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病院を知ろう

地域のお産を
守り抜くために。

 

 

総合病院中津川市民病院


このままでは分娩休止に…。
窮地の産婦人科を甦らせた
起死回生のストーリー。

main

産婦人科医の減少により、分娩を取り扱う医療機関は全国的に激減している。
岐阜県東濃東部地域(中津川市・恵那市)で分娩を扱う施設は2カ所のみ。
その一つ、総合病院中津川市民病院は一時、産婦人科閉鎖の危機に陥った。
そこからの復活の物語を追う。

 

 

 

 

 

大勢の医師の交代勤務により
24時間365日
安心の産婦人科体制を実現。

143_NakatsugawaC_L23_2016 総合病院中津川市民病院で産婦人科診療に携わる医師は、17名にのぼる。但し、彼らの所属先は、同院ではなく、医療法人葵鐘会。愛知・岐阜県で、産婦人科クリニックなどを展開する大規模な民間組織である。実は平成27年4月から、同院は葵鐘会と医師確保に関する協定を締結。葵鐘会が24時間365日体制で、産婦人科医を交代で派遣。昼間の診療時間内は医師2名、土日・夜間は1名。さらに土日・夜間に、緊急手術が必要なときは、オンコール体制でもう一人の医師が駆けつける体制を組んでいるのだ。
 この体制がスタートする10カ月前から同院に通い詰め、準備したのが、葵鐘会の副理事長 加藤三紀彦医師である。葵鐘会にとって、別の施設への医師派遣は初めての試み。仕事の進め方、カルテの書式などすべてが異なる状況を一つひとつ擦り合わせていったという。なかでも注力したのは、派遣医師の勤務シフトだった。「葵鐘会に所属する約70名の産婦人科医に、派遣の希望を募ったところ、<週5日働いてもいい><週1〜2回なら勤務できる><土日に働いてもよい>など、さまざまな希望が集まりました。それらを調整し、ほぼ固定で毎日診療する医師を1名決め、その他の医師が交代で働けるようにきめ細かい勤務シフトを組みました」(加藤副理事長)。出産はいつ始まるかわからないため、産婦人科医は24時間の対応が要求される。その負担を大勢の交代勤務で軽減しつつ、充分な診療体制を整備しているのだ。
Plus顔写真1 加藤副理事長自身も、勤務メンバーの一人として、月に数回、土日や夜間の緊急手術を担う。「市民病院は診療科間の協力体制が素晴らしいんです。緊急帝王切開術となると、麻酔科の先生、小児科の先生、助産師さんがいつでも駆けつけてくれます。また、糖尿病などの合併症に対しては内科の先生が対応してくださいますし、病院の総合力を活かし、ある程度リスクのある妊婦さんまで受け入れることができます」。
 同院では、地域のクリニックと正常分娩を分担しながら、逆子(さかご)などの異常分娩も受け入れる。それ以上にリスクが高く、母子の命に関わるケースは、東濃医療圏で唯一のNICU(新生児集中治療部)を備えた岐阜県立多治見病院や大学病院に搬送する連携体制を構築している。

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医師の派遣は法律で禁止されている。
その条件をクリアするために安藤院長は奔走した。

 Plus顔写真2 なぜ中津川市民病院は、この新体制を導入したのか。院長の安藤秀男医師に話を聞いた。「平成26年度末に、2名いた産婦人科医が同時に退職することになりました。となると、産婦人科は休止せざるを得ない。しかし、東濃東部地域で当院の産婦人科がなくなれば、お産のできる施設は民間クリニック1軒のみになる。異常分娩の場合、中津川から1時間以上も離れた多治見まで妊婦さんを救急搬送せねばならず、それでは母子の命も守れません」。何とかしなくては…。安藤院長は、複数の大学医局に医師赴任を依頼したが、いい返事は得られない。そこで、白羽の矢を立てたのが葵鐘会だった。だが、医療法人から医師派遣を受けるには、法律をクリアしなくてはならない。医師の派遣は労働者派遣法で禁じられているからだ。安藤院長と事務職員はさまざまな方策を探ったが、良い案は出てこない。そんなとき、厚生労働省令で指定された<へき地>なら、県の許可があれば派遣を受けられる、という情報が舞い込む。実は中津川市も、へき地に分類されていたのだ。「これだ…」。安藤院長は何度も県に足に運び、ようやく医師派遣の道を切り拓いたのである。
129_NakatsugawaC_L23_2016 安藤院長は今、葵鐘会との連携が正しかったことを確信するという。「葵鐘会の先生方は皆、常に最新の医療情報を取り入れ、診断・治療レベルも標準化されています。マンパワーも充実し、産婦人科全体がパワーアップできたと思います」。産婦人科の復活と発展。さらに、その先に安藤院長が見つめるのは、中津川市の未来だ。「中津川市の人口減少を食い止め、活気を取り戻すには、都市の基盤として、若い世代が安心して暮らすための医療体制が必要です。当院が産婦人科を堅持することで、ここで出産し、子育てする人たちが増えることを願っています」。中津川市の発展のために、同院の進取果敢な挑戦は続く。

ボックス(知ろう)2

 


 

column

コラム

●東濃東部地域は、医療資源の乏しい地域である。その厳しい条件のもと、同院はこれまで攻めの経営を展開してきた。たとえば、平成24年には、中津川市と名古屋大学との協定により「寄附講座」をスタートした。名古屋大学は、中津川市から受けた寄附金を資源として新しく講座を開設。<総合診療>を切り口に、中津川市をモデル地区とした地域医療の研究・教育を行っている。

●また、平成26年には、ドクターカーによる救急医療活動もスタートした。これは、消防本部から依頼を受け、同院の医師、看護師がドクターカーで傷病者のもとへ直行するシステム。山間部が多く、無医地区も存在する中津川市では、最寄りの病院に到着するまでかなり時間がかかる場所もある。その不利な条件を克服するためのチャレンジなのである。今回の葵鐘会との連携も、こうした創意工夫に満ちた取り組みの延長線上にある。

 

backstage

バックステージ

あらゆる手段を講じて
地域医療に活路を拓く。

●病院数・医師数ともに少ない、東濃東部地域。その中核を担う中津川市民病院は、常に医師不足と闘っている。だが、同院の安藤院長は決してあきらめない。「地域医療を守るためなら、とりあえず何でもやってみよう」という方針で、あらゆる情報を集め、あらゆる手段を模索する。毎日のように、各省庁のホームページで医療政策の動きもチェックし、地域医療の大きな変革の波を乗り越えるための方策を練っているという。

●今回の産婦人科の復活ストーリーは、そんな安藤院長の粘り強い努力と決断力があったからこそ実現したといえるだろう。常識を破って医療法人と手を結び、法律の条件もクリアし、必要な医師を確保する。奇策妙案ともいえる今回のチャレンジは、医療資源不足で悩む全国の自治体病院にとって、学ぶところが多いのではないだろうか。

 


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