872 views

ƒvƒŠƒ“ƒg

その人への理解から
認知症ケアは始まる。

 

 

大西邦明(認知症看護認定看護師)/安城更生病院


急性期疾患だけでなく、
認知症への対応も不可欠。
現場の厳しい課題に向き合う。

main安城更生病院は、急性期疾患を患う患者に短期集中的に医療を提供する高度急性期病院である。
しかし昨今、入院患者の高齢化に伴い、治療すべき疾患の他に認知症を持つ患者が増加。
急性期疾患の治療に加え、認知症への対応が不可欠になってきた。
その最前線で活動する認定看護師の姿を追う。

 

 

 

 

 

認知症患者の要望や困りごとを見出し
丁寧にケアしていく。

 Plus顔写真 「患者さんが夜中に大声を出して暴れる」「勝手に動き回り、困っている」。安城更生病院の認知症看護認定看護師である大西邦明(5階西病棟・神経内科)のもとには、認知症を患った入院患者の行動にとまどう病棟看護師から、さまざまな相談が寄せられる。
 連絡を受けた大西は病棟に出向いて、どうすれば改善できるか、担当看護師と一緒に知恵を絞る。「病棟の看護師は皆、急性期疾患のケアに集中して取り組んでいます。そのなかで、認知症を持つ患者さんの行動は時に不可解に思え、大きなストレスに繋がります。そんな現場の負担を少しでも軽減できるよう、さまざまな角度から認知症ケアの手法を探っていきます」と大西は話す。たとえば、患者が夜中に大声を出す場合、生活リズムを整えることが有効策になる。朝は早起きして食事をしっかりとり、昼間は離床時間や面会時間を増やしていく。こうして日中のコミュニケーションや活動量を増やすことで、夜間よく眠れるようになり、問題行動が収まっていくという。また、患者が動き回る場合は、「何がしたいのか」という動機を、病棟看護師と一緒に考えていく。大西は常に、認知症ゆえに見えにくくなった患者の真の姿や思いをとらえ、その要望や困りごとに病棟看護師が気づいて工夫できるように導いていく。
0110安城更生病院¥0A8A9513-2 そもそも大西が認知症看護のスペシャリストをめざしたのは、認知症の入院患者が増え、身体を拘束せざるを得ない事例が増えてきたからだ。同院の第一の使命は、急性期疾患を治すことにある。速やかな治療と安全確保のために、徘徊や多動により転倒リスクを抱える認知症患者に対して、ある程度の拘束はやむを得ない。しかし、安易に拘束していないだろうか、というもやもやした思いを大西は抱いていた。そんなある日、認知症患者の抑制を外してゆっくり話をする機会があった。すると、普段は表情の乏しい患者が笑顔を見せて、こう言った。「話を聞いてくれて、ありがとう。うれしいねぇ」。大西はこの言葉が胸に突き刺さった。「ただ痛みなどを確認するだけでなく、ちゃんと向き合ってコミュニケーションを取れば、落ち着いた状態を保てるかもしれない。もっと認知症への理解を深め、患者さんをサポートしたい」。そう考えた大西は平成24年、教育課程に進み、認定看護師の資格を取得した。そこで得たものは、自分の都合ではなく、患者の気持ちを尊重する大切さ。「認知症ケアの原点は、看護の基本に立ち返ることでした」と大西は振り返る。ボックス(シアワセ)

 

 

 

認知症ケアに関する
知識と技術を地域へ広げていきたい。

0110安城更生病院¥0A8A9439 認定看護師として、院内の認知症ケアの向上に取り組む大西。その活動が昨年(平成28年)10月、大きく発展した。大西をはじめ、医師、看護師、薬剤師、作業療法士、栄養士、精神保健福祉士から構成される<認知症サポートチーム>が院内に結成されたのだ。この背景には、入院患者の高齢化が進み、急性期医療の質を担保するために認知症ケアが避けられなくなってきた事情がある。大西の知識や技術、いわば<個人の力>を<組織の力>へと発展させ、病院全体で認知症に立ち向かう必要性が生まれたのだ。
 チームの活動は、冒頭で紹介したように病棟の依頼から始まる。最初に大西が相談を受け、現場の工夫では解決できない患者について、チームに持ち帰り、薬物療法やリハビリテーションなどの改善策を検討していく。「多職種が集まることで、より客観的な分析や幅広い手法を121044実践できます」と、大西は手応えを語る。また、チームでは、認知症ケアの教育にも力を入れる。入院患者のせん妄(意識の混濁)を早期発見するための『せん妄スクリーニングツール』や『認知症ケアマニュアル』を作成し、病棟看護師が認知症を正しく理解し、認知症患者にとまどうことなく向き合えるような体制作りを進めている。
 チームが発足して3カ月余り、大西はさらに認知症に関わる活動を地域へ広げたいと意欲を燃やす。たとえば、新しい認知症予防運動(コグニサイズ)の研修を受け、それを市民公開講座で紹介するなど、精力的な活動を開始している。「認知症の人が地域で心穏やかに暮らしていくには、ご家族をはじめとした周囲の人たちが認知症を正しく理解し、その人の尊厳を守りながら、サポートしていくことが重要です。そのために必要な知識や技術を提供していきたいと思います」。認知症患者を地域で守り、支える未来をめざし、大西の挑戦は続く。

 

 

 


 

 

columnコラム

●認知症とは、正常だった脳の働きが徐々に低下し、生活に支障をきたす状態を指す。脳の神経細胞が壊れることによって、直接起こる認知機能の障害を中核症状と呼び、患者は認識力の低下から混乱をきたしやすい状態に陥る。そういった患者の状態を正しく理解し、混乱を招くことのないよう丁寧にコミュニケーションを取っていくことで、徘徊、多動、興奮、抑うつ状態、せん妄(意識の混濁)、攻撃的言動など、BPSD(心理・行動症状)と呼ばれる症状の抑制に繋げていくのが、認知症ケアの手法である。

●そこで大西が病棟看護師に推奨しているのが、ユマニチュードという手法だ。これはフランスで開発されたもので、「見つめる、話しかける、触れる、立つことを支援する」という4つを基本に、認知症患者に接するノウハウだ。大西の働きかけで、ユマニチュードを学び、実践する看護師が増えつつあるという。

 

backstage

バックステージ

基幹病院が中心となって
地域の認知症ケアの底上げを。


●平成37年(2025年)、全国で認知症を患う人の数は700万人を超えると推計されている(厚生労働省より)。認知症ケアは、これからの超高齢社会において避けては通れない問題。今回紹介した高度急性期病院はもちろん、介護施設、在宅のすべての現場が共通して抱える問題であり、地域が一丸となって取り組むべきものといえるだろう。

●その問題解決の旗を振るべきは、地域で最も多くの医療資源(人材や設備など)を抱える基幹病院(高度急性期病院)だろう。また、別の観点からすれば、急性期疾患の治療を終えた認知症患者が安心して生活できるように、次のステージへ患者を引き継いでいくことも、基幹病院の大きな使命といえる。安城更生病院はその役割を自認し、地域全体で<認知症を正しく理解し、サポートしていく>ような体制作りをめざしている。その活動と成果に注目していきたい。

 

 


872 views