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<安全に食べる>
それを地域に広げたい。

 

 

宇佐美康子(摂食・嚥下障害看護認定看護師)/名古屋第二赤十字病院 HCU(ハイケアユニット)


再発しやすい
誤嚥性肺炎から
患者を守るために。

main名古屋第二赤十字病院のHCU(ハイケアユニット)で、宇佐美康子看護師はある問題意識を抱いていた。
それは、<誤嚥性肺炎の高齢患者が非常に多く、しかも入退院を繰り返す人が多い>という現実である。
その難問に立ち向かうために、宇佐美は誤嚥性肺炎のリスク管理に取り組み、病院の看護を地域へ繋ぐ仕組みづくりを決意する。

 

 

 

 

 

救急の最前線で誤嚥性肺炎になりそうな患者を見つけ出し、
誤嚥させないようにリスク管理を徹底する。

 ここに、興味深い数字がある。名古屋第二赤十字病院のHCUに入院する患者数は年間3823名。そのうち、誤嚥性肺炎で入院した患者は297名に及ぶ(全体の約8%)というのだ(平成27年度実績)。誤嚥性肺炎とは、食べる力・飲み込む力(摂食・嚥下機能)が低下し、唾液や食べ物が誤って肺に入り、細菌が繁殖して炎症を起こす病気。社会の高齢化に伴い、誤嚥性肺炎にかかる高齢者の増加が指摘されている。
Plus顔写真1 「誤嚥性肺炎で緊急入院される方はとても多いですね。また、別の疾患で入院しても、誤嚥性肺炎のリスクを持つ高齢患者さんが大勢いらっしゃいます」。そう話すのは、摂食・嚥下障害看護認定看護師の宇佐美康子である。宇佐美の配属先はHCU。救急の最前線で、患者の摂食・嚥下機能を評価するとともに、入院患者のミールラウンド(食事観察)を実施。患者の症状や嚥下機能に合わせ、きざみ食やミキサー食など適切な食形態を考え、安全な姿勢で提供するよう指導している。また、誤嚥のリスクのある患者の情報については、患者が転棟する際、確実に次の病棟へ引き継いでいる。「HCUという病院の入口に私が関わることにより、<誤嚥性肺炎になりそうな患者さん>を早期に見つけることができます。その患者さんをリストアップして、誤嚥させないようにリスク管理していくことが、私の大きな使命だと考えています」。 
005_L23_YagotoNisseki_2016 宇佐美はこうしたHCUの活動と並行して、病棟横断的な活動にも参加している。具体的には、嚥下チーム(嚥下障害の評価と改善サポートを行う多職種チーム)と栄養サポートチーム(患者ごとに適切な栄養管理法を立案する多職種チーム)の一員として、毎日のように各病棟を回診。嚥下機能が低下している患者の食事の仕方を工夫したり、症状に合わせて栄養管理しながら、なるべく多くの患者が<安全に口から食べられる>よう働きかけている。こうした食事に対するチームの取り組みは、患者の回復を後押しし、早期退院に繋がるなどの成果を生んでいる。
 しかし、最近になって、宇佐美は大きなジレンマを抱えるようになった。嚥下機能の低下した患者を<安全に食事をとれるような状態>に戻して、次の施設へ繋いでも、しばらくして誤嚥性肺炎で再入院してくるケースが後を絶たないのだ。「今のままの摂食・嚥下ケアを続けていいのだろうか、と悶々とした気持ちを抱くようになりました」。ボックス(シアワセ)

 

 

 

コーチングで気づかされた問題解決の糸口。
地域へ飛び出す覚悟はできた。

Plus顔写真2 悩んだ宇佐美が利用したのが、同院のコーチングシステムだった。コーチングとは対話によって当人の目標を明確にし、行動を引き出す手法(詳しくはコラム参照)。宇佐美は同院に在籍する多くのコーチのなかから、看護副部長の古城敦子(患者支援センター※)にコーチングを依頼した。
 「古城副部長は地域連携の分野に精通しておられ、何か刺激をくださると考えました」。宇佐美のコーチングを引き受けた古城は、それから月に1回、1対1の会話を重ねていった。古城は宇佐美の思いを丁寧に聞き出し、さりげなくこんな情報を伝えた。「そういえば最近、介護施設や在宅医療の現場にいる方々からも、<誤嚥性肺炎が増えているので、何とかしたい>という声を聞くようになりました」。この言葉を聞いて、宇佐美は自分が進むべき道を確信したという。「地域の看護師の方々も思いは同じだと知り、<よし、地域へ飛び出そう>と決意しました」。
097_L23_YagotoNisseki_2016 今、宇佐美はその新たな<野望>に向けて、さまざまな構想を練っている。「まずは介護施設の職員さんや訪問看護師の方々に声をかけ、顔を合わせて話し合える機会を作りたいと考えています。そこで、お互いに困りごとを相談したり、摂食・嚥下ケアの勉強会も開いていきたいですね。ゆくゆくは、訪問看護に同行して、患者さんとご家族に嚥下食の作り方も含め、安全管理をアドバイスしていきたいと考えています」。
 宇佐美がめざすのは、摂食・嚥下ケアを中心に地域連携を深め、<安全に食べる>を地域へ広げていくこと。地域という大きなステージで、宇佐美はさらなるチャレンジを開始する。

※ 患者の入退院支援・相談支援などを行う部署。

 

 

 


 

 

columnコラム

●宇佐美看護師が、古城副部長に依頼した<コーチング>は、名古屋第二赤十字病院が平成24年から導入している人材育成および組織活性化の支援ツールである。コーチングとは、ティーチング(教える)とは違い、答えはその本人が持っているとし、対話を通じて当人の気づきを促し、目標の達成を支援する手法。同院ではこのコーチングを取り入れることで、院内のコミュニケーションの円滑化を図るとともに、職員一人ひとりが主体的に考え、行動する風土づくりを進めている。

●現在、同院には、コーチングのプロから指導を受け、日本コーチ協会の資格を持つ者が75名在籍している。職員たちは、自分自身の課題に迷いがあるとき、コーチに1対1のコーチングを依頼し、自らの問題を解決することができる。導入から約4年、コーチングの活用は多様な職種に広がっており、個々の問題解決やチーム医療の質の向上に役立てられている。

 

backstage

バックステージ

地域の基幹病院の使命として
リソースナースを積極的に地域へ。


●地域で、リソースナース(専門性の高い知識・技術を持つ看護師)を豊富に抱えるのは基幹病院である。名古屋第二赤十字病院では、その基幹病院の使命として、リソースナースを地域へ派遣し、地域全体の看護の質的向上に取り組んでいる。すでに、褥瘡(じょくそう=床ずれ)ケアにおいては、皮膚・排泄ケア認定看護師が地域へどんどん出て、転院・退院した患者の継続看護に尽力している。

●古城副部長は、褥瘡ケアに続く活動を、宇佐美看護師に期待する。「当院の平均在院日数は11・4日まで短縮しています。これからは看護においても、ますます地域と力を合わせることが求められていくはずです。高齢社会でニーズの多い誤嚥性肺炎の予防のほか、認知症対策に関しても、当院の認知症看護認定看護師が地域に貢献できないかと考えています」。院内の人的資源を活用し、地域全体で患者を支えていこうとする同院看護部の取り組みに、今後も注目していきたい。

 

 


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