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頭頸部がん患者の
生きる力を引き出す看護。

 

 

桑原恵美/愛知県がんセンター 中央病院 5階東病棟(頭頸部外科部)


深刻な障害が残っても
口から食べる喜びが
生きる活力を与えてくれる。

main頭頸部(とうけいぶ)がんは、顔や首に発生するがんの総称。
鼻、口、喉、あご、耳と、発生部位はさまざまだが、共通しているのは、治療によって、食事や発声など日常生活に不可欠な機能が障害を受けることだ。
手術後の機能回復と生活の質の向上をめざし、日夜、専門性の高い看護に勤しむ、病棟看護師の取り組みを紹介する。

 

 

 

 

 

頭頸部外科部の病棟看護師として
頭頸部がん患者の体と心の痛みを和らげたい。

0722愛知県がんセンター¥KX0A9746 喉頭がんで声帯を摘出する、舌がんで舌の一部を切除する、甲状腺がんで甲状腺を切除する…など。愛知県がんセンター 中央病院・5階東病棟(頭頸部外科部)には、頭頸部がんの外科的治療を受ける患者が入院している。病棟看護師である桑原恵美は、1日12人ほどの患者を受け持ち、患者ごとに必要な傷口の処置や点滴、経管栄養などのケアをテキパキと行う。また、患者にやさしく声をかけ、体の痛みはもちろん、精神的な落ち込みや苦痛がないか心を配る。
0722愛知県がんセンター¥KX0A9801 「頭頸部には、呼吸や発声、食事など、生きる上で重要な機能を司る器官が集中しています。それだけに、がんの治療後、<声が出なくなる、食べられなくなる、顔が変わってしまう>などの障害が生まれ、患者さんは大きな苦悩や葛藤を抱えられます。なかには、障害を受け入れられず、生きる希望を見失う方もいらっしゃいます。その辛い気持ちに寄り添い、もう一度生きていく力を引き出すことが私たち看護師の役割だと考えています」と桑原は話す。生きる力を取り戻すために、桑原がこだわり続けるのが、<口から食べる>サポートである。舌や喉、あごなどを手術すると、摂食嚥下機能(噛む力・飲み込む力)が著しく低下するが、症状に合わせて適切に嚥下訓練を行うことで、機能を改善し、口から食べられる可能性が高まる。「食事は栄養補給という意味もありますが、何よりも口から食べることは、<生きる喜び>そのものだと思うんです。手術後しばらくして患者さんが食べられるようになると、精神的に安定して、目に見えて、生きる力が満ちてきます」。
 0722愛知県がんセンター¥KX0A9682同病棟では、摂食嚥下機能の低下した患者に対し、主治医の指示のもと、術後の絶食期間から、嚥下リハビリテーションを開始する。リハビリテーションの方法は、桑原が作成した<嚥下訓練シート>がベースとなっている。これは、「誰がやっても同じように訓練できるように」と、桑原が考案したもの。症状に応じて、いつ、どのように訓練していくのかが丁寧に記載され、経験の浅い看護師の教科書になっている。「術後すぐに口腔内の清潔ケアを始め、その後、唇や舌を動かす運動や、喉に冷たい刺激を与えるアイスマッサージなどを徐々に行っていきます。病棟全体でこの訓練に力を入れるようになって、スムーズに食事を再開できるようになり、早期退院にも繋がっています」と桑原は成果を語る。ボックス(シアワセ)

 

 

 

頭頸部がんの領域で
看護の質も患者への心配りも
国内トップクラスの病棟でありたい。

0722愛知県がんセンター¥KX0A9792 桑原が摂食嚥下に興味を持ったのは、入職1年目。先輩に誘われて参加した、摂食嚥下リハビリテーション学会がきっかけだった。「それまで私は、食べられない患者さんを、ただかわいそうと思うだけでした。しかし、学会では、医師やリハビリテーションスタッフが、なぜ食べられないのか、どうすれば食べられるようになるのかというテーマと真剣に向き合い、研究成果を生んでいることに感銘を受けたのです」。以来、桑原は、自主学習に加え、さまざまな嚥下の学習会へ参加、着々と知識を蓄えていった。さらに、知識と実践を融合させ、患者の嚥下機能と食形態に関する臨床研究にも取り組むなど、病棟のなかで、摂食嚥下の中心的役割を担うまでに成長したのだ。
Plus顔写真 そんな桑原の成長を、入職当時から見守ってきたのは、5階東病棟・看護師長の青山寿昭だ。「桑原さんは、自分のこだわりを大切にする人。摂食嚥下障害看護という分野に関心を持ち、自分で深く掘り下げてくれています。その結果、患者さんはもちろん、後輩からの信頼も厚く、この病棟になくてはならない存在です」と高く評価する。
 今後、同病棟がめざしているのは、「さらなる看護の質の向上」だという。頭頸部がんを診療する病院は、全国でもそれほど多くない。そのなかでも、同院の頭頸部がんの手術件数は年間526件(平成27年度実績)で、国内トップクラス。「優れた治療実績に見合うように、看護の質も高めていきたい」というのが、青山、桑原の共通の思いだ。看護の質とは、安全で適切な看護技術だけではない。「治療法の意思決定や治療後の障害受容の支援も含め、患者さんとご家族の思いに応え、生活復帰への希望を引き出していくこと」だと桑原は言う。頭頸部がんの看護ひとすじに、桑原はこれからも専門性を高めていく決意である。

 

 

 


 

 

columnコラム

●頭頸部がんは、治療が成功しても、摂食機能や発声機能の損傷、顔面の著しい変容により、退院後の生活において、辛い思いを強いられることが多い。しかし、この20年くらいの間に、頭頸部がんの治療は大きく進化している。早期に発見できれば、切除範囲を小さくしたり、放射線治療を行うことにより、以前の生活を取り戻すことができるようになった。

●また、進行がんについても、がんの治癒を第一としつつ、機能の障害を最小限にする治療技術が進化してきた。たとえば、咽喉頭のがん。以前は首の皮膚を切開して腫瘍を切除していたが、内視鏡を使用して口から腫瘍を切除する技術が発達。術後の嚥下機能や発声機能の障害を軽減できるようになった。また、顔の皮膚やあごの骨、舌などを切除した場合、患者の体の別組織を欠損部に移植する<再建手術>の技術も確立され、生活の質を保ちながら、社会復帰できるケースも増えてきている。

 

backstage

バックステージ

がん専門病院として
専門性の高いがん看護を展開。


●愛知県がんセンター 中央病院は、研究所と一体となったがん専門病院。地域のがん医療の中心的な役割を担う<都道府県がん診療連携拠点病院>として、高度で専門性の高いがん診療・がん看護を提供している。

●今回特集した、頭頸部がんの看護においても、その専門性の高さ、厚い看護体制が際立っている。病棟の看護師一人ひとりが、がん看護という専門性を有し、そのなかから、桑原の摂食嚥下のように、特定の分野を深く掘り下げたスペシャリストの卵が生まれる。そして、さらに専門的な知識や経験が必要な場面では、がん看護専門看護師や認定看護師などのスペシャリストが力を発揮する、という体制ができているのだ。

●重い機能障害を持つがん患者に、生きる力を取り戻したい。そんな思いで懸命に看護に取り組むスタッフたち。その情熱はきっと、これから先の人生を歩むがん患者とその家族にとって、大きな心の支えになるのではないだろうか。

 

 


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