6,742 views

病院を知ろう

延命ではなく、
<治す>治療をめざして、
<薬>の進化を
取り込む、活かす。

 

 

愛知県がんセンター 中央病院


従来型の抗がん剤、分子標的薬、免疫治療薬…。
最先端のがん薬物療法を駆使して、
がん患者に新たな希望を届ける。

main

がんの治療法として、外科療法、放射線療法と並ぶ柱が、抗がん剤などを用いる薬物療法(化学療法)である。
抗がん剤治療の目的は、がんの種類や進行度によって異なるが、進行・再発したがんに対しては、延命を目的に抗がん剤治療が行われる。
しかし、近年、免疫治療薬の登場により、薬物療法によってがんを克服できる可能性も見えてきた。
愛知県がんセンター中央病院の最前線の動きを追う。

 

 

 

 

 

進行・再発した肺がんに強力な武器が登場。

Plus顔写真1 人には本来、免疫力(細菌やウイルスなどの有害物質から体を守る力)が備わっている。その免疫力を用いた新薬が、がん治療の旗手として、今注目を集めている。免疫治療薬のオプジーボⓇ(一般名:ニボルマブ)である。がん細胞は自分が攻撃されないように、体内の免疫機能を抑制する働きを持つ。その働きを解除し、免疫細胞の力を覚醒させてがん細胞への攻撃力を高める薬だ。オプジーボⓇは当初、メラノーマ(悪性黒色腫と呼ばれる皮膚がん)の治療薬として承認され、平成27年12月、肺がん(非小細胞肺がん※)の治療薬として追加承認された。
 愛知県がんセンター中央病院(以下同センター)呼吸器内科部 部長の樋田豊明医師は、この追加承認を待ち望んでいた一人だ。「進行・再発した肺がんに対する抗がん剤治療は、がんの進行を抑え、余命を伸ばす目的で行います。しかし、がん細胞は薬剤に対して耐性を獲得していくので、最初は効果があってもやがて効かなくなります。そこで、別の薬剤に切り替えていくのですが、それもしばらくすると、効き目がなくなります。となると、もはや打つ手がない。そういう場合でも166_Aichi_GanC_L22_2016、オプジーボⓇは直接的にがん細胞を攻撃するのではなく、免疫機能を高めるように作用するため、ある一定の割合の患者さんに効果があるのです」。「しかも…」と樋田は続ける。「人が本来持つ免疫機能を用いることにより、余命を伸ばすだけでなく、がん細胞を死滅させる、すなわち、がんを完治できる可能性も出てきました。オプジーボⓇはまだ、どんな患者さんに最も効果があるのか模索している段階ですが、これからデータを蓄積していけば、より効果的な薬の組み合わせや投与の順番もわかってくると思います」。

※ 肺がんは組織学的に、小細胞がんと非小細胞がんに大別される。非小細胞肺がんは、肺がんの80〜90%を占める。

 

 

治験薬という形で最新のがん医療を届ける。

 Plus顔写真2 オプジーボⓇが承認される前の段階から、同センターでは、この新薬の治験に参加してきた。治験とは、薬の有効性や安全性を確認し、新しい薬の承認を得るために行う、治療を兼ねた試験である。そして、現在も引き続き、別のがん種に対する追加承認を得るための治験を継続している。臨床試験部 部長の山本一仁医師に話を聞いた。「免疫療法は科学的根拠のあるものと、ないものが混在しています。ですから、オプジーボⓇに対しても、最初は慎重な姿勢で臨んでいました。しかし、治験により、一部の患者さんには劇的な効果が認められ、がん治療の新時代到来を実感しているところです」。
 山本が率いる臨床試験部の治験支援室では、製薬会社の依頼を受けて新薬開発のための医師主導治験の支援を行っている。毎年、新しく始まる<治験>が50件ほどあり、それを含めて常時、約150件の治験を実施。また、治験後に、承認された薬の効果を確かめたり、追跡調査を行ったりする<臨床試験>も常に、180件くらい実施している。これだけ多くの臨床試験を行っている病院は、全国でも数えるほどしかない。
139R_Aichi_GanC_L22_2016. 「当院では患者さんの人権や安全性を守るために設けられたGCP(医薬品の臨床試験の実施基準)という厳格なルールに従い、患者さんの承諾を得た上で、質の高い治験を行っています。新薬を待ち望む患者さんに、<治験>という形で最先端の医療を提供できるのが、当センターの強みですし、患者さんにとって最大のメリットだと思います」と山本は話し、「但し…」と続けた。「治験では予想外の副作用が発生する可能性もあります。副作用が起きたとき、迅速に対応できる病院のバックアップ体制をさらに強化していく必要があると感じています」。

 

 

がん薬物療法のめざましい進化。

Plus顔写真3 20世紀の後半から、がん発病のメカニズムが遺伝子レベルで解明されるようになり、遺伝情報に基づいた医薬品の開発が進んでいる。副院長(血液・細胞療法部長、医療安全管理部長を兼務)の木下朝博医師に、薬物療法の進化の歴史について聞いた。「そもそも抗がん剤とは、がん細胞を攻撃し、がん細胞の増殖を抑える薬です。しかし同時に、従来の抗がん剤は正常な細胞も攻撃するため、吐き気や脱毛など、強い副作用が問題とされてきました。そこに、1990年代の後半から登場したのが、特定のがん遺伝子を狙って作用する分子標的薬です。分子標的薬は、がん細胞の増殖に関わる特定の分子を狙い撃ちするため、比較的少ない副作用で高い効果を発揮し、がん薬物療法を劇的に進化させました。たとえば、私の専門の血液がん領域でも、2001年に保険承認された分子標的薬グリベックⓇ(一般名:イマチニブ)が、慢性骨髄209_Aichi_GanC_L22_2016性白血病の治療を大きく変えています。この疾患は、昔は不治の病といわれ、骨髄移植をしないと治らなかったものです。それが、分子標的薬によって白血病細胞の増殖を抑えることができるようになり、移植をしなくても病気をコントロールできるようになったんです。これは革命的な出来事でした。そして、今、分子標的薬に続く新たな可能性として、人間の免疫力を強化し、がん細胞を攻撃する免疫治療薬が注目を集めているのです。これら3種類の薬を有効に組み合わせることで、さらに高い治療効果をめざせると考えています」。

 

 

最先端を提供し、最先端を創造していく。

183_Aichi_GanC_L22_2016 従来型の抗がん剤、分子標的薬、そして免疫治療薬が加わり、がんの薬物療法は今後もめざましい勢いで進化することが予想される。それらの治療法を、同センターはどのように取り込んでいこうとしているのか。「がんの専門病院として、安全性を確認した上で、保険収載された新薬はもちろん、保険収載前の治験薬も含め、最先端の薬物療法を提供していきます。もう一つ大切なのは、最先端を提供するだけでなく、最先端を創造すること。研究所を併設する特徴を活かし、新しい医薬品、治療法の開発に貢献し、少しでも、がん治療を前へ進めていくことが我々の使命です」と、木下は言う。
149R_Aichi_GanC_L22_2016. すでに同センターではバイオバンク(※)が設置され、基礎医学と臨床医学を密に連携させた研究体制の強化が進められている。また、各診療科ではそれぞれの多施設共同研究グループに積極的に参加し、多様な臨床試験が活発に展開されている。多方面にわたりがん研究を推進する、その先に、木下が見つめるのは何だろうか。「私たちの究極の目標は、がんの征圧に他なりません。従来、がん薬物療法の目的は、余命を伸ばすことでした。でも、これからは違います。がんの遺伝子異常に基づいて治療薬を開発し、さらに人間が本来持つ免疫力も活かすことで、がん細胞を効率良く攻撃することができます。<がんを征圧する>という信念を持ち、最先端のがん診療、がん研究にいっそう力を注いでいきます」。
 延命ではなく、<治す>治療をめざして…。同センターの医師や研究者たちは、今日もがん医療の最前線をひた走る。

※ 患者の生体試料(細胞、血液など)、診療情報などを収集・保管し、疾患の研究に活用する仕組み。

 


 

columnコラム

治験・臨床試験・臨床研究について
図
臨床研究(患者の協力を得て行う医学研究)のうち、薬剤や治療法などの安全性と有効性を評価する試験が、臨床試験(新薬に限らず、既存の薬の別の効能の確認試験なども含む)。臨床試験のうち、新しい医薬品や医療用具の製造・販売の承認を得るために行われるのが、治験である。

 

backstage

バックステージ

●全国どこでも、質の高いがん医療を受けることができる体制をめざして、各地にがん診療連携拠点病院が整備されている。愛知県がんセンター中央病院は平成19年、国から<都道府県がん診療連携拠点病院>に指定され、名実ともに、県内のがん診療連携拠点病院の先頭に立つ病院として活動している。

●同センターで展開されている治験をはじめとした臨床研究は、同センターの患者だけを対象にするものではない。「ここで得られた研究の成果を、がんで苦しむすべての患者さんに届けることこそ、私たちのミッションです。がん診療連携拠点病院のネットワークなどを通じて、最先端の治療を標準治療へと普及させていく過程においても貢献していきたい」と、臨床試験部の山本医師は言う。治験から承認薬へ、そして臨床試験を経て、標準治療として確立されるまでの道筋を、同センターは支えている。

 


6,742 views