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病院を知ろう

「八千代の奇跡」とも評される、
スーパーケアミックスの病院づくり。
その理念と事業構想を追う。

八千代病院


main地域に足りないもの、必要とされる医療を提供する。「地域医療の最適化」を追求した答えがここにある。

愛知県安城市の北部に位置する、社会医療法人 財団新和会 八千代病院。
地域の二次救急病院として、高度な急性期医療を提供する一方で、
回復期、療養期、在宅まで継続性のある医療を提供している。
この地域で唯一無二の病院のスタイルを、職員たちは「スーパーケアミックス」と呼んでいる。

病気は一つではない。だから「スーパーケアミックス」をめざした。

00 八千代病院は病床数320床。このうち、急性期(※1)・亜急性期(※2)を含む一般病床は216床。残りの104床が回復期リハビリテーション病床と療養病床である。このように、急性期の患者と回復期以降の患者を両方受け入れる病院をケアミックス型病院という。しかし、八千代病院は、その言葉に「スーパー」をつけて、スーパーケアミックス型病院と称している。その理由はどこにあるのか。
 「私たちはケアミックスという形を作りたかったのではありません。地域で必要とされる医療、地域に足りなかった医療を考えたら、現在の形になった。言わば、地域が求める医療を提供する“なんでも屋”という意味を込めて、こう呼んでいます」。そう語るのは、社会医療法人財団新和会の松本隆利理事長である。
 なるほど、同院は二次救急病院として、24時間の救急医療を提供できる高度な診断・治療機能を備える一方で、回復期、療養期、在宅支援までをオールラウンドにカバー。地域完結型医療ネットワークのなかで、多くの病院が「選択と集中」による効率的な医療提供を志向しているが、同院が歩んでいるのは、それとは一線を画した道だ。
 このベースには、「“選択と集中”では住民の安心と安全を守れない」という松本理事長の強い信念がある。「人によって抱える病気は一つだけではありません。ことに高齢者は複合疾患をもつ場合が多く、急性期から亜急性期、回復期、療養期、在宅支援まで“時間軸”でずっと医療を提供できる病院がなくては、住民を救うことはできない。だから、当院はスーパーケアミックスでやっていこうと考えました」。
 ちなみに、急性期病院の主流となっているDPC (※3)は、一つの疾患(診断群分類)に対して入院診療を行うことを前提とした制度である。スーパーケアミックスは「疾患は一人につき一つ」という医療界の大前提に対する、アンチテーゼとして生まれた病院スタイルといえよう。

※1 急性期は、疾患の発症まもなく、激しい症状への積極的な治療を必要とする時期。
※2 亜急性期は、急性期は過ぎたものの、病状がまだ不安定で濃厚な医学管理が必要な時期。
※3 DPCは、病名や手術・処置などに応じた診断群分類をもとに医療費を計算する包括払いの会計方式。

 

地域医療の最適化のためのセカンドソースの必要性。

3 松本理事長が一貫して強調するのは、「地域医療の最適化」である。
 同院のある安城市では、コモンディジーズ(多くの人がかかる一般的な疾患)において、北部は八千代病院、南部は安城更生病院が担っている。またこの安城更生病院は、三次救急および高度急性期医療機能を有し、いわば地域の基幹病院でもある。
 であるなら、足りないものは何か。松本理事長は「救急におけるボリュームゾーンの一つである二次救急と、高度急性期を脱した患者さんへの急性期・亜急性期医療、さらにその患者さんを地域での生活へと結び付ける医療機能」だと考えた。実際にリサーチを行ったところ、「満床のため、念のため入院させたい救急患者でも自宅に帰ってもらわなければならない」という現場のジレンマに遭遇した。満床を解消するには、高度急性期を脱した患者の、その後の治療を続ける病床が必要だが、それが地域には圧倒的に不足しているのだ。「それなら、うちがやろう」と松本理事長は決断。地域の病院との連携を深め、二次救急患者や高度急性期を脱した患者の受け入れを積極的に行う現在の体制を作り上げた。
 しかし、「安城更生病院の後方病院という意識はまったくない」と、松本理事長はいう。「後方病院ではなくて、セカンドソース(代替機能)の病院です。たとえば、会社だってトップが倒れたとき、すぐに代われる人がいなければ運営できないでしょう。地域医療も同じ。基幹病院に準じる機能をもったラインを構築しておかなければ、救急のピーク時にも対応できない。三次救急医療機関が余裕をもって救急対応できるようにするには、それを補完する病院が絶対に必要だと思います」と松本理事長は語る。

 

なぜ、八千代は「奇跡」といわれるのか。

5 同院のように、「高度な診断・治療機能を有し、そのうえで、救急・急性期から在宅医療まで一貫してカバーする病院」を、経営的に成立させることは極めて難しい。換言すると、不採算になりがちな亜急性期・療養病床を抱えながら、地域に必要な医療の提供に徹する同院に対して、医療関係者は「八千代病院は特別、奇跡だ」と評価する。
 病床によって不採算部門が生じるのは、診療報酬のあり方に起因する。
 一般に、急性期病床と亜急性期病床は、「一般病床」という同じ括りである。DPC対象病院として、看護師配置7対1(患者数対看護師数)を届け出ている場合、すべての一般病床に手厚く看護師を配置。そのため、看護必要度の低い亜急性期病床では、収益以上に人件費比率が高くなる。また、療養病床は医療必要度によって3段階に分けられ、医療必要度が最も低い患者は、診療報酬の点数が抑えて設定されているため採算が取れない。
6 だが、八千代病院は、亜急性期の患者、療養期で医療必要度が高い患者にも、最高レベルの医療を提供。さらに、医療必要度の低いものの障害等を持った患者に対しては、法人内の訪問看護をはじめとする在宅支援部門、地域の医療機関との密接な連携をもとに対応している。同院はどうやって不採算部門をカバーしているのか。「病床規模があり、かつ、効率化を徹底しているからできることです。たとえば、二次救急医療や当院の得意とする急性期医療に全力を注ぎ、それを経営面の支えとする。それにより、たとえ不採算であっても地域に必要な医療を提供できているのです」と松本理事長は説明する。

治す医療から、生活を支える医療へ。コミュニティ・ホスピタルをめざして。

4 平成26年5月、同院は病床を100床 (急性期病床60床・亜急性期病床40床) 増やす計画だ。その際には、常勤医50名をさらに10名程度増やしたいとする。そして、救急・急性期医療を充実させると同時に、亜急性期・回復期・療養期を途切れることなく繋ぎ、在宅へのソフトランディングに力を注ぐという。この増築・増床計画も、まさに地域医療の最適化を考え、将来不足が予測される病床群を整備するためのものである。併せて、増築・増床計画が完成すれば、松本理事長が描く理想の病院はどの程度完成するのだろうか。「まだ半分くらいでしょうね」と松本理事長は答え、こう続けた。「安城というコミュニティのなかで、不充分な医療領域は何かと考えると、一つには、在宅医療支援です。それこそが今後我々が力を注ぐべきところと考えています」。同院では、法人内においてすでに訪問リハビリテーション、訪問看護、訪問介護などの機能をもっているが、今後は、終末期の患者を診療所と一緒に支えていくなど、在宅医療をさらに積極的にサポートいく方針だ。「そしてもう一つが、最先端画像機器を駆使した予防機能と初期診断機能の強化」だと松本理事長は言う。在宅医療支援が、スーパーケアミックスの後方展開だとすると、予防・初期診断機能は前方への展開だ。この3つの一体化により、「健康を創る」という真に地域に資する病院になる。
 「理想とするのは、単に病気を治すのではなく、地域の人たちの生活を支援する、言わばコミュニティ・ホスピタルの構築です。これからも地域のニーズに応えて、柔軟に病院の形を変えながら、言わば、アメーバのように発展していきたいと考えています」と松本理事長は語る。
 治す医療から、生活を支える医療へ。八千代病院は柔軟な発想と実践力で、地域医療に新しい風を吹き込んでいこうとしている。


column

コラム

●八千代病院は、基幹病院と診療所の中間に位置する病院だが、後方支援病院ではない。高度な診断・治療機能をもち、24時間の救急医療を実践。一刻を争う心筋梗塞などに対する緊急カテーテル治療、緊急外科手術などを行い、昨年度の救急搬送件数は約3200件にのぼる。それだけの実力を備えているからこそ、「安心して二次救急をお任せできるし、医療依存度の高い患者についても信頼して紹介できる」と、地域の基幹病院から高い信頼を寄せられている。

●また、消化器内科でいち早く「小腸用カプセル内視鏡検査」を開始するなど、得意領域では積極的に「地域が必要とする先端医療」を導入。そのほか鏡視下手術(腹腔鏡手術)センターをはじめ、数々の専門医療センターを立ち上げ、医療の高度化を追求している。こうした高度医療の実践が、多くの医師や研修医から選ばれるゆえんともなっている。

 

backstage

バックステージ

●奇跡とも評される、八千代病院のスーパーケアミックス。しかし、これは全国どこでもお手本となる病院像ではない。西三河南部医療圏の特性に適した独自の病院モデルである。また、別の言い方をすれば、同院が一貫して「地域医療の最適化」を志向し、地域の病院間で対話と相互理解を深めた結果、生まれたセカンドソースの病院とも言えるだろう。

●地域によって、医療の課題はさまざまだ。地域の特性や事情に応じて、民間、自治体など設置母体に関係なく病院同士が連携し、その地域にふさわしい医療ネットワークを構築すべきではないだろうか。「医療は基本的に地域のもので、地域で必要とされる医療が提供されているかどうかが大切。当院は地域に最善の医療を提供し続けます」という松本理事長の言葉に、これからの地域医療ネットワークのヒントが隠されているように感じた。

 

 


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