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患者を守り、職員を守るために、
「感染対策」に看護師人生を懸ける。

文字雅義/松波総合病院 感染管理認定看護師


main社会医療法人蘇西厚生会・松波総合病院(岐阜県羽島郡笠松町)は、岐阜県の民間病院として最大規模の急性期病院である。大勢の患者を受け入れる同院では、さまざまな職種が連携し、感染対策に力を注いでいる。その中枢部で活躍するのが、感染管理認定看護師の文字(もんじ)雅義である。看護助手からスタートしてキャリアを重ね、今、感染管理の専従者として充実した日々を送る彼の姿を追った。

 

 

 


「感染管理」という看板を背負う覚悟とやりがい。
その根底に、「患者さんを守る」看護師の使命がある。


 

「感染管理」の歩く看板として、院内を毎日ラウンドする。

00 感染管理の専従看護師である、文字雅義(看護部長室付き感染管理認定看護師・師長)は、毎日2時間の院内ラウンド(巡回)を自分に課している。アルコール消毒液の配置、物品の整理整頓、清拭タオルの取り扱いなど、細かいところに目を光らせ、問題点があれば遠慮なく指摘していく。文字が姿を現すと、どの現場の空気も一瞬、ピリッとした緊張感が走る。「何か不備があるのでは…」という不安が、スタッフたちの頭をよぎるからだ。
 院内感染の監視役を務める文字は、職員から少々煙たがられる存在でもある。文字はそのことを肌で感じつつ、まったく苦にしていない。「僕が現場に行けば、観察者効果もあり、スタッフたちの感染予防の意識付けが啓発される。それだけでも意味があると思っています。言わば、感染管理の歩く看板ですね」と、屈託なく笑う。
310040 最近、報道でもよく耳にする「院内感染」とは、医療機関において、患者や職員が何らかの微生物に感染し、病気を発症することをいう。言うまでもなく、病院は病原菌が多く存在する場所であり、常に院内感染のリスクを抱えている。感染対策のスペシャリストである文字は、他職種のスタッフから相談されることも多く、院内で一目置かれる存在だ。

働きながら准看護師、正看護師の資格を取得。

310243 文字が現在のポジションに辿り着くまでには、いくつもの「挑戦」があった。そもそも看護師を志したのは、中学・高校時代にずっと続けていたボランティア活動に端を発する。町内の福祉協議会が主催するイベントを手伝い、老人ホームの慰問などを行うなかで、医療・福祉への関心を抱くようになったという。高校3年のとき、タイミングよく松波総合病院の求人に出会う。働きながら准看護師の資格が取れることを知り、迷わず入職した。
 午前中は看護助手として働き、午後は学校へ。夕方6時に再び病院に戻って働く生活を3年間続け、准看護師の資格を取得した。仕事と勉強の両立は大変だったが、先輩たちのサポートは温かかった。当時、院内には5名の男性看護師がいて、勉強会や食事会によく誘ってくれたのだ。患者を第一に考え、やさしく寄り添う先輩たちの姿は、これまでに見たことのない男性像でもあり、強い衝撃を受けた。文字の頭のなかに、憧れの看護師の姿が少しずつ膨らんでいった。
 准看護師の資格を取り、病棟、法人内の診療所などで働きながら、今度は正看護師の資格取得に挑戦。看護専門学校で2年間は定時制、最後の1年間は全日制で学び資格を手に入れた。そして、心機一転。配属された法人内の老人保健施設で業務に励んだものの、「学校で学んだ急性期看護の力をもっと発揮したい」と強く思うようになった。そんな文字の胸中を察してか、施設長から異動の声がかかる。文字の働きぶりに目を留めていた施設長が「良い人材がいるから」と、外科病棟へ推薦したのだった。このとき、文字は30歳になっていた。

医師に進言できなかった悔しい思いが、認定看護師へ駆り立てた。

310104 外科病棟は、念願だった急性期医療の最前線。しかも看護師長は、入職間もない頃に出会った憧れの男性看護師である。胸を躍らせて飛び込んだものの、最初の数カ月は自分の無力さを痛いほど思い知らされた。看護記録の書き方一つにも戸惑い、年下の看護師から怒られるたびに「何くそ」と奮起し、一つひとつ仕事を覚えていった。文字が感染に興味を持ち出したのもこの頃だ。手術後の創部の管理など、感染に配慮する場面が多かったからだ。
 あるとき、手術後の患者を担当していた文字は、術後の傷口を消毒する際、消毒用ガーゼを廃棄するビニール袋を、患者の傷口のすぐ近くに準備していた。動線が短いほど衛生的だと考えたからだ。その準備を見て「不潔だから、そばに置くな」と、医師から強い注意を受けた。文字は不本意に感じたものの、言い返せるだけの知識がなく、悔しい思いを胸にしまい込んだ。
310125 医師にアプローチするには、それなりの根拠や知識が必要だ。折しも、違う分野で認定看護師をめざす先輩が一人、二人と、学校へ通い始めた。そういう専門的な道があることを知り、文字は大きく心を揺さぶられた。しばらくして、外科の医師も新しいメンバーへ入れ替わり、経験則だけでなく、エビデンスに基づくチーム医療へと舵を取ろうとしていた。
 感染管理を専門的に学んでみよう。そんな文字の決意を聞いて、看護本部長も「あなたは、一つのことを粘り強く最後までやる人。また、全体を見渡せる能力もある。感染管理は、あなたに向いている。ぜひ、行きなさい」と背中を押してくれた。それからほどなく、文字は神奈川県立保健福祉大学の「感染管理認定看護師教育課程」に入学。専門講義や実習、レポート提出に明け暮れた。「睡眠時間が1週間で4、5時間しかとれないこともざらでしたが、すごく楽しかった。本当にいいタイミングで行かせていただきました」と、振り返る。当時、一緒に学んだ仲間とは、今でもメールで日々の問題点を相談し合うという。

根底にあるのは、「患者さんを守りたい」という、変わらぬ看護観。

310223 文字が感染対策の専従になってから、3年が過ぎようとしている。手指衛生の回数、アルコール消毒剤の使用量などを各部署ごとに数値化し、客観的に感染管理を評価する体制を作るなど、確実に成果を上げてきた。「職員の感染に対する関心はかなり高まってきた」と手応えを実感する一方、現状に満足することなく「岐阜県下でトップの院内感染管理体制づくり」をめざしている。
 今後の課題はなんだろう。「すべての職員が忙しさを理由にすることなく、誰も見ていなくても、自然に感染予防を実践できる、そんな組織風土を作っていきたい。それは医療従事者として絶対に必要な心得ですし、その意識が全職員に根付けば、感染以外の分野、たとえば、安全、接遇などにもいい影響を与えると考えています」。言わば、感染予防を切り口にした組織風土改革。文字は感染管理に留まることなく、病院全体の質の向上へと視野を広げている。
310173 こうしたマネジメント的な関わりを深める一方で、文字の看護観は変わることなく、心のなかにあるという。それは「患者さんを守りたい」という一念だ。「今は患者さんと接する機会も減り、活動範囲も広がりましたが、看護観はずっと変わりません。患者さんを第一に考えて、これからもやっていきます」と力強く話す。
 近年は、院外の研究会にアドバイザーとして招かれたり、講師を依頼されることも多くなってきた。ときには連携する病院から依頼を受け、カメラ片手に監査にいくこともあるという。病院から地域の医療機関へ、そしてゆくゆくは、在宅を含む地域医療へ。文字の挑戦は今後も間違いなく、大きく広がっていきそうだ。


 

 

columnコラム

●松波総合病院では、ICT(感染対策チーム:InfectionControlTeam)を組織し、組織横断的な活動を行っている。ICTのメンバーは、医師、各部署の看護師、臨床検査技師、薬剤師、リハビリテーションスタッフなど他職種から構成され、総勢約20名にのぼる。文字は感染管理の専従者として、チームの副リーダー(リーダーは医師)を担い、メンバーたちをリードしている。

●ICTでは週に1回、院内ラウンドとミーティングを行っている。各部署の環境や抗菌薬などをチェックし、問題点があれば、写真に収めて、現場スタッフに改善策を指導している。現在、ICTが掲げている目標は、「職員の手指衛生遵守率100%」。感染予防の基本を徹底し、さらに感染管理の質を高めようとしている。




backstageバックステージ

●院内感染の重大事故がたびたび大きく報道され、医療の「安全」に世間の注目が集まっている。感染管理認定看護師が生まれたのも、こうした社会的ニーズからだ。さらに昨今は、感染対策の必要性から、ICTを組織し、専従の医師または看護師を配置する病院が増えている。

●専従担当者となった感染管理認定看護師は、院内の全部署に対し、組織横断的に活動を行う。松波総合病院の文字看護師も、職域を超えて、「患者さんを守るために、必要なことを言い、指導する」という強いリーダーシップを発揮する。ときには医師と議論し、病院の組織風土改革に積極的に関わり、地域医療へと活躍のフィールドを広げつつある。文字の活躍は、自らの専門性を高めながら、地域医療の先頭に立って挑戦する「新しい看護師」の台頭を予感させる。


 


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