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〈本物の外科医〉を、
育てる。

 

 

長尾成敏(消化器外科部長)/岐阜県総合医療センター


外科医たるもの、
<解剖><層構造>への
理解が何より大切。

main岐阜県総合医療センター、消化器外科部長の長尾成敏。
外科医として、自らを開眼させた<解剖><層構造>の論理を、
今日も若手医師の教育に注ぎ込む。

 

 

 

 

 

「人間の身体は、胎児のときは真っ直ぐ。
シンプルなんです」。

 Plus顔写真 岐阜県総合医療センターの中央手術室で、内視鏡下による胃がんの手術が行われた。執刀医は、消化器外科部長・外科主任医長の長尾成敏医師。食道外科や消化器外科のがん専門医である。
 約3時間の手術が終了したとき、助手を務める若手医師や研修医たちは、長尾を見つめた。その目には、長尾のいつもながらの鮮やかな手技への、尊敬の念が込められている。長尾は彼らの視線にこう答える。「大切なのは、解剖だよ」。
 長尾が言う<解剖>とは何か。「正確に言えば、解剖学的に人体の正常な形態や構造を理解する、ということなんです。人間の身体は、臓器があり、血管があり、リンパ管があり…、胸やお腹の空間は膜で覆われているなど、とても複雑です。でも実はこれら全部、胎児のときは真っ直ぐなんですよ」。
 えっ、真っ直ぐ? 「それが生まれるまでの過程で、複雑に折り畳まれた形になっていきます。折り畳まれていることを、層構造といいますが、外科医は、その層構造、つまりは解剖を解っていなければなりません。解った上で、手術する箇所が、真っ直ぐな状態では、どこに相当するかを考える。そうすれば、すぐ近くには大きな血管があるとか、神経がこう走っているとか、他の臓器と意外と近いといったことが、手術に入る前から解るはずです」。
 つまり、手術は層を間違えないことが大切。「そうです。真っ直ぐな状態をイメージして、層を間違えずに入れば、出血も少なく、正確に切除ができ、手術時間も短縮することができます。だから、外科医には、解剖が何より大切なんです」。
 「とはいえ」と、長尾は笑う。「私自身、外科医になった最初から、解剖の大切さを理解していたわけではありません。手術も、今考えると何となくしていましたね」。その彼を変えたのは、医師になって6年目、東京にあるがん専門病院で出会った、一人の医師の存在である。層構造についての強いこだわり。そのための徹底的な0206岐阜県総合医療センター¥IMG_6433指導…。長尾は解剖、層構造理解への重要さを叩き込まれ、日々、イメージトレーニングを重ねた。そしてそれ自体が何物にも優る事前準備となり、執刀する手術も激変した。
 「どう折り畳まれているか、それがすべて解った状態で手術に臨めば、想定どおりの結果となります。若手医師への指導は、その理屈を解らせ、解剖への理解を、いかに深めさせるかがポイントですね」。ボックス(シアワセ)

 

 

 

治療のクオリティを上げる。
外科医一人ひとりは、その可能性を持っている。

0206岐阜県総合医療センター¥0A8A0641 「外科医は、自分が正しいことをやっているか、常に不安を感じるものです」と長尾は言う。卓越した技術力を持つ彼にとって、それはどういう意味だろうか。「人間は自然治癒力を持っています。その治癒力で治らないものを取り去るのが、手術。外科医の行為によって、患者さんの身体を、自然治癒力で治る構造に変えていくんです。そのためには、瞬間的に、死の淵に追い込むことも必要なときがある。どれだけ技術力に自信があっても、手術の結果は頭で解っていても、不安は消えない。だからこそ学び続ける。これは外科医として、大切な要素ですね」。
 そしてもう一つ大切なことは、開腹手術での学びだと言う。「医療機器の進化はめざましく、今や内視鏡下の手術が主流ともいえます。しかし外科医たるもの、いざというときに対応できる、開腹手術の技術力は不可欠です。当院でも医師教育は、開腹手術からスタートです。ここでの学びが、内視鏡下の教育効果を最大限に活かすことに繋がっています」。
 外科医として最前線に立ち続ける長尾。今後のビジョンを聞くと「岐阜県の<本物の外科医>を育てること」だと言う。「一人でも多く、本物の外科医を育てれば、それだけ多くの患者さんを救うことができます」。長尾が言う本物とは2007岐阜県総合医療センター¥IMG_6546-のコピー、解剖が解り、層構造が解り、開腹手術にも対応できる。そして、不安に対して謙虚な外科医のことだ。「当院の若手の外科医たちは、自分の腕前と仲間の腕前を比べ合い、競い合っています。自分が成長すれば、そのぶん、治療のクオリティを上げることができるということを、少しずつ感じているのだと思いますね」。
 岐阜県最高峰の高機能病院で、<本物の外科医>の育成をめざす長尾成敏である。

 

 

 


 

 

column

コラム●岐阜県総合医療センターの外科では、医師教育にCERTIFICATE(認定証)制を採っている。これは長尾が生み出したもの。執刀医になるまでの過程を明文化し、段階的に研修を積ませるものだ。

●具体的には、対象となる手術の助手として診療した症例数に加え、その手術よりも高度な手術の助手経験、口頭試問をクリアする、といった条件を課す。これが満たされれば、執刀できる機会が与えられ、終了すると執刀した証として認定証を授与するのだ。

●認定証制度の目的は、地域医療のために、早く、安全に、医師を育成すること。「条件はなかなか厳しいものですが、外科医として早くスタートすれば、それだけ長くキャリアを積むことができます。実際、手術執刀をめざし、積極的に診療に参加したり、患者さんの術後管理に一層真剣になるなど、大きな効果を得ています」(長尾)。

●平成26年に開かれた外科系連合学術集会でも、大きな注目を浴びた医育モデルである。

 

backstage

バックステージ

外科医の役割分担を、確実に果たす
医師だけが必要とされる時代を前に。


●超高齢社会の進展を睨み、今、我が国では医療の機能集約が進められている。簡単にいえば、高度医療を提供する病院を限定し、それ以外の病院は、一般急性期、回復期、療養期、そして在宅医療支援といった機能の充実を図るというものだ。

●となると、高度医療を提供する病院に求められる治療水準は、さらに高まっていく。岐阜県総合医療センターは、まさにそうした病院。岐阜県においては、臓器別の専門医療の頂点を担わなくてはならない。そこで必要とされるのは、各診療領域において、真の実力を有する医師。外科でいうならば、外科医たる役割分担を、確実に果たすことができる医師だけが、必要とされることになる。

●その同院にあって、<不安に真摯に向き合う>ことをキーワードにした、長尾の存在は大きい。外科医が有するべき能力とは何か、素地とは何かを明確にし、強力な指導力を発揮している。彼に育てられた本物の外科医が、広く岐阜県で活躍することを願う。

 

 


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