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地域医療構想とは?
地域医療構想は、団塊の世代が75歳以上になる2025年の医療需要(患者数)を予測し、そのときに必要な医療機能を考え、在宅医療ニーズも含めて最適な地域医療の形を組み立てるものである。具体的には、病院の病床(入院ベッド)の機能を「高度急性期・急性期・回復期・慢性期」の4つに分け、都道府県内にある二次医療圏(※)をベースにした構想区域を単位にして、それぞれに必要な病床数を定めていく。
現在、愛知県は11、三重県は8つ、岐阜県は5つの構想区域ごとに、地域医療構想の策定作業が進んでいる。その進度は構想区域によって異なるが、おおむね2016年度の策定をめどとし、策定された内容を都道府県の医療計画に反映していく計画である。
※二次医療圏は、特殊な医療を除く入院治療を主体とした医療需要に対応するために設定された区域。
少ない現役世代が、
増える高齢者の医療を支えていく。
地域医療構想の背景には、急速に進む少子高齢化の流れがある。下のグラフで示すように、これからの日本は高齢者が増え続け、反対に、高齢者を支える現役世代(15〜64歳の生産年齢人口)は減少していく。高齢者が増え、現役世代が減ると、どうなるだろう。まず、高齢者が増えると、それだけ医療の需要(病気やケガで医療を必要とする人)が増え、医療費も膨らんでいく。ところが、その一方で、現役世代が減少するため、医療の財源(保険料や税金)は少なくなり、同時に、医療の現場で働く人材も減少する。すなわち、病人(需要)は増えるが、その病人を診るために、病院の医療(供給)を増やすことは難しい。それが、これからの日本の医療の現実なのである。
地域医療構想では、こうした状況を踏まえ、少子高齢社会にふさわしい地域医療体制の構築をめざしている。医療費のムダを省くと同時に、限りある医療資源を有効に活用して、医療提供体制の効率化を推し進めていこうとしている。
高齢者の増加に合わせて、
病院が提供する医療の中身も変わる。
地域医療構想の最大のポイントは、少子高齢社会にふさわしい医療の形をめざして、病床(入院ベッド)の機能を再編していくことである。そもそも病気を治療していく過程は、急性期、回復期、慢性期など、病気の進行の症状によって区分されている。これまで病院は、それぞれに得意区分を選び、病床機能を整備してきた。急性期治療の高度化に力点を置く病院もあれば、回復期を中心に、患者の社会復帰に力を注ぐところもあった。地域医療構想では、これらの病床機能を、地域全体で、将来の医療需要に合わせ、急性期を高度急性期と(一般)急性期に分けた上で、それぞれの病期に合った病床のバランスに、緩やかに変化させていく計画を打ち出している。
ではなぜ、今ある病床機能を変えなくてはならないのだろうか。それは、高齢者の増加によって、求められる医療の内容が変わってくるからである。今日の病院の医療は、臓器単体の疾患を「治す医療」が中心である。しかし、高齢者は複数の慢性疾患を持ち、年齢とともに完治しにくいこともあり、臓器の治療だけでは対応できない。そこで、「治す医療」から、患者の全身を総合的に診て、療養生活を支えていく「治し支える医療」への転換が必要になってきたのである。

4つの病院機能
■ 高度急性期
救命救急や集中治療を必要とする患者に、高度で濃密な医療を提供。
■ 急性期
地域で頻回に発生する疾患への専門的な医療を提供。
■ 回復期
急性期を経過した患者に、
在宅復帰に向けた継続的な医療やリハビリテーション医療を提供。
■ 慢性期
短い期間では治り難い疾患を持つ患者を受け入れる。
一つの病院にずっと入院するのではなく、
病状に応じ転院することもある。
病床機能の再編と同時に、地域医療構想でめざしているのが、機能の違う病院同士の連携である。これまでは、一つの病院で完治するまで医療を提供する「病院完結型」だった。しかし、これからは、各病院が自分の得意分野を定め、近隣の病院と連携して医療を提供する「地域完結型」へとシフトし、限りある医療資源の有効活用を図っていく。たとえば、高度急性期の病院に救急搬送された患者は、必要な手術などを受けて回復し、退院するのが一般的。しかし、さらに継続的な治療が必要な場合は、早い段階で急性期や回復期の病院へ移り、そこで、継続的な医学管理やリハビリテーションを受けて、在宅復帰をめざしていく。
このように、病状に応じて転院する仕組みは、医療の効率化だけでなく、患者にとってもメリットがある。たとえば、リハビリテーションを必要とする患者は、高度急性期病院に長く入院するよりも、早く回復期の病院に移り、集中的にリハビリテーションを受ける方が一日も早い社会復帰に繋がるだろう。
但し、こうした転院の仕組みの普及・定着には、病院同士の密な連携体制が必要となる。まだ回復途中の段階で、患者を他の病院に紹介する以上、その患者の情報や治療計画を連携先病院と共有し、医療のバトンをスムーズに渡さなくてはならないからだ。そのため現在すでに、連携する病院の職員同士が集まって顔の見える関係を作ったり、転院調整を専門とする看護師を配置する病院も増えつつある。転院に際して病院側は、患者・家族の充分な理解を得て、患者の最善を考えた質の高い医療を継続していくことが重要となる。
入院日数の短縮化
国は、医療資源を有効活用するために、患者の入院日数の短縮化をめざしている。入院日数を短くすることで、病床回転率(一つの病床が1年間に何人に利用されたかを表す指標)を高め、医療の効率化を進める。なお、入院日数の短縮化は、患者の寝たきり防止など、医療の質の向上にも繋がると考えられている。
病院から自宅や施設に戻っても、
必要な医療や介護を受けられる支援体制が必要。
地域医療構想では、高度急性期から慢性期まで、機能の異なる病院同士がしっかり連携し、効率の良い医療の提供をめざす。患者は病状に応じた病院で治療を受け、早期に退院することになる。そこで、必要になるのが、退院した患者の在宅療養を支える体制だ。たとえば、複数の慢性疾患や障害を抱えた高齢患者が、病院での治療を終えた後、自宅や施設に戻って生活していくには、手厚い在宅医療・介護サービスが必要となる。具体的には、医師や看護師、理学療法士などが患者の住まいを訪問して医療サービスを提供したり、ケアマネジャー(介護支援専門員)やホームヘルパーが患者の生活をサポートしていかねばならない。
さらに、現在は、在宅に戻れず、病院の療養病床に長期入院している患者もいるが、国はそうした患者も、できるだけ病院ではなく、自宅や施設で療養していく「病院から在宅へ」の転換を志向している。それを可能にするには、一人暮らしであっても、介護が必要であっても、安心して暮らし続けられる社会の仕組みが必要である。そこで、国が進めているのが、高齢者の暮らしをトータルに支える「地域包括ケアシステム」の構築。24時間対応の訪問看護・介護サービス、NPOやボランティアによる生活支援サービスなどにより、高齢者を支えていこうとしている。しかし、そうした地域社会は、一朝一夕でできるものではない。行政、医療、介護、福祉、そして、地域住民が、本気になって取り組んでいかねばならない課題である。
地域包括ケアシステム
2025年に向けて、全国の市町村でシステムづくりが進められている地域社会の仕組み。地域住民に、「住まい・医療・介護・予防・生活支援」の5つのサービスを一体的に提供することをめざしているが、実現化への道筋はこれからである。
上のイラストは、「団塊の世代が75歳以上になる2025年、高齢者が町にあふれ、地域医療が危機に直面する」、という悪い未来予想です。病気の人が押し寄せ、病院が対応し切れず、高齢患者は行き場を失い途方にくれる…。こうならないように、現在、各都道府県では地域医療構想調整会議が開かれ、病院や医師会などの医療関係者、行政の担当者、住民の代表などが集まり、話し合いを進めています。
しかし、その協議は決して容易なものではありません。病床機能を変えるには、地域ごとによって事情は異なるため、その状況を共有した上で、データに基づき病院同士がよく話し合い、それぞれが地域のなかで果たすべき役割を決める。また、決めた後も、個々の病院が病床機能を転換し、近隣の病院との連携体制を構築するには、設備の拡充や人材の確保・教育などを準備する。さらに、病院治療の先には、在宅療養を支える仕組みづくりや人材の養成、高齢者の住まいの確保など、実に多くの課題が山積しています。
この地域医療構想の進捗は、将来の日本の医療は言うまでもなく、社会のあり方をも左右するものです。それはイコール、病院経営者だけに突きつけられた問題ではなく、すべての医療従事者、教育機関、行政、そして、私たち生活者の一人ひとりの誰もが、「当事者」として関わるべき問題。次代の医療を、社会を、危機感を持って、みんなで考える必要があります。たとえば生活者の「あなた」は、自分の地域に、どんな医療・介護サービスが必要なのか考え、意見や要望を発信する。そうしたことが大切なのではないでしょうか。目標とする2025年までに用意された時間は約9年間。2025年へのカウントダウンは、もう始まっています。
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SPECIAL THANKS(編集協力)
「PROJECT LINKED」は、本活動にご協力をいただいている下記の医療機関とともに、運営しています。
(※医療機関名はあいうえお順です)
愛知医科大学病院 |
岐阜市民病院 |
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