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病院を知ろう

意識を変える。
目線を変える。
真の病病連携は、
そこから始まる。

 

 

聖霊病院


地域の高度急性期病院との間で
スタートした<消化器病連携>。
その先に見つめるものは…?

main

聖霊病院では平成27年4月より、新理事長・新院長のもと、強力な病院改革を進めている。
改革の柱は、地域の病院と役割分担して連携を深めること。
高度急性期病院を退院した患者を在宅へ繋ぐ役割を担うことで、よりいっそう地域の人々の生活を支える病院づくりを志向している。その病院改革の新たな動きをレポートする。

 

 

 

 

 

名古屋第二赤十字病院と聖霊病院の間で、
連携の会話が始まった。

Plus顔写真 聖霊病院は、病床数276床。東海地区唯一のカトリック病院として、生命の誕生・終焉に関わる医療を大切に、周産期医療から緩和医療までを展開する病院である。そこから車で10分足らずの場所にあるのが、名古屋第二赤十字病院(以下、八事日赤)。病床数812床、地域の救命救急医療を担う基幹病院である。平成28年1月より、この2つの病院の間で、新たに<消化器病連携>がスタートした。その経緯について、聖霊病院 第一外科部長の江口武彦医師(化学療法科部長・中央手術部部長を兼務)に話を聞いた。
 「森下剛久先生が院長に就任されて、間もない時期でした。『八事日赤さんに申し入れて、同院を退院した消化器内科の患者さんを当院で受け入れていこうと思います。その病病連携の窓口を担当してくれませんか』と、相談を受けたんです。病病連携の強化は森下院長が掲げる病院改革の柱でしたし、もちろん快諾しました。その後、八事日赤さんからも、『ぜひ連携しましょう』というお返事をいただき、2つの病院の間で会話が始まりました」。
 この病病連携は、八事日赤にとって、退院後の患者の受け皿を増やすメリットがある。八事日赤は地域の高度急性期病院として、重症な患者に対し、短期集中的に密度の濃い高度な医療を提供する役割を担う。常に重症患者を受け入れられるようベッドを空けておかねばならないが、退院する患者が少ないと、すぐにベッドが満床になってしまう。そうならないように、治療を終えて容態の安定した患者を、次のステージの病院へ紹介していく必要があるのだ。一方の聖霊病院にとって、この連携は、地域包括ケア病棟(※)や、がん患者の終末期を支える緩和ケア病棟(ホスピス聖霊)といった、同院の多面的な病院機能をフルに活用し、地域医療を支えていく狙いがある。両者の意向がまさに合致したのである。

※ 急性期治療を終えた患者を受け入れ、スムーズな在宅復帰への支援をするとともに、在宅で療養する患者を緊急時に受け入れ、迅速な治療を提供し、再び在宅へ帰していく機能を持つ。

 

 

外科医のプライドを封印し、
今できることに全力を注ぐ。

 IMG_4767 そもそも江口医師は消化器を専門とする外科医として、複数の急性期病院で実績を重ねてきたキャリアの持ち主である。本来なら、消化器内科の患者を継続的に診ていく立場ではない。しかし、森下院長は今回の消化器病連携のキーパーソンに、江口医師を指名した。なぜか。その理由は、江口医師の間口の広い診療能力にある。江口医師は外科医として消化器疾患に関わる幅広い知識・技術を持つとともに、がんの総合医資格ともいわれる<がん治療認定医>の資格を持ち、化学療法科部長も兼任している。消化器がんをはじめとしたさまざまな消化器疾患に対して、外科的アプローチはもちろん、内科的にもアプローチができる、総合的な診療能力を備えているのだ。
606114 「私自身は若い頃から外科医として研鑽してきましたし、これからも多くの手術を手がけたいという意欲が当然あります。しかし、当院は高度急性期病院とは違い、それほど多くの外科症例が集まるわけではありません。そこで、外科医をベースにしつつ、<目の前の患者さんのために、そして地域医療のために、自分ができることをすべてやろう>と意識を変え、キャリアの間口を広げてきました。今回の病病連携においても、総合診療医のような視点で患者さんの病状を診て、患者さんがスムーズに在宅に戻れるようにサポートしています」と、江口医師は語る。
 転院後の患者の経過を見守るために、必要に応じて、八事日赤の消化器内科の医師が聖霊病院を訪れ、江口医師や病棟看護師と一緒に回診を行うこともあるという。「紹介元の医師と私たちが協力して診療しているので、患者さんもご家族も大きな安心感があると思います」と、江口医師はほほえむ。

 

 

背景にあるのは
病院完結型から地域完結型への転換。

606073 同院がこのように病病連携に力を注ぐ背景には、地域の医療提供体制の転換がある。高齢社会の進展に伴い、今後ますます高齢患者が増え、医療費を押し上げることが懸念されている。そこで国は、厳しい医療財政を見据え、限られた医療資源を効率良く活用するために、医療機関の病床機能を分化。一つの病院で医療を完結していた<病院完結型>から、地域の病院が役割分担をして連携し、一つの病院のように機能する<地域完結型>の提供体制の構築をめざしているのだ。
 とりわけ聖霊病院の位置する名古屋市東部地区には、高次救急・高度専門医療を担う大学病院や高度急性期病院が多く存在する。時代の流れ、地域のニーズ、その両面から見て、<病病連携こそが、地域医療の活路を拓く>と同院は判断したのである。地域医療連携の責任者である岩田美雪副院長は言う。「当院が高度急性期を脱した患者さんを受け入れることにより、高度急性期病院は本来の高度専門医療に専念することができ、当院もまた、自院の医療機能を充分に発揮できます。地域の病院と協働することで、地域の医療ニーズに応えていきたいと考えています」。

 

 

「信頼関係を構築し、
患者さんの転院事例を増やしていきたい」。

606017 2つの病院の間で<消化器病連携>が始まって半年近く、転院事例は少しずつ増えてきた。今後の展開において、江口医師は何をめざしているのだろうか。「一日も早い信頼関係の構築に尽きますね。今はまだ、八事日赤の先生方も、非常に慎重に患者さんを選んでおられます。でも、当院は、患者さんの容態が急変しても対応できる急性期医療機能も備えていますから、もう少し急性期の段階でご紹介いただいても大丈夫ですよ、とお話ししているところです。また、将来的には、外科同士の連携を築き、八事日赤の先生に当院の手術室を利用してもらったり、患者さんの症例によっては当院で手術を引き受けていきたいと構想しています。そうすることで、この地域の医療資源を有効に活用できますし、地域の患者さんも手術の予約を長期間待つことなく、速やかに治療を受けられると思います」。そうした病病連携を実現するためにも、江口医師は信頼関係の構築が欠かせないという。「八事日赤の先生方に、当院の診療能力や手術室の機能などを評価していただけるように、じっくり対話を重ねていきたいですね」。
IMG_4465 その一方で、岩田副院長は、「今回始まった連携の仕組みを院内の別の診療科へと広げたり、連携先の病院を増やしていくこともこれからの目標」だと語る。「病病連携を進めるには、当院が連携先の患者さんをしっかり受け入れられる体制を構築していかねばなりません。そのためには、連携に携わる職員の意識改革も必要です。当院の使命は、患者さんの傷病を単に治すだけでなく、退院後の生活の質まで考えて、適切な医療を提供していくことです。私たち全員がそのことを認識し、高度急性期病院と在宅を橋渡しする機能を果たしていきたいと考えています」。
  病病連携に携わる職員が意識を変え、目線を変え、地域の医療ニーズに応えていく。その先に同院が見つめるものは、地域の人たちの生活や人生を支えることで地域医療に貢献する、新しい聖霊病院の姿なのである。

 


 

column

コラム

●聖霊病院がめざすのは、地域住民の生活を支える<コミュニティホスピタル>である。コミュニティホスピタルとは、地域コミュニティに深く根ざし、地域の医療機関や介護・福祉事業者と連携し、地域の人たちの生活や人生を支えていく病院。そんな地域に密着した病院づくりを志向し、同院では地域住民とふれあうイベントにも力を入れている。

●たとえば、平成28年5月21日には、70周年記念病院祭「聖霊70th地域健康ふれあいフェスタ」が開催され、子どもから高齢者まで幅広い年齢層の家族連れで賑わった。会場では、子どもたちが医師や看護師の仕事を体験できるコーナー、高齢者擬似体験や骨折リスクチェックのできるコーナーなど、職員が工夫を凝らした催し物が多彩に展開された。同院では今後も、地域住民向けの健康講座などを開催していく計画である。

 

backstage

バックステージ

●現在、医師や看護師などの多くは、高度急性期病院をはじめとした大規模病院を中心に、個別の医療機関に所属し、そのなかで活動している。しかし、地域医療という大きな視点でとらえれば、医療従事者は限られた人的資源であり、地域全体で効率的に活用することが望ましい。特に今後、病院単体で医療が完結できない時代を迎えるなかでは、偏在する医療従事者を個々の医療機関に固定させるのではなく、<人材を流動化させる>という発想の転換が必要なのではないだろうか。

●聖霊病院の病病連携の取り組みは、そんな人材の流動化への可能性を秘めている。医師が組織の垣根を超えて結びつきを深め、それぞれの得意分野を持ち寄って役割分担していく。必要なときに、必要な場所で、必要な医師が活躍するようになれば、地域の人的資源をより有効に活用できることは間違いない。医師や看護師がフレキシブルに動き、ゆるやかに繋がり、地域医療を支えていくような未来に、リンクトは期待している。

 


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