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病院を知ろう

人にも、地域にも、
そして、病院にも、
次代に求められる
医療がある。

 

 

可児とうのう病院


救急機能、急性期機能、そして、在宅復帰支援機能の拡充。
地域の医療を低下させないための、
可児とうのう病院の試み。

main

可児とうのう病院は、平成27年、可児市で初めての地域包括ケア病棟を開設した。
これまでは急性期の患者のための病床のみで歩んできた同院にとって、これは未来への大きなきっかけといえる。
だがそこには、地域の高齢化、そして、慢性的な医師不足という、避けては通れない問題を真正面から見つめた、苦しみのなかでの一歩があった。

 

 

 

 

 

救急、急性期、そして、在宅復帰支援に注力。

KX0A3626 旧社会保険庁の解体を受け、岐阜社会保険病院から<可児とうのう病院>になって丸2年。同院は今、JCHO(※)の一員として、地域医療への貢献を使命に、地域を支える拠点づくりに全力を注いでいる。
 同院の現在の医療機能を見ると、救急医療、急性期医療に、従来どおり力を注ぐのはもちろんだが、この領域での医療と、在宅医療を繋ぐ機能の拡充に注力しているのが解る。その象徴が、平成27年に開設した地域包括ケア病棟だ。
 地域包括ケア病棟には三つの役割がある。急性期病床からの患者の受け入れPlus顔写真、在宅療養中の患者の受け入れ、そして、患者の在宅復帰への支援。高齢患者のなかには、急性期治療が終わり病状が落ち着いても、すぐには在宅復帰できないケースが多い。そうした患者にとって、この病棟は準備のための時間を確保したもの。本人や家族の希望をもとに、心身の機能回復を図りながら、不安なく次のステップに踏み出すための道筋をつけていく。
 同院の岸田喜彦院長は言う。「在宅医療関連でいうと、当院は以前から介護老人保健施設、訪問看護ステーションを有しています。地域包括ケア病棟は、そうした在宅支援機能と急性期機能との、いわばハブ的存在です。高度医療と地域との繋ぎ目に位置づき、双方の結節点として、地域住民へのより安心した医療提供の要と考えています」。
※ JCHOとは独立行政法人 地域医療機能推進機構。地域医療、地域包括ケアの要として医療人育成にも力を注ぐ。

 

 

この地域の医療を、低下させないために。

 KX0A3851 急性期の医療機能を維持した上で、在宅支援機能を強化する。それは容易なことではないが、常に地域を見つめて、地域が求めるもの、本当に必要とする医療を提供し続ける、というのが可児とうのう病院の変わらぬ姿勢である。
 そもそも同院は、公立病院がない可児市にあって、市民病院的な役割を永年に亘り担ってきた病院だ。現在は可児市(西地区中心)と御嵩町を診療圏とし、二次救急病院として年間5524名(平成27年度実績)の救急患者を受け入れている。診療科も幅広く掲げ、市民への最新の医療提供に努めてきた。それは以前の社会保険病院であっても、現在のJCHOであっても変わることはない。
KX0A3829 ただ、近年でいうと、慢性的な医師不足という問題を抱えているのも事実だ。これは可児とうのう病院だけの苦しみではなく、中規模病院にとって共通するもの。とりわけ岐阜県自体が、全国的に見ても医師が不足し、その少ない医師たちは、同院が位置する中濃医療圏の隣、岐阜医療圏に集中する。
 そうした環境において、岸田院長が見つめ続けてきたことは、一つ。<この病院が機能を損なえば、この地域の医療自体が低下する>。そのため院長は、大学医局や基幹病院に医師派遣を求め続ける一方で、足らないところは、各科で協力し合って、院内の診療機能調整に全力を挙げ続けている。
 その上で、この地域の医療自体を低下させないために必要な新しい要素として、前述のとおり、高度な急性期医療と地域を結ぶ機能を有し、在宅復帰支援機能を高めるなど、もっと地域に寄り添い、生活のなかに一体化していく路線を強化してきたのだ。

 

 

郊外型ニュータウンに進む、高齢化の波。

KX0A3688 可児とうのう病院のある可児市は、これからの超高齢社会における一つの象徴といえる。すなわち、<郊外型ニュータウンにおける高齢化>である。
 可児市は、岐阜県の中南部にあり、愛知県との県境に位置する。昭和45年(1970年)以降、可児市は、丘陵地を開拓してニュータウンを造成し、名古屋市のベッドタウン化してから人口が急激に増加。それまでは3万人に満たなかったが、10年後の昭和55年には5万人を超え、以降10年ごとで見ると、平成2年8万人弱、同12年9万人強、同22年には10万人を越えた。
 そうした人口増加は市の発展を牽引してきた。だが、同22年以降は鈍化しており、それまでに流入した市民の高齢化が、一気に目立ってきたのだ。人口のうち最も多い年齢は、65歳〜69歳。65歳以上で見ると2万5000人に迫り、高齢化率は24・6%(平成27年4月1日現在)を数える(『可児市の統計 平成27年版』による)。
 医療を必要とするのは、高齢者である。人口が減少しても、高齢化が進めば医療の需要は増える。但し、そこで必要とされるのは、従来のような臓器別に特化した専門的な医療だけではない。複数の疾患を抱える高齢者の生活背景までKX0A3700も見つめ、介護と連動した全人的な医療である。
 こうした郊外型ニュータウンにおける高齢化に対応するには、地域の診療所が在宅医療の要となり、日々の健康管理を受け持ちつつ、専門的な治療が必要と判断した場合に、急性期機能を有する病院に紹介する。つまり、病診連携による医療提供の形が望まれる。だが、可児市においては、診療所数が元々少なく、そこの医師自身にも、高齢化が進んでいる。

 

 

医療ネットワーク構築に全力を注ぐ決意。

KX0A3798 可児とうのう病院の今後の方向性を、岸田院長はこう語る。「地元の公的病院として、当院で診てほしいとおっしゃる住民の方々が大勢います。本来は、診療所から患者さんを紹介していただき、当院で診療することが望ましく、そのための病診連携には力を注ぎます。しかし、その一方で、地域の実情を考えると、当院もプライマリ・ケア(初期診療)に重点を置き、患者さんに対して、適切な医療へと繋ぐ役割を担う必要があると考えます。もちろん救急医療も担います。医師や職員には負担をかけますが、緊急患者さんは、まずは受け入れる。初期診断をし、自院で診療できるものは迅速に行い、より高度な専門治療が必要と判断した場合は、基幹病院に送る。何よりも患者さんの安全が第一義です」。
 こうした面が病院への入口だとすると、岸田院長は病院からの出口についても力点を置く考えにある。先に紹介した地域包括ケア病棟、介護老人保健施設、訪問看護ステーションの機能向上である。そのためには医療スタッフがもっと地域に出る、つまり、地域との接点を持つことも必要となってくるだろう。
KX0A3771 「医師不足は悩ましい問題ですが、当院には、医療自体が不足する地域において、高度医療と地域を結ぶハブとしての役回りが不可欠と考えています。そのためには、医療ネットワーク構築の強化しかありません。前述どおり、病診連携の促進、そして、基幹病院との病病連携の推進ですね。そこでは限られた医療リソースを、地域全体で有効に活用するという発想が、大切であると考えています。すべては、地域の医療を守り抜くために。この根幹を忘れず、そして、諦めず、職員の力を結集してこれからも努力を続けていきます」。岸田院長は静かな表情のなかにも、強い決意を持って語った。

 


 

column

コラム

●良い病院のスケールを考えたとき、収益に代表される数値的なものと、数値では表わせられないものとがある。たとえば、誤解を恐れず言うならば、臓器別の専門医療は数値で解りやすい。疾患により診療報酬がほぼ決められており、患者数、平均在院日数など、いくつかの努力目標により、収益を向上させることは可能だ。

●それに対して、全人的な医療はなかなか難しい。診療報酬が決まっていることは同じだが、そこには、一人ひとりの患者のナラティブ、つまり、人生の物語に沿って、生活に密着した視点での治療が必要とされるからだ。その際には、すべての疾患を治癒させることよりも、疾患を持ちながらも豊かにどう生きるかという観点も不可欠になる。

●超高齢社会で重要となる医療は、換言すると、すでに多くの高齢者がいる地域では、全人的な医療を展開することこそが、医療機関における<地域貢献>といえよう。

●可児とうのう病院は、まさにそこにある。

 

backstage

バックステージ

●わが国では、累積する膨大な医療費を削減するために、効率的な医療提供が求められている。そして、世界で類を見ない超高齢社会を見つめ、国を挙げて、効率化を推進する医療提供体制の変革が進められている。いずれの病院も、自院の方向性を明確にした上で、病院と診療所との連携を基本とする経営に余念がない。

●そうした経営努力はすべての病院に課せられているが、しかし、病院だけでは解決できない問題を抱えているケースもある。地域の事情、そして、医師不足である。

●その両方を見つめた上で、病院力を再規定し、地域の高齢化とともに、<老い>を見つめる病院があってもよいのではないだろうか。

●それは決して医療機能を下げるという意味ではない。地域が最も必要とする医療を見つめ、医療機能を高齢者に合わせていくというものだ。

●高齢者が安心する医療。それを提供する病院。次代においては、大きな存在意義を持つと考える。

 


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