際を知り、
次代の医師に必要な広い見識を養う。

main

豊富な症例数を通じて、幅広いプライマリケア(初期診療)能力を育む、春日井市民病院の初期臨床研修(※)。
平成27年度からは連携先の東海記念病院での地域医療研修をスタートし、2年次の初期研修医(以下、研修医)を1週間、派遣している。
地方やへき地ではなく、同じ診療圏にある連携先の病院で研修を受けることにより、研修医たちはどんな学びを得ているのだろうか。
※ 初期臨床研修とは、大学を卒業後、国家試験を合格した医師たちが臨床経験を積む基礎的な研修のこと。修了後は、それぞれが志望する専門診療科で後期臨床研修を受ける。

 

 

 

 

 

東海記念病院で知った在宅医療の衝撃。

Plus顔写真1 「高蔵寺ニュータウンで見た在宅医療の現場は、衝撃的でした」。そう語るのは、春日井市民病院の野田悠平医師。平成26年4月、春日井市民病院に入職し、2年の初期臨床研修を経て、平成28年4月から引き続き、同院で後期臨床研修を受けている。
 野田医師が衝撃を受けたというのは、<地域医療>研修(※)として、2年次に派遣された東海記念病院での訪問診療・訪問看護の見学実習である。高蔵寺ニュータウンは東海記念病院に隣接する巨大団地だが、彼は何に、それほど驚いたのだろうか。「驚いたことは、二つあります。一つは、想像以上に厳しい在宅療養の現実です。高蔵寺ニュータウンは古い団地なので、エレベータもなく、各住戸も決して暮らしやすい空間ではありません。不便な生活環境のなかで、60代、70代の高齢の方々が一人で暮らしたり、配偶者を介護されている様子を見て、<10年先はどうなるのだろう>と強い危機感を覚えました。二つ目に驚113いたことは、そこで展開される、病院の医療とは違う在宅医療のあり方です。病院では設備も人材も整っていますから、入院患者さんの病状に変化があってもすぐに対応できます。でも、在宅ではそうはいきません。訪問医は身体所見や会話を通じて、患者さんの病状の変化を探り、困りごとがあれば親身に相談にのります。反対に、患者さんやご家族は、訪問医や訪問看護師に対し、心から信頼し、感謝している様子で、<こういう医療の世界もあるのだ>と新鮮な驚きを感じました」と、野田医師は話す。
※ <地域医療>研修は、厚生労働省の医師臨床研修制度で定められた2年次の必修科目。へき地・離島診療所、中小病院・診療所などの地域医療の現場を1カ月経験し、地域医療の現状を理解することが目的。

 

 

急性期治療を終えた患者の
継続医療を学ぶ。

 IMG_5139 野田医師は、「東海記念病院での研修は、在宅医療以外にも発見と学びがいっぱいあった」と振り返る。野田医師が勤務する春日井市民病院は地域の基幹病院として、重症な患者に高度な急性期治療を提供している。一方、東海記念病院は、急性期、回復期、在宅医療までの幅広い領域を持ち、春日井市民病院での治療を終えた患者を積極的に受け入れ、在宅復帰への道筋を支援をしている。患者の病気を<治す病院>と、患者の全身を診て、生活を支える<治し支える病院>。同じ病院でありながら、両者の役割は大きく異なり、そこで展開されている医療の中身も違う。
 「東海記念病院ではまず、教育担当の方から<春日井市民病院の後方支援病院(回復期、慢性期などを担う病院)の役割を担っている>という説明を受け、地域包括ケア病棟について詳しく教えていただきました。僕自身、地域包括ケア病棟の内容をよく理解していなかったので、非常に勉強になりましたね。地域包括ケア病棟では、急性期治療を終えた患者さんを受け入れ、在宅復帰に向けて医療を提供していきます。また、在宅で療養する患者さんの急性増悪時にも迅速に対応します3002春日井市民病院¥KX0A1206。これからの高齢社会に欠かせない、非常に重要な機能だと思いました」。その他、野田医師は、東海記念病院で学んだものとして、「リハビリテーションの重要性」を挙げる。「東海記念病院では、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士が大勢いて、在宅復帰をめざして精力的にリハビリテーションに取り組んでいました。当院から東海記念病院に転院した患者さんが、こうした治療を受けて在宅へ帰られることを知り、大きな安心感を持ちました」。

 

 

高度急性期病院だけでは
研修医教育は完結しない。

Plus顔写真2 春日井市民病院では、平成27年度から東海記念病院を研修先に加え、合計4つの施設を1週間ずつ研修する、1カ月の<地域医療研修>プログラムを用意している。東海記念病院を研修先に加えた背景について、春日井市民病院の研修管理室長である寺沢彰浩医師(技術部長、臨床研修プログラム責任者を兼務)は「地域の医療提供体制が病院完結型から地域完結型に変わるなかで、研修医教育のあり方も転換が必要になってきたということだと思います。連携先病院の研修を加えることで、研修医は病病連携の仕組みを知り、患者さんの治療・回復のプロセスをトータルに学ぶことができます」と説明する。
 かつては、高度な急性期病院であっても、患者が回復して退院するまでじっくり治療することができた。しかし昨今は、高IMG_4300度な急性期病院での治療を終えた患者は、次の急性期・回復期の病院に転院して継続医療を受けて、在宅復帰をめざしていく。研修医は、高度な急性期病院で発症間もない時期に提供される集中的な治療を学び、連携先病院でその後の治療経過を学ぶことによって初めて、急性期から回復期、在宅療養までの過程を時間軸で学び、そこで得た知見を高度急性期での医療に活かしていくことができる。
 研修医の受け入れ側である東海記念病院の堤 靖彦副院長は、次のように手応えを語る。「医療の連続性を理解してもらえるように、春日井市民病院から転院してきた患者さんがどんな治療を受けているか、研修医の方々にしっかり見ていただいています。皆さん、前向きな姿勢で、貪欲に知識を吸収されていますね」。

 

 

超高齢社会の地域医療に
対応できる医師を地域で育てていく。

Plus顔写真3 冒頭で紹介した高蔵寺ニュータウンの事例のように、地域医療は今、急速に進む高齢化への対応が重要な課題となっている。「研修医2年目という、頭の柔らかいうちに地域医療の最前線に触れ、地域が抱える医療の諸問題を知ることは、これからの医師の使命や役割を考える上でも有意義だと思います」と寺沢室長は話す。地域医療について見識を深め、地域医療の問題に対応できる力を養うために、寺沢室長は東海記念病院での研修プログラムの充実も検討していきたいという。「現在は見学中心ですが、もう少し突っ込んだ経験ができるような工夫ができればいいですね」。それは、東海記念病院の堤副院長も同意見である。「期間的な余裕があれば、訪問診療にも2回、3回と足を運び、そこでまたいろいろな経験を持ち帰っていただけます。病院間でお互いに相談しながら、より良いプログラムにしていきたいと思います」。さらに、堤副院長は人材交流の発展にも期待を寄せる。「この研修を通じて、研修医の先生方と顔の見える関係が生まれています。毎年、続けていくことで、顔の見える関係を広げて、春日井市民病院の先生方と当院の医師が、011いつでも気軽に相談し合えるような関係を構築していきたいですね」。
 同じ地域にある基幹病院と後方支援病院が協力して研修医を育てていく。その試みはまだ始まったばかりで、小さな一歩を踏み出したに過ぎない。しかし、それは今後、地域の医師を組織の枠組みを超えて育てていく、新しい教育体制へと繋がる可能性を秘めているといえるのではないだろうか。

 


 

column

コラム

●春日井市民病院で学ぶ研修医の多くは、同院を選んだ理由として「症例の豊富さ」「全国でも指折りの救急医療」を挙げる。同院の研修医は、救急搬送患者のファーストタッチを担い、基礎的な診療能力を身につけていく。そうした圧倒的な経験値が同院の特色だが、それは反面、忙しさに追われ、振り返りの時間が得られにくい側面もあった。

●そのデメリットを解消したのが、平成27年10月、三次救急を担う救命救急センターの認定を受けたことである。新たに救急部専任医師1名を招聘し、より進化させた救急部が発足。この新体制により、救急部の指導体制も充実し、毎朝の症例検討会など、研修医のバックアップ体制も整備された。「実践と振り返りの機会をバランスよく設けて、技術と知識が総合的に身につく環境作りに今後も力を入れていきたい」と寺沢室長は語る。

 

backstage

バックステージ

●高蔵寺ニュータウンに代表されるように、春日井市においても少子高齢化が進んでいる。また、日本の高齢化は都市部こそ顕著に進んでおり、独居高齢者の生活支援サービスや医療・介護サービスの不足など、深刻な問題をはらんでいるとも指摘されている。そういった都市部特有の地域医療の問題は、へき地や地方の病院での研修では知ることはできない。春日井市民病院が、東海記念病院で地域医療研修を実施している狙いの一つはそこにある。

●これからは高度急性期病院の医師であっても、診療圏である地元の実情を把握し、患者の退院後の生活までイメージしながら、総合的・全人的に診療していかねばならない。連携先の病院同士が手を結んだ研修医教育は、そうした新時代の医師を育てていく第一歩である。今はまだ萌芽に過ぎないが、これからその教育体制が発展していくことに期待を寄せたい。

 


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