1,764 views

病院を知ろう

不可避の課題に果敢に向かう、
認知症サポートチームの目線。

 

 

西尾市民病院


西尾市の急性期医療を担う、中核病院として。
認知症への組織的対応力を強化し、
高齢化の進む地域を支え続ける。

main

認知症を抱える患者の増加に、どう対応すればいいのか。
西尾市民病院では、高齢化にともない、地域で顕在化する難問に立ち向かうべく、<認知症サポートチーム>を設置。
せん妄や拒否行動など、認知症由来の症状をコントロールし、円滑な入院治療・療養生活を実現するための、新たなチャレンジをスタートさせた。

 

 

 

 

 

大切なのは、認知症を理解すること。

Plus顔写真1 「どうしても、認知症の患者さんが入浴してくれなくて…」。病棟の看護師から、清潔ケアを拒む患者の相談を受け、認知症看護認定看護師の市川基子は患者の元に向かった。現場に到着すると市川は、患者の目を見ながら笑顔で話し始める。その口調は、あくまで優しく、そしてはっきりしたものだ。「お体の調子はどうですか?」「最近少し冷えますね」…あえて、入浴を勧めることはしない。ときどき患者の手に触れながら、会話を進めていくと、患者から「寒い」という言葉が出る。市川はすかさず、「じゃあ、お風呂で温まりましょう」と切り出す。すると、それまで頑に入浴を拒んでいたことが嘘のように、患者はすんなりと入浴を受け入れた。
 「認知症は加齢による物忘れなどとは違い、脳の神経細胞が壊れ、機能が障害される<病気>です。例えば、認知症患者さんの多くは、新しく人やものを判断・認知する脳の機能が障害され、低下しています。その結果、見知らぬ人には、恐怖心や不信感を抱きやすい状態にあるのです。病棟看護師には、そのことを理解し、無理強いをせず、笑顔でゆっくり、手に触れながら話すなど、安心を与える接し方を見てもらいたいと思っています」と市川。
KX0A4238 こうした市川の活動は、西尾市民病院で平成27年6月に発足した、<認知症サポートチーム>の一員としてのもの。自身は地域包括ケア病棟に所属しながら、毎週火曜と金曜を認知症対策の活動日に充て、組織横断的に病棟看護師からの相談を受けるとともに、認知症に対する職員への勉強会や、新人看護師向けの研修を開催するなど、精力的に活動を展開している。「まずは、病棟看護師に認知症のことをちゃんと理解してもらいたいです。病棟業務のなかで、認知症患者さんの行動にどう対応してよいかわからないと、看護師はその患者さんを負担に感じ、安易な身体抑制や強制を行い、その結果、さらに認知症が悪化してしまうという負の循環に陥りがちです。認知症という<病気>を正しく理解し、それぞれの患者さんへの観察と評価に基づいて対応することで、症状も安定し、悪い循環を起こすことも少なくなるのです」(市川)。

 

 

チーム発足から約1年。確実に見えてきた変化。

 Plus顔写真2 市川が所属する<認知症サポートチーム>は、医師の川崖拓史精神科部長を代表に、市川のほか、臨床心理士1名、看護師1名、理学療法士2名、言語聴覚士1名、ケースワーカー1名、薬剤師1名で構成される。市川が、現場での中心的活動を担い、川崖部長が、チーム全体のマネージメントと、踏み込んだ症例の分析、エビデンス(医学的根拠)に基づいた治療方針の決定・助言を、他のメンバーは、それぞれの専門的立場から、情報収集やサポートを行いながら、病院全体の認知症対応力を向上すべく活動している。
 チームが発足して1年あまりだが、院内には着実に変化が見え始めているという。「チームの活動を通じ、認知症に積極的に意識を向ける機運が高まってきていると実感しています」と、川崖部長。その要因はどこにあるのだろうか。「もともと当院の認知症対策や院内啓発は、<精神科リエゾン活動>という名称で、私単独で行っていました。しかし、医師一人で行える活動はどうしても限局的にならざるを得ません。そこに、チーム発足の数カ月前から市川看護師と臨床心理士が加わり、さらに今回、チームができたことで、手の届く範囲が大きく広がったのです。特に市川さんが、同じ看護師の立場から、幅広く院内看護師への助言・指導を続けてくれることで、認知症を理解し、患者さんに適切なコミュニケーションを行える看護師が増えてきていますし、もっと認知症を知りたいと、積極的に相談をしてくる職員も多くなりました」(川崖部長)。チームの活動が少しずつ浸透し、今、認知症対策という大きな目標に向けて、院内の一体感が高まってきているのだ。

 

 

急性期病院の機能を脅かしかねない認知症。

KX0A4201 チームを発足させ、認知症への対応力を強化してきた西尾市民病院。では、急性期医療を担う同院が、なぜ認知症対策にここまで注力するのだろうか。その背景には、地域医療提供体制の変革がある。国は今、超高齢社会を見据えた医療提供体制の構築をめざし、病院単体で治療する「病院完結型医療」から、地域の医療機関が役割分担と連携をしながら、地域全体で患者を治し、支える「地域完結型医療」へと転換を進めている。そのなかで、同院のような急性期病院には、入院日数を短縮し、患者を早期に地域に返していくことが求められている。
 しかし、高齢化の進行は同時に、認知症を抱える患者の増加にも繋がっている。川崖部長は語る。「認知症患者さんが、住み慣れた環境を離れて入院治療を行う場合、環境変化への適応能力の低さから、徘徊、暴力などの周辺症状や、意識障害や幻覚といった、せん妄症状を発現させやすく、円滑な治療の妨げになります。一方、当院を退院後、認知症患者さんを支えるのは、ご家族を中心とした介護者です。無理に本来の疾患の治療を優先させ、せん妄などが悪化してしまうと、こうした介護者に過度な負担をかけ、ご自宅に戻れないという状態を引き起こしかねません。私たちは、疾患の治療と、認知症のコントロールを両立させなければならないのです」。
KX0A4375 こうした問題へ対応するため、今回のチーム発足は大きなチャンスであると川崖部長は言う。「認知症患者さんといっても、その症状や原因はさまざまです。各患者さんが抱える問題の本質を究明し、適切な処置を行うには、専門的見地からの分析・評価に加え、関わる職員が認知症を意識し、理解することで、組織的な対応能力を強化する必要があります。今回の認知症サポートチーム発足はまさに、こうした問題を解決する契機になると思います」。

 

 

認知症対応病院として、他のモデルになるために。

KX0A4280 認知症サポートチームの発足に伴い、西尾市民病院は、平成27年9月、愛知県が主導する認知症対応力向上事業の認知症対応病院に選定された。そして現在、チームの活動は、さらにその幅を広げようとしている。「認知症への対応は、病院内で完結できるものではありません。当院は、認知症対応病院として、院内のレベルアップを図ることはもちろん、地域全体で認知症患者さんを支える力を向上させ、他の地域のモデルとなる必要があります」と川崖部長。
 その言葉の通り、院内では、各病棟にリンクナースを配置し、入院患者への認知症対応力向上を図るとともに、市川が、週1回の看護専門外来で、認知症患者のご家族の相談に応じるなど、新たな取り組みを始めている。加えて、平成28年度中には、院内デイサービスの立ち上げを計画。コミュニケーションの場を設けることで、認知症患者に適度な刺激を与え、症状の緩和をめざしている。一方、地域に対しても、市川が市民向けに認知症の講義を行い、川崖部長が市民公開講座を主催するなど、積極的に啓発活動を進め、地域全体の認知症対応力向上に向けて動き出している。    
 「認知症患者さんは今後ますます増加していくと思います。だからこそ、認知症患者さんの思いをくみ取り、生活を支えられる看護師を増やしていく、そして、将来的には認知症に特化した訪問看護なども手がけられれば」と市川は抱負を語る。川崖部長もその言葉にうなずきながら、「チームが核となり、病院全体、地域全体で連携する仕組みづくりに注力することで、高齢化する地域においても、安心して生活が送れる、そんな環境ができたらよいですね」と微笑む。高齢化が進む日本において大きく膨らみ始めてきた認知症患者の問題。この難題に立ち向かうべく立ち上がった同院の認知症サポートチームは、今後も着実に歩みを進めていく。

 


 

column

コラム

●愛知県では平成25年11月から「病院の認知症対応力向上事業」を開始した。同事業は、在宅で療養生活を行う認知症患者が一時病態を悪化させたとき、病院での受け入れを円滑に行い、速やかに在宅復帰するための仕組みづくりを促すもの。医療従事者のための研修や、認知症対応病院への実地指導などを行う。この実地指導の一つに、医師・看護師などの多職種による認知症サポートチームの設置があり、西尾市民病院でもこの指導に則りながら、「認知症せん妄対策チーム」を発展させる形でチームを発足させた。

●西尾市民病院では、禰宜田院長の強い意向で認知症対応病院に名乗りを上げた。トップが自ら主導した背景には、「地域に必要とされる病院になるためには、急性期病院として急速に進む高齢化に対応しないといけない。そのためにも認知症対策は不可欠である」という並々ならぬ決意が込められている。

 

backstage

バックステージ

●厚生労働省の発表によれば、認知症高齢者の数は平成24年の時点で全国に約462万人と推計されている。団塊の世代が後期高齢者となる9年後の2025年には700万人を超えると予測され、65歳以上のうち、実に5人に1人が認知症に罹患する計算となる。

●今後、爆発的に増加する認知症患者にどう対処すればいいのか。これは介護の現場だけでなく、急性期病院にとっても切実な問題である。急性期の疾患を治療しながら、どのように認知症に対応し、患者のQOL(生活の質)を維持しながら、地域へ繋いでいくのか。この難問を解決する明確な答えはまだ見つかっていない。

●国全体が暗中模索を続けるなか、西尾市民病院は、回答がない社会問題に立ち向かい、解決の糸口を探るべく果敢に挑戦を始めている。この取り組みが今後、認知症の急性期患者を救うモデルケースとなることに期待したい。

 


1,764 views