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シアワセをつなぐ仕事

食べることを
あきらめさせない。

 

 

畑中英子(6東病棟師長・摂食・嚥下障害看護認定看護師)/西尾市民病院


安全に食べることが、
高齢者の<命>を守り、
<生活>を支える。

main6東病棟の師長を務める、摂食・嚥下障害看護認定看護師の畑中英子。
担当する患者のほとんどが脳卒中患者だ。
畑中はこれまで、意識障害や運動障害などの後遺症により
ADL(日常生活動作)が低下し、
気持ちまで落ち込んでしまう多くの脳卒中患者を見てきた。
「彼らのために何ができるのか」。そこから生まれた彼女の答えに迫った。

 

 

 

 

食べることで元気になった患者を目の当たりにし、
摂食・嚥下障害看護認定看護師の道へ。

 KX0A9377 「食べるとき、喉にひっかかる感じはありませんか?」。入院したばかりの患者にそう声をかけるのは、西尾市民病院の畑中英子看護師。畑中は、摂食・嚥下障害看護認定看護師として、病棟横断的に、食べ物を口に入れること(摂食)や、食べ物を飲み下すこと(嚥下)ができない患者を入院時点でチェックする。通常、摂食嚥下ができない患者は、点滴のほか、鼻や腹部から直接、胃にチューブを入れ栄養補給を行う経管栄養となる。畑中は、そうした患者に対して、栄養摂取の手段をアセスメント(分析・判断)するのだ。加えて畑中は、摂食嚥下に問題が起こりそうな入院患者にも注意を払う。「もし、食べられる可能性があったり、リハビリや食事介助が必要と判断すれば、すぐに主治医に報告し、言語聴覚士へと繋ぎます。摂食嚥下に問題がありそうだからというだけで、安易に食事を中止にはしません」(畑中)。言語聴覚士は、畑中から連絡を受けるとただちに嚥下の機能評価を実施。その評価に基づき、言語聴覚士がリハビリを、看護師が食事介助などのケアを行っていく。畑中は、こうした一連の流れを統括しつつ、状況に応じて、医師や管理栄養士などと連携、患者の状態にあった食事を提供し、摂食嚥下障害の患者を見逃さないよう努めている。
KX0A9500bb そんな畑中の原動力となっているのが「食べることは元気の源」という強い思いだ。これは10年前、畑中が担当した脳血管障害の患者がきっかけだったという。麻痺のためにできることが限られ、口から食べることもできず、精神的につらい日々を送っていた患者に、畑中は「できることを一つでも増やしたい」という一心で、口から食べるための訓練を実施。畑中の懸命の頑張りで、患者は少しずつ食べられるようになる。するとそれまで、発症前とは全く違う状態の患者を直視できなかった家族が、患者の食べている姿を「見たい!」と、食事時間に合わせて来院するようになったのだ。毎日面会に訪れる家族に、今度は患者自身が喜ぶ。「もっと頑張ろう」とモチベーションがアップしADLが向上、最終的に口から食べられるまで回復したのである。
 この経験は畑中に、食べることの持つ大きな可能性に気づかせる。そして畑中は、「勉強すれば、もっと多くの人に食べてもらえるかもしれない」と考えるようになり、摂食・嚥下障害看護の認定資格取得を志す。ボックス(シアワセ)

 

 

 

認定教育課程で得た論理的思考と方法で、
安全な食事介助を院内、
そして地域へと広げていく。

 6カ月の認定教育課程は、畑中に大きな学びと意識の変化をもたらす。「認定教育課程のなかで、先輩たちから教わってきたケア、自分が工夫してきたケアが正しかったのかを確認できた」と話す畑中は、こう続ける。「但し、今まで行ってきたケアは、現場で見て学んだり、感覚的にしか得られないものでした。でも認定教育課程での学びが、ケアにはすべてエビデンスがあり、論理的な思考から導き出されていることを教えてくれた。属人的なものだったケアを、体系的に理解するようになり、自分の行っているケアを論理的に説明できるようになったんです」。この学びは、畑中の意識を、エキスパートへの憧れから、マネジャーとしての責務へと変える。
 そして畑中は、認定取得後、すぐに行動を開KX0A9537始する。まず、摂食嚥下に関心を持つ人が自由に学べる<嚥下クラブ>(※詳細はコラム)を起ち上げる。そして、栄養委員会のなかに摂食嚥下のリンクナースを組織化。彼らへの指導や勉強会を通じて、同院における摂食嚥下ケアの向上を図った。さらに、病棟看護師や言語聴覚士と協力し、食事介助を安全に行うための<摂食嚥下マニュアル>と、患者一人ひとりの食事状況や条件を記した<嚥下シート>を作成。2つを合わせることで、嚥下の専門知識が充分になくても、患者に合わせた安全な食事介助ができるようにした。
 こうして駆け抜けてきた8年間。今、畑中が見つめる先は高齢化の進む西尾市だ。「当院を退院KX0A9355した高齢患者さんのなかにも、誤嚥性肺炎で戻ってくる方が多い。食べ方や食事形態の知識があれば、あるいは嚥下評価をできる人が周りにいれば、これは防げることが多いんです」。これまでも、地域での研修会や講座を行ってきた畑中だが、高齢化のピークを迎える2025年を眼前に、<もっと地域へ出なければならない>という思いは強くなる一方だ。地域の高齢者が一日も長く元気で生活できるように。畑中の新たな挑戦が始まる――。

 

 

 


 

 

columnコラム

●<嚥下クラブ>は、畑中看護師が、認定取得直後の平成18年から始めた自主研究グループ活動だ。西尾市の助成制度を利用し、摂食嚥下について広く知ってもらうこと、摂食嚥下の知識を持つ人を増やすことを目的とする。クラブは、毎月第2火曜日の18時から1時間、西尾市民病院で開催。同院の医師、看護師、言語聴覚士などのセラピスト、さらに近隣介護施設の職員など、総勢10名が参加する。

●嚥下クラブの最大の特徴は、体験型学習だということ。参加者は、さまざまな食べ物を使って、量、スピード、姿勢などの食べ方や、食べるときの舌や喉の動きを体験。そこから得た学びを、実際の嚥下評価や分析、訓練に繋げている。

●畑中が次にめざすのは<高齢者対象の嚥下クラブ活動>だ。「この地域は元気な高齢者が多いのですが、皆さん、食べる量が多く、ペースも早い。ゆっくり食べれば、誤嚥性肺炎にもならないのにと思って…。だから、高齢者の方に安全な食べ方を、楽しみながら学んでいただきたいんです」。

 

backstage

バックステージ

超高齢社会における
嚥下ケアの重要性。


●現在、日本における高齢者の死亡原因の90%以上は肺炎とされ、そのうち、30%は誤嚥性肺炎であるといわれている。さらに、要介護高齢者の20%以上は嚥下障害を持つともいわれており、今後ますます進む超高齢社会を考えたとき、高齢者の誤嚥性肺炎の対策は喫緊の課題となっている。

●畑中看護師も指摘するように、誤嚥性肺炎のなかには、気管に入らないような安全な食べ方や、細菌の増殖を抑える口腔ケアを、在宅の医療職や介護職などが知っていれば、未然に防げたケースも数多い。

●団塊の世代が後期高齢者となる2025年を控え、嚥下の専門知識を持つ人を一人でも多く増やしていくこと。そして、安全な食べ方や予防法を高齢者自身や家族も知っておくことは、高齢者の命を守り、健康寿命を伸ばすという意味において、非常に重要なことなのではないだろうか。

 

 


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