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アーカイブTOPタイトル11LINKEDは前号で、押し寄せる救急患者に必死に対応している地域の基幹病院(三次救急、もしくはそれに準ずる機能を有する地域の医療機関)の苦悩を紹介した。
そのなかで見えてきたのは、基幹病院と診療所の間に存在すべき中間的な病院(急性期、亜急性期、回復期、療養期を担う病院群)が不足し、あるいは充分な連携が取れていないために、地域医療に大きな断層が生まれていることだった。
今号はその続編として、数は限られているものの基幹病院と中間的な病院が連携し、「点」から「線」、そして「面」へと地域医療連携を広げている新しい動きを追った。
※LINKEDでは、基幹病院と診療所(在宅)の間にあって、急性期から療養期までの病床群を持つ病院を、「中間的な病院」と総称する。


S01
一歩進んだ相互乗り入れの
病病連携スタイル。

 

i-01 三重県伊勢市にある、伊勢赤十字病院。病床数655床(一般病床<急性期>651・感染症病床4)を抱える、三重県南部の基幹病院である。その整形外科病棟に、同院とは違う制服を着たスタッフが訪れていた。同じく伊勢市にある、医療法人全心会・伊勢慶友病院の地域連携室・主任の山下訓彦と連携室専任の中山伊都看護師である。
 「転院先の慶友病院さんが会いに来られましたよ」。伊勢赤十字病院のMSW(医療ソーシャルワーカー)・上部真嗣の案内で二人が病室へ入ると、患者と家族が笑顔を向けた。患者は、大腿骨頚部骨折で救急搬送されてきた80代の女性。4日ほど前に骨を接合する手術を終えたばかりだが、6日後には伊勢慶友病院へ転院する予定である。基幹病院の平均在院日数が年々短くなるなか、すでに手術当日、上部は家族と面談し、退院後の病院について相談。家族の希望した伊勢慶友病院に予め入院を依頼し、今日の面談をセッティングしたのである。
p01 山下らは、伊勢慶友病院に入院する段取りについて、患者と家族に解りやすく説明するとともに、患者の状態や退院後の暮らし方などについて確認した。患者や家族は二人に会うまで、「つい先日、手術したばかりなのに、退院して大丈夫だろうか」という不安を抱えていたことだろう。しかし、病院が変わっても、これまでの治療を受け継いだ医療が提供され、さらに、在宅復帰に向けて充実したリハビリテーションが受けられることを知り、心から安堵した様子だった。
 病室を後にした二人は、さらに病棟看護師や理学療法士などから、食事の摂取状況、認知能力、夜間の様子、急性期リハビリテーションの進行状況などを詳しく聞いて回った。
 伊勢慶友病院は253床(一般病床40<急性期32・亜急性期8>・回復期リハビリテーション病床47・療養病床166)を備える中間的な病院。主に、基幹病院を退院した患者の受け皿となる後方機能を担い、地域医療に貢献している。この患者も、同院に入院後はリハビリテーションに専念し、杖歩行もしくは自力歩行できるようになって在宅へ戻ることをめざす予定だ。
 伊勢慶友病院の地域連携室スタッフは、週に2回、伊勢赤十字病院を訪れ、転院予定の患者と面談を行っている。通常、病院スタッフによる退院指導は行われるが、その場に転院先のスタッフまで関わるのは珍しい。ましてや、伊勢赤十字病院は公的医療機関、片や伊勢慶友病院は民間病院である。いうなれば、JRと私鉄が相互乗り入れするように連携し、急性期から亜急性期・回復期・療養期へと切れ目のない医療を提供しているのだ。
 こうした相互乗り入れスタイルの連携が始まったのは、6年ほど前から。まずは月に1回、両院の連携に関わるスタッフが会議を開くようになり、やがて、より「顔の見える関係」を築くために、伊勢赤十字病院の地域医療連携室内に伊勢慶友病院のスタッフが使えるデスクを置くようになった。そうした実績を積み重ね、現在のように、伊勢慶友病院の二人が週2回訪問する連携スタイルが定着したという。
 上部は言う。「当院はいくつかの病院さんと連携していますが、最近は他の病院の方も、慶友さんのスタイルを見習っていこうという動きもあり、とてもいい連携が取れています。やっぱり、一つひとつの病院ではなく、この地域全体で患者を見守っていかなくてはいけないと思いますね」。その思いは山下も同様だ。「病院の看板は背負っていますが、僕らは当院のことだけを考えているわけではありません。地域全体の医療という意識で仕事しています」と語る。


S01
基幹病院と中間的な病院の連携。
それでも、溢れ出す問題点。

 

 伊勢市で行われているのと同様の病病連携は、他の地域でも見られる。例えば、愛知県豊田市には、豊田厚生病院とトヨタ記念病院の二つの基幹病院がある。その中間に位置する医療法人三九会・三九朗病院(病床数140床/一般病床40・回復期リハビリテーション病床100)は、それらの後方機能を担う病院。副院長がトヨタ記念病院に週に1回出向き、主治医とカルテ情報を共有しながら、同院に入院する予定の患者を回診するという。退院後を受け持つ医師が顔を見せることで、「患者さんとご家族の“心の転院”をスムーズにするのが狙いの一つ」と加藤真二院長は語る。
 相互乗り入れはしていないが、良好な病病連携を組んでいるケースもある。愛知県春日井市では、医療法人社団喜峰会・東海記念病院(病床数199床/一般病床149<急性期137・亜急性期12>・回復期リハビリテーション病床50)が、地域の基幹病院である春日井市民病院の後方機能を積極的に担うのもその一つだ。すなわち、春日井市民病院を退院後も継続治療が必要な患者を受け入れるとともに、搬送された救急患者のうち、東海記念病院が得意とする診療科の症例については即日転送(昼間時間帯のみ)するといった、フレキシブルな連携の実践である。
 こうした病病連携は当然ながら、双方のメリットの一致が前提だ。救急搬送患者が集中する基幹病院は、病病連携を結ぶことにより、できるだけ早く患者を退院させ、次の搬送患者のために空きベッドを確保する。一方、中間的な病院は、自院の医療機能に適した患者を獲得し、病院運営を安定させる。
 このように基幹病院と中間的な病院の利害が一致する部分では、今後もスムーズな連携が進んでいくと予想される。しかしながら、利害だけでは解消できない問題がある。
 まずは、患者が抱える病気は必ずしも一つと限らず、高齢者の場合はそれが多くなる点がある。だが、基幹病院は主疾患の治療に全力投球するが、それ以外の複合疾患に対しては、DPC(※)という医療制度上、継続治療が難しい。となると、基幹病院の後方機能病院がその治療を担うことになり、当然、複合的な疾患に対応できる急性期医療能力が必要となる。
 だが現実i-02的には、「複合的な疾患に対応できる急性期機能を持つ病院が少なく、患者さんが早期に退院できず、結果、入院日数が長引いてしまう」と嘆く基幹病院が多い。その背景を見ると、中間的な病院の慢性的な医師・看護師不足に行きあたる。
 さらに、医療必要度の低い患者にも問題は絡む。そうした方は「社会的入院」と見なされ、診療報酬は抑えて設定されているのだ。療養期の病院からすれば、患者は引き取りたい、だが引き取れば赤字になる。医療必要度の指標に基づいて、患者の選別を行わざるを得ないという実情が横たわる。

data

※DPC/病名や手術・処置などに応じた診断群分類をもとに、医療費を計算する包括払いの会計方式。

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地域医療のセカンドラインを構築した、
ある中間的な病院の挑戦。

 

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 さまざまな問題点をはらむ病病連携。だが、数ある中間的な病院のなかでも、ひときわ異彩を放ち、医療関係者が「特別な存在」と評する病院が、実は存在する。愛知県安城市にある社会医療法人財団新和会・八千代病院だ。
 同院の病床数は、一般病床216 床<急性期204・亜急性期12>・回復期リハビリテーション病床52床・療養病床52床で、合計320床。数字から解るとおり、亜急性期を含む急性期病床が、全体の三分の二を占める。ここに同院の特色がある。
 常勤医は約50名を揃え、看護師も手厚く配置。地域の救急搬送を3,208件(平成24年度)受け入れ、同一医療圏の基幹病院・安城更生病院への救急患者の一極集中の緩和に大きく貢献、同時に、安城更生病院からの退院患者も積極的に受け入れる。そこでは複合的な疾患に高度な医療機能で対応、併せて、療養期の患者に対しても充分な医学管理のもと、行き届いたケアを提供している。
 また、一方で、本来であれば手厚い医学管理・ケアが必要であるにもかかわらず、医療制度上、社会的入院と見なされ、行き場を失った、障害を抱えた患者に対しても、同一法人内の訪問リハビリテーション、訪問看護、訪問介護ステーション、地域の医療機関と密接に連携し、必要に応じてレスパイト入院(※)を積極的に受け入れるなど、さまざまなアプローチを通じて、在宅での療養生活支援を実践している。
p03 八千代病院を見たとき、基幹病院と大きく異なる面がある。それは医療への視点だ。高度急性期を担う基幹病院は、医療を「臓器別の専門治療軸」から捉える。そこでは極めて短い時間で、たくさんの疾患を治療することが使命とされる。一方、八千代病院は、医療を「患者の社会復帰までの時間軸」で捉えている。だからこそ基幹病院を、異なるアプローチで補完する役割と、自院と地域の医療資源とを連携させたナビゲーターの役割が果たされていると考える。
 同法人の松本隆利理事長は語る。「この地域で、足りない医療は何か、必要な医療は何かを考え、それを自らの責務とし、“地域医療の最適化”をめざして辿り着いたのが現在の体制です。基幹病院に準ずる医療機能を備えたセカンドライン(違う視点の病院として、在宅への医療の流れを作る病院)という位置づけですね」。
 今後、ますます進む高齢社会でより必要になってくるのは、専門治療軸だけではなく、患者の社会復帰までの時間軸において、在宅復帰をコーディネイトし、且つ、在宅療養を支援するというスパンの長い医療である。それを担う病院は、名付けるならば、地域コミュニティに深く根ざし、生活から医療・介護・福祉を包括的に見つめる「コミュニティホスピタル」。八千代病院はその原型といえるのではないだろうか。


S04
必要なのは、医師、病院、大学、国、そして生活者が、
意識を変えること。

 

’†“úV•·LINKED11_0726.indd コミュニティホスピタルに必要な機能を整理すると三つある。一つは、基幹病院への救急患者の一極集中を緩和する救急医療機能、および初期診断機能。一つは、高度急性期を脱した患者が持つ、複合的な疾患に対応できる急性期医療機能。そして、一つは、他の地域医療機関・介護・福祉施設への橋渡しをコーディネイトし、在宅や施設での医療を支援していく総合的な機能だ。
 こうした機能を発揮する病院が、なぜ増えないのだろうか。まずは、『中日新聞LINKED』の編集にご協力をいただく、基幹病院・病院長に行ったアンケート(中間的な病院欠落の原因、中間的な病院増加への課題)に対する回答を紹介しよう。そこには、「医師自身が、基幹病院で働くことを頂点とする意識を改めるべき」「地域の自治体病院のあり方を見直すべき」「現在の臓器別に専門分化した医師の教育体系を是正し、中間的な病院に医師を再配置すべきではないか」「急性期以降の医療に対する適正な診療報酬が必要」「中間的な病院における医師のモチベーションを高める施策が必要」など、さまざまな声があった。
 この声を紐解くと、いくつかの要点が見えてくる。第一に、病院に所属する医師たちの意識。急性期の専門領域軸だけで医療を捉え、それ以降の治療を、時間軸で考えようとしないことへの指摘だ。第二に、公立病院。これには少々の説明が必要だ。現在、公立病院の多くは、ある一定規模の病床(急性期)を持ち、診療科を総合的に標榜している。だがその一部では、医師不足などから診療を休止するなど、すでに機能を失い、結果、慢性的な赤字経営に陥っている。そうした病院が、地域の医療資源を見つめ自院の病床をいかに活かすか、いわば地域医療の最適化を見つめた機能転換への決断をしないことへの苦言といえよう。第三には、大学。臓器別の偏重教育と、医師供給体制への是正を求める声である。そして、第四は、国の医療制度見直しへの要望だ。
 私たち生活者に対する意見もある。「患者自身が、寄らば大樹という大病院志向から脱却すべき」。これは、今の自分にはどのような医療が必要かを考えることなく、とにかく大きな病院なら安心と思う傾向を指している。また、「公立病院に実力以上の医療を求めすぎる」では、公立ならすべての診療科、部門を整えているべきだ、とする考え方への疑問を投げかけている。
 病病連携の円滑化のために、私たち生活者にもできることはあると、LINKEDは考える。まずは、「基幹病院からの転院は、社会復帰のために不可欠な一つの過程」であること、そして、その背景にある、地域の医療資源は限られていることへの認識を持つことだ。そのことが、地域医療のあり方を国や病院に任せるのではなく、「地域医療を守るのは自分たち住民である」という意識に繋がる。
 私たち生活者は、今より以上に地域医療の体制づくりに関心を向け、要求し、参加していくべきではないだろうか。


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元厚生労働副大臣 大塚耕平/
「面」「時間軸」を意識した医療サービス

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私たちは忘れない、3.11を。

東日本大震災に遭遇した一人の医療人から、地域医療への熱く、そして、冷静な眼が、私たちが3.11の教訓から学ぶことの大切さを教えてくれる。

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SPECIAL THANKS(編集協力)

「PROJECT LINKED」は、本活動にご協力をいただいている下記の医療機関とともに、運営しています。

愛知医科大学病院
安城更生病院
伊勢赤十字病院
鵜飼リハビリテーション病院
大垣市民病院
岡崎市民病院
海南病院
春日井市民病院
刈谷豊田総合病院
岐阜県総合医療センター
江南厚生病院
公立陶生病院
社会保険中京病院
総合犬山中央病院
総合大雄会病院
総合病院中津川市民病院
大同病院
知多厚生病院
東海記念病院
トヨタ記念病院
豊田厚生病院
名古屋掖済会病院
名古屋大学医学部附属病院
名古屋第二赤十字病院
西尾市民病院
はちや整形外科病院
半田市立半田病院
藤田保健衛生大学病院
松阪市民病院
松波総合病院
八千代病院
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<LINKED>は生活者と医療を繋ぐ情報紙。生活者と医療機関の新しい関係づくりへの貢献をめざし、中日新聞広告局医療チームとHIP(医療機関の広報企画専門会社)の共同編集にてお届けします。

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