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病院を知ろう

「未来を切り拓く」。
ロボット支援によるがん手術が、
当たり前に選べる時代をめざして。

藤田保健衛生大学病院


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最先端の医療を患者のもとへと届けるために。
藤田保健衛生大学のロボット手術という挑戦!

藤田保健衛生大学病院では、昔から「低侵襲手術」に取り組んできた。
創立50周年(平成26年)を間近に控えた今、その取り組みは新たな段階へと移り始めている。
現在、全国で導入が加速している手術支援ロボット「ダヴィンチ」。
そのトレーニングセンターを担う同院では、ロボット手術の普及に向けて未知への挑戦が続いている。

はじめに見たときから驚きの進化を遂げた最新「ダヴィンチ」。

宇山Dr  藤田保健衛生大学病院では、傷が小さく患者への負担が少ない「低侵襲手術」に力を入れてきた。その中心的役割を担ってきたのが、上部消化管外科の宇山一朗教授だ。宇山教授は、平成3年、日本で腹腔鏡手術が導入された当初から執刀を続ける草分け的存在。胃がんや大腸がんにも腹腔鏡手術の適用を広げてきた。
 そんな宇山教授は、平成12年に初めて「ダヴィンチ」に接触する。ただ、その当時はやっと治験が始まった段階。胆石や食道裂孔ヘルニアの手術に使われるのを見て、「あんなものは要らない」と思った。平成18年には、かつて宇山教授のもとで学び、胃がんのロボット手術で世界有数の執刀数を誇る韓国・延世大学のヒョン・ウジン外科医と再会。第一世代のダヴィンチに触れるも、「自分の腹腔鏡手術の方が精度は高い」と感じたという。
 だが、平成20年、第二世代のダヴィンチを見たとき、その印象は一変する。「ダヴィンチを使って胃がんの公開手術をするので見に来ませんか」。ヒョン医師からの誘いで韓国に向かった宇山教授は、その素晴らしい手術に圧倒される。そこでは、胃だけでなく、大腸、前立腺などあらゆる公開手術が行われていた。その光景を見たとき、「この領域では完全に置いていかれている。このままではいけない」と焦りを感じる。
 帰国後、宇山教授はすぐさま大学に申請を上げ、直接輸入での病院導入を決めた。

導入時の「衝突」や試行錯誤の期間を経て、病院独自の手技を確立。

IMG_6156 同院に導入されたのは、当時の最新機種「ダヴィンチSHD」。日本初の導入だ。ただ当時のダヴィンチは薬事法未承認。事故が起きた場合、病院が全責任を負う。ましてや同院は、内視鏡手術ですでに一定の地位を確立していた。「無理にリスクを冒す必要はない」。そんな意見が大半だった。しかし、宇山教授は「海外では数十万件の手術実績があり、安全性を示すデータもある。薬事法の承認は時間の問題だ」と説得する。結局、まずは5例を大学負担で実施し、安全を担保するという条件で許可が下りる。
 だが、今度はダヴィンチの製造元と衝突が起きた。製造元からすれば、日本は将来の大きな市場だ。ここで事故が起きればマイナスイメージになる。「まずは易しい手術からやりなさい」。提示されたのは、胆嚢結石10例と食道裂孔ヘルニア10例。だが、宇山教授は「胃がんからやりたい」と訴える。返答は「NO」だった。アメリカでは、胃がん自体が少なく、危険な手術だと認識されていたからだ。「病院側から特別に認められた5例を無駄にはしたくない」と考えた宇山教授は渡米。話し合いの末、早期がんの安全な症例という限定付きで、胃がんでの導入を認めてもらう。但し条件は「10例選べ」。そこで大学に理解を仰ぎ、最終的には大学負担を10例にしてもらうことで決着する。
 その後、医師を含む手術チーム4人で渡米し、トレーニングセンターで研修を受講。12月中旬には手術も見学する。また、病院側も安全対策に万全を期すため、新たに「ロボット手術運営委員会」を発足。そして、平成21年、ダヴィンチによる初の手術が行われた。
 1例目を胃がんで実施した後、さまざまな外科系診療科の医師が「自分もやりたい」と声を上げた。だが病院は、無闇に実施させるのではなく、ロボット手術運営委員会が主体となって手術の可否を判断。その上で、新たな症例5例は病院負担で行い、慎重に別の科へと広げていった。泌尿器科では、保険収載された前立腺がんのほか、腎臓がんの手術などにも使われていく。「おそらく前立腺以外のありとあらゆる疾患は、当院が日本で最初に実施したと思います」と宇山教授は胸を張る。

ダヴィンチを活かす腎臓「再建」への挑戦。

白木Dr 同院のロボット手術を語る上で、欠かせない人物がもう一人いる。泌尿器科の白木良一教授だ。長らく泌尿器領域でのがん手術を行ってきた白木教授も、ダヴィンチの可能性に早くから着目。なかでも関心を抱いたのが、腎臓がんへの利用だ。国内でのダヴィンチの利用は、保険収載の関係から、その大半が前立腺がん。だが、欧米では、前立腺がんをしのぐほど使用されているのが、腎臓がんだ。
 かつて、腎臓がんは、小さな腫瘍でも腎臓の片方を全摘出するのが一般的だった。ただ最近では、腎臓を2つとも残した方が、その後の心筋梗塞や心血管疾患のリスクが軽減され、加えて、全摘出でも部分切除でも、がんの予後に変化がないことが判明してきた。そのため、部分切除が主流になりつつある。ただ、腹腔鏡手術では、繊細な動きが要求される再建手術は難しい。そこで活躍するのがダヴィンチだ。
 「腎臓は手術時間が長くなるほど機能活性が低下します。機能を温存するためには、短時間で執刀し、出血を抑え、さらに術後の合併症も回避しないといけない。そんなデリケートかつ迅速な手術を可能にするのがダヴィンチなのです」。

目的はロボット手術の普及。
そのためにも、術者の育成にも力を注ぐ。

•a‰@-“¡“c•ÛŒ’A0711.indd がん治療におけるダヴィンチ活用の有用性。それは極めて高いと、宇山教授、白木教授は確信している。だが現在、保険収載されているのは前立腺のみ。それ以外で受けるとなると、患者は高額な手術代を自費で払うことになり、ほとんどの患者は、第一人者である両教授の執刀を希望する。
 こうした現状において、二つの問題が生じている。一つは、高額な費用を払える一部の人にしか、ロボット手術は利用されない点。もう一つは、若手医師に執刀機会がなかなか巡ってこない点だ。
4 これを打破するにはどうすれば良いのか。「保険収載される対象を増やすこと。そのためには臨床でのデータ収集に基づくプロトコル(基準となる治療方針、標準治療法)の確立が不可避です。私たちは、ロボット手術による優れた治療をわが国に普及させ、多くの人にとって福音となる、それに真っ先に取り組む病院でありたいと思います」と両教授は異口同音に語る。宇山教授は日本内視鏡外科学会に働きかけ「ロボット支援手術検討委員会」も発足させている。
 そうした取り組みで得た経験や成果をもとに、もう一つの問題、すなわちより良いダヴィンチ術者を育て上げる「真の意味でのトレーニングセンター」をめざすという。名実ともにロボット手術の牽引者として——。ロボット手術の本格的な幕開けは、同院がそのカギを握っている。


 

column

コラム

●手術支援ロボット「ダヴィンチ」の導入には、医師を中心とした手術スタッフのトレーニングが義務づけられている。このトレーニングを実施するのが、サージカルトレーニングセンターだ。このトレーニングセンターに認定されるのは、「ダヴィンチ」の製造元・インチュイティブ・サージカル社の厳しい基準を満たした施設だけ。現在、世界で22カ所しかなく、国内では藤田保健衛生大学を含めてわずか2カ所のみだ。

●現状のトレーニングでは、機械の操作方法を学ぶ講習が中心に行われる。ただ、同院ではこれを発展させ、将来的には症例ごとの具体的なトレーニングへと高めていきたいと考えている。「現在は2台しかないが、5台くらいあれば、私たちも一度にたくさんの医師たちに指導できる」と宇山教授。効率的に指導が行える環境を整備することで、より充実したトレーニングセンターの運営をめざしている。

 

backstage

バックステージ

●前立腺がんにおけるロボット手術が先進医療に認定されたことで、手術支援ロボットを取り巻く現状は、患者獲得に向けた“導入合戦”の様相を呈しつつある。だが、実際の使用回数はそれほど伸びておらず、せっかくの医療器具を生かしきれていない状況が生まれている。

●ロボットの導入が今後も進めば、それだけ手術は分散する。だが、そうなれば、外科医のさらなる不足を招き、技術の蓄積もなかなか進んでいかない。がん治療に限っていえば、治療そのものに時間的な余裕があり、手術機能を地域に分散させる必要性はそれほど高くはない。今後は執刀できる病院を限定し、医師と設備を集約化することで、医療の質を高めていくという発想が必要なのかもしれない。手術支援ロボットの導入が各地で進む今、がん診療連携拠点病院のあり方が問われようとしている。

 


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