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私たちが見つけたのは、
「ゆるやかな時間での濃密な看護」です。

 山口誠子・柘植智美/東海記念病院 内科病棟


 

main病床数199床、18診療科と総合リハビリテーションセンターを備える
東海記念病院は、地域の基幹病院の後方支援病院的な役割を担う。
病棟では看護師たちが「じっくりナース」を合い言葉に、
ゆとりを持った看護を展開する。
じっくり患者と向き合い、じっくり成長する、
東海記念病院の看護師たちの姿を追った。

 

 

 


患者とじっくり向き合い、一人ひとりがじっくり育つ。「じっくりナース」でゆとりある看護を実践。


 

患者一人ひとりと深く関わる、理想の看護に出会った。

IMG_5094東海記念病院の内科病棟に勤務し3年目となる山口誠子看護師は、自分のことを「おっとりとした性格でマイペースなところがある」と話す。就職にあたっては多くの病院を見学したが、地域の基幹病院となるような規模の大きな急性期病院は自分には向いていないと感じた。「東海記念病院を見学した時、イキイキと働く皆さんの姿を見て、ぜひ、ここで働きたいと思いました」。ゆっくりと丁寧な指導をモットーとする教育方針や、職種を越えた一体感を育む風土なども、「自分には合っている」と思ったという。
 東海記念病院では、新人には必ずプリセプター(教育担当の先輩看護師)がつく。入職1年目、山口はプリセプターに「患者さんの本当の心の声が聞ける看護を」といつも言われた。当時は仕事を覚えるのが精一杯で、その言葉の意味をよく理解できていなかったが、経験を重ねるうちに少しずつ分かるようになった。「目まぐるしく仕事に追われる急性期病院と違い、ここでは患者さん一人ひとりとゆっくり関わる時間があるんです。ですから、本当の声を聞くことができる。医療的知識や考え方も大切です。でも、それ以上に、患者さんの意思や希望をいかに看護に取り入れていくかを考えることが重要だと思うんです」。
 山口が看護師を目指したのは高校の時、肺炎で倒れた祖父に優しく接する看護師の姿に感動したのがきっかけだった。「話すこともできない状態の祖父に、何度も何度も話しかけてくれた看護師さんの姿を今でも覚えています」。一人ひとりの患者と深く関わる東海記念病院の看護師の姿が、自分の思い描いていた看護師像とピッタリと重なった。自分に合った職場をと選んだ病院で、自分の理想の看護に出会ったのだ。

患者と深い信頼関係を築くことで知った、看護師としての喜び。

IMG_0550山口のプリセプターであった柘植智美は、看護師として8年のキャリアを持つ。他県の赤十字病院に5年間勤め、3年前、結婚で愛知県に来たのを機に東海記念病院へ転職した。
 初めに入職した病院では1年目から手術室に配属、時間に追われる日々を過ごしてきた。手術室の看護は、執刀医に適切な器具器械を渡す器械出しや手術中の患者の体温調節、輸血の準備など専門的な知識や技術のいる仕事だ。やりがいはあったが、看護師として患者と対話する時間がほとんどなく、柘植は、患者と関われる病棟での看護を経験したいと思っていた。
 転職先として、急性期に特化した病院ではなく東海記念病院を選んだ理由は、ゆったりと患者に関われる看護ができそうだったから。実際に働いて「患者さんが自分のことを話してくれたり、私の顔を覚えてくれることが本当に嬉しい。患者さんと深い信頼関係を築くことで、できる看護の幅が広がるのだと改めて気づきました」と話す。病棟では、看護師同士や他職種も交えてのカンファレンスが多く行われる。「一人ひとりの患者さんについて理解を深め、看護の方法や退院時期を決めていくのです。職種の垣根を越え、職員全員が同じ方向に向かえるのが、この病院のいいところです」。
 今の柘植にとって一番嬉しい瞬間は、「患者さんが良くなって退院される時」だという。手術室で時間に追われ、次から次へとめまぐるしい数の患者を看護してきた時には知ることのできなかった喜びだ。この病院で、柘植の中に新たな看護観が息づき始めた。

患者と真に向き合える、本物の看護師を育てる。

IMG_0657高度な急性期病院では、忙しくて患者と関わる時間がなく、日々の仕事をルーティン業務で終わらせざるをえない現実がある。
 東海記念病院は急性期の看護配置基準(7対1)を取っており二次救急を担っているが、三次救急ほどの目まぐるしさはない。高度急性期病院に比べ一人ひとりとじっくり向き合う時間がある。こうした環境の中で生まれたのが「じっくりナース」の看護観、より患者の立場に立った思いやりのあるケアだ。目野千束看護部長は「一歩足を止め、ベッドサイドで患者さんの思いを聞き、それを看護に活かしたい。患者さんとより長い時間向き合うことで、看護の力で患者さんを回復させていきたい」と話す。
 「じっくり」は、患者に対し「ゆとりを持ってじっくり看護する」という意味のほか、「看護師一人ひとりをじっくり育てる」という意味も持つ。看護師の教育に力を注いでおり、一人ひとりが計画的に自己能力を高めていけるよう、クリニカルラダー、教育計画、評価基準を設定。新卒、中途職員、パート、復職者問わず、新人には必ずプリセプターを付け、マンツーマンで指導している。「性格や看護に対する考え方は十人十色。新卒と中途職員の悩みもまったく異なります。型にはめず、その人のペースに合わせた指導をしていきます」(目野看護部長)。プリセプターは、山口のような新卒で入職した看護師にとっては、頼れる、ありがたい存在だ。一方、キャリアはあるが病棟勤務は初めてという柘植のような中途職員にとっても、心強い存在となる。
IMG_5040 二次救急を担う病院の看護部として、キュア(根本的治療)の看護力を高めるための教育もしっかりと行う。救急搬送された患者に対応できる技術・知識の習得に力を入れ、昨年末からはBLS(一次救命処置)、ACLS(二次救命処置)のシミュレーション研修も開始した。
 目野看護部長は「我々が育てたいのは、単に仕事ができるだけではなく、患者さんと向き合い、きちんと〈看護〉ができる看護師。看護をする楽しみ、喜びを体験し、『これが看護だ!』と実感できるような教育をしていきたい」と話す。

一歩ずつ、確実に、看護師として成長していく。

IMG_0644入職して1年目、仕事を覚えるだけで精一杯だった山口は、患者の本当の声に気づくことができなかった。2年目に入り、看護部の全体研修の一環としてケーススタディを発表する機会があり、自らの看護を振り返ることで「患者さんの声を聞くことの重要性、看護とは何か」を、改めて考えたという。
 発表では、誤嚥性肺炎で入院した高齢の女性を看護したケースを選んだ。その患者は食べることが大好きだった。口から食べることが一番の希望だったが、誤嚥し肺に入れば命の危険もある。「結局、形のないものを食べるという看護になってしまいましたが、もっとよく考えれば、別の方法があったかもしれません。患者さんの意思を尊重し、いかに医療との狭間を埋めるか、それをとことん考えていくのが看護なのだと思いました」。
IMG_5061 そして3年目の今、山口は「患者さんが笑顔になるのを見ると、すごく嬉しくなる自分がいることを知った」という。これは、今後看護師を続けていくうえでの大きな〈気づき〉となった。山口は「家族や友だちなど、自分が大切だと思う人たちに対するのと同じように、患者さんに対して、いつでも心のこもった看護をし続けたい」と話す。常に患者を中心に「患者さんの笑顔」を目標にした看護を追求していく。一人でも多くの笑顔に出会うことが、今の山口の喜びだ。
 一方、以前勤めていた病院で常に時間に追われていた柘植は今、見守る看護を心がけている。「病棟には脳出血の後遺症などで麻痺の残る患者さんがいますが、何事も可能な限り自分でできるよう、手は出さないようにしています」。効率だけを重視するのではなく、退院後の生活にまで目を向けた看護を考えるようになった。手術室で培ってきた専門的な知識や技術に加え、患者と向き合うことで生まれた新たな看護観が、看護師としての柘植のステップアップに繋がっている。
 二人の看護師は、それぞれのペースで「じっくりナース」を実践している。そして、一歩ずつ、だが確実に、看護師としての成長を遂げていく。


 

column

コラム

●東海記念病院は、名古屋市のベッドタウンである春日井市高蔵寺ニュータウンに隣接する地にある。大阪の千里、東京の多摩と並ぶ大規模ニュータウンである高蔵寺ニュータウンは、住民の高齢化が進み、問題となっている。そうした地域性に応じ、東海記念病院は外科・内科・整形外科・リハビリテーション科など18診療科を持ち、亜急性期や回復期リハビリテーション病棟などを充実させ、医療体制を整えてきた。

●機能強化型在宅療養支援病院として、在宅患者への緊急対応や看取りなど、地域に密着した医療を展開している東海記念病院。岡山政由理事長は、「基幹病院の後方支援的役割、診療所や施設の駆け込み寺的な役割を担う」という方針を明確に打ち出している。病院の役割を明確にし高度急性期病院と連携することで、急性期から亜急性期、回復期までの幅広い患者をカバー。さらに、法人内で訪問看護ステーションやデイサービス、居宅介護支援事業所なども持ち、地域包括的な医療体制の整備に力を入れている。

 

 

backstage

バックステージ

●東海記念病院が連携を強めている春日井市民病院は、年間9000台を越える救急車を受け入れている。救急患者が押し寄せる基幹病院を支え、地域の医療を守るべく、東海記念病院は、救急の入口では高度な治療の必要ない一次・二次救急患者を引き受ける。出口では、生命の危機に関わる急性期治療を終え、医学的管理を濃厚に必要とする患者を、亜急性期、回復期病棟で積極的に受け入れ、症状を落ち着かせ、在宅へと繋げていく。

●急性期から亜急性期、回復期リハビリテーション、そして在宅へ。シームレスな医療を提供していくために、役割分担を明確にした病病連携、病診連携の必要性は高まっている。ただ、この10年、診療報酬は高度急性期病院に手厚くされてきた。今後、救急の入口出口で機能する、東海記念病院のような病院の存在が重要となってくる。こうした役割を積極的に担っていこうとする病院への診療報酬整備は、国としての喫緊の課題だ。

 


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